「遺書というより、ラブレターだな・・・」



晶はため息をつく。
恋人に託すと言いながら、最後にちゃっかりと世界一大好きと言っているし、本人の言うように逃げているわけではない。
真正面から受け止めることが出来なかっただけで、歩は彼の全てをかけて倉科を受け止めようとしていた。
これは歩なりのイジメなのだろうか。
しかし、逃げるわけにはいかない。
もし、ここで倉科を諦めれば、倉科は一生歩のものになってしまう。
全部自分のものにすることは出来なくても、半分は自分のものにしたい。




「先生、この前の俺の独り言、聞いてたんだろ?あの答え、聞かせてくれよ」



一瞬何かと思ったが、倉科は思い出した。
自分の腕の中にいた晶がつぶやいた言葉。答えを言う前に逃げてしまったので、言えなかった。




「勿論だ。俺がこうやって読んでいられたのも、お前がいてくれたからなんだ。
もし、歩が死んだ後にこれを見たら、俺は絶対立ち直れなかった。
晶、俺はこの歩のことを過去にはできなそうだ。
それでも俺のものになってくれるか?
俺はお前を好きでいていいのか?」




「馬鹿・・・そんなの、言わなくても分かるだろ」



「いや・・・言って欲しい」



「分かったよ・・・。俺はあんたのものになるよ。それに、俺を好きでいて欲しい。
俺に触れていいのは、あんただけだ・・・」




「晶・・・ありがとう」



倉科は極上の笑みを浮かべる。それに引き寄せられるように晶は倉科に近づき、倉科はそれを抱きしめる。
二人の唇が自然と近づく。


「ラブだな・・・ばりっ」

「ラブね・・・」

「朝から暑いよね・・・」

煎餅の音で二人は我に帰る。晶は悶絶し、意識を手放す。

「貴様ら、いいとこで邪魔するな。さっさと出てけ!」

野次馬達はしぶしぶと追い出される。やっと二人きりになったところで、晶を起こす。

「こんな家族でごめんな・・・」

「いや・・・いいんじゃねーの?俺んとこも似たようなものだぜ?」

人の家族だからなのかもしれないが、本当のところはうらやましい。
茶化しているようだけど、本当のところは大事に思っている。
倉科自身もそれを承知しているから、いい家族関係が出来上がっている。
自分のところが上手く行っていないというわけではないが、隣の芝生はやっぱり青い。




「それはいいけど、夏樹とのことはどうすんだ?あんた、あれから話してないんだろ?」


「そうだな。あいつと話さなければいけないな。俺も逃げるわけにはいかない・・・」

冬休みに仲がこじれてから、歩とは会いたくなかった。
しかし、歩が歩なりに自分を好きになろうとしてくれたことが分かったから、話さなければいけない。
その気持ちが嬉しかったこと、それが歩を追い詰めてしまったことを・・・。







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