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 『日吉、いま、暇?』
 『ひまじゃない』
 『つれないなこと言うなよ。あのさ、俺暇なの。会お?』
 『だからひまじゃないと言っているだろ。よく読めよ』
 『暇ってのは口実だよ?会いたいんだけど、どうしてもダメ?』

 

 それから五分後。

 

 『少しなら時間さいてやる』
 『やったあ。じゃあこれから家、行っていい?』
 『うちかよ』
 『じゃあ日吉がうち、くる?』
 『めんどくせぇからヤだ。やっぱお前が来い』
 『うん。あ、ねえ、宿題の英語のプリント持ってくね』
 『持ってくるのはかまわねぇが自分でやれよな』
 『日吉は?終わってるの?』
 『まだだ。これからやろうと思ってたところだ』
 『じゃちょうどいいじゃん。一緒にやろ?』
 『言っとくが自分のは自分でやれよ。わからないところがあればそれは教えてやる』
 『うん。じゃあ待っててね』

 

 

 

 「日吉ぃ、ここ、わかんない。教えて」

 「どこ?」

 「これ。ここの空欄。なにが入るんだかさっぱり」

 「辞書は? ちゃんと引いたのか?」

 「引こうにも思いつかないからどのページ開いていいのかもうそこでさっぱりだよ」

 「お前ちゃんと授業聞いてないだろ。これ、先週やったぞ」

 「え? うそ。そうだっけ? ヘンだなぁ……覚えてないよ俺……」

 「ったく。引いてやるからほらその辞書貸せ」

 「あ、うん。はい――」

 「わっ! ちょっ! なんでそこで手なんか掴むんだよ! 辞書が落ちちまっただろ! 放して拾え!」

 「んー、なんか疲れた。ちょっと休憩しよ?」

 「なっ! 指を絡めんなばか! だから握るな! 休みたきゃ自分ひとりで休んでろ! 俺を巻き込むな!」

 言うと余計うるさくなることを知っているからそれで鳳も言わないだけであって、ぎゃーぎゃー喚く日吉を彼も内心では『うるさいなー』と苦笑いをしながら眺めている。鳳がそうやってまったく表情に出さないのには一応理由みたいなものがあってのこと。実は、目論みというか……密かに狙っていることがあったのだ。

 アレとかソレとか、実はしたいことがたくさんあるのだ。つまり、ぶっちゃけてしまうとまずはアレをして次にはこういうことをして、最後はヤっちゃおうと。そういう段取りをむっつりスケベーに虎視眈々と……いや、悶々と……画策していたのである。

 「わっ! ばか! 急に引っ張るなよ! 危ないだろ!」

 「うん。だから転ばないようにちゃんとこうして胸ん中にキャッチしてあげたじゃん。て言うか俺が日吉にケガさすようなまぬけなことするわけないじゃんよ。もうちょっと信用して欲しいな」

 「うるさい! ばかなこと言ってないではなせ! わっ、こらっ、お前どこ触って、待った……! ちょっ、あ……っ! よ、よせって……っん!」

 日吉が脇腹を触られると途端に力なくなよってなっちゃうことなんて彼の中では学習済みだ。すかさずそこを撫で摩るワケは、さっさとろくに抵抗出来なくさせてしまおうという意図が隠れているからである。まんまとそういう状態にさせるのに成功したら、まずはひょいっと唇を奪ってしまうつもりだ。勿論そのままエッチになだれ込むつもりでもいる。なので鳳は最初っからかっ飛ばしていくつもりだ。

 勝運はあるように思えた。

 動揺激しく暴れる日吉はお間抜けにも簡単に口を開けてくれるし古武術を習っているくせに全然彼本人の助けにはなっていないしで、鳳の予想よりもあっさりとベロチューまで一気にコトは進んでいく。すっかりと追い詰められて頭の中が真っ白にでもなっているのだろう。だからこんなにも防御が甘くなっているのだ。

 日吉が我に返る頃には、もう脇腹だとか胸だとか腹だとかをまさぐられるだけまさぐられ、彼が弱いとされている敏感な箇所なんかも散々に弄られたあとである。はたと気付いた彼は……熱っぽくて眠たそうな目で目撃をするのだ。自身のではない他人の手がじかに自分の肌に触れているのを。

 だけどいくら気付こうとももう遅い。

 やる気満々な鳳に『ちょっとだけしよ?』とか『軽く一回。お願い、ね?』とかなんとか懇願され、いくら日吉がイヤだと抵抗を見せても聞いてはもらえず彼は結局ヤられてしまうのだ。

 言葉はいささか乱暴だが無論鳳は日吉を愛している。

 執着が強いのだろう、愛しくて愛しくてどこか隠れ家に閉じ込めて繋いでおきたいと、そんな危ない妄想までしてしまうくらいだ。

 だけど鳳たちの関係は断じて一方通行のものなんかではない。

 鳳の方が熱を上げているように見えるが鳳だってちゃんと愛されているのだ。 

 日吉は愛想もないし全然優しくなんかもないが、それでも彼から愛が注がれていることを鳳は彼の見せる仕種から確かに知ることが出来た。

 鳳が拝み倒すようにしつこくお願いをしても、日吉は最初は渋るけどいつだって最後には目を瞑ってくれるし、忌々しく舌を打ちながらでも背だけは絶対に向けないし、拘束されたときでさえ本気で振り払わないし、イヤだと叫びつつ引っ掻いたりやめろと暴れながら足蹴りとかはしても一度だって嫌いとは言わなかったし……酷いことばかりしてきている鳳に……日吉はどの場面でも寛大だった。

 日吉のそれらの行動は、鳳も日吉を愛しているけど日吉もまたちゃんと鳳のことを愛してくれていることを証明するようなものだ。

 

 愛していたなら、その愛する者に求められてどうしてすげなくすることが出来るだろう。

 流されてしまうのもそれもまた愛していると言う証拠。

 

 結局鳳と日吉のこの二人の世界も甘い色で染まっているのである。










END

 


 

甘いよ。甘い。ラブラブだから仕方ないんだけど、パターンだよね…。

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