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愛する者同士が抱き合う・・・そんな至福の時を味わっていた岬。ずっとそれに浸っていたかった。愛する人の鼓動を感じていたかった。
しかし、柚月の動きがどこか怪しげな動きだったことに気づく。


「先輩・・・どうしたんですか?」

挙動不審の柚月を心配して尋ねる岬。



「いや・・・そのな・・・」



もごもごと歯切れ悪く返事をする柚月。珍しい・・・そう思ったが、自分の身体に当たる硬い物体に気づき、理由を察する。



「成る程・・・」



「だろう?ムードをぶち壊すようで悪いんだが・・・」

心底から済まなそうにする柚月。要は、性欲というやつだ。世の中には愛やムードだけではどうしようもないことだってあるのだ。
岬も男だから、そのなんともいえない辛さは痛いほどわかる。分かるのだ。だが・・・



(そうなると・・・俺、下?)


柚月は自分を抱きたいと言っていた。そして、自分もそれを覚悟したはずだった。だからこそこうやって彼の腕の中にいるのだ。
だが、現実に直面すると、不安が大きい。柚月と違って岬は男といたしたことはないのだ。勝手など分かるはずがない。


「えっと・・・先輩・・・その・・・」

自分の価値観が180度変わるのだ。同じ男を受け入れることに相当な覚悟が必要であることは、言うまでもない。
柚月には悪いが、こればかりは理性だけでどうにかなるわけではない。
できていれば、さっさと抱かれている・・・そんな身も蓋もないことを思う岬を責めることは、誰にもできないだろう。


「そうか・・・俺に抱かれたくないんだな」

岬の葛藤をそう受け取ってしまったのか、寂しそうに呟く柚月。とてつもない誤解を与えてしまい、岬は頭を抱える。
別に柚月とセックスをしたくないわけではないのだ。決して柚月にこんな顔をさせたいわけではないのだ。
全く未知の領域に踏み込む・・・その不安が強いだけで・・・口だけは伝えられない気持ちをどうやって表したらいいのだろうか。


「そういうわけでは・・・」

柚月とセックスはしたい・・・のかもしれない。どう答えたらよいのか迷う岬だったが、柚月の顔が笑顔に変わる。

「そうか。それなら、岬が俺を抱いてくれればいい」



「へ?」



「岬は男とするのは初めてなのだろう?だから迷って当然だ。それなら・・・やりやすい方法でやればいい。違うか?」

「でも、先輩はそれで・・・」

自分の立場が180度変わるのだ。柚月だってそう簡単にはできないだろう。そんな疑問が伝わったのか、視線をさまよわせながら頭を掻く柚月。
どうしたものかとためらっていたが、しばらくの後、観念したかのように柚月は口を開く。



「何言ってるんだ。岬だから・・・言うんだよ。他が相手ならごめんだ。と、言ってみたものの・・・実は俺もやられるのは初めてなんだ。だからやられるほうの勝手もわからないわけで・・・優しくしてくれよな」


岬のためだけに筋を曲げてくれた柚月。それだけで彼の愛情を感じる。嬉しすぎて仕方がない。そんな彼の気持ちに答えるには・・・柚月を抱けばいい・・・のか?





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柚月の身体を見たのは初めてではなかったはずなのだが、ここまで綺麗だっただろうか・・・不思議に思う。
ガッチリしているわけではないのだが、決してやせ細っているわけではない。あちこちと触ってみたくなる。
なぜあの時裸で抱き合っていたのに、何も反応しなかったのだろうか・・・不思議で仕方がない。

ともあれ、自分より大きい男を押し倒すのも不思議な感じがする、苦笑いしながら柚月を見つめる岬。
そんな気持ちが伝わったのか、柚月も同じく苦笑いをする。自分の計画と違って戸惑ってもいるのだろう。だが、それを悪いとは思っていないようだ。すぐに照れくさそうな笑みに変わり、岬に唇を近づける。




「ん・・・」



からかっているのか・・・最初はついばむ程度の口付け。それでも今までされてきたものとは違い、甘い香りがするキスに戸惑っていると、柚月の舌は岬を暴こうとする。
予想せぬ動きに慌てた隙を突き、一気に歯列もこじ開けられる。優しいけれど乱暴なその動きに岬はなすがままにされている。




「ふ・・・んぅ・・・」



自然と吐息が漏れ・・・だんだんと頭の中が真っ白となっていく。宙に浮いた心地さえする。
『恋人同士のキス』がここまで甘いものだったとは・・・全てを柚月にゆだね、岬は目を閉じる。たとえ目を閉じていても、柚月の表情は細かいところまで感じられる。


(いいよ・・・このまま・・・)

どうにでもして・・・そんな心境だった、が。

「岬・・・触って・・・」

背筋が震えるような声で柚月がささやき、岬は我に返る。慌てて目を開くと、柚月は焦点の合わない瞳で見つめていた。

(触るって・・・どうすればいいんだよ・・・)

男の気持ちいいところは分かっている岬だが、セックスの仕方までは知らない。女の子とするようにすればいいのか?
それとも、ダイレクトにあそこを触ってしまってもよいのだろうか?もう少し勉強していれば・・・だけど、そんなことをしたら柚月に怒られそうだ・・・戸惑っていると、柚月の手が優しく岬を導く。




「ん・・・」



自分の胸の薄桃の突起に手を運ぶ柚月。『ここを触ればいいのか?』軽くそれを突っつくと、柚月の身体が一瞬震える。

(男でも・・・感じるんだ・・・)

男同士でもそんなに考え込むことはない。思ったとおりにやればいい・・・それに気づき、安心する岬。
突起を優しく刺激すると、だんだんそれは硬くなり・・・さらに弄んでみると、柚月の口からかすれた声が漏れる。


「ぁ・・・!」

「先輩・・・こんなところで感じるんだ・・・」

耳元でささやくと、柚月の頬が紅潮する。

「ば・・・」

「嘘付け」

耳たぶに口付けながら、岬は乳首を軽くつまむ。

「先輩っていやらしいんだね。ここ、こんなにしてる・・・」

わざと耳元で、煽るようにして囁く。

「な・・・」

「違うの・・・?それならやめてもいいけど・・・」

「は・・・ぁ・・・気持ち・・・いいよ・・・だから・・・もっといじって・・・」

我慢が出来なくなったのだろうか。柚月が岬の首に手を回す。愛されてる・・・そんな幸せを実感しながら鎖骨に口付けをする。
無駄がなく、引き締まった身体に、丁寧に跡をつけていく。愛撫されるたびに震える柚月、少しずつついていくわずかに紅い跡が、ますます岬を煽っていく。
少しでも多く柚月に自分の跡を残したかった。今まで柚月が食べてきたであろう男の存在を消したかった。自分だけを見てほしかった。


(俺って・・・結構独占欲、強いんだな)

付き合いながら自分の気持ちを確かめようとしたはずだった。それを柚月は認めてくれたはずだった。
だが、今更確かめる必要なんかないのだ。こんなことをしてしまうほど柚月のことが愛しくてならないのだ。
そしてどうしたら柚月が喜んでくれるか・・・そんな気持ちを伝えたく、岬は全身にキスの雨を降らす・・・。



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