第十頁
それから急に光が元気になってきた。
愛の力とは恐るべきもので、元の笑顔も見せるし、ちょっといじめると噛み付いてくる。
そんな日常の生活が博にはとても新鮮だった。
知らないうちにこんなに依存していたのかと思い、苦笑する。
だが、その一方で再びそういう顔が見れて嬉しくもある。一時期は二度と見れないと思っていたから・・・。この澄み切った笑顔をずっと守っていきたい、そう誓う博だった。
すると・・・ドアを開けて光が入ってくる。どうしたと問う博に対し、
「ねぇ・・・俺を抱いて」
突然のことにずっこけてしまう。
一体なんなんだ。
体勢を整え、もしかして夜這いかという博に対し、光はうなずく。
うまくかわそうとしたが、どうやら決死の覚悟らしい。微妙に震えている。
「・・・俺ってそんなに魅力ない?」
そう聞かれるが、もちろんそんなことはない。
博だって抱きたくて仕方ないのだ。
だが、今まで理性を総動員して耐えてきた。
もし自分の想像していることが本当なら、手を出すわけにはいかないのだ。
何も言わなかったせいか、光の顔がどんどんこわばってくる。
「俺・・・汚れちゃったから、きれいにしてほしくて・・・」
ここで言いよどむ。続けるかどうか迷っているようだ。そして目に涙を浮かべ、やっとの思いで続ける。
「まえ・・・殴られたりして帰ってきたときがあったでしょ。あの時俺あいつに犯されてたんだ・・・」
博は頭を一万本のハンマーで殴られた思いだった。
あのときの怯えようからいえば想像は容易、というよりそれ以外にしか考えられなかったが、実際に言われると衝撃が大きすぎる。
そして博は怒りに染まる。それは容易に地獄の業火を凍らせてしまうほどだった。
それを見て落胆の色を隠せない光だったが・・・
「あの野郎!半殺しで許してやるつもりだったが・・・徹底的につぶしてやる!」
何か方向がずれているような気がするが、とりあえず光は懇願した。
「博がしたいなら仕方ないけど・・・危険なことはしないでね」
すると博は例の不敵な笑みを浮かべる。
「俺があいつのためにそんな馬鹿なことをしてやると思ったか?」
光は信じるつもりはない。
博は絶対やる。
おそらく法に触れるよりはるかに恐ろしいことをするだろう。
だが、大切なのはそんな事ではない。
「気持ち悪くないの?俺、他の男にやられてたんだよ・・・そんで感じちゃってさ」
そういった途端、部屋に乾いた音が響いた。光は赤くはれた頬に手を押さえている。
「気持ち悪いなんて、そんなばかげたことを言うのはいくらお前でも許さない」
怒っていたかと思うと、頭をなでて急に優しい顔になって言う。
「もし世界中の人が気持ち悪いと思っていても、俺だけは気持ち悪くないと思ってやる。
もし、攻撃してくる奴がいたら俺が守ってやる。それでも不安か?」
光は自分の不安が押し流されるのを感じた。
さっきまで抱えた気持ちが嘘のようだ。
勇気を出して話してみて正解だった。
下手に同情の言葉をかけず、叩いてくれたのが嬉しい。
うわべだけの愛情でごまかさず、それだけ真剣に想っていてくれる証拠だから。
しかし、それとは対照的に、博が暗い。ため息さえついている。
「はぁ・・・そうは言ってみたものの、何かお前をよくさせる自信がなくなった。
もし前の男のもとに逃げられたら立ち直れないかも」
なんだかどよーんとしている博を見て光は慌て、必死に言葉をつむぐ。
「大丈夫だって!もう博以外なんて考えられないから!!だから落ち込まないで、ね?」
すると、博は目にわずかだが邪悪な色を含ませる。
「ほんとだな?もし俺を捨ててみろ?恐山に行ってやるぞ」
その脅しは光には効果的だった。
恐山に行くということ、それは歩と会うことに他ならない。
もちろん博を捨てるなんて恐れ多くてできないが、疑わしいことをしないように気をつけなければいけない。
それより、博はこんなキャラクターだったのか。この先ちょっと不安である。が、一応言っておかなければいけない。
「だから、浮気なんてしないから」
だが、博が言いたかったのはそういう意味ではなかったようだ。
寂しそうな、傷ついているような瞳で見つめながら続ける。
「俺をおいて先に死ぬなよ・・・」
そうだった。彼は恋人に先に死なれているのだ。
だからそれが不安なのかもしれない。
歩のことはともかく、好きな人との永遠の離別は博の心に深い傷として残っているだろう。
自分だって、永久に博と離れなければならないと考えるだけで怖くなる。
「大丈夫だよ。好きって言ってもらったのに死ぬなんて勿体無いし〜」
わざと軽口で答えた。じゃないと泣きそうだった。
そこまでつらい思いをさせたのは自分だったから。
あの時は両想いだったことが分からなかったが、自分だけの都合で博を苦しめてしまった。
それがすごく申し訳なくて。
博は何も言わなかったが、すごく嬉しそうだ。
満面の笑みを浮かべている。だが、なにやら博の手つきが怪しい。
服を脱がそうとしている。
「ひょっとして・・・やるの?」
すると、博はにやりとして一言。
「もちろんだ」
光は真っ赤になってしまい、何もいえない。すると、博は脱がせながら続ける。
「誘ったのはお前だからな。
すべてはお前が悪い。
俺がどんなに耐えてたかわからないだろう。
覚悟を決めるんだな」
もちろん、覚悟を決めてはいるのだが、実際に及ぶとなると恥ずかしい。
そう言っているうちに、難なく下着ごとズボンを脱がせてしまう博。
そこにはしなやかな裸体が現れる。若さゆえに完成されていないが、それでも博を見とれさせてしまうのに充分だった。
光は真っ赤になって泣きそうにさえなっている。どうした?と訊く博に、
「俺だけ裸なのって・・・恥ずかしい・・・」
それでやっと自分が服を着ていることに気付いたようだ。いそいそと脱ぎだす。
すると、均整の取れた体があらわになる。光はその体に見とれるが、同時に敗北感も覚えていた。
体格が違いすぎる。博に比べて自分なんか貧弱すぎる。
それに・・・あれも自分よりはるかに大きい。
あれを受け入れるとなるとちょっと不安だ。そんな事を思っていると、急に博の指が光の胸の突起に触れる。
「・・・ん・・・」
光の口から甘い声が出る。すると、今度は触れるだけではなく、つまんだり噛んだり、色々な刺激を与える。
「・・・や・・・」
ただ乳首を噛まれただけなのに、ここまで声が出てしまった。
あまりにも恥ずかしいので腕で顔を隠そうとするが、博はそれを許さなかった。
「そんな色っぽい顔、隠すなんて勿体無いぞ」
そう言いながら光を押し倒し、乳首をいじり続ける。
光は甘い声で鳴き続ける。
すると、さっきとは格段に違う刺激が彼を襲う。
博が光自身を握り、上下させたからだ。
「あ・・・・あん・・・いぃ・・・」
我慢しようとしても、どうしても声が出てくる。すると、それに気をよくしたか、博は動きを激しくする。
「あ・・・・あん・・・・出るぅ・・・」
すると、博は光自身の根元を握り締める。
だが、刺激は与え続けるので快感だけがたまっていく。
達することができないのでとても苦しい。
光は涙目で訴えるが、
「ん?どうして欲しい?」
意地悪な言葉で訊いてくる。恥ずかしくて答えたくはなかったが、このままではつらい。つらすぎる。だから懇願してしまった。
「おねが・・・い・・いかせ・・てぇ」
すると博は根元の戒めを解きはなち、それに刺激を与える。
「あ・・・あん・・・い・・・いくぅ・・・」
光は博の手の中に欲望を放った。しばらくは肩で息をしていたが、今度は口に含んできたため、光のしなやかな肢体が反れる。
「・・・・・ぁ・・・ぁん」
さっき手でされたよりも桁違いの快感に光は翻弄される。博はあらゆる手段を用い、光を追い詰めていく。
「あ・・・ぁん・・・・もう・・・・だめぇ・・・」
今度はあっけなく達してしまう。涙目で博を見ると、なにやら楽しそうである。
「そんなによかったか?」
悔しいが、全くその通りだし、認めておかないといじめられそうなのでこくりと頷く。
「今度は俺の番だな」
そう言って博は光の口の中に指を入れ、しばらくしてから光の蕾に手を添える。すると、光の体がびくっと震える。
「怖いのか?」
優しい声で博が訊く。光は一瞬迷ったが、素直に答えた。
「うん・・・。でも、大丈夫。だから・・・続けて。博を全部俺にちょうだい。俺も全部あげるから・・・」
博の指はゆっくりと、だが確実に光をこじ開けていく。
指が進むたびに光が震えるが、そのときはキスを落として安心させた。
そして、光が拒まなくなったころ、ある一点をこすると、
「あ・・・ん」
光が喘ぐ。急いで口を閉じたがもう遅かった。それを聞いた博はなんとも怪しい表情で、
「そこが感じるのか?」
と訊いてくる。必死で否定する光だが、そんな事はお構いなしで博は重点的にそこを攻めてくる。
「あ・・・あ・・・いい・・・」
指だけで理性が飛んでしまう光。博はしばらくいじっていたが、指を一本増やした。
「痛っ・・・」
激痛が襲い、光は悲鳴を上げる。
「大丈夫だから・・・力を抜いて・・・」
博が甘い声でささやく。それだけで光の腰は砕けてしまった。だが、そのおかげで二本目の進入を容易にした。
「んぁ・・・・」
激痛もいつの間にか快感に変わる。
光ももう声を上げるのを止めない。
もっとかき回して欲しい。
もっと攻めて欲しい。
だが、期待とは裏腹に博の指は抜かれてしまった。
物足りなさそうな顔をするが、次に当てられたのはそれよりも大きいもの・・・博自身だった。
あまりの激痛に光が涙目になる。
「こんなの・・・はいらないよぉ・・・」
「だから・・・力を抜けって」
「でもぉ・・・」
力を抜こうとしても、どうしてもそれができない。
あのときのことを思い出したのだ。
だから本番に及ぼうとすると自然に博を拒んでしまう。
前は抱かれることは怖くはなかったが、今はどうしても怖いのだ。
それがたとえ大好きな人であったとしても。
だが、自分から誘った手前、どうしても言うことはできない。
「いやだったこと、つらかったことは俺が忘れさせてやる。
それができないなら、俺がすべて受け止める。だからお前は俺だけを見てろ・・・」
ちょっときつい口調とは裏腹に、それを言う博は愛情に満ちていた。
だから、光はもう恐れなかった。
どんなに苦しくても、博はそれを受け止めてくれる。
なら、博には自分を全部あげたい。
光は勇気を出して博の首に手をまわし、身体を引き寄せた。
「うっ・・・」
激痛が伴ったが、何とか博を全部入れることに成功した。
博はしばらくは動かなかったが、光が落ち着くのを見計らって、ゆっくりだが腰を動かし始める。
「い・・・痛・・・・」
自分の中で太いもの(実は京極のより大きい)が動くため、光に激痛が襲う。
だが、今はこの痛みが愛しい。
博がくれるものだから。
博自身を感じていられるから。
夢でないことが分かるから。
博のほうはどうだろうか。
息が荒くなり、顔も赤くなっているのでどうやら感じてくれているらしい。
それが嬉しい。しばらくは痛みが続いていたが、弱いポイントを突かれた途端、痛みではなく快感が襲い、喘ぎながら光は身をよじらせる。その結果蕾に力を込めてしまった。
「・・・んぁ・・・」
甘ったる声が聞こえてくる。だが、今のは自分ではない。
光は自分の上に位置する男を見てみた。すると、博がとろんとした顔をしている。非常に色っぽい。
もしや今ので声が出てしまったのか、光はちょっと仕返しをしてみたくなる。
「へぇ〜いい顔してるねぇ。そんなに俺の中いい?」
博は真っ赤になってしまった。
またそれが面白い。
いつも虐げられてるんだ、
SEXのときくらい主導権をもってやる、徹底的にいじめてやると企んでいる光だが・・・
「あぁ・・・最高だよ、お前の中。締め付けてくるのが・・・いぃ・・・」
喘ぎながらもしっかり答えてくれる。
どうやらこっちの主導権も譲ってもらえないらしい。
悔しいが、最高だといってくれたので、細かいことは気にせずに博にすべてを任せてしまおう。
すると、博が動き出す。
「ぁ・・・・あん・・・い・・いぃ」
もはや考えることすらできなくなった。
博の背中に爪を立ててしまう。博の顔が一瞬ゆがんだが、それには気にせず動き続ける。
「あ・・・あ・・・もっとぉ・・・強く・・・めちゃくちゃにしてぇ・・・あぁん」
理性があったら憤死しそうな言葉を光は吐きながら、艶かしい仕草で腰を動かす。
そのせいで、少しはあった博の理性も一気に吹き飛ぶ。その言葉だけで自分のものがさらに大きくなる。そして光自身を握り、腰と同時に動かす。前から後ろから攻められ、お望みどおり光はめちゃくちゃになる。
「あ・・・・あ・・・だ・・・だめぇ・・い・・・いくぅ・・・!」
「俺も・・・・い・・・イキそう!」
それから程なく光は博の手の中に熱い想いを放つ。
すぐに博も光の中に熱い欲望をたたきつけた。
そして、博は小さい声だが、確かに聞いた。意識を失う直前に光が言ったのを。
「ありがと・・・大好き」
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