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 『……先輩!! お願いっす! 助けて!!』
 赤也からの電話はいきなりヘルプで始まっていた。何事が起きたのかと、状況がわからずに聞き返せば、『オレ、もぉ……死にそうっす……』と、らしからぬ切羽詰まったような声で彼は返してきた。
 「とにかく落ち着け。事情がよくわかんねえから簡単に説明しろよ」
 『……実はいまオレのすぐ近くに恐ろしい生き物がいるんすよ……これがまたワケがわかんなくて……』
 「生き物? それってなんだよ。わかるように説明しろっつったろ」
 『だから赤ん坊なんすよ……』
 「赤ん坊!?」
 なんじゃそりゃと、なんでそんなものが赤也のトコに居るんだよと、ブン太は首を盛大に捻って唸った。
 こういう場合、男の側で考えられることは……一つ……。
 『……てめえ、浮気の事後報告とはえらい度胸してんじゃねぇか』
 ここがドラマかなにかの収録現場であるならこういう絵は、浮気が発覚する瞬間としてありがちな展開ではあるだろう。だがまさか自分が当事者、もといされる側に回ろうとは想像もしていなくて、怒りと同時に悲しみが沸いてきて少し視界が緩んでしまった。
 すると、
 『こんなときに冗談なんか言ってないでくださいよ!』
 と、えらくまた泣きの入った怒声が突如ブン太の耳に飛び込んできた。
 「冗談? つーことはお前も別に浮気とかしたとかじゃねんだな?」
 『だから!! そういう冗談でからかってねえでいますぐオレんち来てくださいよ!!』
 「……赤也」
 『はい、なんすか』
 「一つ確認してんだけど、その赤ん坊って生物?」
 『生物も生物!! ぷりぷりしてるっすよ! ああ!! ほら! 聞こえません!? 泣き出したんすけどもぉずっとこんなカンジで……助けてくださいよ先輩……先輩って弟とかいてちっこいのの扱いには慣れてるっしょ? ……頼みますよ……』
 ぐったりと項垂れるような様子が目に浮かぶと同時に確かに赤ん坊の泣き声みたいなものが聞こえてきて、ブン太は『わかったからお前も落ち着け。とにかくこれから行ってやるからそれまで頑張れ。な』と、力づけてから電話を切り、すぐに出かける準備を始めた。
 それから三十分後。
 赤也宅にてブン太は例の赤ん坊とご対面していた。
 座布団の上にちょんと座り、声を出すたびに涎も一緒に垂らしてブン太のことをぱっちりした眼差しで見つめてくる。
 「……コレ、どうしたんだよ?」
 「親戚のコっす。昨日から母親と一緒に遊びに来てるんすけど、二時間前からうちの母親と一緒に出てったきりなんすよ……」
 「面倒見てろって言われたのか」
 「だけどそれまでは機嫌良かったくせにいきなりぐずり出して……もぉオレにはワケわかないんすよ……」
 「ミルクは? いつやった?」
 「知らないっすよそんなの……」
 「しょうがねぇな……じゃオムツはどうよ。母親が出掛けたあとお前一度でも替えてやったか?」
 「オムツっすか? 替えてないっすよ。けどそんなのどうやって替えればいいのかオレにはわかんねえっすよ」
 「わかったよ……。じゃあこのコの荷物とかはどこに置いてあるかそれ教えろ」
 「荷物っすか? 一応和室の方になんか置いてあるみたいなんすけど……」
 「和室な」
 ちらりと目をやって、隅の方にバックと一緒に小さなバックもあるのが目に入りブン太は慣れた手つきで赤ん坊を抱きかかえると和室へと移動を始める。
 うしろに赤也を連れて部屋に入ると座布団をこっちに移動するよう伝えてバックの中を漁ってみた。
 探すのはおむつ。探しモノは思った通り簡単に見つかった。
 「先輩、これどこ置けばいいっす?」
 「どっかそこいら適当に置けよ」
 戻ってきた赤也が座布団を置くと、ブン太も抱えていた赤ん坊をそこに下ろして今度は手際良く赤ん坊のオーバのボタンを外して紙おむつのテープも外していった。
 赤也は初めて見るのだろうか、感心したように唸ってその行為をじっと眺めている。
 「お前、替えたことねえの?」
 聞くと、こくんと赤也の首が素直に頷いた。
 「そっか。多分ぐずってたのはおむつが濡れてたからだよ……っ!……」
 ブン太がそう言ってオムツをまさに尻の下からちょうど引いた時だった。シャッ……シャシャー……と、自分がしているヨダレ掛けを引っ張ったりしながら遊んでいる赤ん坊が……おしっこを飛ばしたのは。
 ブン太は当然唖然とするが、びっくりしたのは赤也も同じだ。
 「……」
 「……やられた……」
 顔に引っ掛かったそれを手で拭ったときである。赤也が唸りながら零した。
 「なにこいつっ……オレでさえまだ顔シャなんてしたことねぇのにっ……!」
 ブン太は赤也のその発言を聞いて、迷わずに赤也の頭をはたいた。当然である。こともあろうに赤ん坊であれば珍しくもない現象とセックスのそれとを比較されたのだ。下劣にも程があると言うものである。
 「いっぺんてめえは死んでこいっ!!」
 哀れ赤也。その後、母親たちが帰宅するまで和室に一歩も入れてもらえなかったと言う。










END

 


 

今度はぜひとも赤也に顔射をさせたいっす。
それもわざと。運悪くなんてケチなことは言わない。『いくっすよ先輩』…ドッピュと。

男のロマンは女の有島には理解も出来ないことです。男はかすみを食って生きてるような生物っすから。一生かけても絶対男の脳だけは理解出来ないと思う。

だけど、ホモを書く上で理解しようとする努力は必要っす。

赤也もブンちゃんも男っす。

ホモの道は長い…煩悩のみで突き進んでばかりもいられないっすよ…。

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