休み時間、ふと窓の外を覗いてみると、木陰で一人の少年が居眠りしているのが目に入った。
よく見ると、晶だった。
いつもは怒っているか不機嫌であるかのどちらかなので、倉科はついつい見とれてしまう。
そんな顔が出来るなら、自分にもそういう顔を見せてくれればいいのに。
しかし、それは無理であろうことは分かっている。晶は倉科に警戒心を抱きまくっているから。
やっぱり「タラシ」の汚名を着せられたままにしていたのがまずかったかな、一人苦笑する。


「あいつ、かわいいっしょ?」

気がつけば学生がそこにいた。誰かと聞くと、晶の兄だという。これが諸悪の根源らしい。

「あんな顔も、できるんだな・・・」

「あー・・・とにかく、ごめんなさい。あいつを騙してつき合わせるように仕掛けたのは、俺です!」

謝るとは思っていなかったので、面食らってしまう。

「どうして俺達を?」

「楽しそうだから。美少年大好きの先生と、アンチ倉科の晶が付き合うことになれば、それなりに楽しめそうだしね。だけど・・・当人達の意思を無視しちゃまずかったな。だから、気に入らなかったら、別れていいよ」

「・・・いや、あいつのことは気に入っている。勿論あいつは俺を嫌いだがな」

「ははは・・・ま、気長に纏わりついてやってよ。時間をかけたら少しは先生に心を開くと思うからさ」



いつの間にか現れた晶の兄、翼は、それだけ言うと、あっという間に出て行った。
やはり相当時間がかかるか、それならデートするしかない!
好感度をあげるため、何が出来るだろうか?彼は黙々と考え込んだ・・・。





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よくよく見ると、倉科はかっこいい、晶はそう思う。
来るものは拒まなさそう点を除けば、容姿はかなりいい線を行っている。
生徒思いであるので、そういうところはいいんじゃないかと思っている。






(やっぱり、俺頭どうかしたのかな・・・)





あれほど嫌いだった倉科を、嫌うことが出来なくなった。
他の連中にしてみれば当然のことなのかもしれないが、晶にしてみればものすごく大きな変化だった。


顔もスタイルも良いが、印象的なのは、瞳だった。
軟らかくて、だけど力強く、そして暖かい瞳・・・それがある一瞬切なそうなものに変わる。
視線を追ってみると、それは歩にたどり着いた。

まだ過去にできていないのか?

それを考えると、胸の深いところで、ちくりと痛みを覚える。
その痛みは・・・自分達は同属だから、そう結論した。
叶わぬ恋に身を焦がしている二人、それが結びつくのも、いいかも知れない。




「そうなると・・・俺が下になるんだろうな・・・」



体格から考えると、どうしてもそうなってしまう。

倉科に組み敷かれた図を想像し、晶はこっそりとため息をついた・・・。






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「デートしよう」

「誰と誰が?」

「ここで言ってもいいのか?」

「いや、それはやめろ。あんたなら本気でしそうだ。デートしたいなら他をあたったらどう?
タラシの先生ならもてるんじゃない?」


晶と近づくため、とりあえず誘ってみたが、ここまで嫌われているのか?
心の中でため息をつきながら、倉科は切り札を出す。


「ほら、夏目の写真だ。お前欲しいだろ?俺に付き合ってくれるなら、これをやる」

「あんた、どっからそんな写真を?」

「俺を甘く見ては困るな。俺のコネを使えばそんなモンいくらでも手に入る。
ま、事実を明かすと、歩から巻き上げたものがほとんどだけどな」




晶は迷った。倉科への気持ちは単純に嫌いだったものから、複雑と化してしまったため、前とは違った意味、緊張してしまいそうでデートはしたくない。
しかし、秘蔵版夏目の写真も欲しい。悩んだ。ひたすら悩んだ。あほらしいくらい悩んだ。


「わかった・・・行きゃぁいいんだろ?」

とりあえずは夏目の写真を理由に行くことに決めた。

「物分りのいい子は好きだぞ」

だったら、俺の気持ちくらい分かってくれよ、そう言いたかった・・・。







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