赤也とブン太が住む部屋は、3LDK86u。このマンションでは比較的多いタイプである。若い二人には過ぎる部屋だが、賃貸物件ではない。六年前に分譲されたもので、持ち主は、ブン太の親戚。そこにブン太が住まうことになった経緯は、こうだ。家主が突然海外転勤が決まり、いま住む家をどうするのかとなったとき、長くても五年くらいと言われている転勤で家は売れないが、では人に貸すとなったらなったで、一つ、どうしても譲れない問題が出てきてしまい、誰に貸すかと言うことで悩んでいると過去に同じ事で悩んだことがあると言う近しい人間が色々とアドバイスをくれ、もともと他人に貸すよりは出来れば知り合い、本当なら親類にでも貸して住んで欲しいと言う希望を持っていた家主であったことから、その意向に副うような形で、人から人へと渡っていったその話がある日、大学への進学と同時に一人暮らしをする予定でいたブン太のとこにまでまわってきたのだ。無論、ブン太に断る理由などなく、しかもそれが父方の甥であったことから家主も是非にとわざわざ頼みにまで来たほど熱望されてしまったのだ。  そんなわけで悠々と一人暮らしを楽しむブン太のもとに今度は赤也が転がって来るのだが、その赤也との同居生活もそろそろ十ヶ月に入ろうとしている。色々あって、突如決まった同居ではあったが、勿論、家主への通達はきちんとブン太の両親から行われ、赤也自身の挨拶も電話でだが済ませてある。  そんな二人の生活スタイルはと言うと、生活を維持していく上で、なさなければならないことがらの多くは、ブン太が担っていた。ブン太に世話を掛けてばかりの赤也ではあったが、それでも二人の同居生活は揉めることもなくうまくいっている。  家事のほとんどを担うブン太は、当然炊事にも手を抜かない。手は掛けないが朝からきちっと食べさせて赤也を送り出すし、休みの日でも遅くても昼を兼ねてきちっと作る男であった。  その祭日の今日、珍しくまだブン太は眠りについていた。そのかわり赤也が起きていて、ソファの上で寛いでいる。たまには自分がなにかを作ってみるかと言う心遣いは、この男にはないようであった。  そんな赤也がふと目をやった壁掛け時計は、十一時を少し回っていた。  そろそろ起こすかと、起き上がると赤也は短い廊下を歩いて寝室へと向かう。  「……先輩、そろそろ起きません?」  ベッドの縁に腰をかけてから、丸くなって眠るブン太の前髪を梳いて遊ぶその手つきは、意識してわざと優しくしている。  たしか昨夜ベッドに入って来たのは夜中の二時過ぎ頃だったっけと、不意に破られた眠りを思い出しながら赤也の手は不埒にも頬を滑ってするりと鎖骨をひと撫でしてしまうと、今度はその窪みの緩やかなラインをなぞって遊んだ。  「……ん……」  覚醒しきらないうちにされる悪戯には決まって浅い息で返事が返されるが、それを嫌う様子を見せないブン太が赤也は好きだ。可愛いなぁと、本気で思ってしまうくらい本格的に起こしに入る前のこの時間が実は赤也は大好きなのである。  「先輩。ほら起きて」  普段より幾分か低いらしい体温を指の腹で味わいながら、赤也は身を屈めた。薄く開かれた静かな唇に自身のそれをあてがう為にだが、果たしてそれによって彼は目覚めてくれるであろうか。  「ブン先輩……」  触れてそうで触れていないギリギリのところで赤也が囁くも、ブン太に変化は見られない。  「先輩、オレもう腹ぺこで死にそうっすよ……」  食したいのが何かは、言わずもがなである。  とりあえず最初は乾いた上皮を舐めて。それでも微動だにしなければもう少しはっきりとあてがってもいいかなと、あれこれ思いながら吸い付いてしまえば計画はあっと言う間に流れ、すでに遠慮もなく隙間に舌が入り込んでいたりする。  無防備なのをいいことに舌先を突付いて遊んでみたり、歯列をなぞってみたりと反応がない躯をかまうのもそれなりに赤也は楽しかったりもする。  「先輩、もっと悪戯しちゃうっすよ?」  疑問符をつけているが、すでに赤也の手はシャツを捲って脇のラインを楽しんでいる。  「……っ……」  不意にと言うかようやっとと言うべきか、赤也の下でブン太がぴくりとみじろいだ。  「……あか……や……?」  「うん。もうすぐに昼になるっすよ先輩」  「……って、お前っ……」  肌をまさぐる手の存在に気付いたのか、物申そうとしたらしいが、突起をつまむ赤也の動きにままならなくなり、膨らんだそれを手のひらで押さえて転がしてしまうとふるりと震えたのちには赤也にしがみついてきた。  「……ちょっ、待てっ……赤也っ……おいこらっ……聞けってのっ……」  弄る指に悶えながらブン太は抗うが、『このまま目覚めの一発させてよ』と、赤也は聞く耳を持たない。  「先輩だってほら、硬くなってんじゃん。こんななのに待てはないっしょ」  「ばかっ……それは自然現象だっ……あ、よせっ……赤っ……」  煩い口はキスで塞いでしまって、あとは早々に撫でさすり、しみでも作ってしまえばブン太の負けである。幸いブン太の感じやすいポイント、されると弱い悪戯などは熟知しており赤也の方に迷いは一切ない。  「あっ……赤……也っ……」  綿素材のパンツがほのかにぬくくなり、湿っぽくなってきた頃、赤也の手が忍ぶ。まだ下着の上からだが十分硬さを保ってきていることはわかる。すでに自分のそれがどんな状態になってきているかを知らせるつもりがあるから赤也の手はしきりに輪郭をなぞるような動きを見せていた。  「いや……だっ……」  「なにが?」  「そう……いう気分……じゃ……ねんっ……だよっ……」  「そう言うけど躯はのってきてるっすよ? ほら、わかるっしょ?」  「あっ……」  下着の中にまで忍び込み、ブン太のものに絡みつくと、手のひらの愛撫で再びそれは形を変え始めた。じかにされる刺激でたちまち熱を持ち、赤也の指が濡れる。  「……っ……あ……ぁ……」  やめろと、首が振られても赤也の指は弄ることをやめない。  「無理っすよ……先輩だってこんなとこでやめられたら困ることになるっすよ……だってほら……こんなに濡れてきてる……」  「あっ……くそっ……」  指先で溢れる蜜を塗り込めるようにして動かせば、ブン太の口からは間断なく悦びの声が零れ落ち、ただひたすら先端ばかりを弄ってやっているとそのうちねだるような視線が投げ掛けられてくる。  「――なに?」  ブン太は赤也の問い掛けには答えず、赤也の後頭部に手を回したかと思うとそのまま強く引き寄せ唇を塞ごうというような仕種を見せた。  「……ヤんだったら、……焦らしてねえでちゃっちゃっと突っ込めバカ……」  そしてかじりつくような荒々しいキス。  「…………そんなに急かさないでくださいよ」  「……んあぁっ……!」  突然体内へと潜り込んできた無遠慮にも程があった指に、当然、息が詰められる。  リクエスト通りに、深部へと侵入が果たされた指は無慈悲にも知り尽くしていポイントを責め上げ、しがみついてきているブン太を快感と期待で震え上がらせると、赤也の背に腕が回ってきたのを合図に赤也は自身を埋め込んだ。  「ああっ!……んっ……ん……」  瞬間、表情が歪むが、行為自体は慣れ親しんだものだ。これからおとずれるであろう快感に、すぐさまに甘く切羽詰ったものへと変わり、目にも切なそうな色が浮かぶ。  腰をすすめるとブン太の腰も蠢き出し、こうなるともう理性の崩壊が始まる。赤也は夢中で腰を突きすすめた。  「あ、……あぁっ……か、やっ……!」  苦しげな吐息を零して目を潤ませながら、ブン太は訴え掛けてくる。どうやらもうダメらしい。だがこんな仕種で訴えられても逆効果でしかないのだ。赤也とてもうそろそろと思っていたのに逆に煽られ、ますます愛しさが募っていく。  「……先輩、あと少しっ……頑張ってよ……」  「……あ……あ……ダメっ……もっ、……っかやっ……!」  揺すぶられながら、ますますと甘い声で啼くブン太に、赤也は舌なめずりした。  心までもが満たされるセックスなんてきっとブン太とでしか味わえない。何度抱いてもブン太は新鮮だ。  「……あ、か、……やぁ……!」  それに最近は色気なんてものまで出てきた。こういうときの甘え声は本当に堪らない。  「……いっすよ……じゃ、一緒に……ね?」  囁くような声で促しながら、ぐっと深部まで突き入れると、喉を晒してブン太が達した。嚥下したのを見届けてから赤也も放った。  「……っ……ん……」  しかしまだ足りない。あと二回くらいは余裕で出せそうだ。  「……っ……いや、だっ……」  抜かずして続けて腰を打つと、ブン太は涙を零しながら甘い声を上げた。  「……あれっぽっちじゃ足りないっすよ……先輩のここだってまだひくひくいってるし……」  「あっ……あ、ん……」  赤也は深い口づけを与えたまま、腰の律動を始めた。  その動きに翻弄されながら気持ち良さそうな顔を見せるブン太を見ていると、赤也の方もぐずぐすに蕩けそうになってくる。  「あ、……ぁ……かやっ……!」  自分だけではどうしようも出来ない熱を孕んでいるというのにその躯にしがみつかれ、ますますと体温が上がった。ちょうど耳の辺りにきている口から零れてくるその熱い息吹も熱を上げるのに手を貸しているのがいけない。  「……あ、ああっ……あ……」  しかも、襲ってくる快感は際限がなさそうで、この状態で果たして二回で済むのだろうか。こうなってきてしまうとその二回目が済んでみないとわからないかもしれない。  「あ、あぁ……か、……も、ダメっ……赤っ……!」  警戒心などまったくないブン太が大きく背をしならせて赤也を締め付けたまま精を吐き出した。  まるで寒さに震えているかのようなその震える背を優しくさすりながら赤也も昂りを高めていき、吐き出したあとだというのにまだ収縮を繰り返している壁の深部へと精を叩きつける。  「……ぅ、……んっ……」  しかし、やはり足りなかった。  「あ、あ……! あぁ……! あっ……!」  再び抜かずして腰を打ち付けると、ブン太は掠れた声を上げながらしがみついてきた。
   問題の二回目である。
    果たして結果はどういうことになるのか……。        END (04.07.01)
 
   同棲物語=いつでも寝込みが襲える。万歳! 早く起きてくんないと食っちまうっすよ。きっと赤也はそんなことばっか言っているに違いない。男だねぇ、赤也。天国だよねえ。あー嬉しい。 この二人にマンネリ感てあるんだろうか。たまに疑問に思うことがある。でもアレかな。気持ち良くってブン太は結局赤也とのエッチに大満足そうだし、赤やんも文句なんてなさそうだ。 それとあとこれ。雰囲気に酔って雪崩れ込むことはまずなさそう。ズバリ、ヤりたくなったらヤる。単純そうだよこの二人は。でもって場所にもあんまこだわらなさそう。こんなとこで盛るなとかなんとか言いつつもブン太は赤也の服を脱がしに掛かってそうだ。 やー、幸せそうなんでもうなにも言うことはない!  |