「息吹、朝よ・・・」



突然侵入してきた女性と、少年の目がかち合う。

「まだ早い・・・もっと寝ろ」

寝ぼけた倉科に抱きしめられ、再びベッドに沈む。この人の腕の中ならすべてはどうでも・・・

「よくないんだよ!先生、起きろ!」

つれない恋人との幸せな一時をかみ締めていた倉科は、本当・・・に残念そうに目を覚ました。
視界に入る人物に気付き、晶が起こした理由を察知する。


「あぁ、お袋、ただいま」

「ただいまじゃないわよ・・・まったく」



「お袋に質問。今そこで驚いている理由は次のうちのどれ?

1、俺が久しぶりに帰宅していること

2、俺達が裸で抱き合っていること

3、年齢差がかなりあること

4、それが男同士であること

さて、どれだ?」



すると、さっきまで驚きに目を見開いていた母親が、笑顔になる。
暖かそうなそれは、息子にしっかり受け継がれているようだ。




「答えは5、歩ちゃん以外の子とそんなことができるようになったことよ。
これでも私は怒ってるのよ?恋人を連れてきたなら、親に紹介するのが筋道でしょう」


「悪い。歩の墓に行って寄り道をしたら遅くなっちまった・・・」

「それなら仕方ないわね。だけど・・・情事の後を見られるのはどうかと思うわ」

呆れ果てながら母親は言う。どうも二人がセックスをしたと思っているらしい。

「ごめん・・・。せっかく恋人になったから、裸で抱き合いたくて・・・」

「あのー・・・俺達そんなことはしてないです」

「そんなに照れなくてもいいわ。寝ている貴方の顔、幸せそうだったもの」

「だから、俺達はこの格好で寝ただけで・・・」

居たたまれなくなって否定する。この中では晶が1番常識人らしい。

「可愛い恋人さんね。あの人も喜ぶんじゃないかしら。着替えてからいらっしゃい」





着替えて降りていくと、下では例の流菜の隣に、渋めの中年が新聞を読んでいた。どうやら父親らしい。

「あぁ、おはよう。親に挨拶せずどっかから連れて来た子といちゃつくとは、いいご身分だな」

父親のほうは気に入っていないらしい。眉間にしわを寄せている。

「親父、晶が怯えている。そんな顔すんなよ」

「晶?名前で呼ぶなんて、どういう関係なんだ?」

「教師と教え子の関係です」

横から晶が口を挟むが、親父殿に睨まれ、正直に言う。

「その・・・先生とはお付き合いさせてもらってます・・・」

「男同士だ。それを分かっているのか?」





意味深な言い方だった。孫を見たい父親の言うものではなかった。





「はい・・・。知ってます。それが、認められない恋愛であることも。
でも、俺はこの人が男だから好きになったんじゃない。倉科先生だから好きになったんです。
俺は先生と一緒ならそんな壁は乗り越えられると信じています。
確かに今は何もできない高校生です。でも、絶対貴方たちに認めてもらいます!」




「と、いうことだ。俺は晶を好きだ。親父たちには邪魔をさせない」



「早とちりするな・・・誰も邪魔をするとは言ってない。
大昔、男だからということで好きだと言えなかった奴がいた。
それから随分と成長したものだ。
息吹、いい子を好きになったな。で・・・やっぱりその子が下なんだろ?」


シリアスな話から一転。その変化の速さに晶は頭を抱える。

「勿論だよ。昨日なんか、抱いてくれよと言ったのに、途中で寝やがったんだ。どう思う?」

「それは感心しないな。抱いてと言ったなら、寝ないでしっかりと抱かれるのが受の役目だ。
修行が足りないな、晶くん。そんなことでは倉科家の嫁は務まらん」


「はいはい、全ては俺が悪いんです」

ここでいつもの空気に戻ったことに気付く。まさか緊張しきっていた自分に気を使ってくれたのだろうか、この親子は。

「・・・年下が義兄なんて、なんか複雑な感じ。でも、息吹兄が幸せならいいか・・・」



全体的に和やかな空間だった。変に疎外感を感じることがなく、そこにいて心地いい。
和気藹々と朝食を食べ終わったところに、母親が古ぼけた封筒を持ってくる。
倉科が何だと聞いても、母親は読みなさいとしか言わないので、読むことにする・・・。



封を開ける(次)




TOP  INDEX