パーティーが終わり、時は既に夜だった。今日は歩も独りじゃないから、家族水入らずというのもいいと思い、家に帰って寝ようとした俺だったが、外にでたら歩に誘われたので、近くの公園に一緒に行った。一体なんでだろう。話がしたいのなら歩の家でもよかったはずである。静寂が支配する闇の中、周りには誰もいなく二人きりだったため、俺はどきどきする気持ちを抑えつつ、歩が話すのを待った。

「あのね・・・気持ち悪がらずに聞いてくれる?」

そう言われても、話していないのでそれが気持ち悪いことなのかどうか分からない。
だから、俺はうなずいて話すのを待った。


「僕、前世の記憶ってやつがあるんだ」

前世の記憶?そういう人がいるのは聞いたことはあるけど、正直あまりにもお話みたいなので俺には理解できない。だから俺は聞き返した。

「それってどういうこと?もっとわかりやすく教えてほしいんだけど」

すると、歩の表情が曇っていく。何かまずいことを言ったんだろうか。そんな考えとは関係なく歩が説明した。でもそれはさっきのよりも暗い調子だった。

「うん・・・僕ね、その前世のときに自殺したんだ。それで生まれ変わって今に至るんだ。
記憶は・・・思い出していくのもあるけど、全て覚えているわけじゃない。
特に印象が強かったのだけ覚えているくらいだけど・・・。
分かりやすく言うなら、記憶を持つ別人ってのじゃなく、前の僕がまた人生やり直してるってやつかな?
その辺はごちゃごちゃになってるから、説明しにくいんだけどね・・・」




やっと歩が二人きりになりたかった理由が分かった。こんなこと、人に話しても変なやつと一笑されるだけである。あまりにも現実味がなく、驚くことすら出来ないのだから。俺だって、にわかには信じがたい。
何冗談を・・・言おうとしたところで思い直した。



本当に冗談ならこの日にこの場所で、
そんな真剣な顔をして言う必要はない。
普通に軽く言えばいいのだ。



だから、歩が言っていることは本当のことなんだろう。俺は信じることにした。
例え周りが信じなくても、俺だけは歩を信じてやりたい。だから俺は言った。


「うん、歩の言う事、信じるよ。だって、親友の言うことは信じないとな」

すると、歩は安心したようだ。表情が明るくなった。

「ありがとう。僕を信じてくれて・・・。夏目に話してよかった・・・。
こんなこと、言ったところで馬鹿にされるのは目に見えている。ずっと言えなかったから、苦しかったんだ・・・」


そう言って俺に抱きついてくる。嬉しそうだけど、俺をつかむ手がわずかにだけど震えている。
気付いてやれなくてごめん・・・。いつもお前は明るかったから、そんな苦しみを秘めているなんて分からなかった。俺でよければ全て受け止めるから、独りで抱え込まないで頼ってほしい。
・・・まぁ、そんな事は恥ずかしくて口には出せないけど。すると歩は驚くべきことを言ってきた。






「夏目、頼みがあるんだけど、キスして。今日のことはずっと忘れたくないから・・・。お願い・・・」





必死に懇願してきた。だけど、当然のことながら、俺は凍りつく。


残酷なやつだよ、歩・・・。


俺は歩に片想いだというのに。
きっと歩は自分を受け止めたから俺にキスをせがむのだ。
もし他のやつが話を聞いていたら、その人に頼むかもしれない・・・。
苦しかった。もしここですれば、俺は想いを隠し続けることができないかもしれない。
そしてその押さえきれなくなり、洪水のように溢れ出した想いが歩を傷つけることになるかもしれない。
だけど、しなかったとしても、歩は自分を拒否されたと思い、傷つくだろう。
俺はその二つに挟まれ悩んだ。一体どうすればいいんだ・・・。
俺は苦し紛れの結論を出した。歩が望んだんだ。俺はしてやればいい。
だけど、歩が嫌がったときのために俺は口ではなく、コミュニケーションとして行われる、ほっぺにキスをした。これで歩も満足してくれるだろう。




しかし、そんな俺の思いとは裏腹に、歩は不満そうだ。睨んでいるようにも見えるし、泣きそうにも見える。
何でだ?泣きたいのは俺のほうだよ・・・。




「どうして口にしてくれないの?もしかして、僕のこと、嫌い・・・?」



嫌いなはずなんかない。大好きだ。愛しちゃってもいる。
だけど、大好きだからこそ・・・。俺はその苦しみを悟られないように歩に言った。


「普通口にするキスは、恋人同士でするもんだと思うけど・・・」

すると、そんな事は知らないといった風に反撃してきた。

「僕は初めてのは夏目にしてほしいの!恋人にするかどうかは関係なくて!」

後半が腑に落ちなかったけど・・・。俺にしてほしい・・・。歩、少しはうぬぼれていいのか?
お前が少しでも俺を好きだと思ってくれているって。俺がお前にキスを許す存在だということを・・・。
俺は何も言うことができなかった。それだけ嬉しかったんだ。その沈黙をどう受け取ったのか、歩が狼狽した。


「どうしたの、夏目・・・僕・・・なんか嫌がること言った?」

「本当に俺でいいのか?」

「うん。僕がこうしていられるのも夏目のおかげだから・・・。夏目じゃなきゃそんな事いわないよ」

俺はその言葉が嬉しかった。だから歩の口にキスをした。それだけで済ますつもりだったのが、止まらなくてつい舌も入れてしまったけど、歩は拒まなかった。それどころか、嬉しそうに返してくれる。しばらく、キスしていた俺たちだったが、歩がとろけそうな顔で愚痴を言った。

「・・・夏目?何でそんなにキス巧いの?ひょっとして・・・既に他の人と?」

ひょっとして焼餅?かと思ったが、どうやら違うみたいだ。子供の持つ独占欲というべきなのかもしれない。俺は苦笑した。

「別にそんなに巧くないけど・・・。それより・・・人のファーストキス奪っといて愚痴を言うとは贅沢な」


すると、歩の目が丸くなった。


「え?ひょっとして今のが初めてだったの?僕てっきり既に他の人と・・・」

俺をなんだと思っているんだ?俺は頭が痛くなった。中学生でそんなに遊ぶほど俺に甲斐性はないのに。
それに、歩一筋で他の人になんかするつもりはないのに。すると、歩が申し訳なさそうに謝る。


「ごめん!ほんとにごめん!!夏目の初めて奪っちゃった!僕はどうすれば〜」


「・・・その言い方、どうかしてほしいんだけど。俺は女か?」


「あうぅ〜僕、混乱してる〜」

「そのようだね。ま、それはいい。俺の大事な大事なファーストキスを奪ったんだから、責任取ってよね」

「どうすればいいの?」





そういわれると考えてしまう。別に言っただけでそんな事は考えていなかったから。どうしよう。

「う〜ん・・・冗談で言ったんだけど」

別に責任はとってもらわなくてもいいや。そんなので歩を縛りたくないし・・・・ほんとのことを言うと、自分の初めてのキスの相手が歩でとても幸せだったんだ。まぁ・・・向こうは俺に恋をしているわけじゃないから、ちょっとは切なかったけど・・・。すると急に歩が明るくなって言う。

「じゃぁ・・・僕が一緒にいてあげる♪・・・ってそれじゃ責任取ったことにならないよね・・・う〜ん、どうしよう」

冗談で言ったのに、歩は本気で悩んでいる。でも、これが彼のいいところなのだ。
俺が何気なく言ったことでも、こうやって真剣に受け取ってくれるし、自分のこととして考えてくれるんだ。


「その言葉だけで充分だよ・・・。別に責任とってもらわなくても」

それは本心だった。「一緒にいてあげる」・・・この言葉は考えずに自然に出たものだろう。
だから、そんな歩にはいつも救われている。その言葉がどれだけ俺を幸せにしてくれるかなんて、歩には分からないだろう。


「う〜ん・・・そんなのでいいの?それなら僕なんかでよければずっとそばにいるけど・・・浮気なんかしないでね?」



どうやら気付かれてしまったみたいだ。一緒にいてあげるということにどれだけ俺が嬉しかったか。浮気?俺は歩にしか興味はないのに、どうしてそんな事をしなければならないのか。歩は俺のことを何だと思ってるんだろう。



「・・・せっかく俺のファーストキスをあげたのに・・・どうして浮気をしなければいけないのかなぁ」



「だって・・・夏目だけ恋人作ったら泣くよ?せめて僕ができてから作ってね」



う〜ん・・・これは喜ぶべきことなのだろうか。複雑なのであるが、まぁ、今日のところはいい。
俺にとって特別な日になったから。ゆっくり思いをはぐくんでいけばいい。これからが楽しみだ・・・。



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