「歩にしては随分譲歩したね。俺は結構冷や冷やしたよ」

「うん、考えてみたら、僕には倉科先生がいるけど、夏目には僕以外誰もいないからね。
夏目に近づこうとする奴は片っ端から消してきたから・・・」


「やっぱりそうしてたか」

「そりゃそうだよ。そうでもしないと夏目がほかの奴に興味を持っちゃうじゃん」

・・・ほかの奴に興味を持つつもりはないんだけど。
俺の数年の想いを甘く見ないで欲しい。だけど、歩は歩なりに不安なんだろう。


「心配しなくてもいいよ。歩だけを愛してあげるからね」

「ほんとだね。約束だよ。ずっと僕を愛してね。だから外山をあげたんだから・・・」

そう言って俺に抱きついてくる。しがみつく手が非常に震えている。



「怖かったんだ・・・。僕を離さないって言ってくれたけど、外山と楽しそうにしてたから、もう手遅れかと思っちゃったんだ。もう僕の居場所は無くなっちゃうのかなと思うと・・・。浮気くらい何度でも許すから、僕を絶対捨てないで!」



今日は皆壊れているんだろうか。・・・俺をなんだと思っている。



「あのねぇ・・・。俺はどんなことがあっても歩を愛し続けるよ。絶
対捨てたりしない、例え世界が崩壊しようとも、この体が朽ち果てようとも・・・」




ばっと歩が飛びのく。そして怯えてる。



「今日の夏目、何かおかしい・・・。壊れてる。でも、嬉しい・・・」

そう言って再び歩は抱きつこうとし、俺は抱きしめようとした。だけど・・・・・





「ふふふ・・・美少年二人に抱きつかれるのも悪いものではないな」





「倉科先生!」

どこからともなく倉科先生がやってきた・・・つまり、俺は倉科先生に抱きついたわけだ。
そんでもって先生は俺を引き剥がし、歩に唇を合わせる。しかも歩は腰に手を回している・・・。


「なんてことを!」



怒りで震える俺にかまわず、先生は歩をぎゅーっと抱きしめる。



「最後のキス、確かに頂いたよ。これで俺とお前はただの教師と生徒だ・・・」





え・・・。二人同時に固まる。



「当然の話だろ?お前たちは恋人同士だ。俺が存在する意味はない・・・。歩を頼む」



あれほどそうするなと言ったのに。だけど先生は静かに去っていった。文句を言いたかったけれど、ほんの少し震えているのが見えたので、口には出せなかった。
歩は・・・想像通り倒れた・・・かと思ったら起き上がった。


「倉科〜・・・僕を捨てるなんてっ、絶対に許さない!」

猛烈な勢いで追いかけていってしまった。この分だと、二人一緒に帰ってくるだろう。倉科先生は歩にベタぼれなんだから。まぁ、歩にとって先生は大事な人だから仕方ないか。苦笑していると二人が帰ってきた。

「先生を捕まえてきたよ〜」

歩は先生にしがみついている。先生は頭をかいて、苦笑している。

「・・・この分だと、まだこいつからは離れられないみたいだ。すまん、許してくれ」

「先生も大変ですね」

「お前もな・・・」



二人一緒に肩を落とし、ため息をつく。これから歩に振り回されるのは目に見えている。
だけど、その一方でそれを喜んでいる自分がいる。倉科先生には悪いけど、一緒に振り回されてもらおう。
そんなことを思う夏の午後、歩は俺に抱きつき、先生はそれをみて苦笑し、俺は笑うしかなかった・・・。



めでたしめでたし。



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