第八頁


そして翌朝光は博に返され、ずっと光のそばにいる。博は有休をとったのだ。
今光を一人にしているわけにはいかないし、一緒にいたいのだ、自分が。
だが、数日たち、博の胸は締め付けられる思いだった。



光の表情がなくなったのだ。



笑いもしなければ、泣きもしない。
もはや人形と化している。人形と違うところは与えられた食べ物を口にするくらいである。
博は自分の無力さに嫌悪していた。自分では光を救ってやれないのか。だったら好きだといってあげればよかった。






このときにはすでに博は光への想いを認めていた。
他人に興味がないくせに彼のことがそこまで気になるのは好きであるからに他ならない。
今まで歩のことが頭の中にあったので気付かなかっただけだ。

だが、歩の事を思い出してもつらくはなくなった。

それは光のおかげである。
光にはたくさんの元気をもらった。
だから元気にしてやりたい。
だが、自分に何ができようか。もはや彼は神にもすがりつく思いだった。






光はぼんやりと考えていた。
博はずっと自分のそばについていてくれる。
心配もしてくれる。
だが、それは本当に自分に対してだろうか。
実は自分に対してではなく、ただ襲われた少年を助けられなかったという事実に対して嫌悪しているだけではないのだろうか。
だから、誰であっても同じくらい心配しただろう。

歩と自分を重ねているのかもしれない。

そこでふと思った。
今ならあの時命を絶った歩の気持ちも分かるような気がする。
口では理解したように言ったものの、実際には理解できなかった。
死ぬまでのことかと。好きなのに自分から離れるなんて変だと。




だが、そうするしかなかったのだ。




多分博は本当のことを話しても許してくれるだろう。
だが、その一方で博を信じられない自分もいるだろう。
表面上は許してはいても、心の中では軽蔑していると。
そのように考える自分がいやだったし、心も身体も穢れてしまった自分など好きになってもらえる資格はない。




生きて焼け付く苦しみを味わうくらいならいっそのこと・・・。





次の日、博は発見した。
左手首から紅き血を流して倒れている少年を。
彼はその赤い血とは対照的に蒼白な顔をしていた。
だが、その顔には不思議なことにすべてのしがらみから解き放たれたときにするような安堵の表情が浮かんでいた。




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