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 「先輩、もっと脚開いてよ」
 軋むスプリング。皺ばかりが増えていくシーツ。そしてそのシーツをきつく握る十本の指。
 ブン太の背中からどしりとおいかぶさって赤也が目にしたり耳に聞くのはその三点のみ。
 それ以外は視界にも入らないし、まず耳に拾っている余裕なんてものもない。
 つまりは今赤也はブン太へばかり意識が向かっている状態真っ最中と言うわけだ。
 「ほら早く先輩」
 「っ……無理だっつのっ……」
 返って来た答えは本気で苦しそうだった。
 だがそうなってしまうのも無理はない。
 なにせ両の手首を合わせる形でネクタイで縛られて四つん這いにさせられているのだ。それだけでも
屈辱だろうに、拘束した上でなおかつ頭を下げて尻を上げたら大きく脚を開けと命ぜられたのだから彼
は怒り、恥じらい、そして焦熱に包まれているはず。
 そこまでわかっていながら、それでも赤也はあえて言ってやった。
 「ウソツキ。無理ってこたぁないっしょ。あんたの脚はもっと開くはずっすよ。ほら、もったいぶっ
てねえで開けっての」
 「あぁっ……!」
 本当はもっとひどいくらいに苛めたい。
 なぜか今日は赤也の中でも強くそういう心理が働くのだ。
 いつもだったらここまで無理強いはしない。今日は特別だ。痛めつけてやりたいと思う残虐な心が最
初から頭をもたげていたからつい、無理な注文をつけてしまったのだ。
 第一、なにも彼に脚を開かせなくともいざとなれば赤也が手を出して広げてやれば済む話だ。それを
しないで自分で開けと強いるのだから、今日は相当キテいると、かなり逆上せていることが自分でもわ
かる。
 「あかっ……や……!」
 シーツに直に頭をこすりつけるからか、何かが布に擦られているような音がしゅっしゅっ、しゅっし
ゅっと立つ。
 きっともう泣きそうな顔をしているに違いがない。強気な眼差しを向けるその目も今ばかりは潤み睫
毛も震えているだろう。せっかくのいい表情だろうに生憎とこの体勢からでは確認が取れないので残念
だ。しかしそうやってその場面を目にすることが出来ないからか、音が立つ度にそこに意識が向かい、
同時に視線までもがそっちを見ようとして視界が一箇所に保てなくなった。
 「……先輩、ちょっとこっち向いてくださいよ」
 頭をこすりつけているブン太の顎の下に差し込んだ手で、いささか強引だが顔を上げさせてそのまま
で居てと伝える。
 苦しいからイヤだとブン太は当然断るが、赤也も耳を貸さずその体勢を崩すのを許さなかった。
 その苦しそうな表情がまたそそるのだ。
 俯きかける仕種とその時の首のラインがまたなんとも言えないほど色っぽい。
 楽しいこともあった。零れて来る声が濡れた唇から落ちてくる様も見られるのだ。
 赤也にとってはいいことづくめの体勢だ。
 「んっ……」
 内太腿にあてがった手の下の筋肉が、撫でる先々で震え、手が滑るたびに腰も、焦れったそうに揺れ
ていた。
 まさぐる手の動きによってはちょうど真下にくることもあったのだろう、腕になにかが落ちてくるこ
とが二度か三度あった。
 わざわざ確認するまでもないだろう。ブン太の先端からしたったものだ。
 腰の揺れだって恐らくは、愛撫に感じたのではなくて触ってもらえなくて焦れたからなのだ。
 いっそ口で頼めばいいものを彼にはそれが出来ないらしい。
 辛いくせに頑張って意地を張っているのだ。
 楽になれる道や自分の思い通りに動かせる手段だとかをちゃんと知っているくせに彼は強情を張りプ
ライドを絶対に捨てないのだ。
 プライドと言ったって命に関わるほどの大事な場面でもないのになにをそこまで意地を張るのかとこ
れまでにも何度か赤也は呆れたが、彼は泣きそうな顔を歪めてでも責め苦に耐え、言葉を飲み込んでし
まうのだ。
 年下で、同性に抱かれて間断なく喘ぐくせに、一時と言えど乞うのは嫌だと言う。
 随分と偏った頑ななスタイルだと赤也も思うのだが、耐える姿も悪くないので結局は好きにさせてい
る。
 「っ……あ……」
 それに言いつけは守っているので、色々とさせたいことがあればこちらが命じてやれば済む話だろう。
 だから赤也はこの辺でまた一つ命じることにした。
 「先輩、そろそろ自分でしてみてくださいよ」
 「なっ……」
 案の定、出来ないと首が振られる。
 だけどまだ一回しか命じてはいない。
 こちらも折れないぞと言う態度を崩さなければブン太は仕方なく命じられたことをするだろう。
 赤也が強気になれる理由がもう一つある。
 乞うのは嫌だと頑なになる彼だが、こちらが強いるコトには従順なのだ。
 普段はなかなかそうはいかないが、抱き合っている最中の彼は驚くほどに素直で、赤也の命をよく聞
くのである。
 確かに、言われて即言うことをきくわけではないが、そういう手強さがあるから攻め甲斐もあって楽
しいと思えるのだ。まったくの言いなりになる彼なんて彼らしくもないし、面白くもない。手強さを見
せ、そして渋々と仕方なく言いなりになっていく彼のそのときのあの複雑そうな思いを浮かべる顔を眺
めるのがまた楽しいのだ。
 「言っとくけどオレはまだしてあげないからね。だから自分でしない限りこれ、そのままだよ。先輩
が頑張れるって言うんなら別にかまわないけどさ」
 「っ……」
 タイを解いてやったのに赤也に向けられたそれは、意地悪、まるでそう言いたげな目だ。赤也が笑っ
て胸の突起を弄るとそれは今度は泣きそうに細まった。
 殺そうとしているのだろけうけども、だけど赤也は噛んだ白い歯の隙間からくぐもった嗚咽ようなも
のを零して首を垂らすブン太の胸の飾りをしつこく弄ってやった。その努力を泡にさせるべく、引っ掻
いたり突付いたりして、誘うのだ、吐息を。
 確かに苦悶に歪む顔を見るのは好きだが、声を我慢するのはよくないと思うのだ。
 いい声なのにそれを殺してしまうなんて、そんなことされたら面白みがなくなってしまう。
 躯はもう快楽に素直に溺れてきているのだ。もういっそ心も枷を外して喘ぐだけ喘いでしまえばいい
のである。
 どうせひと時の戯れだ。
 楽しみは多くあった方が攻める側に立つ赤也だって色々と発散出来るし、それになにより満足感とい
うものを得られるのだ。
 「もう一度聞くね。どうする? このまま頑張るるんすか? それとも自分でしてくれるんすか? 
どっちを選びます? 先輩」
 「っ……ぁ……」
 「聞こえないっすよ? 選ばしてあげるって言ってるんすよ。人の好意は素直に受け取っとく方がい
いと思うんすけどね。どうするんすか?」
 「……っ……」
 ほんとにもうどこまで強情なのだろう。
 意地も張るのもいいけどこっちだって我慢には限界があるのだ。
 耐える姿もそそるが、それには同時に煽られているわけでもあり、見せ付けられればられるだけこち
らの忍耐もきかなくなってこようとしている。
 触れるだけの愛撫はもう充分なはず。そろそろ次の刺激を求めて新しい愛撫を始めてもいい頃なはず
だ。
 「……先輩っ……」
 否。新しい刺激を欲っしているのは自分の方だ。
 セーブしたままの愛撫は赤也にとっても辛いだけ。もどかしくて堪らないのだ。
 下腹部に溜まった熱は今にも解放されたくてどくんとどくんと脈打つのも速くなり、硬さもどうにか
して欲しくて疼きを覚え始めてきている。
 「……先輩、……自分でどうしても出来ないって言うんだったらオレのを触ってよ……つーかそれく
らいやってくんないと困るっすよ……」
 逆に赤也の方が乞うようにそれを口にすると、自分でするよりもそっちの方がなんぼかマシとでも思
っているのだろう、抵抗どころか躊躇いもなく下腹部へと手が伸び、そそり勃つ赤也のそれを彼は柔ら
かく手のひらで包み上へ下へと擦り始めた。
 「っ……ンッ……」
 それは、脳天から白い光が四方へと飛び散っていくような感覚を伴っていた。
 思考が停止する瞬間を見てしまったようだとも言えるかもしれない。
 ぎこちないのは、恐らく体勢に問題があるからだろう。その証拠に指の動きは巧みで、つかえること
もなく色々と細工をしようと動く指の動きは堪らないほどに忙しいものだ。
 亀頭を突付いたり。指の腹で弾いたり。
 「アッ……っ……」
 覆い被さった自分が喘いでどうするんだと、頭の片隅で警鐘も鳴るが躯と思考は別物だと思い知らせ
るだけで口から零れてくる吐息はますますと熱を帯びてきてしまう。
 「ッふ……ンっ……」
 その喘いだ自分の余裕のない声に赤也は慌てた。
 手でさせたのは間違いだったかもしれない。
 どうやら、焦らされて崖っぷちに立たされていたのは自分の方であったらしい。手でされたくらいで
いつもだったらこんなに早く昂ったりはしないのに、今日はそんな暢気なことも言ってはいられない状
況にきてしまっている。
 ああ……。
 だけどヤメロと、いまさら言える状況にはなく。

 ああ……! だけどだけどだけど! くそったれめ……!
 意地と欲望とがせめぎあう最中、赤也はすりりと、目の前で波打つ背中に頬を寄せた。
 そして腹の中で叫ぶのだった。


 やべえ!

 くそっ!

 もぅ……!イくっ……ッ! 

 

 

 


END
(04.10.21)


 

エッチな赤ブンづくしに憧れて、とうとう自分で挑戦してしまいました…。

キスは標準装備。とりあえずエッチっぽくを目指して頑張ってみようと思います。

その一作目がこれ。

早漏…とかでなくて、たんにアクセル踏んで突っ込む赤やんが書きたくなったのでした。

や、赤ブンはこれ、当たり前かなと思う…。

なんだかんだいっても…コントロール仕切れなくて先にイっちゃう赤也…可愛いと思う…。はは、一回イっときゃあとはしばらくもつかなぁー…みたいな?

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