窓という窓を閉めきったせいか、部屋の中を流れる空気は、鮮度が失われどことなく湿ってるような気がした。 できるなら躯にのっかる重石を振り落として、すぐにでも空気の入れ替えを行いたいくらいだ。 だけど――隙間もないほどぴたり抱き合っているせいもあるが、今の日吉にはもう、指一本ですら自力で動かすだけの気力が、ない。 執拗だった鳳に、体力という体力の全てを吸い取られてしまった。 何度となくイかされ――何度イッたかなんてはっきり数えてたわけではないが、確か口で二回、指で一回、突っ込まれながら扱かれたもので二回、……あと、もっとイッた気もするが記憶の方があやふやで自分でわかっているのはそこまで。それでも四回は確実にイかされてて腰はだるいし汚れ方も酷いし喉だって唾液を飲み込むたびに痛くて不快でしょうがない。 「だるいのがこんなに不快に感じたのは初めてだ……すっげぇ……最低な気分……」 「あはは。『そこじゃない』とか『もっと奥がいい』とか日吉にしては珍しくいっぱいリクエスト出してたもんね。さすがに俺も途中、腰にガタがきたもん。なのにスローになった途端、日吉ったら『やめるな』だもんな」 「黙れ……」 「やっぱ10日もあいたから、日吉も溜まってたんだろ」 「10日や二週間しなかったぐらいでそんなすぐ溜まるかよ」 「日吉ってホント淡白だよね。俺なんて3日日吉に触らなかったら日吉不足でイライラしてくるのに。日吉は絶対許さないだろうけど俺的にはさ、キスなら四六時中、エッチもやりたい時にやる、っていうスタイルが理想なんだよね」 「俺を殺す気かよ……想像しただけでも怖気が走る……」 「怖気ってね……あーあもう……日吉ってホントに俺のこと愛してくれてんの? なんか疑いたくなってくるよそんなセリフ吐かれちゃうとさ……」 「バカトリ」 「ひでぇーな……。なんでそこで傷ついた心に塩を塗り込めるかな……」 「バカだからバカと言ったまでだ。こういう関係を続けている俺の気持ちも推察出来ないと言うなら俺はお前を愚か者とみなしてこれを最後にもう二度とお前とは寝ない」 「怒るなよ。ごめん。本気で疑ってなんかないから。ごめん……」 「二度と俺を疑うな。不愉快だ」 「うん……ごめん……」 「悪いと思うなら態度で示せ」 「態度? あ、じゃあもう一回頑張ってみようか?」 「ばか……! やたらに触るな!」 「い、痛いよ日吉……! 今のもろ脇に入ったぞ……。もう……軽い冗談なのに……」 「お前の場合冗談で済まないだろ……! なんか当たるぞ……!」 「……や、まぁ、俺も若いからさ、回復は早いわけでさ……はは。……えっと、じゃあ何すればいいのかな? して欲しいことあるんだったら日吉の口から言ってよ」 「……喉が渇いた……なんでもいいから口に入れたい」 「そう言えば日吉の声、少し掠れてるね。痛い? あったかいのにしようか?」 「いや、冷たいのでいいよ」 「ん。じゃあ下行って取ってくるよ。待ってて」 終えたと言うのにいつまでも躯の上に乗っ掛かったまま、やたらに髪を梳いて遊んでいた鳳がようやく上から退くと、それまで重石が乗っけられていたみたいに重苦しかった胸が、すうっと軽くなり、これ幸いとばかりに日吉は寝返りを打って、うつ伏せたままの状態で、肩を何度か上下させて溜まっていた凝りをほぐした。 「……うわっ……」 じわりと、浸透してくるような漏れ方をしたそこに、瞬時に日吉の眉がひそまる。 凝りもほぐしたいが、動くと零れてくるから困る。あとに、ぬらぬらとした感触しか残らないから、それが不快で気にもなるしでもっともっと困るのだ。 「日吉。……あれ? どうしたの? なに固まってんの?」 「……べつに……。それよりその手に持ってるそれは何?」 「え? ああ、ポカリ。冷えてるよ。はい」 プルが引かれたそれを受け取ると、からからに喉が渇いていた日吉は、一気にそれを飲み干した。 「あれ? お前のは?」 「ん、下でもう飲んできた」 鳳の答えを待たずに、空になった缶をベッドヘッドの上に置いて、これで生き返ったとばかりに、日吉は大きく伸びをした。 腰の辺りにはまだ疼くようなだるさも残ってはいるが、痛みらしいものはほとんどない。 これなら明日まで残ることはないだろう――そう安堵して、日吉は足元にまで蹴っていた掛け布団をそろそろと引き上げてくる。 「あれ? 日吉、もう寝ちゃうの?」 「何言ってるんだよ。『もう』じゃないよ。時計見てみろよ。もう二時になるぞ。週末の夜ってわけじゃないんだ、明日は普通に学校もあるんだぞ。お前も遅くまで起きてないで早くに寝ろよ」 掛け布団を、口元を隠すとこまで引っ張り上げて、中で日吉は丸まった。 躯の右側を下にして寝るのが、日吉にしたら一番落ち着くのだ。 「鳳、灯り、消してよ」 頼み終えた直後にはもう、立ち上がる気配がしていた。頭上のトップライトだけを残して灯りが落ちると、日吉は隠していた顔の下の部分も出して、顎の下に、布団を入れて目を瞑った。 「……おい」 「ん?」 「なにくっついてきてんだよ」 「えー、なんとなく」 「うぜえよ。お前のこのベッド大きいサイズで作ってあるんだろ、くっついて寝なくたって寝れるんだから離れろよ」 ごそごそ潜り込んできたと思ったらぴっとりとくっついて背後で眠ろうとした鳳を、日吉は邪魔だと思い既にもう何度か足首やら膝やら脛やらを足蹴にしていた。なのにしつこく張り付いたまま離れようとしなくて。 「おい、鳳」 「いいじゃんこれくらい」 「よくねえよ。うざいっての。背中に人をしょって寝るなんて気になって出来ねえよ」 「気にしなきゃいいじゃん」 「だから! 気になって寝れないって言ってるだろ」 「日吉、我侭」 「我侭なのはどっ……おいっ……!」 「なに?」 「すっとぼけてんなよ……! ちょっ……! っよせっ、……てっ……! 触っ……!」 張り付いていただけの体勢からいきなり抱きついてきた腕は、抗う間もなくあれよというまに手が前までまわってきて、うしろから羽交い絞めにするような格好になったかと思ったらもうすぐに触れてきた。 「……お、とりっ……よ、せっ……!」 もともと何も身に着けていないのだ。防御する手立てなどあるはずもなく。どんなに跳ね除けてもすぐに戻ってきてしまい、最後の抗いとなった手首を跳ね除けた直後にはもう手首を掴まれていて、鳳のくそばか力に負けて自分の手のひらで自分のそれを扱く羽目になった。 「……お、とり、も、よせっ……なんで、なんで……」 「だって日吉の躯、跡がいっぱいついてるんだもんよ。それ見てたらさ、なんとなく……。わかるだろ……?」 「……ふざ、けんなっ……ん、……ちょっ、……やめっ……」 「もう一回だけ、ね?」 「……ん、……っあぁ……」 「ほら、……日吉の、おっきくなってきたし……わかるだろ?」 「あっ……や、……だっ……」 何度も、イかされたあとだと言うのに驚いたことにそれはまた勃起してきて、鳳によって導かれて辿り着いたその先で、日吉の指を濡らした。 浅ましいと、羞恥に躯を震わせても、嘲笑うかのように躯は熱みを帯び、『いやだ、やめろ、手をはなせ』と言葉で抗う日吉の手のひらの下では、『こんなにさせて、何を言ってるんだ』とこれまた嘲笑うかのごとく、すっかりと硬くなってしまったそれがびくびくと弾けている。 「……ねえ日吉、一回だけだから。ね、しよ……?」 「ん、……っああ、あ、……はっ、……な、せ……!」 「イヤだったら日吉が振り払いな」 「ん、……んんっ……や、だ、……はな……っ、はな、せ、……お、とりっ……」 「ダメ。だって日吉もう少しでイきそうでしょ? イかせたげるよ。……すごいね……俺と日吉の指、べたべたになってる。わかる……? 俺もはやく日吉ん中でイきたい……」 「あ、ああ……! ああっ、……!」 肉壁を押し広げて擦るあの猛った肉の塊がぶち込まれる瞬間を想像して、咄嗟に掴んだシーツを握り締めて日吉は震えた。 「あーあ。これって間に合ったって言えるのかなぁ……。指の間から結構垂れてきてんだけど、このままってわけにもいかないからとりあえず拭わせてな?」 「ちょっ、お前どこでっ……! あ、……ば、ばかやろっ……」 言われるまでもなく、零れてきていることなど自分の指は鳳の手のひらの下にあり、指摘を受けるまでもなくわかっている。 だけどシーツかなにかで拭くならともかく、茂みに擦り付けることはないと思う。 「あ。また勃ってきた」 「……ああっ、……や、やだっ、……触るっ、な……」 「……日吉、仰向けになって」 「え、……あっ! よせっ、お、とりっ……! お、とり、やっ、やだっ……」 脇の下から差し込まれた腕に胸部を押されてひっくり返されると、くびれたところまでを口の中に含まれて、舌先で先端を突付かれながら吸われた。 「……あ、ああっ、あ、あ、……お、……とりっ……」 もういいから。もういいから。もういいから。入れて。 「日吉、バックでヤらせて……」 「……いやだ……も、動きたくない……」 「日吉の背中を抱いてイきたい。ね……?」 瞼の上に唇を落としながら宥めてくる鳳の胸を押し返して、日吉は四つん這いのスタイルを取った。 胸をシーツにつけて、腰が上がるとつうっと、零れたものが内太腿を伝った。鳳の目にも映っただろう。 「ああっ……! お、とりっ……!」 前戯も合図もなく鳳は突っ込んできた。 「ほら、日吉。まだ潰れちゃダメだって」 ウエストの括れを撫でた手が腰を掴むと、日吉の躯が悲鳴を上げるのも構わずに、頭を擦り付けて啼く日吉をがくがくと揺さぶった。 「あ、ああっ、んん、ん、あ、ああっ、……」 「……日吉、……あついね、……」 「あ、ああ、あ、あ、ああっ……お、とり、……お、とりっ……」 溢れてくる蜜を軸に塗りたくられて、滑りのよくなったそれを擦られるたびにちゅくちゅくと淫靡な湿り音が立ち、日吉の意識を白く濁らせる。 「……あ……日吉、俺、も、……溶ける、かも……」 「あっ……あっ……っ……あ、……」 もうダメ。出る、出ちゃうよ……! も、ムリっ……! 「……ん、日吉、日吉……!」 「……っあ、お、とり……お、とり……!」 シーツを握って堪える日吉の手に鳳の手が重なって、『日吉、俺もうダメ』と零した鳳が日吉の固まった拳を強く握ると、日吉も涙を零して、躯の奥から湧いてくる熱を腹の底からちからを入れて放出させた。 「……俺、これ以上は絶対ムリ……」 「はは。多分俺もムリだと思う」 部屋の空気が一段と悪くなったように感じたが、もう動きたくない。ギブアップ宣言を出してシーツを手放すと、鳳も陽気な口調で唇を震わせて日吉の手を手放した。 火照る躯をくっつけ合った二人には、背中と腹で感じる温もりがそれぞれに心地良い。 「……なんかこのまま寝ちゃいそ……」 「……だな」 呟く鳳の下で、日吉は既にもう半分眠りに入っていた。
END (03.02.25)
中学生は底なし。 試したいことには貪欲。 つーかトリよ、オヤジ並みのお口だな。黙ってやれんのかと、そのうちぴよからハリセン喰らうぞ、おい。 ていうか、鳳若のエッチに萌えまくりな有島にハリセンだろ。 ところでトリよ、下に下りて行ったとき、まっぱかい? ご家族に遭遇しなかったかい? 水曜日くらいのエチで、鳳の部屋のでかいベッドの上が舞台。キミたち、大胆だね。 |