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 校舎とは別に建つ教科棟の書道室から日吉はその光景を盗み見ていた。
 わざわざこんな外れた物陰に呼び出してまで果たしたい用とは一体なんなのか。
 小柄な身体が、顔を俯けると更に小柄に見えるものらしい。
 女が、なにかを口にしたらしい。
 鳳が首の後ろに手を当てたまま、ちょうど目線がそこに行ってしまうんだろう、見たいわけでもないんだろうけど後頭部に視線を当てたまま黙り込んでいる。
 なるほど。あれは告られたな。
 けど――。
 女ってのは律儀だねえ。泣きそうな顔をしてまで自分を振った男に頭を下げるなんてね。
 くるりと――。
 踵を返した女が走って去っていくのを見送って、日吉も身体を反転させて窓枠に背を預けた。
 一分もしないうちに、書道室の入口が開けられるだろう。

 

 

 

 「おかえり。あれは今頃大泣きしてるかもな」
 「なんだ。見てたの」
 「お前らが居た場所、丸見えなんだよ」
 こっからだと――。
 窓枠の外に手を出して日吉がその手をひらひらと振って見せる。
 昼休み。昼食を学食で済ませたあと、残りの時間を潰す為に、鳳と日吉は近づく生徒が少ない教科棟へと向かった。途中、体育館へと続く渡り廊下に出たところで呼び止められて、鳳だけが呼び出しを受けたのだ。人気のない場所での待ち伏せにも近い現れ方をした女に、鳳も日吉もそれなりにピンとくるものがあった。だがまさか話も聞かないうちから断るわけにもいかなくて、鳳は承諾し日吉も鳳の顔を立てて先に一人で書道室へと向かったのだった。
 「見られて困るようなものならもっと外れたとこを選ぶべきだな」
 日吉にしたら、正直面白くない。
 どこの世に――自分と付き合っている相手が告白されているのを見て快く思う人間がいると言うのか。度々あることとは言え、慣れるものでもない。人気があると言う現実には確かに慣れたが、感情まではまだ殺せない。噂として入ってくるだけでも、こうして不愉快で腹立たしくなるのだ。目の当たりにしてしまった今回などは、はらわたが煮えくり返っている。追い掛けて罵声の一つでも浴びせてやりたいくらいだ。
 「そんなこと言って実際に見えないとこで俺があの子と二人で居たら隠れてなにをしてたんだって、日吉騒ぐじゃん」
 当たり前じゃないか。
 からかうような笑みを見せる鳳に、日吉はバカにしたような態度を取って鼻を鳴らすと、くだらないこと言ってんじゃないよと、言うような足取りでもって近くの席に腰を落ち着けた。
 日吉にもプライドはある。あらいざらいバカ正直にぶちまける気は、小石の欠片ほどだってありはしない。吐けば鳳が図に乗るだけである。
 「で、時間がもうほとんどないんだけど、どうするんだ? 日を改めるのか、授業に遅れるのを覚悟してヤるのか。どっちを選ぶんだ?」
 「そんなの決まってるよ」
 躊躇うことなく鳳が動いた。
 室内にある全てのカーテンを閉めに回り、用心の為前後とも、入口にカギを掛け、準備が整ったのを見届けて日吉は鳳を呼んだ。
 「済んだなら、来いよ」
 室内に差し込む午後の陽光は、鳳の背にある陽に焼けたアイボリーのカーテンが優しく抱きとめている。室内を染めるその穏やかな色合いは、落ち着きを生むだけでなくどうやら和ませてもくれるらしい。
 「日吉」
 机を挟んで前に立つ鳳に、日吉は首の角度をもう少し上に上げた。
 落ちてきたものは唇。
 降り注がれるのは、啄ばむような探ってくるようなキス。
 「ん……おお、とり……」
 日差しの和らいだ床に二人の身体が転がったのは、それからすぐのこと。

 

 

 


END
(03.02.16)


 

鳳若! 鳳若! 

同学年ですよ。先輩を相手にしてんのと違ってお二方めっさガキです。我侭です。鳳も意地悪です。若も意固地です。可愛いです。ほほえましいです。

マイナーですか? でも好きなの大好きなの。

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