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 「寒くなってきたね」
 「そうだな」
 「ね、今朝もやっぱり朝稽古してきたの?」
 「当たり前だろ」
 「薄着なんだろ? 寒くないの?」
 「気が引き締まってむしろいい」
 「道場って冷えるよね。床の上を裸足で歩くのって辛くない? 俺だったらうひゃって声上げちゃうな」
 「鍛錬されてない者のセリフだな」
 「はは、厳しいな」
 「一度朝稽古に出てみるか?」
 「いや遠慮させてもらうよ。見学ならしてみたいけど」
 「見学も裸足だぞ」
 「えっ……そうなの? うーん……それだったら着込んでさせてもらおうかな」
 「情けないヤツだ」
 「そりゃ日吉はちっさい頃からやってるから慣れてるだろうけど俺はやったことないんだよ? 仕方ないって。あ。ねえ、道着の下ってやっぱり何も着てないんだろ?」
 「当たり前だろ」
 「ふーん」
 「……」
 何かを考えているような鳳のその顔に、日吉はなんとなく嫌な予感みたいなものを覚えた。
 「さっき日吉さ、鍛錬されてない者って俺のこと言ったよね」
 「……言ったが本当のことだろ」
 どうしたと言うのか。急にぞわわっと嫌な予感が強まった。直感とでも言えばいいのか。虫が知らせたのかもしれないこの感覚を……自分は信じた方がいいんだろうか?
 あぐねた結果、それまで隣を歩いていたのに彼は……二歩ほど、そろぉりと下がってみた。
 「あれ? 急に歩くの遅くなったね。どうしたの?」
 「……ちょっと、な」
 「ふーん」
 「いいから立ち止まってないで早く歩けよ。遅刻するだろ」
 「お前ってやっぱ勘いいよね」
 日吉が警戒心を強めるなか、足を止めていた鳳が不敵に口元に笑みを浮かべた。
 「なに……っぅわあ!」
 なんとなく察するところがあって一歩また下がったところでいきなり腕を掴まれて、そのまま引っ張られると日吉が抵抗する間もなく左側の頬にキスをされてしまう。まさに彼が突かれたのは不意である。
 「なっさけない声上げてんなよ。日吉も鍛錬が足りてないみたいだね」
 捉まれたまま見上げると、鳳は満足気ににっこりと笑い、表情の全体が緩んでいる。
 「…………」
 真っ赤に染まった日吉は……決して照れているわけではなくなんとなく恥かしいものがあって……もう睨みつけるのがやっとであった。










END

 


 

日吉は慣れない姿が可愛いと思う。何度も痛い目にあいながら、日吉若は美味しく育つのです。

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