臆病で、手探りで〜聖夜〜
和尚様も走るという忙しさである年末、それは教師にとっても例外ではない。
「・・・というわけだ。悪いが来月は教師としてしかお前に会えない」
「そこをどうにかできないの?」
「といっても、俺は教師だからな。今の時期それはできない」
「そうなんだ・・・先生はもう僕のことなんかどうでもよくなっちゃったんだね」
必死に食い下がる歩くん。彼には夏目という立派な恋人がいるくせに、倉科先生に夢中なのである。
二股というより、彼の存在する背景はかなり複雑であるので、倉科に夢中になってしまうのは仕方ないことではあるのだが・・・。
大好きな人に特別扱いされなくてうれしくないのは正論であるが、教師はテストや成績決定もあるので、学期末は特に忙しい。特に、年末と重なる二学期末は公私共にとことん忙しいのである。
「だから、夏目と遊んでてくれ・・・」
倉科は倉科で思いっきり歩をかわいがってあげたいのだが、教師と生徒という関係上、きっちりとやるべきことをやっておかねば、二人の付き合いがなくなる恐れすらあるということをよく承知しているのである。
もっとも倉科は一度振られているゆえに、「つきあっている」という言葉がふさわしいとはいえず、巻き込まれているという言葉のほうがふさわしいのだが・・・。
彼らの関係は微妙なもので、歩には前世があり、そのときの親友が今の教師になったというものである。
前に今度会ったら恋人になろうと約束をし、再会できて恋人になったのはいいが、結局ずっと想い続けた人よりも、ずっと自分のそばにいた夏目を歩は選んだ。
そういうことで倉科と夏目はただの教師と生徒になるはずだった。少なくとも倉科はそのつもりだった。
しかし、倉科が長い片想いにピリオドを打とうとした矢先に歩のわがまま(気遣いではない)で親友以上の関係の続行を求められてしまい、諦める機会を失ってしまったのである。
そのため、ずるずると三角関係が続いてしまい、休日にはその三人で遊ぶこともしばしばである。
だから、本当にしようと思えば成績決定後や冬休みに遊ぶことだってできるのであるが、倉科が歩と会わないのには仕事以外に何か重要な秘密があるらしい。しかし、歩にはそれを知る余地は無かった・・・。
意気消沈でクラスに帰ると、夏目がのほほんと歩の席で待っていた。
「やっぱりだめだって?」
夏目は倉科が当分教師としてしか接しないことは変えないだろうことは予測がついていた。
先生の本質的な真面目さから考えると、歩を守ることは当然だろうからそれ以外に考えられないのである。
「うん・・・今年は夏目と寂しいクリスマスを送らないといけないんだ・・・」
すると夏目は苦笑する。
「・・・恋人が俺じゃ不満だというのかな?」
「そういうんじゃなくて、3人でクリスマスを過ごしたいんだ」
これを聞いて夏目は複雑な気持ちになる。
クリスマスくらい二人っきりになりたいとは思うのだが、それと同時に先生と一緒に過ごせないことを残念だと思う自分もそこにいる。
しかも、それが歩のためということでなく、自分がいっしょにいたいと思っているから厄介だ。
ひょっとすると、夏目も今の安定した関係が気に入っていて、このバランスが崩れることを恐れているのかもしれない。
「でも・・・忙しいのを無理に誘ってもだめだからね。ただでさえ歩は先生に多大に迷惑をかけているのに」
思い当たることが多すぎる歩は沈黙するしかなかった。
もし必死に頼み込めば倉科だって仕方ないといって一回くらい会ってくれることは考えられる。
だけど、いつも歩の意思を尊重してくれていることもあって、今月くらいは先生に自由になってもらおう、と結論するしかなかった・・・。
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