臆病で、手探りで。〜愛の残り香に何を想う〜
人肌とはここまで心地よいものなのか。どうしてか落ち着く。
「え?人肌・・・?」
確かに心臓の鼓動が聞こえる。そこで晶は慌てて目を覚ます。
「どーなってるんだ・・・?」
周囲を確認する。隣に眠っていたのは、倉科さん、晶の恋人である。
なお、彼らの上半身は裸である。
倉科の身体はほどほどに引き締まっていて、かなりセクシーである。
しかも、よくよく見るとお肌もつるつるで、三十代だとは思えない。
そんな彼と抱き合っているというかなり無茶な形で眠っていたわけであるから、自然とひとつの結論が浮かび上がる。
「俺・・・この人に抱かれたんだ・・・」
晶の人生で最もショックだった。倉科に抱かれたことではない。
倉科に抱かれたことを覚えていないのがである。
好きな人との最初のセックスを覚えていないなんて、一生の不覚である。
「って、そんなことがあるかい!」
後ろが痛くなかった・・・。ここでしっかりと頭を整理してみる。
昨夜、ひたすらキスをしまくった。あの人のキスは上手かった。
「って、そんなことはどーでもいいんだよ」
おねだりしてしまった自分を思い出して、悶絶する。それから倉科家に戻ったのが、深夜。
晶は倉科の裸に興味を持って、脱ぐように迫って・・・
『見せるだけでいいのか?』
『・・・俺に言わせる気?その・・・あんたが欲しい・・・。抱いてくれよ』
『その・・・後ろは初めてか?』
『そうだよ、悪かったな・・・。俺、上手くないからあんたを喜ばせられない』
『いや、上等だ。俺がお前をよくしてやる・・・』
って、誘ったのは俺か!再び悶絶。確かあの後眠くなって意識がブラックアウトしたような気がする。なお、
『うん・・・期待してる。その前に・・・俺を抱きしめてくれないか』
『・・・こうか?』
『うん。・・・あんたって暖かいのな』
『そうか?俺にはわからないな』
『分かんなくていいよ。あんたがそれを自覚したら、他の男に目を向けちまうからな。
ずっと俺だけを抱きしめてくれよ?・・・やっぱりこうしてると落ち着く・・・眠くなってきた・・・おやすみ・・・』
『晶・・・いくらなんでもそれはないだろう』
なんてやり取りがあったことを思い出さなかったことは、彼にとって幸せであるかもしれない・・・。
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