昼休み。図書室なんていう珍しい場所にあの人が居るのを発見して、クラスのヤツと別れて俺も中へと足を踏み入れる。 図書室なんてとこ何ヶ月ぶりに入ったはわかんねぇよ――なんて自分で感想を漏らしたそのとき、遠目からだったけどたしかにあの人がこっちを見たのに気付いた。 「ちっす」 そばまでやってきて一応後輩の務めを果たそうと軽く会釈すると、 「よお。珍しいトコで会っちまったな」 と、ニヤつきながら隣に座れと指し示されてしまう。 「いや、オレ次の時間移動なんすよ。早目に席ついてねえとうるせえセンセーでさ。そうそうゆっくりもしてられねんですわ」 「寂しいこと言うなよ。いいからほれ、座れって」 手を引っ張られてまでお願いされてしまっては仕方がない。チャイムが鳴る直前くらいにでも出ればなんとか間に合うかと計算して、言われた通りに従った。 「珍しいっすよね。こんなとこでなにしてたんすか」 「図書室に居んだから本を見てたに決まってんだろが」 「本? ああ、そういや手元になんかあるっすね。なに読んでたんすか」 「宮部みゆき」 「誰っすか、それ」 「オレもよく知らね」 「知らねえのに手に取ったんすか?」 「オレは知らねえけど、柳生が面白いからって薦めてもらった」 「柳生先輩に? なんでまた」 「総合の時間に一冊なんか読めって言われたんだけどよくわかんねえから聞いたんだよ。図書室で面白い本ってどれなのか教えろって」 「へえ。で、どうでした?」 「五ページまで読んだトコでやめたきり」 「マンガ雑誌でさえ好きなとこしか読まないあんたにしちゃ頑張った方っすよ。で、それってどういう話だったんすか」 「さあ? 読んでみたかったらお前が借りたら?」 「パス。文庫なくせして結構厚いっすよソレ。オレもきっとあんたと同じで五ページくらいで挫折するっすよ、きっと」 「読む前に断言すんなよ。ばぁーか」 「でも読書なんてもう何年もしてねぇっすよ。マンガ以外で読むっていったら教科書くらいなもんだし」 「とか言ってお前現国の時間はたいてい寝てるみたいなこと前に言ってたじゃねえか。その時間に寝てたら読めるような教科なんてねえじゃん」 「んなこたぁねえっすよ。日本史。あれ、読み応えあるっすよ。試験前にはテスト範囲になってるとこ一応暗記しますんで」 「へえ。エライじゃん」 「つーか、暗記さえしとけば点数取れる教科っすからね。ほかがダメなんでこれで稼いどかないとマジやば過ぎる総合点になっちまいますからね」 「そう言やお前、かっならずなにかしらの教科で補習受けてるよな」 「だから一教科くらい自慢できるもんねえとと思ってそれにちから入れてるんすよ」 「赤也のくせに色々と考えてるんだな。結構びっくりだぜ」 「ちょっと、オレのくせにってなんすか。それじゃまるでこれまでは俺が考えなしで生きてる評価されてたってことっすか」 「だってお前『考えるの苦手』ってよく言うじゃんか」 「あれは単に面倒なだけで考えなきゃいけねえ場面ではちゃんと考えてるっすよ」 「そうなん? それよりお前時間取れるか?」 「なんすかいきなり」 「まあ……ちょっとな」 「さっきも言ったけど移動しなきゃなんないで、そんなには取れないっすけどあと五分くらいだったらかまわないっすよ」 「そうか。じゃあちょっと移動しよう」 いったいどこへ案内してくれると言うのか。図書室を出たあと先輩は西棟へと向かい始めた。 たしか……こっちは授業で使われる教室ばかりが集まってていたはず。 「こんなとこにいったい何の用があるんすか?」 社会準備室なるものの前を通ったときに聞くと、ちょっとなと曖昧な返事が返って来るだけで要領を得ることは出来ない。そのうち先輩は上の階へ上がろうとするし。こりゃオレ次の時間マジでアウトかも。ちっと覚悟しとかなきゃダメかもしんない……。 「お。ラッキー。使用されてねえよ」 「なんすか、この部屋」 階段を上がりきって左手に折れ、渡り廊下を渡った突出した部分にその教室はあった。辺りはしーんとしていてオレたち以外の気配はまったく感じられない。渡って来る前の右手側にも人影は見られなかった。 どうやらマジでオレたちだけらしい。 「ここって、使われてるんすか?」 普通の教室のだいたい半分くらいの広さだろうか。前方には黒板もあり、時計も掛かっていて、これで教卓でもあればマジ普通の教室とかわらない。うしろにはプリントとか資料とか、職員室なんかにもある事務用のあのネズミ色のロッカーがずらりと並んでいる。いったいなにが入ってるんだろうか。 「お前、こっちの棟って来たことある?」 「や……二階まではあるっすけど……」 「あーお前って委員会とかに縁なさそうだもんな」 「委員会? 委員会ってクラスで選出されるあれのことっすか?」 「おう。この四階って委員会で使われる教室とか空いてる教室とかがまとまってんだよ。ちなみにここはPTAの役員さんとかが使うこと多いかな」 「ああ……。それで」 だからあんなにずらっとロッカーが並んでるわけだ。 「でもここになんの用事があるって言うんすか?」 「鈍いヤローだな。んなの決まってんだろい」 窓際に寄っていた先輩はカーテンをしゃっと引くと、来いと人差し指だけでニメートルほど離れていたオレを呼んだ。 薄いベージュのカーテンの向こうに光が集まっているせいだろうか、やけに先輩の姿が鮮明に映るのが気になって、ほら早く来いよと手招きされても、オレはそれには応じなかった。 なんて言えばいいのか、先輩の顔は見るからに楽しげで、しかもどこか餓えているみたいなのだ。 先輩がなにを望んでいるかはその顔ですぐにぴんときたが、乗り気になってるときの先輩って結構、しつこい。ここがどっちかの家だとか、部活が終わったあとだとかだったらまた話は別だが昼休みに頑張られるのはさすがにオレだって困ってしまう。好き勝手弄られて自分だけ都合良く悦くなられたんじゃあ大変だ。 はぁー、すっきりした。んだよお前まだイってなかったのかよ。とろいぞ。つーか、オレもう満足したからあとは自分で処理しろよな。……とかね、この人だったら言いかねない。 マジでテンポ合わなかったらそりゃあないよって話になっちまうのだ。こんな虚しい結果は声を大にしてノーサンキューだぜ。 「ほーら、どしたよ赤也」 「……あんた、マジっすか……?」 「マジもマジ。大真面目。んだよ、今日はやけにノリが悪ぃじゃん」 「……オレにだってそういうときくらいあるっすよ」 「ちっ。使えないヤツ。まあいいや。とにかくお前はここ来て座れ」 「いや、だから……」 「ごちゃごちゃ言ってねえで来いっての。座ってるだけでいいって言ってんだろ、ほら」 渋る態度に顔を膨らませた先輩は、自分の足元の床をどんと踏み鳴らして座れと示す。 やれやれだ……。渋々従い、足を伸ばした格好で落ち着くと先輩はすぐに膝の上に乗っかっり、軽く唇を早速合わせてきた。 「いやー、なんつーかさ、食欲が満たされてぼぉーとしてたらなんか急に抜きたくなっちまってさ」 「そういう時って普通の人は睡魔に襲われるもんなんすけどね」 「だよな。オレも普段はそうなんだけどさ」 「だったらなんで今日はそうじゃないんすか」 「ん? そりゃタイミング良く目の前にお前が居たからじゃん?」 「は?」 「お前と喋ってるうちにお前としたくなっちまったんだよ。つーか、抜きたくなった。お前が居たのが悪い。だから責任取れ。な?」 「……オレが、悪いんすか……?」 オレがなにかしらちょっかいかけてたんならまだしもただ喋ってただけでその気になったから責任取れって、そんなのオレには全然責任ないじゃんよ。 「あ、なにそのツラ。なんでむくれんだよ。そんなにオレとすんのイヤなのかよ」 「そうじゃねえっすよ。あんたとすんのがイヤなんじゃなくて、乗り気なあんたがイヤなんすよ」 「はは、大丈夫だって。安心しろ。お前のこともちゃーんと気持ちよくしてやっから。それなら文句ねえだろ? ん?」 「信じられないっすよ……」 啄ばむだけのキスを繰り返す先輩の、乗り上げた太腿に手を這わせて撫でながら不満を漏らすと、先輩の手がバックルに伸びてきて、ファスナーを引き下ろそうとする。 「タイミングがずれてもちゃんとオレのこともイかせてくださいよ? ブン太先輩?」 下着から引き出す先輩に言うと、『お前も合わせるように努力しろよ?』と、眼差しを細めた先輩の指が絡まった。いくら乗り気でないとは言え、悪戯をされれば勃ってしまうものである。 「……赤也、お前も触れよ……」 欲に濡れた眼差しで射抜く先輩の腰がゆるりと揺れ、すぐにオレもファスナーを下ろして手を忍ばせると、すでに昂っていたそれをまずは下着の上から揉んでやった。下着が濡れるのは早かった。 「ん……あ……赤……也……」 焦らされるのも好きでない先輩は、今にも泣きそうな顔に薄く朱を引いてじかに触れと言ってくる。 「じゃ、一回オレをイかせてくださいよ。やっぱあんたは信用出来ない。だから先にイかせて下さい。そしたら触ってあげます」 形を教えてやるようになぞると、縋るみたいにして抱きつき、根元を絞めると同時に先輩は喘ぐ声を高くした。 「……んっ……あぁ……あ……赤っ、……也っ……」 「じかに触んなくてもイけそうっすね、あんた」 濡れた布地の上からでも、先端を突付かれるのは結構感じるものらしい。首に回った腕を震わせながらぎゅっと抱きついて喘ぐ先輩の息は熱く、そのうちオレの首まで濡れてしまいそうだ。 「ほら、手、ちゃんと動かしてよ」 添えているだけだった手を突付いて促すと、ゆるゆると扱き始めるので、快感を追って目を閉じると、『……手で、いいのかよ……?』と、耳たぶに息を吹きかけるようにして囁かれた。 それを聞いてオレは閉じたばかりの目を開け、肩口に顔を埋めたままの先輩の襟足を掴むと顔を上げさせて、目を合わせると、こう提案した。 「……イかしてくれんなら文句はないっすよ? あー、でも擦り合うってのはどうすか? できるっすか?」 「……ん、多分……」 「じゃ、お願いします。あー、もしかしたら今回は一緒にイけそうっすね」 「あっ……くそ、……お前は……動か……すなよ……気が散って……出来な……くなんだろっ……」 「あー……すんません……」 させてばかりも悪いと思い、ずずっと前の方へ移動してきた先輩の昂りに改めて手を添えると触るなと、撥ねられてしまった。オレよりも快感に弱いことは知ってたけど、触れてたら気が散って俺への奉仕が出来なくなるからダメなんだって。 「でもあんた……っ腰、揺れ……てますよ……? っ……ほっとかれっ……ン、……て、……辛くないんす……か?」 いや、オレも結構もうきてんだけど、先輩だってかなり息が荒くなってきている。オレの下腹部にこするようにして二つを握る先輩は必死になって手を動かすけど、なんかオレよりも相当もうキてそうだ。 「……赤っ也……」 あー……そんなエロい声で呼ばないでよ……。 「あ……あっ」 「くっ……」 やばいって……! 多分無意識なのだろうが、先輩の爪が先端にかかったもんだから、突然襲った強烈な刺激にオレはもう堪らず呻いた。 いまのはキた……結構、キた……! 「……っ……」 「あ……く……赤、赤……也っ……」 「なんすか……?」 快感だけを追いながら、ぼぉーとする頭で呼び掛けに答えたオレは、先輩に顔を向けることなく首を仰け反らせていた。 なんとなくさっきより動きが鈍ってきてる気もしないではないが、風が吹いて当たるだけでも結構クるほどに、オレのそこはもう十分に昂ってきている。あと少し集中して追えばイけるかもしれないのだ。 「……赤……也ぁ……」 「……だから、なんすか……」 「……ん……手っ……」 「手……?」 手がどうしたのかと思い問うと、こくこくと忙しなく先輩の首が縦に振られた。 「手って、オレの手のことっすか?」 「ん……手、貸して……」 「……ダメっすよ。手伝えって言うんでしょ? イヤっす。先輩の手でイかせてくださいよ……」 「……い、から、……お前の……手……も貸せっ……」 「ダメっす」 「……意地悪言うなよっ……赤也……」 頼むよと、首筋に這った唇が紡いだ言葉を読み、仕方なく先輩の手の上にオレは手を添えてやった。 「……あのさ、あと少しでオレ、イけますよ……? も少し頑張ってみてよ……」 「……あ……あっ……」 言いながら、わざと先輩の先端に指を当ててぐりっと撫でると、それまでしなだれかかるようだった先輩が急に背中をしならせて啼いた。 あー……もしかしたらオレより先にイっちゃうかもこのヒト……。 「……は……っ……あぁ……」 強張った指を、自分の指の間にそっと挟み込んで、オレは緩急をつけて扱き出す。 「……あ……はっ……あぁ……っ……赤っ……赤也っ……」 「……ん、……」 「あぁ……くっ……ダメっだ、……ああっ……」 「いっすよイって……」 「だって……お前がっ……まだっ……」 「や、オレも……っ……ん……イけそう……っすから……」 あー……犠牲になんのはオレのシャツか……。 しゃーないか……このヒトもぉ周り見えてねぇもんな……。 「……あ……赤っ……也ぁ……!」 「……ん、イっすよ……」 「あ、……あぁ……! くっ……! あぁ、あ……もぉ……イくっ……」 「…………っ……」 オレが放ったのと、先輩がイったのとはほぼ同時であった。 すげぇかも。こんなどんぴしゃなのは初めてだよ。 すげぇ……なんか感動するかも……。 「……先輩……? 大丈夫っすか?」 ぐったりと胸に体重を掛けてくる先輩の背に不意に触れたのだが、結構汗ばんでいるようであった。 そう言えばオレもぐっしょりだ。いま気付いたのだがべったり張り付いててかなり気持ち悪いことになっている。つっても、前のほうが悲惨なことになってるからどっちにしろこのまま着てはいられない。 「……ちょっと先輩、お疲れんところ悪いんすけどいったん退いてくれます? 服、脱ぎたいんすよ」 肩を揺すられた先輩はひどくだるそうに上体を起すと、下腹部にちらりと、目を落とした。 「……悪ぃ……うっかりしてた……」 「いっすよ。覚悟はしてたっすから」 「……なぁ」 「なんすか」 シャツから腕を抜くと、チュッと、胸元にいきなりキスが落ちてきた。 「ちょっと、たんまっ!」 腕に指が掛かったのには驚き、いや、焦り、大慌てで近づく先輩を押し退ける。 「もぉヤバイっすよ。これ以上は勘弁してくださいよ。ダメっすよ」 「なんで」 「なんでって、始業には間に合わなかったっすけどオレさぼれないんですってこの時間」 「なに真面目くせぇこと言ってんだよ。もういいじゃん。諦めろ」 「ダメっす」 「ヤだ。赤也とシたい。シよ? な?」 「シたいって……」 悲しいかな。授業と先輩、秤にかけて心がぐらつくのは当然先輩の言葉にだ。無理もない。恋しい人がシたいって、上目遣いでこんな可愛くせまってきてくれているのだ。ぐらつかないわけがない。昂らないわけもない。一気に元気回復だ。 「……赤也、な? シてくれんだろ?」 さっきので湿ってるだろうに先輩は手を添えて、ぐにりと袋を握った。 ああ……ダメっす……そんなことされたら……。 「こっちはやる気ありそうじゃん?」 そりゃあそんな風にされたら勃っちゃいますって……。 「……でもオレ、ゴム持ってないっすよ?」 くにくにされて、上ずる声で訊ねれば、唇を突き出してキスをくれ、大丈夫と、先輩は自信ありげに笑んだ。 「安心しろい。オレが持ってる。待ってろよ――えーと……あった。ほら、な?」 腰を上げるや、前を全開にさせながらも恥じることなく堂々とした態度で探り、尻のポケットから見つけて取り出すと目の前でひらひらさせた先輩は、思わず溜息を零したオレに『ほれほれ、な?』と見せ付けながら平然と、にやついてくれた。
…………参りました……。
「で、今度はオレはどうすればいんすか?」 「好きにしていいぜ?」 「じゃ、バックでさせてよ」 「いいぜ。でもなんでそれなんだよ?」 「オレはゴムつけるけどあんたの分はないんでしょ? バックなら床が汚れるだけで服は汚れないっす」
オレが言うと先輩は声を上げて楽しげに笑った。 笑い事じゃねえよ。 ったく……。 「愛してるぜ、赤也」 嬉しい言葉だけど複雑だ。 「バーカ、なに眉間に皺なんか寄せてんだよ。こういうときは、『オレもですよ』くらい返すもんだぞい」 ちゅっ。
あ〜…………現金だよね…………キス一つでこうも簡単に丸め込められるなんてさ、オレもまだまだ(どっかの誰かのセリフを借りるけどさ)だな……。 END (04.04.27)
ブンちゃんは女王様。何度も言うけど赤也はめっさいい男。いい男は優しい。そして意地が悪い。 赤ブンは、とにかくブンちゃんが騒々しい。喜怒哀楽フルオープンで赤也を振り回す。でも無自覚。赤也も赤也でブンちゃんに鳥取砂丘並みに甘い。だけど砂漠。ブンちゃんはしっかり足を取られてもがく人です。いっそ飲み込まれて(抱かれて)眠りやがれです。 赤ブンのエッチはとにかく二人して積極的。シたくなるスるってことで。 でも一つ赤ブンで譲れないとこがある。 それは。やきもち焼き屋さんはブンちゃん。 すぐふてるブンちゃんにラブ。 |