倉科宅に着き、歩をベッドに寝かせたのはいいが、歩がどれくらい酔っているか気にかかる。あの夏目の怯えようからすると、相当恐ろしいものであることは間違いないのだが・・・倉科はそれを知らない。
全然変なとこはない、と思いかけたところで、歩が起き上がり、なんと倉科を押し倒す。


「先生のここ、気持ちよくしてあげるからね」

そういって股間を触る。まさに性質の悪い変態中年そのもの・・・。
触られるだけで敏感になってしまうが、理性を総動員して歩を引き剥がす。
意識があるならまだしも、こんな酔っ払いに犯られたくない。


「いいかげんにしないと、俺も怒るぞ」



すると、歩はおとなしくなった。捨てられた仔犬のような瞳をしながら・・・。

「先生・・・僕のこと、嫌い?ずっとキスしてくれないし・・・」



それはすべておまえが悪い。心の中で突っ込んだ。
表では平静を装っているが、倉科は恐れている。ただのスキンシップは何とかしてもらえるが、再び自分がそういう意味をこめ歩に触れたとき、また怯えてしまうだろうことを・・・。
もし再びそれをされたら、倉科とて立ち直れはしない。見た目は堂々としているが、倉科は歩の拒絶に対して敏感だ。嫌われることを恐れている。
だけど、困ったことに今の歩に対抗するすべを持ってはいなかった・・・。


「仕方ない・・・後悔するなよ」

その言葉に歩は大喜びをし、倉科のものを取り出して咥える。

「ん・・・」

歩はそういうものとは無縁だと思っていたが、なかなか上手である。どこでどう習ったのか、男の弱いところをしっかりと突いてくる。
自分の知らない歩がいて、一抹の寂しさを覚えたが、これには倉科さんも喘ぐしかなかった。


「ぁ・・・いぃ・・・」

歩は口と舌で先端を刺激しつつ、片手で竿をしごく。
その普段の清涼さとは違う、卑猥な姿がますます倉科の感度を上げ、絶頂に近づかせるが、彼はそこで歩を引き剥がし、逆に押し倒す。






「誘ったのはお前だからな・・・悪く思うなよ」





「いいよ・・・来て・・・」

だけど、それだけでは心配だったので、再度確認する。

「いいんだな?後から嫌だといっても知らないよ?」

歩は倉科の瞳を見つめて言う。

「しつこいよ・・・」





倉科は歩の衣服をはがす。そこには生まれたままの姿が現れる。
それは、倉科が想像していたよりも、はるかに華奢なものだった。
だけど、それでも構わなかった。歩は歩なのだ。


彼は歩の体中に自分の印、誰にも渡さないという意味を込め、跡をつけながら、後ろの蕾に手を添える。
歩が少し震えたのには気付いていたが、ゆっくりと時間をかけてほぐし、指を侵入させる。



「や・・・やめて・・・」


歩から拒絶の声が出る。しかし、倉科はやめなかった。
いや、ずっと越えることの出来なかった境界線を壊してしまったため、今更やめられなかったというべきかも知れない。
指をさらに動かす。しかし、それは歩の怯えを増大させていくことになる。


「や・・・やだ・・・」

歩の震えは尋常なものではなくなったことに気づいた。どうしてそこまで怯えるのか?
相手が誰だか分からないのならまだしも、目の前にいるのは倉科・・・ずっと親友だった男だ。


「落ち着け、俺を見ろ。お前を抱いてるのは、あいつらじゃない、俺だ・・・」





しかし、倉科には原因が想像できた。どうして夏目が良くて、倉科ではいけないのか。
歩にとって彼は「過去」の存在なのだ。おそらく歩を自殺に追いやった連中のことを思い出してしまうのだろう。
しかし、夏目は「今」の人だ。歩をずっと守ってきた。それなら体を奉げてもいいはずだ。


その上、歩が倉科を拒むには過去の存在だからだけではない。
歩にとって倉科とは「永遠の親友」だから・・・彼はそれに気付いていた。
歩はどんなときにも自分を理解し、信じてくれ、独りにしないことを望んでいるのであって、倉科と繋がることを望んでいないのかもしれない。


「ごめん・・・ごめんな・・・」

それでも、震えを止めなかったので、これ以上歩を抱くことは出来なかった。
もしこのまま抱く事になれば、歩の心が壊れてしまう。それを一夜の過ちとして片付けられれば問題はないが、不幸なことに歩はそういう器用なことのできる子ではない。親友から受けた心の傷は消えないことになるだろう。
だったら・・・歩が傷つくくらいなら・・・倉科は指を抜き、抱きしめようとした。






「嫌―――――――――!来ないで!触らないで!」





その手を思いっきり跳ね除ける。
そして、自分自身を抱きしめ、震える。
眼が、手が、体の全てが倉科の存在を拒絶する。


「ほら見ろ・・・後悔するなと言ったのに・・・」

何も抑揚のない声で言い、部屋を出て行く。
その顔はいつも辛いときに見せる独特の笑みすら浮かんでいなかった・・・。






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「僕は・・・馬鹿だ・・・」

別に土壇場で拒否するつもりはなかった。受け入れる覚悟はしていたつもりだった。
ただ、いつもの倉科でないのが怖くて、どうしても体が言うことを聞かなかった。
『生まれて初めて知った』牡の倉科に組み敷かれて、その闇に飲まれそうだった。
そこまで強い想いであることに、気づかなかった。
自分を好きだとは知っていたが、その強すぎる想いに、押しつぶされそうだった。
それを振り払おうとしたら・・・。


倉科の求めた手を振り払ってしまった。これからどういう顔をして会えばいいのだろう。
ごめんと言ったら許してくれるだろうか。いや・・・もう許してはもらえない。
さっきの傷ついた倉科の瞳を思い出すたびに胸が締め付けられる。とりあえず倉科を探した。リビングに行くと、一枚の写真と書置きがある。それを見ると、一言だけ『ごめん』と書いてあった。
これで歩は、倉科は歩がここにいる限り家に帰ってこないことを察する。


写真を見る。そこには昔撮った二人の姿があった。
写真は色あせても、そこに詰まっている思い出は色あせない。






「ずっと・・・持っていてくれたんだね」

倉科が黒木歩に抱きついている写真。いつどこで撮ったのかは思い出せない。
覚えているのはそれがとても大事な写真であること。
しかし、それがどうして大事なのかが思い出せない。
大事な親友との写真以上の意味合いがあるような気がする。


「探さなきゃ・・・」





いつでも倉科は優しかった。
何もとりえのない黒木だった頃の歩に、色々と世話を焼いてくれた。
内気だった少年にとっては、初めての友達だった。
クラスの輪に入れなかった歩を、その中に入れたのが、倉科だった。
本当に大切な親友だった。
自分が死んだ後も、ずっと想い続けてくれたのに、どんなことがあっても側にいてくれたのに、それが・・・こんな形で終わるとは・・・。


その写真が自分を責めている気になってくる。今探さなければ、倉科を失う。だから歩は心当たりを探した。しかし、その日が冬休み最後に倉科に会った日となった・・・。







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