第10話・「愛は流れる」
 


 さて、数年振りの更新である。
 この数年の間に、私も変わった。文体も変わった。
 しかしまあ、気にせずいきたい。
 




 2月25日、早朝。
 いつものように爽やかな朝を…と行きたい所だが、当時の私は土日は昼近くまで寝てやるぜ的な心境を有していたため、そうはいかない。おかげで私は仮面ラ イダーアギトをほとんど観ていない。そんなことは関係ない。
 
 目覚めた私が最初にその脳内を走る電磁パルスの雷雲たちの間に浮かべた光景、それは今日という日がどうなるかという想像図。
 
 …多分、暇で暇でしょうがねえんだろうなあ

 というわけで、私がやったことは唯一つ、バッグに暇潰し用アイテムをぶち込むこと。


 
 約束した地下鉄のホームでは、侑紀(仮)が既に待っていた。あからさまに遅えよ、と文句をいいいたげな顔だ。
 しかし、おそらくはその胸中たるや、期待、そして夢へのホップステップジャンプドルゥドロゥドロンチップシロップホイップに向かっていく果てしない希望 に満ち溢れていたに違いない。本当はどうか知らんが。

 地下鉄に乗り込み、街(札幌市民は市外中心地のことをこう呼ぶ)へと向かう。
 車中、バッグに詰め込んできた暇潰しのマンガなどを見せると、「おまえはこれから、何処に行くんだ、遊びでやってんじゃないんだよ」みたいなことを言わ れた気がする。おそらくは、彼からすれば私は戦場に遊び半分で向かう兵卒に見えたことであろう。なあに、この戦争はクリスマスまでには終わるさ、なんて第 一次大戦のイギリス兵のような態度の私が世界一のドイツ機甲軍団に蹂躙される姿が、彼の目には鮮やかに広がっていたことだろう。
 
 地下鉄を降り、ホームを駆け上がれば、そこは雪国であった。当然だ、2月の札幌はまだまだ雪が路上で幅を利かせまくっている。都会であっても、一車線が 雪専用にとられているなんてことがザラだ。当然、寒い。
 我々が降りた駅は札幌の中心にあたる札幌駅。このころはまだあったそごう(懐 かしい名前だ)から外へ出て、歩く。
 会場であるテイセンホールは、プロレスの地方興行などで有名なでっかいボーリング場みたいなところである。駅からは近いようで、歩くと結構遠い。嫌にな る。
 
 ホールに着くと、既に行列が出来上がっていた…なんのことはない、会場がいつまでたっても開かないため、サークルが入場できていないのだ。
 結構な人の波。なんとなく、「これ、今日来るお客さんよりも多いんじゃねえかなあ」とかやる気なく思う。

 さて、ここで困った事態。
 サークルの主である侑紀(仮)はともかく、サークルの売り子…いや、違うな。ええと、なんだろ…というぐらいの、要するにお荷物である私は、サークルチ ケットでは入場できないのである。
 というわけで、パンフレット(700円)と追加のイス(確か100円)を侑紀 (仮)に払ってもらう
 
 …最初からこの辺の代金は彼が支払うって決めてたからなんだけどさ、今にして思うと、彼も結構情熱を傾けてこのイベントに臨んでいたんだなあ、なんて、思ったり。

  会場には既にところせましと長机が並べられている。我々がやることはせいぜい、侑紀(仮)が普通にバッグに詰め込んで持ってきたコピー本20冊を並べ ることだけ。なんてこたない。
 と、なると、これから本格的な開場まで暇かなあ、とか思い、早速持ってきたマンガを読み始める私。

 持ってきたマンガは、宮下あきらの「天より高く」である。
 週刊プレイボーイで連載されていたこのマンガ、おそらくは宮下あきらの師匠にあたる本宮ひろしの「俺の空」あたりにリスペクトを掲げて始まったタイトル だと思われるのだが、内容は迷走に迷走を重ね、かっての「魁!男塾」のキャラがわんさか出てきた辺りでそのスタイルを確立し、結構いい感じになっていくの だが、宮下あきらが「古いキャラに助けられる作品なんて新作の価値がねえぜ」みたいに思ったのか、男塾キャラは出なくなり、更なる迷走に発展。
 とても大人向けの雑誌に連載する内容とは思えない幼稚なプロット(江戸時代にタイムスリップして悪い奴を倒すとか、原始時代にタイムスリップして悪い奴 を倒すとか…)を繰り返した挙句、連載中盤から完全に行方不明となっていた最大最強のライバルとの決着を2話で付けてさっさと終わるという、典型的なスカ タンであった。
 そのことに反省したのか、宮下あきらは現在、「人気のある旧キャラ(の息子やそっくりさん)がいつまでも同じ展開をやる話」を延々と続けることになる (…今のスーパージャンプの編集スタンスだと、これも打ち切られる可能性があるけどね)

 さて、宮下あきらへのリスペクトで意味も無く文章を伸ばしてみたが、皆様ご機嫌いかがですか。いいわけないと思いますが、まあ、いいわけないことばっか り起きるのが人生というものです。

 そんな既に心は男塾2号生ぐらいに達している私に侑紀(仮)さんお冠。曰く「おめえがそんなやる気ない態度を見せていたら客だってこっちに興味を持たね えだろうが」的なやつ。
 まあ、正論なので言われたとおりにじっと腰を落ち着かせ、開場を待つ。

 と、

 じっと忍耐の人になっている私の耳に、隣席よりの声が届く。
 「こんにちは、今日はお互いがんばりましょうね」みたいなことを言ってくれたのは、隣のサークルさん(女性二人連れ)。ちょっと腫れ物に触るような、と いうか、面白半分な態度で話しかけてきてくれたのは、やはり、我々が変だったからであろう。
 おまけに、ブルボンプチシリーズのチョコチップクッキーかなんかをくれた。それを、侑 紀(仮)の分も食う私
 

 

 いよいよ開場。

 大体10時くらいだったか、開場と同時にお客さんの姿が見え始める。別に見ものとなる売れっ子がいるわけでも、限定何部というような超レアな限定品があ るわけでも、著名なゲストが来ている訳でもないので、なだれ込むような数ではない。
 まあ、アットホームな感じで、かといって知り合いしかいないようなイベントってわけでもない、この手のイベントとしてはこうした姿は結構あらまほしきも のかもしれない。
 
 しかし、そんな感想は我々には関係ない。
 この状況、どう見ても我々にとってはアットホームじゃない。アウェイだ。
 周りは思っていたよりも女性向け一色ッて感じでこそ無いが、やはり、浮いている。



 だって、置いてある本があれだし…



 周りの方々が売っておられるものは、しゃんと製本された本ばかり。コピー誌やただの手作り便箋(しかしこれ、昔から思ってたけど、買ってどうすr)です ら、何処か、「素人」から一歩踏み出した、「姿勢」のようなものが感じられる。
 だのに我々の机に置かれているのは、無造作にホッチキスでまとめあげられたコピー用紙の束だ。おまけに、変な絵が描いてあるからもはやコピーに使用する こともままならない。ゴアに見せたら怒られること間違いない逸品。助けてマグマ大使。

 当然、素通りの嵐。

 まあ、しゃあねえわなあ、なんて思いながら、再びマンガに目をやる私を、侑紀(仮)が制する。
 曰く「もっと売り込みの工夫をしろ」的な奴。

 
 仕方ない。ここはこのワシが一肌脱ぐしかあるまい。
 と張り切った所でどうしようもない。まさか大声で呼び込みするわけにもいかんし。
 しゃあないので、とりあえず、余っていた原稿用紙に落書きをはじめる。いわゆるスケブ作戦というやつだ。しかも、完璧にこっちから不特定多数に対する押 し込み的な。
 とりあえず、ザクを描いてみる。他に描けるものもなかったし。侑紀(仮)もおそらく、「こいつ、しゃあねえなあ」とか思っているのだろう、「それもそれ でなんか需要あるんじゃない」みたいな変なフォローみたいなのが入る。泣きたい。
 もうなんか、落書きが楽しくなってきたので、二人で机の上に色々な落書きを描いては並べていく。
 私はザクのほか、某教団の教祖の絵とかを本当に何の脈絡もなく描いたりした。侑紀(仮)も丹たようなもので、うろ覚えな感じの漂う三蔵(描くたびに、本 家から遠ざかっていく不思議)を描いたりしていた。
 
 それでも、鳴り止まぬ素通りの雨。まるで私たち異邦人。
 なんかもうなんかもう、ヤケ。
 私は侑紀(仮)の持ってきたマジックペンで机の周りに並べた落書きにデカデカと 「100円」とか書き始める始末。ひどい、ひどすぎる。コミックライブの長い(のか知らんが)歴史の中で、その場でいい加減に書きなぐった 落書きに値段をのっけたサークルがかってあっただろうか?いや、知らないけどさ。
 とりあえず、最後に残った侑紀(仮)作のクリリンの絵に「2万円」と いうスバラシー文言をのっけて、「これで誰か、すっげえバカだけどすっげえ金持ちでしかも若かりし頃のダリのごとく無駄に金を使ってみたいという変な奴が 通りすがってくれたら大金星だな」などと、おめえらこそがすっげえバカだよ、としか言いようの無い行動を繰り返す私たち。青春真っ盛りだったはず。

 最後には、パンフレット(定価700円)に堂々と「パンフレット 800円」と書く。ひどい、ひどすぎる。コミックライブの長(以下略)

   パンフレットた ん。書き文字はそういうわけだったのですね。

 と、暴虐の限りを尽くす我々。

 …今気付いたんだけど、これって、むしろ近寄りがたいんじゃなかった のかなあ、なんて。
 
 しかし、神は奇跡を与えたもうた。
 なんと、一人の少女が見本(つうか、無造作に20冊がばらっと置かれているので、すべてが見本みたいなもんですが)を手にしたのだ!

 おおおおおお!高まるボルテージ!

 果たして、そのリアクションは・・・・・・!?


 
 ノーリアクションでした。
 やっぱ、いきなり見せられると困るみたい、あれ。



 著者である侑紀(仮)は、既にタバコでも吹かしたい気分のように見えた。気だるい。ひたすら気だるい。
 こんな気だるい気分のまま終わるのもなんだけど、次回感動の最終回。12話で終わった方がキリが良いのに11話で終わるのはもう書くことが無いから。あ あ、気だるい。
 

 
 



             〈モドル〉    〈続 く〉