臆病で、手探りで〜好きだと言いたくて〜

「晶、お前を抱きたい」



「変態オヤジ、どうしてそれを言う?俺はあんたに抱かれたくない」

晶が素直じゃないのは健在だった。ここで素直に「先生・・・俺の中に来いよ」といえばいいのだが、ちょっと複雑な心境がそこにあってなかなか言えない。



「いや、もう少し時間をくれないか?
先生のことは嫌いじゃない。夏目のことは何とか過去のことになったけど、
まだ好きだって言えない・・・。
もしなんのためらいも無くあんたを好きだと言える日が来たら、そのときに俺の体をあげる。
あんたの満足するように抱いてくれればいい・・・」




これってお預けか?倉科は盛大なため息をつく。
でも、晶も真剣に自分のことを考えてくれている。だから、時間をあげることにした。
そんな晶を好きになったのだから。






倉科と晶はひょんなことで付き合うことになった。
最初は晶が倉科を嫌いだったため、すれ違いが激しくなったが、とりあえずはその危機も乗り越えた。
後は自分達の速度で進んでいけばいい。とはいえ。


「俺は何年待てばいいんだ?このままじゃ白髪の爺さんになっちまうぞ」

「だったら他の男を漁ればいいじゃないか」

またもや口が勝手に反論する。晶の悪い癖である。

「晶、冷たい・・・。そういう時は『他の男と付き合ったらぶっ殺す』くらい言えばいいのに」

「あんたなら俺じゃなくても男に困らないだろ?」



はっきり言うと、他の男と付き合ったらぶっ殺したい。

これは独占欲なのかもしれない。

だけど・・・やっぱりそれは言えない。
それを言ったら、自分だけが好きである気がしてしまう。
だから、独占力希薄な振りをして、倉科をひきつけておきたい。


「まぁ、困らないけどな。そんなに他の男と付き合って欲しいのか?」

そう目論んでいたのだが、倉科のほうがはるかに上手だった。別に困った様子も見せない。



「いや・・・その・・・付き合ってほしくない・・・」



流石に勝手にしろとは言えなかった。

「心配するな。俺は他のやつとは付き合ったりしない」

ちょっと嬉しかったため、抱きついてみる。晶が素直になれる場所は、倉科の腕の中だけである。
顔を見なくて済むし、抱きしめられている間は、思っていることをそのまま言えそうだ。




「うん・・・ありがと。それと・・・ごめん。あんたには我慢ばかりさせているな」



「いや、別にいいさ。俺達は俺達なりにやっていけばいい。
ところで、今度実家に帰ろうかと思ってる。ついてくるか?」


「いいのか、俺で?」

「お前だから来てほしいんだ」

「うん、行く」



実家に連れて行くということは、それだけ自分のことが大事であると思ってくれているのかもしれない。それが何よりも嬉しかった・・・。







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