臆病で、手探りで。〜好きだと言えなくて〜
清風高校教師、倉科息吹は生徒、夏樹歩に片想いだった。
倉科と歩の関係は『特別』という言葉で表現しきれないほどだった。
それは、倉科がかつて、いや、今も愛している亡き親友、黒木歩の魂と一緒だというものだった。
そのためかどうか、夏樹歩が入学し再び会って、すぐ好きになった。
歩は親友夏目と恋仲になったが、いつの間にかそれが三角関係となった。
しかし、それが崩壊したのが昨年のクリスマスで、歩を押し倒したところ、全身で拒否された。
傷心の倉科に佐野葵少年が接近したが、口説くことは叶わなかった。
そのため葵は友人の外山翼に頼んで恋人を紹介した。
それが、外山晶だった・・・。
それは運命の皮肉でしかなかった。晶は歩の恋人である夏目士郎に片想いをしていたのだ。
そのため、倉科は付き合うのを止めようとしたが、ふとした興味を持って晶と付き合うことにした・・・。
「一度聞いておきたいんだけど、どうして俺と付き合おうと思ったんだ?」
「あおいちゃんが紹介してくれたからな。それを無駄にしたくなかったんだ。
それに・・・夏目のお気に入りなら付き合っていて飽きなそうだしな」
「飽きないって・・・俺はそんなにおもしろくねーよ?」
ムキになって反論する。それがますますいじめたくさせることに気付いていないのだろう。それも魅力といえば魅力である。
「そうか?夏目からお前をいじめるのは楽しいと聞いたことがあるけどな」
夏目の連発で晶の顔が微妙に曇る。どうやら夏目のことは未だに過去に出来ていないようだ。少し悪いことをしたかと思う。
「どうしてあいつを好きになったんだ?」
晶が一瞬震える。聞いて欲しくない領域のようだ。
「教えたくない。教えると、あんた絶対笑うから」
「笑わないから教えてくれ」
ここまで信用がないのは少し哀しい。しかし、それを悟られないようにした。
「気付いたら好きになっちまった。でも、今なら分かる。俺は多分夏樹に笑いかけてるあいつが好きだったんだ。だから・・・俺が奪うわけにはいかなかったんだな」
「純情だな・・・」
「あんた、俺を馬鹿にしてる?」
噛み付いてきた晶に、苦笑して弁解する。
「いや、するはずないだろう。そんだけ真剣に恋してたやつを、どうして俺が笑える?」
例え真剣であっても、叶うとは限らない・・・倉科は心の中で自嘲する。
「ふーん。じゃ、どうしてあんたは夏樹が好きなんだ?」
「あんたって・・・一応教師なんだけどな。まぁ、お前には信じ難い話だろうな」
それを分かった上で倉科は話した。中学の時自分の片想いだった親友がいたこと、彼が死んでしまったこと、そしてその少年と夏樹歩の魂が一緒であることを。
「う〜ん・・・幽霊見たことないから、俺には信じられないな」
「そりゃそうだ。こんなの人に話したところで信じられないことくらい目に見えている」
答えを充分予想していた風だったが、ほんの少し寂しそうだった。
「じゃ、俺は帰る。気をつけて帰れよ」
もう少し執着するかと思ったが、実にあっけなく晶を解放してしまったことが気がかりだった・・・。
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