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あっけなく岬は柚月にイかされる。身体が固まって動けない彼の代わりに、柚月が甲斐甲斐しくふき取ってくれ・・・ぼーっとそれを眺めていた。




(あーあ・・・)



先ほどまでの興奮はどこへやら・・・一気に落ち込む岬。あちこちいじられ喘いでたのが、触られてからすぐに達してしまったのが恥ずかしくて仕方がない。
いつもはそんなに早くはないのに、柚月に触れられただけでこうだ。


「べつに・・・へこむことはないだろう。俺は・・・嬉しかったけどな」

そんな岬の心中を察してくれたらしい。照れくさそうに柚月はフォローする。

「だって、俺で感じてくれたんだろ?」

ぽっ!リアルに思い出し、岬の全身が真っ赤になる。そんなことは言わなくても知っているはずなのに、岬がどう反応をするのか知っていて聞いているのだ。
もう少しうまくフォローしてくれてもいいのではないか。




「そりゃ、そうですけど・・・。というか、先輩、上手すぎ!それで何人の男を食ってきたんですか!」



何とか話題を変えようとして出た言葉なのだが・・・自分で言っていてむかむかしてくる岬。
どんなに想っていても、柚月にとって岬は初めての相手ではないのだ。




「えっと・・・」




指折り数える柚月に、岬の怒りが頂点に達する。だが、そんな岬を見て柚月は慌ててそれを止める。

「怒るな岬。今は・・・お前だけだよ」

「でも・・・!」

それが理不尽なものであることは解っている。だけど、どうしても止められない。それだけムカついていた。

「・・・もし時間を戻せるのなら、お前と出会えることを知っていたら・・・俺だって遊ばなかったよ・・・」

優しく抱きしめる柚月を見て、岬の怒り―というか、焼餅に他ならないのだ―は収まっていく。
柚月は柚月で今は必死に自分だけを見てくれているのだ。過去を責めても仕方がないだろう・・・と、無理やり思うことにした。


「というか・・・先輩、元気すぎ・・・」

丁度いいところで話を変えることにする。岬が達してから時間が経っているのに、柚月のそれは決して衰えることを知らない。
『仕方ない人だ』苦笑しながら柚月に触れようとするが、彼はそれを優しく制する。




「いいよ・・・俺は」



「でも・・・俺だけっていうのも・・・」

途端、柚月の全身から汗が流れるような・・・気がした。眼は泳いでいて、かなり挙動不審だ。もしや・・・ひとつの可能性に行き当たった。

「先輩は俺の手でイキたくないんだ・・・」

「いや、そういうわけじゃなくてな・・・」

岬に詰め寄られ、冷や汗をかきながら部屋の隅に逃げる柚月。背中が壁につき、逃げられなくなったところで白状する。

「お前の中でいきたいんだよ・・・」

え?一気に固まった岬をみて、仕方なさそうに続ける。

「だから、岬に抱かれてもいいや・・・と思っていたんだけど、やっぱり・・・と思ってな」

どうやら触れて欲しくなかったわけではなく、岬を抱きたいのを我慢していたからのようだ。
抱かれてもいいと言った手前、言い出すことができなかったのだろう。『自分で済ませてくる』そう言ってトイレに駆け込もうとする柚月だったが、それを岬は止める。




「別にトイレに行かなくても、俺とすればいいでしょう・・・」



「・・・え?」



「だから・・・俺が下をやりますよ」



抱かれるのは・・・と最初は抵抗感があった岬だったが、今は自然に受け入れる気になれた。
もちろん、不安がないわけではない。自分が女のような扱いを受けるのだ。
だが、柚月が相手なら、それもありだと思えた。


「だけど、先輩と違って俺は男は初めてなんです。だから、優しくしてください」

少しとげを含ませ、お願いする岬。そんな心中を察してか、『努力する』と柚月は苦笑しながら言った。





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柚月に組み敷かれる岬。今までは何があっても柚月は逃げ道を作ってくれたが、もはや逃げ道はない・・・覚悟を決める。

「そんなに・・・緊張するな」

そんな彼を見て、苦笑いをする柚月。

「緊張・・・しますよ。先輩と違って俺は・・・」

『遊んでいないから』そう続ける前に柚月がさえぎる。

「お前が緊張すると、俺も緊張する」

「先輩も緊張するんだ」

素朴な疑問を吐くと、柚月の苦笑が失笑に変わる。

「俺を何だと思ってる?」

「いや・・・それは・・・」

何だとって・・・思い浮かぶのは、相当な遊び人。そうでなければテクニシャンか。
柚月の指に追い詰められた岬には、そんなイメージしか思いつかなかった。
さすがにそれを口にはしなかったが、柚月には筒抜けだったらしい。


「今のでお前がどう思ってるか解ったよ」

「というか、先輩慣れてるじゃないですか」

「慣れてるだと?」

笑いが消えた柚月は岬の手を自分の左胸に運ぶ。

「どこが慣れてるんだ?」

柚月の言葉は尤もだった。彼の鼓動は、いつもより激しく打っていた・・・。

「悪いけど俺だって余裕なんてないんだ」

その言葉でやっと柚月も相当緊張していることがわかった。
余裕たっぷりに見えたのは、あくまでもそう見せていたからなのだろう。決して岬が不安に思わないように、安心して身を任せられるように・・・。
だが、岬はそんな緊張している柚月のほうが好きだった。ありのままの彼を見せてくれたほうが、安心して身を任せることができそうだった。




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