最終話・「大団円〜散りゆくは、美しき幻の夜」 気だるい雰囲気のまま、終了の5時(だったか)を待つ我々。 あまりの気だるさに、なんかいい加減な作り話でも入れて事実を捻じ曲げたいぐらいだが、この気だるさの前にはあらゆる面白そうな作り話がただのしょうも ない変な妄想入った虚偽へと色褪せていく。 途中、友人に片っ端から電話をかけて「桜になってくれ!」というような頼み込みをしようとするも、どいつもこいつも我々よりもマシな青春を謳歌している らしく、出やしない。 唯一、侑紀(仮)の当時のクラスメイト(ごめん名前忘れた)に連絡がつながり、桜として来てくれる事になった。よし、勝算が・・・見えてくるはずも無い じゃないか、こんなことで。 またしても気だるい我々…そこに、かかった声。 それはやはり隣席からのものであった。 「あの、一部いただけますか」 手には500円。 信じられない、あんな本を500円で買おうという人がいるのだ!(信じられない、そんな本を売るために何時間も座り込んでいたのはおまえじゃないか!) 苦笑い。 苦笑い。 隣のサークルさん二人組みがどんな顔をしていたのか、何を売っていたのかはもう、とっくの昔に忘れてしまったが、あの苦笑いだけは忘れない。 侑紀(仮)は、わたしゃてっきり、同情も哀れみもいらねえよべらんめえみたいなことを言うのかと思っていたが、少し驚きつつも、スムーズに硬貨を受け取 り、一部、燃えるごみを手渡す。 さらに、もう一人の方も、「私にもいただけますか」と500円玉。 痛い…同情の日差しは、素通りの嵐よりも鋭く心をえぐりつける! 売れてうれしいのと、やっぱ、そういう心境だったんだろうなあ、ってなことで、憔悴した侑紀(仮)の顔を横目に、私もむう、人生ってなんだろうなあ、と テイセンホールの高い天井を見上げる。その答えは今も出ていない。 やがて、終了の時刻が近づく。 終わった。すべてが終わった。 これが我々の最初の一歩 そして最後の一歩なんだろう。 個人的に、ちょっと真面目に言わせてもらえば、この日の来場者全員があの本を読めば、多分…えーと、1割くらいは、なにかしらの才気・・・は言いすぎな ので、なんというか、奇妙なセンスは感じ取ってもらえたのではないか、と思う。 内輪だからこそ(つか、内輪のみ、の)面白さが彼の作品の魅力を構成する、最大の要素だったとしても、何処か、そこから一歩、踏み出した何かが、あった はずだと思うのだ。 結局、砂浜に記されたその一歩は、素通りの嵐によってかき消され、同情の日差しに照らされ、痕跡すら残さずに消えてしまったが。それでも、そこには、何 かがあったのだ。 まあ、私には本当に何も残らなかったが(時間以外は何も失っていないし…つか、なにもやってないもんなあ) 終了直前、侑紀(仮)の当時のクラスメイト(ごめん、名前忘れた)が来場。おまえ、遅えよ! 罰として、彼から500円を没収し、強制的に同人誌を買わせる侑紀(仮)。鬼だ。さらにジュースも奢らせる。悪鬼だ。その尻馬に乗って、私もコーラを 奢ってもらった…こんなんばっか しかし、今回一番損したのは、よくわからない、ほぼ終 了直前のイベントに、700円の入場料を払って入り、意味不明な漫画と二人分のドリンク代金を出させられたこのクラスメイトくんかもしれない。 こうして、祭は終わった。 侑紀(仮)が失ったもの…参考のための最遊記単行本一巻を買うのに使った1000円、原稿用に買った用紙確か300円ぐらい、コピー代金2000円、参 加費用1000円くらい、私のために出してくれた入場料とか800円くらい… 侑紀(仮)が得たもの…同人誌三冊分の売り上げ、1500円。 これは敗北だろうか、否、彼は僅かな売り上げ以外にも何かを得たはずである、それはそう、プライスレスである。まあ、そんなプライスレスよりは目に見え る利益の方がずっと嬉しいけど。 数年が経った… 結局、侑紀(仮)がその後漫画を描くことは無かった。おそらく、いつも、今も、日本のどこかでこうしてガロ作家予備軍的な若者が筆を折っているのであろ う。主に、飽きたという理由で。 だが、私は信じている、いつの日か、私も実力をつけ、人様に売ることが許されるようなものを創作することが出来るようになったそのとき、隣には巨匠の面 持ちで、その男がいるということを… まあ、最後くらい綺麗に〆たいので大嘘でも格好良さげなことを言って みましたが 全然関係ないですけど、侑紀(仮)くん、確かおうちは今話題のAIGエジ○ン生命だったと思うんですけど、お体にお変わりはございませんか。何かあれば 掲示板かメールで御一報ください。 あと、同情して同人誌を買ってくれたお隣のサークルさん、ぶっちゃけ、どうでしたか?あれ。ちょっと、マジで気になるのでよろしければ教えてください。 いや、こんなとこ見てるとは思えないけど。つか、もう捨てちゃいましたか? ええと、なんていうか、完。 記憶のうやむやを勢いで片付けたから、なんか思い出したら手直しするかも。 〈モドル〉 |