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 ブン太が家に帰宅すると、ソファで赤也が寝そべっていた。どうやら寝ているわけではなくてゴロゴロしているだけの様子であった。 
 「なんだよ、寝るんだったら部屋行けよ」 
 言うと、唸り声が聞こえてきた。 
 「赤也?」 
 覗き込むと、眉間に深く皺が刻まれていて顔色も良くない。 
 「どうしたよ?」 
 「んー……なんか昼過ぎてから頭が痛くなってきて今すげぇ最悪な気分なんすよ……」 
 「頭痛? 珍しいな。どうしたんだよ?」 
 「わかんねえっすよ……急にっすよ」 
 「お前ちゃんと昨夜寝たか?」 
 「寝たっすよ……」 
 「じゃあアレだ。水分補給が足りてねんだよ」 
 「……あー……」 
 思い当たるのか、納得したように頷いて今度は仰向けになろうとする。 
 「薬とか飲んだか?」 
 聞くと、頭が振られる。そんなに頭痛になったことないしと、手が伸びてきてブン太に触れようとするような仕種を、横になったまま、見せ始める。 
 手を握ってブン太が腰を落すと、甘えるみたく膝の上に頭が乗っかってきた。 
 「オレがウチで飲んでたやつがあるけど飲んでみるか?」 
 「先輩も頭とか痛くなることあるんすか?」 
 「オレ? たまにな。でもオレの場合歯が痛くなることが多くてそういう時に飲んでたんだよ。待ってな、部屋行って取ってくるからさ」 
 おもわしくない体調に響かないよう気を使いながら頭を外して立ち上がると、急ぎ足でブン太は部屋へと向かった。 
 クローゼットの中の小物を入れたボックスの中にたしか薬もしまっていたはずである。不確かな記憶を頼りに探ると、母親が持たせてくれたボックスの中にそれはちゃんとしまわれていた。使用期限を見てみれば2007年となっている。 
 「よし、大丈夫だな……」 
 大人が一回に服用する数は二錠である。その分だけ取り出して手のひらに乗せると今度はキッチンへ向かってコップにミネラルウォーターを注いだ。 
 「赤也、お前錠剤とか飲めるよな?」 
 聞くと、『錠剤なんすか?』と、不安そうな声が返ってきた。 
 「なんだよ、錠剤とかって飲んだことねえのかよ?」 
 「……いや、あるっすよ……けど今って口になんか入れても飲めそうにもない気分なんすよ……」
 「けどこれ飲めばすぐよくなるんだぜ? とにかく飲んでみろ」 
 赤也の元に戻ってまず手渡したのは錠剤だ。それを手のひらに乗せた赤也は、固まったまま、まるで仇かなにかを見るような鋭い眼差しを突き付け、優れない顔色だと言うのに表情までも厳しくさせていた。 
 「眺めてても頭痛は治まらないんだぜ? いいから口入れて飲み込め」 
 水を入れたコップを差し出すと、やっばダメと、首が振られてしまった。 
 「……口に入れたらきっと吐くっすよ……無理……」 
 「すぐ飲み込むんだよ、そうすりゃ大丈夫だって」 
 「ダメっすよ……」 
 口元を押さえて青ざめる様子はいつもの我侭なんかとは違うことを教えている。 
 これ以上の無理強いは出来そうにもなかった。仕方ない。 
 「赤也……」 
 ブン太は、赤也の手から錠剤を奪うとそのまま自身の口の中へと放った。 
 そうしてからコップに口をつけ、水を含むと、 
 「んぅや……」 
 正しく発せられないまま赤也、と呼んで、顎を掴み上向かせた。 
 「……先輩?」 
 ぼけっとしたままだった赤也のその口にブン太は自身の口を当てがった。 
 飲めないと言うならば、飲ませるしかあるまい。というわけで、口移しという手に出たのだ。 
 「……っ……」 
 舌で、相手の舌根を押さえつけて無理矢理に飲み込ませてからブン太は赤也を解放してやる。むせているようだが、吐き出すことがなければ安心だ。 
 「……」 
 涙目になるも、どうやら胃の中へと送ることには成功したらしい。 
 「……ひどいっすよ、いきなり……」 
 恨めしそうに口を開くが、ブン太はにやりと笑ってやった。 
 「なに言ってやがんだよ。飲ませてやったんだから感謝しろってんだ。寝て起きたらきっと良くなってんぞ」 
 ブン太は笑いながら赤也の髪を掻き混ぜた。 
 「ほら、眠っちまえよ。どうせ今までは気分悪過ぎて寝るに寝られなかったんだろ? こうして頭撫でてやるから目を瞑って寝ろ」 
 くしゃりと、優しく髪を掴むと赤也は従っておとなしく瞼を閉じた。 
 「……寝るまで……そばに居てくださいね?」 
 「わかってるよ、安心して眠れ」 
  
 
 今日は、いつもとは逆だった。赤也がこうしてブン太の髪を弄ることはよくあるが、ブン太がこういうことをするのは珍しい。相手の躯の一部に触れながら甘えるという行為が、どちらかと言うとブン太は苦手だ。逆に赤也は触れ合うこと望み、やたらに触れようとするから、少し、困っている。
 だけど……こういうことをしている自分の今の気持ちは、今回は赤也が寝ててこのかんに自分がなにをしようと彼に知られる心配がないからなんだろう……悪くない気分だ。








END

 


 

これも有島自身がひどい頭痛でぐったりしてた時に書いたものでした。生憎と有島にはなでなでしてくれる人はおりませんでしたが。

ちなみに頭が痛いときに飲むのはバファリンが一番いいです。良く効きます。だから赤也にも是非飲ませたい!

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