中学二年

それからの俺は幸せだった。
歩とは、いつ、何をするにも一緒だったから。
歩の言いつけどおり、浮気なんかしなかったし
(といっても歩以外に好きなやつはできなかったからだけど)
歩にも好きなやつがいなかった・・・。そう、少なくとも俺がその話を聞くまでは・・・。




「やっぱり僕は変なのかな?」

何も言ってないのにそう言われても困るんだけど。だけどそれは口には出せなかったから、当たり障りのない言葉を選んだ。

「何か困ったことでもあるの?」

歩は憔悴しきっている。それを見る俺の胸は苦しかった。
俺でよければ全て話してほしいから、独りで抱え込まないでほしい。


「僕・・・ずっと好きな人がいるんだ・・・」

え?どういうことだ。歩に好きな人・・・ずっと?俺の頭が理解を拒んでいる。
矛盾していることは分かっている。
でも、お願いだからこれから先は言わないでほしい。
だけど、無情にも歩は続ける。






「前の僕だった時の親友がいるんだ。倉科って言うんだけど・・・。
僕のことをすごく想ってくれてたから、もし今の僕のときに会えたらつきあおうって・・・」






倉科?初めて聞く名前だけど、歩とはどういう関係だったんろう。そもそも歩はどうして・・・。

「うん・・・倉科のことを話す前に僕のことを話さないとね。僕ね、レイプされちゃったんだ。・・・そんな顔しなくても。昔のことだし・・・それ以前に今の僕のことじゃないからいいんだけど」

悲しい顔をした俺に気付いたのか、歩がそう言う。だからといって、気にしないなんてできない。大好きな歩が・・・なんて考えるとやっぱりつらい。

「それが原因で僕は死んじゃったんだけどね。困ったことに、この世界にとどまっちゃったんだ。独りだけ取り残されるのは辛かったよ・・・」

歩の目から涙が出てきた。だから、俺は歩を抱きしめた。歩の好きな人の話をしているときだったので辛かったけど、歩を安心させるためにはそうするしかなかった。



「辛かったんだね・・・。でも、歩は独りなんかじゃないよ」



すると歩は俺にしがみついたまま続ける。心臓の音を聞かれるのはちょっと困るが、俺は今の自分がどんな顔をしているかなんて、歩には見られたくなかったから、かえって都合がよかった。

「だけど、そんな僕を見つけてくれたのが倉科だったんだ。あの時は嬉しかったよ。今でも覚えてる。
それで、倉科が僕のことを好きだったんだ。だけど、生きてるとき、僕には付き合っている人・・・秋本さんっていうんだけど・・・がいたから、言い出せなかったみたいなんだ。だから僕はもし生まれ変わることができたら付き合おうといったんだよ。そこまで僕のことを想ってくれたから・・・。

変だよね。会える可能性なんてほとんどないのに。今も倉科が僕を好きでいてくれる保証なんてないのに・・・」



声、仕草の全てから歩の真剣な思いが伝わってくる。
それは俺にとっては泣きたくなるほど辛いものではあったが、歩の過去を知ってしまったため、絶対に幸せになってほしいという気持ちのほうが強かった。だから俺は言った。


「大丈夫だよ。きっと会えるって。それに、きっとその人もまだ歩のことを好きでいてくれるよ。だから、気長に待とうよ・・・」

すると歩は抱きつく力を強めてくる。俺は押し倒された形になってしまった・・・。

「夏目、ありがと。大好き・・・。僕としてはそんなことはしてほしくないんだけど、もし夏目に恋人ができても、ずっと側にいて。僕から離れないで・・・」

それが恋愛感情だったらいいのに・・・。というのは贅沢すぎるかもしれない。
好きと言ってもらっただけでも満足しなければいけない。


「ほんとに俺なんかでいいの?ひょっとしたら歩を傷つけることになるかも知れないよ。俺にはそれがないという保証なんてない」

「だって、僕にとって夏目は特別な存在だもん。夏目じゃなかったらこんな話なんてできなかったし。自分勝手かもしれないけど・・・」

「それなら、ずっと側にいる。歩が俺のことを鬱陶しく思うまで・・・」

歩が一緒にいてほしいといってくれるのは嬉しい。だけど、俺にはこの想いを封じ込めている自信がない。
本当に傷つけてしまうだろうし、たぶん倉科さんと会うことができれば、俺の存在は鬱陶しくなるだろう。だから、俺は歩がそう思うまで側にいさせてもらってもいいだろうか?歩は強く首を振った。




「鬱陶しいなんてことない!お願いだからそんな事言わないで・・・。聞いてて悲しくなる・・・。夏目がいなくなったらって思うと・・・僕・・・」



俺は強く歩を抱きしめてしまった。どうしても止めることができなかった。歩は、拒む様子はなかったけど、いつもと違う様子であることに気付いたのか、なんだか不思議そうな顔をしている。

「今日の夏目ってなんだか激しい・・・」

そう言われてしまった。俺の顔が真っ赤になる。なんてことをしてしまったんだ。

「あ、顔真っ赤!」

その一言が俺をさらに真っ赤にさせる。俺は思わずそっぽを向いてしまった。困るから変なところで突っ込まないでほしい。

「夏目って・・・かっこいいと思ってたけど・・・結構可愛いね」

俺はかっこいいか?どうも納得いかない。どこにでもある顔だけど。それより、歩に可愛いって言われても困るんだけど。なんていえば言いのかわからない。絶対歩の方が可愛いのに。歩はといえば、ひたすら笑っていた。だけど、ひたすら笑った後寂しそうな声で一言いった。





「ごめんね・・・」





俺の全身から血の気が引いた。まさか俺の気持ちが悟られてしまったのか。絶対知られたくなかったのに。もうお終いかも知れない・・・。だけど、それとはどうも違うようだった。歩が続ける。

「いつも夏目に頼ってばっかだよね。僕は何で一人じゃ何もできないんだろう」

どうやら俺の想いには気付いていないようだ。ホッとした。想いを封じ込めると決めた以上、どうしても気付かれるわけにはいかない。

「俺たちは子供だから、別に何もかも一人でやらなくてもいいんじゃない?俺だってどんどん頼ってほしいし」

すると歩は満面の笑みを見せた。

「ありがと。こんな情けない僕だけど、見捨てないでやってください」



そう言って歩は俺の口にキスをしてきた・・・。



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