追憶
小学校の頃
ある日、隣にその一家がやってきた。三人家族のようで、仲がよさそうだ。
若くてきれいなおばさんに、穏やかな雰囲気のおじさん、そして人懐っこそうな顔の少年。
家が隣ということもあって、家とその家族‐夏樹という名字だ‐とは親しく付き合うようになった。
特に、夏樹の両親は共働きであり、その少年とは同い年だったため、俺と彼‐夏樹歩‐と一緒にいることも多くなったのだった。
あるときのことだった。歩の親が出張することになって、歩が独りきりになるために俺が泊まりに行ったことがあった。
勝手に押しかけたので迷惑がるかなとは思ったけど、歩は俺が来たことを喜んでくれた。
子供同士、色々と二人で遊んで楽しかった。だけど、寝るときになって歩の様子がなんかおかしいように感じた。だから俺は訊いてみた。
「どうしたの?」
すると歩は無理やり笑顔をつくって答えた。
「何か僕の顔についてる?」
ごまかそうとしているけど、子供の俺でも分かった。
「やっぱり・・・親がいないと寂しい?」
すると・・・歩が泣き出した。
「だって・・・今までずっと一緒だったんだもん・・・。一人じゃ寂しいよ・・・」
やっぱり歩は親のことが大好きなんだ。
俺なんかじゃ代わりにならないのかな。
俺はどうしたらいいのか分からなかったから、涙を拭いてやった。
すると、歩は俺にしがみついてきた。
「ずっと僕のそばにいて。独りにしないで・・・」
おそらくこの日からだろう。ずっとそばにいて歩を守ってやろうと思ったのは。
歩に友達以上の感情を抱いたのは・・・。
中学一年
この頃には俺の心の大部分を占めるその感情が恋だという事に気付いていた。
社会的には背徳とされる感情であったけど、不思議なことにそれが後ろめたいとは全然思わなかった。
それはそうだろう。俺は男だから好きになったんじゃない。歩だから好きになったんだ。
どうして好きになったかといわれても説明はできない。どこが好きかと聞かれれば全部と答えてしまうから。
それだけ歩は俺の全てだったんだ。
歩にとっては鬱陶しかったかもしれないけど、歩の世話を焼くのは楽しかった。
両親が忙しいこともあってか、家のほうに歩が来ることも多かった。
そんな事があったから、俺は歩に合わせた生活をするようになったし、色々なことに対して歩を優先して考えることが自然となった。そして、歩の誕生日がやってきた・・・。
中学生にもなって・・・と言われそうだったが、毎年歩の誕生日には軽いパーティーをしていた。
そのときには歩の両親も必ず定時で帰ってきて、俺の家族と共にお祝いをした。
歩自身はこの年にもなって、とかぼやいていたけど、誕生日は歩が生まれた大切な日だ。
お祝いをしたいと思う両親の気持ちは充分に分かるし、俺自身がしたいのだ。
今年も例年のようにごちそうがでて、例年のように歩が照れる・・・俺はそんな誕生日パーティーで終わるかと思っていた・・・。しかし、今年はそれでは終わらなかった。
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