「先輩、今日買い物何時ごろ行くっすか?」 「七時頃でいいよ。へたな時間に行くとレジ混んでイヤなんだよ」 「でもその頃って腹減ってません? 小腹空いたとき用になんかあったっけ?」 「食パンがあっからあとで焼いてやるよ。ハムも乗っけてやるし。そんなもんでいいだろ?」 「ああそっか。パンあったんですね。で、今日の夕飯はなんなんです?」 「まだ決めてない。赤也、お前なに食いたい? リクエスト聞いてやるよ」 「そっすね……ああ、じゃあ焼きうどん」 「うどんか……最近食ってねえな……よし、わかった。あとは適当にサラダ作って……味噌汁はなにがいい?」 「大根」 「OK。あ、そうだ。今日はお前も付き合え。ミネラルウォーターがもう切れるんだよ。箱で買いたいから手、貸せ」 「ん、いっすよ」
赤也とブン太が同居を始めたのは、ブン太が大学に入ったその年の九月だった。大学に入り、念願の一人暮らしを始めたブン太の部屋に、それまでも足繁く赤也は通っていたが、遅くなったからと言う理由で泊まることもしばしばで、それが平日にまで及び、『オレも卒業したら一人暮らしをする!』と親に早々に宣言を出したところ、『あなたには無理です』の一言で撥ねられてしまうのだが、『たしかにお前に一人暮らしは無理だ。メシもろくに作れないし面倒くさがり屋だし、洗濯や掃除はどうする気なんだよ』と恋人でもあるブン太からもダメ出しを喰らった結果、それでもなお『そんなのやる気になればなんとかなる! いざとなったら先輩に泣き付く』と自分勝手な持論でもって粘る赤也にとうとう親もブン太も負けてしまい、話し合いの結果、一人暮らしは心配でさせられないが同居するにしても二人がうまくやっていけるかどうかも不安、それならお試し期間と言うことで前倒しになるがしばらく同居して様子をみてみようと言うことで落ち着いたのである。 タナボタ的なめでたい結果に大喜びをしたのは勿論、赤也ただ一人で、ブン太は突如同居人が出来てしまったと言うだけでなく、自由気侭な生活を失い、すっかりと世話役が板についてしまい、赤也の両親は心配であっただけに願ってもない結果に安堵しつつも、仲の良い先輩と言うだけで迷惑を掛けてしまうことになり大変申し訳なく思っている。 だが何事も始まってしまえば生活態度の違う二人でも慣れるもので、赤也たちもそれなりに分担も決まり、八ヶ月を過ぎた現在、二人は問題もなく平穏に暮らしている。 もっとも生活する上で必要となる労働の九割はブン太が担っていると言ってもいい。赤也はサポートするだけでブン太に世話されて生かされているようなものであった。 炊事、掃除は勿論だが生きていく上で欠かすことのできない食事を作るのもブン太の役目であった。これがまた美味いので、赤也はほとんど外食をせず、部活でどんなに遅くなってもブン太の作った飯を食したがり、レポートやらサークル行事やらでブン太の帰宅が遅いときでもブン太は帰ってきてから自分の為と言うよりはせっせと赤也の為に食事を作ってやっているのだ。 甘やかしすぎていると言う自覚はブン太自身にもある。だけども美味そうに食す顔を見てしまうとなにも言えなくなるのだ。むしろ嬉しくなってしまうのである。 まるで主婦のような生活も、大変は大変だけど赤也が喜ぶことで報われているから、ブン太は今の生活にそれなりに満足しているのである。 赤也が満足しているかどうかなんてそんなものは言わずもがなである。 そして今日のような土曜日、あるいは休日には、遅い夕食に合わせて買出しに出るブン太にたまにだが赤也が付き合うこともあるのだ。 もっぱら重いものを買うときには荷物持ちに任命され、首根っこ掴まえられてお供をさせられるのだが、ブン太にくっついてカートを押すのもそれなりに楽しいので、休みの日の買い物を赤也も密かに楽しみにしている。 いつからかはわからないが、買い物の時間まで、特に用がなければ各自好きに過ごすのが決まりとなっている。とは言っても生活スタイルは一度決まればたいていの人間が長い年月それに従うもので、赤也たちも、ブン太はあれこれと家のことをしながらテレビを見たりゲームをしたりして過ごし、赤也はCDを聴いたりゲームをしたりして過ごすのである。 今日も赤也は先日発売になったばかりのゲームに取り組み、ブン太は掃除機をかけにまずは和室へと向かっている。 およそ三十分後。 ブン太は全ての部屋の掃除が終わり、キッチンでコーヒーを落としていた。先週、特売で手に入れたモカである。 落とし終えたあと、ブン太のにはミルクを、赤也のは牛乳をレンジで温めたあと加えてカフェオレにされる。 「赤也、ちょっと来い」 カップに注ぎながら呼ぶと、リビングでゲームに熱中していた赤也がコントローラーを置いてもそりと立ち上がる。 「コーヒー入れたから飲め」 「ん」 「ゲーム、どこまで進んだ?」 「結構いったっすよ。次、やります?」 「いや……また今度な」 「早く続きしねえとオレ、クリアしちまいますよ?」 「べつにいいよ。あとでゆっくりすっから好きに進めよ……」 「なんか眠そうっすね」 「ん、ちょっとな……」 欠伸を殺したブン太は、カップを置くと片付けもしないでソファへと向かう。 昨夜、三時過ぎに寝たのに今朝は九時に起きたのだ。家のことを少しやって胃に入れたら、急に眠気が襲ってきたのである。 ソファに横になり、クッションを抱えるとすぐに瞼が降りてきてしまった。 「寝るんなら部屋行った方がいいっすよ」 せっかく赤也が言うのに、ブン太はのんびりと『うん』と応えたきり動こうとはしない。既にこの時点で、眠気の方がなによりも勝っていたのである。 「ブン太先輩」 「……うん……」 「だから寝るんだったら部屋行った方がいいっての」 「……うんっ……」 睡魔と戯れながらも赤也の声は耳に届いたのか、再度の問い掛けにいささか乱暴な口ぶりで応えるが、結局ブン太はそこで眠ってしまった。 「……なにがうんだよ……」 仕方ないなと、溜息を零しながらも赤也は部屋に行き、ブン太のベッドの上から薄手の毛布を抱えてリビングへと戻ってくる。 それを眠ってしまったブン太の躯に掛けてから、赤也は赤也で再びコントローラーを握った。
「……ん……」 寝返りを打ちながら、ブン太は目を覚ました。 起きてすぐに耳に入ってきた音はゲームの効果音。 ふと気付けば部屋が薄暗い。 自然と向かった窓の外はすっかりと夕暮れの色。 「……何時だよ……」 ひとりごちながら起き上がればレンジにセットされた時刻は六時七分。 「……うそ、マジ……?」 随分と長く寝入っていたようだ。 「やっと起きたっすね」 赤也が近くまでやってきて、くしゃりとブン太の髪を掻き回した。 「熟睡してたっすね。どうします? 買い物はキャンセルします?」 「……あー……いや、行くよ行く……」 「べつにデリバリでもいっすよ?」 「ばぁーか……んな無駄遣い出来ねーよ……」 「そんなことねえよ。だってうちの親、今月多めに振り込んでくれてますよ? それに今月はまだ一回もデリ頼んでないっすよね。ピザか寿司、それぐらいいいと思うんすけど」 「……」 今月がまだ一度も宅配を頼んでないと知って、ブン太の心は揺れた。 寿司と言う単語にも大いに揺れていた。 「……そうしましょうよ、ね、先輩」 「……そうだな」 「決まりっすね。ミネラルウォーターは明日、買うってことで。で、なに取ります?」 「寿司」 「寿司っすね。どこのにします?」 言いながら、既に赤也の足は宅配のチラシがファイルされているクリアファイルが置かれているキッチンカウンタへと向かっている。それを取り出した赤也はペラペラと捲り、 「オレ、ここのがいいっす」 勝手に選び、そのチラシがブックされたページを開いてブン太へと手渡す。 「……ここかぁ……」 「トロづくしってのが食いたい」 「あー……これな……」 「美味そうじゃないっすか? 他のも悪くなかったし。ね、そこにしましょうよ」 「んー……いいけど……」 「じゃ、八時くらいに頼むってことで」 「いや、四十分くらい掛かるだろうから頼むのはもうちょっと早くでもいいと思う」 「あ、そうか……」 「いいよ、オレがあとで頼んどく。で、お前はこのトロづくしな。でもこれだけじゃ足りないだろ。なんか他にも……ああ、手巻きもなんか頼もうぜ」 「じゃオレ納豆巻きとネギトロ巻き。それとこの焼肉巻き」 「焼肉……美味いのかよこんなの」 「だから試してみたいんですって」 「あっそ」 「じゃ、時間が出来たってことで」 「は?」 ブン太の手からチラシを奪うと、赤也は有無を言わせずに再びブン太の躯をソファへと横たえた。 「軽く運動しときましょうよ」 「な……!」 ブン太は、耳を朱に染めると、不埒な悪戯を始める赤也の手から逃れようと、暴れ始める。 「ちょっと先輩、急に暴れないで下さいよ。狭いとこなんだから大人しくして下さいって」 「こんな状況だから暴れてんだろが! ちょっ、やめろって……! ばかっ……どこ触って……!」 赤也は、ジッパーを下ろすと下着の上に手を乗せ、形をなぞるようにして指を滑らせた。 「べつに先輩が暴れたいんだったらオレは構いませんよ。痛い思いすんのは先輩なんだし」 「赤っ……!」 悲鳴のような声を上げるブン太が息を飲み込んだ。 きつく、ブン太のものを赤也の手が掴んだからだ。 「時間はたっぷりあるし、昨夜はシなかったし、オレはどうしてもシたいんすよね。一度で済ますから先輩も協力してくださいよ。ね?」 協力もまだ得られてもいないのに、赤也の指がヘアを掻き分けながら、ブン太のそれの形を確かめるようにゆっくりと往復する。 「赤っ……也……」 ゆっくりと動くのはわざとだ。ゆっくり追い詰めるつもりなのだ。 「あ……っ」 ブン太はのしかかる赤也の肩を押し退けようと、手を突っ張らせる。けれど圧倒的に不利な体勢にあるのはブン太の方である。突っ張らせることには成功しても、どかすまでにはいたらない。 「残念。次はなにをします? 蹴っ飛ばしてみます?」 「蹴れ……る……状態にないっ……ことは……お前……あ……っが……よく知って……っるだろ……」 「じゃあ、諦めます?」 赤也は、ブン太の先端を親指の腹で撫でる。なんだかんだ言ってても躯の反応は素直だ。ぬるりと濡れるそれをくびれにまで範囲を広げて撫で付ければ、首を露にして仰け反り、アームに手が掛かるとびくりと、背中が反った。 「なんでそんなにイヤがるんすか?」 「なんで……っじゃ……ねだろっ……ここ……どこだとっ……思って……っるよ……」 「ソファ」 赤也は、きつく噛み締めるブン太の唇に、自分のそれを軽く重ねた。 「じゃ、部屋に移動したらいいの?」 「そっ……」 そういう問題ではないと、抗議をしようとして、欲に濡れる赤也の眼差しとぶつかってしまい、ブン太はその言葉を飲み込む。 こうなったらもう赤也は止められない。 自分がなにを言って暴れても、イヤだと喚いても、半ばちからづくによって抱かれてしまうだろう。 「……わかったよ……」 仕方なくだが、ブン太はとうとう決心をした。 「……オレの言うことなんか聞いちゃくれねんだろうから付き合ってやる……けどここじゃイヤだ。部屋に連れてけ……」 おとなしくなりながら、僅かに眉を顰めたブン太に、赤也は顔を寄せ、囁いた。 「オレが抱いて、部屋まで連れてくんですか?」 「そうだよ。文句あるのかよ」 「ないっすよ……」 赤也は、掠れるように答えて、ブン太の首筋に唇を押し付ける。くすぐったそうに首を竦めるブン太の柔らかな喉元に、赤也は唇で所有の印を刻み付けた。 「……なんだったら終わったあと、風呂場にも連れてやってもいっすよ?」 「……ありがたい話だけ……っど……遠慮……しとく……あ……そんなとこっ……入って……お前が……おとなしくして……っるわけないっ……し……ん……」 「でもさっぱりしたいでしょ? それでも?」 「……余計な……お世話っ……っだ……ん……は……ちょっ、待てって……ここじゃダメ……だって……赤っ……也っ……」 「残念。流されてくれないんすね」 「え……?」 突然、赤也はブン太を突き飛ばすようにして身を引いた。浅い息を吐く最中のことで、赤也の乱暴な行為にブン太の眼差しが非難に揺れる。 「赤也……お前なぁ……」 いきなり突き飛ばすことはないだろと、眼差しでもって不満を訴える。すると、赤也がくつくつと、楽しげに笑い出した。 「ここじゃダメって言ったのはあんたっすよ。だから抱きかかえようとしただけですって」 赤也は笑いながらブン太の背の下に手を差し込むと、軽々とブン太の躯を抱き上げてしまう。いつからかは知れないが、赤也はブン太よりもずっと長身になり、体躯も精悍で男らしく成長を遂げていた。ブン太もそれなりに成長をしていたが、ウェイト、身長、骨格、手の大きさ、腕の長さ、足のサイズ、比べるのが嫌になるほど赤也の成長にはめざましいものがあった。 いつだったか、かつてはよろけていた王子が今では軽々とお姫様抱っこをしてくれるまでに成長したことを果たして喜んでいいものかどうか、ベッドへと運ばれているこの状況に、ブン太の心は複雑だ。 しかも、果たしてこのあと計画した通りデリバリを頼めるかどうかも妖しくなってきたと、横たえられながら、やれやれと、つい、内心で零してしまった。しかし、それなのにブン太は赤也の首に腕を回した。すっかりと逞しくなったくせに自分があれこれと世話を焼いてやらなければ赤也はまともな生活が送れないのだ。そう考えると楽しい気分にもなるし、愛しさも募るのである。 END (04.05.01)
日記でも買いてた赤ブン同棲話。気付けば火がついていました。同棲している二人のありふれた日常を考えただけで萌え。転がる。しばらく止まらないくらいごろんごろんしちゃいます。 そんなわけで、主婦ブンちゃんにニンマリ。何も出来ない居候のダンナ・赤也にウヒャヒャ。 もうね、面倒見が抜群にいいブンちゃんにくらっとします。 まずは今回は同棲を始めて八ヶ月後ってことで、ブンちゃんはめでたく大学の二回生。赤やんは一回生。季節はちょうど今頃ですね。まどろむにはいい季節でございます。いっひっひ……。 この同棲物語は単発でいくつかこれからUPしてこうかと思ってますが、全体的にマジで主婦でダンナな赤ブンになっておりやす。まずは、こんな赤ブンを、妄想してみました。 もうね、これは完全夢見てます。頭からしゅぽしゅぽ湯気が噴いてます。 |