第4話・「タケシを狂わせろ」 さて、更新が滞ってしまったがそれもそのはず、あの頃のことがどうしても思い出せないので ある。 これはボケたわけではない。たかだか1年か2年(この辺からして記憶が曖昧)前のことであ る。そうそう簡単に忘れるものでもあるまい(ボケは最近のことを忘れることのが多いなんてい うのは、嘘だ)、そう、これには恐ろしい裏があるように思うのである。 諸星大二郎の「子供の遊び」という漫画をご存知であろうか。 その内容を、以下に記す。 主人公はある平凡な家庭の父親。 妻は子供の反抗期に悩まされていたが、彼は子供にはそういう時期が必ずあるものだ、と達 観していた。 そんなある日、塾をサボって妹と裏庭にいる息子を発見した彼は、そっと隠れて様子を覗い て見た。どうやら物置の中で捨てられていたのか、拾ってきた動物を隠れて飼っているらしい。 犬か、猫か?だが、妻が犬嫌いなので犬なら飼う事は出来ないだろうな・・・ ・・・ふと、彼の少年期の思い出が蘇る。彼もまた、犬を拾ったものの親から反対され犬を捨 てなければならなかった過去があったのだ。 子供の頃のほろ苦い思い出にちょっとした感慨を覚えた彼は、夜にその動物の様子を見に 行ってみた。 そこにあったのは奇妙な呼吸音らしきものをあげる、肉の塊のようなものであった。 驚き、あんなものは殺すか捨てなければ。と、彼は決意した。 だが明くる日、隣の奥さんに挨拶された彼は愕然とした。 隣の家にも、あの動物がいる。 それも、隣の奥さんはその動物がいることを当然のこととして扱っているのだ・・・ そして、自分の子供達もあの動物を飼い続けていた。 彼は早く帰宅してその様子を伺うと、兄妹は動物を子供に見立ててままごとをしていた。 その様子はまさに自分達夫婦のものの生き写しであった。動物は成長を続けている・・・ 妻との相談の末、その動物を捨てに土手沿いを自転車で走りながら、彼は考える。 「しかし、こんな気持ち悪い動物をどこでみつけて・・・・・・しかも飼う気になったんだろう・・・・・・ いや、子供には子供のルールがあって、それは社会のルールとはまったく無関係なものなの かもしれん」 自転車の後ろに乗せられた箱が、揺れる。 「普通、世間では子供を単に大人の小さいものと思っているがもしかしたら・・・・・・ 全然別の生き物なのかもしれんじゃないか。 ‘不完全な大人‘ではなく‘子供‘という独立した種・・・」 箱が揺れ、中からあの動物が這出て来る。 「・・・・・・パ・・・パ・・・・・・・・・」 驚き、慌てふためいた彼は自転車を放り出して、その場から逃げ出す。 後日、自転車が家に戻っていた。おそらくはあの動物も・・・ 彼は息子にさり気なくペットについて話をしてみるが、つれない返事しか返ってこない。 隣の家では病気でしばらく休んでいた博之君が完治し、またみんなと遊ぶようになっていた。 だが、その顔はあの動物そのものであった。いや、あの動物のような人間は実際には街のあ ちらこちらで見かけられるものだったのだ・・・ 彼は気付く。 「そうだ、あの動物が何を思わさせるのかわかった・・・胎児だ!胎児は母親の胎内で生物の 進化を再現しながら成長するというじゃないか・・・ あれは、ああしてやがて人間に進化し・・・・・・そして・・・・・・」 「そして・・・・・・?」 息子を問いただしてあの動物を殺してしまおうかとも考えた彼だったが、その考えを何かが 思い正せた。 「何か、心理学の本で読んだが・・・・・・子供の頃の記憶というのは実際に体験したことも本で 読んだり空想しただけのことも・・・・・・すべて区別なくごっちゃになっているようなことを・・・・・・」 彼は、追想する。 あれは犬ではなかったのかもしれない。 「どこかのおれの知らない子供が飼っていた醜い動物がやがてその子といれかわりおれとい う人間にまで進化したのかもしれないじゃないか」 そして、息子の寝顔が彼に訴える。 「コレデイインダヨオトウサンコノママ何モシナイノガ一番イインダヨ」 そして、はっきりいつということもなく、息子はあの動物を残して消えた。 一方、今度は娘が親に内緒で何かを飼い始めた。 だが、心配することは無いただの子供の遊びだ。どうせ、すぐに飽きて聞き分けのいい子に なるだろう。 息子のように 「宿題はすませたのか」 「ハイオトウサン」 えーと、全部書く事は無かったなあ・・・ つまり、何が言いたかったのかと言いますと、こういうわけで私の記憶がはっきりしないんで すよ。ということです。 それじゃまた次回 〈モドル〉 〈続く〉 |