お薬その3・スキンシップと会話



うつ病理解の重要キーワードで、「うつ病さんは愛に飢えています」とお話しました。
実際私も気が狂いそうなうつの苦しみの中で、それでもひたすらに求めていたのは、愛でした。
うつ病の私は、私のことが世界で一番大嫌いでした。だけれど、うつ病じゃない私が、それでも生きたいと願っていた。だから、人に愛してもらえさえすれば、私は生きていてもいいのかな、と少し思えたように思います。
うつ病さんに対して、貴方がプレゼントできる、うつ病特効薬その3。
愛情表現手段としての、スキンシップと会話です。

うつ病さんは、うつ病のせいで考える力が落ちています。それは、当時私も経験したので、よくわかります。
酷い落ち込みに入ってしまうと、頭が朦朧として考えがまとまらないけれど、とにかく苦しい。その苦しさから逃れるために一生懸命出口を探して思考をこらしてみても、全く答えは見当たらない。
その頭がぼーっとしている状態というのは、高熱でうなされている時の朦朧感ととても似ています。
そんな時には、言葉だけでは気持ちってなかなか伝わってこないんです。
うつ病が邪魔をしていて。

そういう時にはどんどん患者さんに触れて下さい。スキンシップをしていくことによって、じかに愛情を伝えて下さい。
私の彼氏はとにかく少しでも私が具合が悪くなってきたら、背中をさすってくれました。頭を撫でてくれたり、ぎゅーしてくれたり。そういう風にしてもらえると、少しずつ具合が良くなってきます。
人肌には、人の心を落ち着ける効果があるように思います。
ある時大学のゼミで具合が悪くなって、逃げるようにして1人階段に座り込んでいた時がありました。その時私がゼミの輪の中にいないのに気付いた友達が、私の側に来てくれ、何も言わずにずっと背中をさすっていてくれたことがありました。
私もその時は、言葉が出ないほど落ちていたので、そうやってそっと側にいて、何も聞かずに背中をずっとさすってくれたのが、本当に本当に嬉しかったです。
実際彼女は何も言ってないし、私も何も言えなかった。だけれど、その行動だけで、私は彼女に必要とされているんだ、愛されているんだって伝わってきました。

日本では余りベタベタする習慣がないので、私の親などは大分最初は抵抗があったみたいです。
でも抵抗があろうが、恥ずかしくてテレてしまいそうであっても、貴方の大事なうつ病さんが、貴方の手で少しでも具合が良くなるなら、これほどいいことはないと思うんです。
スキンシップはとても大事です。どんどんうつ病さんに触れて下さい。

そしてもうひとつ大事なこと。それはお話を聞いてあげることです。
健康な人であってもわかるでしょう。何かに悩んでいたり、行き詰ったりした時に、友達にお話をして気持ちが整理されること
うつ病さんは確かに、病気のせいでずっとずっと悩み続けて、苦しみ続けています。何度も同じことを…と思う時もあるでしょう
だけれど、それでも聞いてあげて欲しいと思います。
それも、スキンシップと同じ位、愛情が伝わる方法です。貴方が大事だから、貴方の話を聞きたいんだよって姿勢は、病気が邪魔をして考えがうまくまとまらない状態であっても、うつ病さんに伝わります。
私もうつ病時代は、そうやって人にたくさん話を聞いてもらいました。
自分の頭の中で木霊する、自己否定の考え方を、否定して欲しかった。
そして、こんな弱くて情けない自分を、受け入れて欲しかった。

ただ話を聞いてあげる、それだけで、本当に本当に心がラクになります。それはうつ病さんだって健康な人だって、同じだと思います。
話を聞いてあげて下さい。わからないことは、キツい言い方にならないように気をつけながらも、どんどん聞いて下さい。
そうやってコミュニケーションしていくことで、貴方もうつ病をより肌で理解できるようになるだろうし、更にうつ病さんにとっても心温まるひと時になるでしょう。

母が先日の座談会で私に初めて教えてくれた、うつ病さんに対する上手な話の聞き方をご紹介したいと思います
まず、とにかく頷き続けることだそうです。「そうだね」「そうだね」「それは辛いね」というように、同調することを心がける。
グチや悲しみの気持ちを吐き出すことだったら、それだけで十分です。
更に「〜しなければならない」という病気の脳からの厳しい意見については、「それは辛いよ。そんなことないよ」とか「それをしなくても大丈夫だよ」と、柔らかに否定してあげることも、大切です。
うつ病さんは、そのうつ病の脳からの厳しい批判にさらされています。自分はそう思えなくても、その人が「それは頑張りすぎだよ」とか、優しくそのうつ病の脳の自己批判を否定してくれることも、とても心がラクになりました。
しかし、うつ病さんが話す話の中には「学校に行きたい」「アルバイトをしたい」という、今のうつ病さんにとって、健康を取り戻すためには現段階では無理しすぎてしまうような提案だったりすることもあります。
私の母は、そういう風に無理をしたいという私の提案に対しては、とりあえず最初は「そうだね」「そうだね」と同調する。そして私が一通り自分の意見を言った後に、「確かに綾の意見はいいと思うんだけれど、でもこういうこともあるかもしれないよ?」と優しく意見を言ってみる。
そうやって私の母は、病気の私とコミュニケーションをとっていたそうです。
言われてみれば、そうだったかも。と、私は思いました。
母が言うには「綾が病気になった最初の頃、お母さんはいつも私の意見を否定する!否定ばっかりだ!と詰られた。そこで、まず最初に受け入れるということをしようと思った。綾が教えてくれたんだよ」って言ってました。
私の親友きなこも「綾ちゃんがこんなことがあってこういう風に思ってイヤだったとか、そういう風に自分の気持ちを私に話してくれた。だから私は、今綾ちゃんはうつ病だからこういうことがイヤなんだ。じゃあ私はそうしないようにしようって学んだ」と言っていました。
コミュニケーションのとり方は人それぞれな面もあります。
どうやってコミュニケーションをとったらいいのか?それは貴方が大事にしているうつ病さんに教えてもらう。そういう姿勢が大事なのかもしれません。
そのためにも、やはり話を聞くということが大事なのだと思います。

私が講演や本で、「病院の先生にもお世話になったし、私自身も治ることを諦めなかった。だけれども、周囲の支えが一番の力になった」と口にする理由は、ここにあります。
そうやって長い時間、貴方と過ごすことで、人の肌に触れ、暖かい会話を通じて、私は「ちゃんと自分は愛されているんだ」ということを身をもって知りました。
うつ病の時には、うつ病が邪魔をしてわからなかったけれど、治った後、闘病時代の友達・家族・恋人がしてくれたことを思い出しては、何度感謝の涙を流したでしょう。…こうやって書くと小説っぽいけれど、ホントなんです。実話です。
寝る前に突然、当時の情景が頭の中で蘇って、涙が止まらなくなったことがありました。
今でも、闘病時代の日記を読み直して涙が出ます。
勿論、辛かった当時のことを思い出しての涙でもある。けれど、その半分以上は、周りへの感謝の涙です。
周りの理解と、暖かい支援があったからこそ、比較的重症の部類だった私だけれど、たった3年で克服できたんだろうなと思います。
ストレスが原因でかかる病気だからこそ、逆にプラス思考してしまえば、ストレスを感じない&ストレスを和らげる環境にあれば、治りも早いのでしょうね



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