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 「なに? 先輩」
 足を伸ばし、躯を横たえ、ソファの上で寛いでいたオレのもとにふらりふらりとブン先輩が寄ってきた。
 「先輩?」
 仰臥したまま行った問い掛けに、返事はなしのつぶてだった。そればかりか何を考えているのか不可解に思わせるような行動に彼は出ていた。ちょうど脛のあたりになるのだろうか。どうも見ているとそこに跨ろうとしているようであるらしい。
 「……先輩? あんた、そんなとこに座ってなにしようっていうの?」
 この段階ではまだオレにも意図が読めなかった。だがやがて彼は獣のように四つん這いの姿勢を取り始め、その物騒な動きに『これはヤバくないか?』と胸が騒ぐのと同時にここに至ってようやくピン!ときたのだった。
 「ちょっ、……先輩、……っ!」 
 けど悲しいよなぁ……。
 どうして嫌な予感と言うものは当たってなど欲しくないのにこうも『ドンピシャリ!』と当たってしまうのか……。
 間違いなく今俯き加減の彼がしようとしていることはアレをそっから取り出したあと、状態を問わずに目の前に晒したソレを咥えようと言うのだろう。 
 そう言えばクッションを抱きかかえ、さきほど美味そうに喉を鳴らしてアルコールらしきようなものを口にしてはいなかっただろうか? うちの冷蔵庫には缶ジュースなんてものは置いてなかったと記憶しているが…?

 「…………」

 あ〜……やっぱり……。

 『生』の文字入りの缶が三本、ご丁寧にもそれを上に向けて綺麗に横並びとなって寝かされている。
 350mlが二本と500mlが一本。
 横にされていると言うことは綺麗に飲み干したあとであることは言わずもがな。
 「うっ、……わっ……! ちょっ……! せっ…! まっ…! ダぁぁぁぁぁぁっ……ぁ……っ!」
 こ、……こんの酔っ払いモンがぁぁ……!
 いくら酒の力を借りて気が大きくなっているからって、それはあまりにも性急過ぎだろ!
 あんたの今の不埒の動きに少しでも反応するのが遅れていたならマジでこの身が危ういことになってじゃんかよ! 勘弁してよもう!
 慌ててあんたの髪を掴まなければあんたの鼻先! 間違いなくオレの股間にくっついてたよ!?
 ねえほんっともう許して!
 つか阻まれたくせになんでまだ狙ってるんすかあんた!
 「…しつっけぇよ! いい加減あきらめろっての! つか落ち着きましょうよ先輩! ね? ね? 聞いてます先輩!?」
 う、……っあ!
 ちょっ!
 ……や……!

 頼むから聞けよ先輩!

 押しとどめる手の下で阻まれた彼も必死になっているらしいが、進行しつつある行動を止めにかかっているオレだって必死にならざるを得ない。
 これ以上そこへ顔が近寄ってこられてはとてつもなく困るのだ。先輩はいい具合に酔ってそういう気分になっているんだろうけど生憎とオレの方は全然そういう気分ではまだないのだ。
 理性がこうもまだしっかり働いているようなこういう状態の中では、思考も働くだけに自分のアレを誰かが咥え込んでる姿なんて目に毒過ぎるっつうの! 拝むことにでもなったらショックで頭に血が上り、羞恥心が極点に達した時点で、イヤな想像だけど鼻血を吹いてしまうかもしれない。そしたら二人して血だらけだ。スプラッタだよ。イヤだよそんな血に染まるなんて。
 つか、オレ迫られるのは歓迎するけど攻められるのはなんか嫌だ。
 このまま主導権握られっぱなしになるのだけは反対! だって主導権とられてたら、いいように嬲られて…好き勝手にもされて…いつもとは逆にこっちが喘いじゃったりするわけじゃん! そんなの嫌だよ絶対ダメ! それに、この体勢だから後頭部だけしか見えないとは思うけど、髪の毛の一本が動いただけだって素面の身にゃあ辛い一本だ。リアル過ぎるだろ、そういうのって。イかされるまでの間どこ眺めてりゃいいんだか、わかんねえっつうの。終始目のやり場に悩んでろってか? 勘弁してよ……。
 そりゃあこちらから頼んで咥え込んでもらったならいい眺めとばかりにじいぃっと見詰め観察もするだろうけどさ、不意を撃たれて動揺をしているだろうそんなときに、ご奉仕されちゃってるまさに濡れ濡れな現場を眼前だからって正視が出来るか? いやチラリとだっていいよ。目を覆ったその手のひらの隙間から覗くってのでもいいよ、格好なんてどうだっていいんだよ、どんな状態であれ、そんな現場を、ご見学なんかしてられるかって話!
 そんなの無理に決まってるじゃないか!
 絶対、無理だよ!
 いや、フェラ自体を嫌いって言ってるんじゃないんだ、口でされるのは気持ちいいからむしろ好きな行為でランキングしろって言われたら上位にくるのは間違いないし、手でされる行為の次くらいに好きな位置にあるんじゃないかと思っている。
 彼には口内に含んだ瞬間に舌を出す癖があるからそれをされた瞬間、全身が雷に打たれることだろう。だけどその反応を感じ入っていると見られては困る。そんな特別な行為を施されたならオレは不感症などではないのだ、躯はびっくりすると言うもの。脳だってびっくりするさ。居た堪れなくだってなると思う。
 仮にもし、いま、ここでされてしまったら……うん、声を殺せる自信はないし、そのくせ目は瞑ってしまえる自信はあったりしてね。
 けどオレがナーバスになる原因はそこじゃあない。
 頭に引っ掛かってるのは肝心なアレが萎えっぱなしなんじゃないかと不安に思っている点だ。
 いくら赤面をしようと声が零れてしまおうと、気分が盛り上がりを見せてこない限りアレはずっと萎えたままだと思うのだ。そりゃあ少しくらいの反応は見せると思う。半勃ちくらいはするだろう。
 でも男ってのは繊細な生き物だ。心の乱れはもろにアレに影響が及んでくることをオレは過去に経験したことがあり知っている。下腹部にとろんとした痺れがのたりくたり這いずりまわったり、マグマのような熱を孕む足の付け根が震えたりだとか、そういう情況になりながらも頭がヘンにクリアになってるときってのはどうも意識が散漫するっていうのか、気持ちも躯も確かに昂ぶっているのにイけないってのは辛い。
 喘いでんのに気持ちが乱れてしっかりとは勃たたないけど舐められっぱなしってのはちょっといくらなんでも情けない姿だとも思う。
 そういうことをしたいのならせめてムードくらい作ってそういう気分にもっていくよう、それくらいの努力をまずはして欲しいとこっちとしては思うのだけど……ブン太先輩を相手にそういう気配りを求めてしまうのは望み過ぎというものか? ブン先輩だもんな、気を利かせろってのはテストで百点を取りまくれって言ってんのに等しいのかもしれないって気はする。 

 「……って! ちょっ、……っ!」

  ……ぅ、わ……ァァァァァァァァァ!

 「あ、あんた! ちょ、……っ! まっ……! なにやって、……っ! やっ……!」
 ジーンズのファスナーに指が掛かってジッ…と引き下ろされてしまうその音にオレはいっそう焦った。 
 こういう状況にまで追い込まれてしまったならもう加減がどうとか悠長なことを言っている場合ではないのかもしれない! 引き剥がすのでも突っぱねるのでも突き返すのでも、手段がなんであれ力が強すぎて先輩が痛い思いをすることになったって、もうこの際だと思うのだ。
 うろたえたり喚いたりじたばたしたりするよりもまず、いの一番にしなきゃいけないことは、今この危機の迫る場では掴んでいるこの髪を引き、強引にでもこの顔をそこより引き剥がすこと!
 それが出来なきゃあやがてこの人にしゃぶられちまうことになる……。
 「待っ、ちょっ! 待……って、……ください、……っての……! あっ……! ちょっ、ブっ……先輩ってば……!!」 
 決断を下すのにそれほどの時間は掛からなかった。たかがフェラ、されどフェラ。噛み切ってやるとかなんとか恐ろしい文言を突きつけられたわけではなかったけれど、さっきからずっと言っているように今のオレと先輩とでは気持ちにすれ違いみたいなものがあって、こういうバランスが取れていない場合だとある意味オレの身は、辱めを受けるやもしれない危機に直面しているのだ。髪なんか掴んだら怒鳴られるんだろうなとかハゲんだろとかなんとかうるさく喚かれるんだろうなとか、そんなこと考えて遠慮なんかしてたらアレは口ん中へと入っちまう。それはまずいんだって。そんなことはさせちゃあいけない、阻止しなくっちゃあならない。沽券…もとい股間を守れんのはオレだけなわけで! 手を出すのを躊躇して迷ってなんかいる場合ではなかったのだ! 
 「痛っ……! なんなんだよっ、……ちょっ、こらっ、てめぇ、……っ! 邪魔すんじゃねえよ!」 
 「するに決まってっしょ! あんたこそそんなトコに指なんか掛けてナニしようとしてんすか!」 
 「なにって見てわかんねえのかよ。フェラだよフェラ」 
 恥じらいもなく握り込んだまま堂々と答えてくれちゃったブン先輩に、オレはもう大袈裟に肩を落とすしかなかった。 
 握り込まれたこの状態について云々言及したりはしない。うん、不本意なんだけど、それについてはもう仕方ないって気もするわけ。その手を離してとかなんとか文句つけてそれで力を込められたりとかの反逆にあっちゃあイヤだしね。うん、潰されたらって考えると、……ぞっともしてくるわけよ。けど先輩がこういう言動が取れると言うことは、もう完璧酔っ払っていると見てもいいのだろう。酔いのせいもあるんだろうけど、気持ちが昂ったり心が蕩けてしまったりして今の彼はどっぷりともう自分の世界に入り込んでしまっているようだ。
 だとするならこの状態は大変よろしくない。
 無駄に気力が溢れ気持ちが奮い立っている様を見せ始めるようなこういう状態にまでなったならもう……力一杯の努力をしても……押し問答で時間は稼げても形勢逆転などまず見込めないと読んでもいい。話し合いを、と思っても先輩がそういう状態じゃあ会話のキャッチボールですら無理だ。きっと叶うまで、しゃぶらせろと煩く強請り、オレの話も少しは聞いてよだとか少し落ち着きましょうよとか、そういう呼び掛けをしたって、先輩がこんなんじゃあこちらの言うことなんか聞きゃあしないだろう。おまけにこのひとは逆切れもお得意ときている。オレ様モード全開時は、とにかくノーマル時の比ではなく我侭で手強い。 
 しかし! である!
 けれどもでもいいし、しかしながらでもいいんだけどさ、オレがこの場で声高に叫びたいのは、長ったらしい文言なんかではなくてずばり、接続詞の部分なわけ。
 そりゃあね、不利な状況にあることはよおくわかったよ。
 でもさ、わかっちゃあいてもね! 
 自分のナニを咥えたくて昂奮しているらしいケダモノをなんの手立てもなく野放しにしてしまうなんてのはますますと危険ゾーンに踏み込んでいくようなもの。梃子摺りそうでも骨が折れそうでもこの身を守りたいのなら、このピンチをなにがなんでもなんとかして回避させようと色々と手を打つべきなのだ。世の中にゃあ『ダメもと』で幸運を手にするヤツだって居るんだ、オレだってもしかしたらミラクルを呼んじゃうかもしれないじゃないか……。そうだよ、探せば絶対打開策はどこかにあるはず!
 しかし今日のオレはまるっきりツキがないようだった。それがわかったのは、そう意気込んでからわずか数秒したあとだった。ふと、思い出された言葉があったのだ。奇跡ってのはおいそれと起こらないから奇跡って言うんだぜというやつだ。まさに意思を挫くセリフが後頭部を直撃したような、そんなショック感に、オレはもうガーン!ってなった。……誰だ、そんなこと言いやがったやつは。仁王先輩だったか、柳先輩だったろうか。くそぉ……。
 「あぁ? なんだぁお前、その態度。オレがしてやるって言ってんのに文句でもあるってのかよ」
 なにもガーンってなってるこのタイミングで口が開かれることないのに、やっぱ今夜はとことんオレ、ツキないわ。
 「あ、また溜息ついたな。さっきも溜息ついたしよ、いまだって渋い顔しやがって。なにがそんなに気に食わなくってどんな文句があるってんだよ、あ?」 
 「――……や、あんたそれ勘違いしてっから。文句なんてねえっすよ(あるからって素直に吐けるかってんだ)。ただちょっと待ってくださいって言ってるだけなんですけど……さっきからあんたそんなオレの言葉を無視してっからそれでオレも焦ってそれのせいでついた溜息っすよ、さっきのもその前のも」 
 いつもはしてくれ、と言ったってぶつぶつ文句を垂らしてなかなか素直にしゃぶってなど貰えないのだ。その彼が自分から進んでしてくれると言うのだから有り難いに決まっている。けれども、物事を始めるのであれば順序と言うものがあり、それを滅茶苦茶にして好き勝手に進められてしまっては困ってしまうのである。
 実際不意打ちに遭ったオレは今、どうしていいか対処がわからなくて本当に困り掛けているのだ。
 これがもし、オレの方からしてくれと言い、それでこういうことになったのであればそりゃあ嬉しくてニタニタもしただろうし言われるまでもなく感謝もしたと思う。
 しかし悦ぶよりも先に『あんたなにしようとしてんすか!』って動転してしまって、現段階でもこちらはまだ……本当に、全然『したい』なんて言う気分になっていないのである。 
 「だぁぁぁ……! だからちょっと待ってくれって言ってんじゃん! 頼むからあんたオレの話にもちょっとは耳を傾けてくれよ!! オレのこと無視ばっかすんなってさっきも言ったばっかじゃないっすか! そういう勝手なとこに焦るんですって!」

 なんで今夜のあんたはそんなにせっかちなんすかぁ! ソイツを咥えたいんだったらオレをその気にさせてからにしてくださいっての!

 どうせあんたは聞きゃしないんでしょうけどとなかば諦めつつも、咄嗟に早口に願うと……
 「あ?」
 と、尖った声色と一緒に剣呑な目で見上げられてしまった。 
 その様子ときたらまるで人がせっかくしてやるって言ってんのにうぜえぞてめえと凄まれているようでもある。
 とことんオレの気持ちなど知ったこっちゃないと言うことらしい。 
 「……や、だって、……ほら、見てよ! オレの、まだ勃ってねえし、……それに……つーかっ……のっけからそれはヤメテ……!」 
 だがどれほど凄まれようとここで圧されて『わかりました……こっからはもう邪魔しません、ハイどーぞ』と白旗をあげてすごすご降参をしてしまうわけにはいかない。何しろこのまま押し切られても、もしかしたら勃たないかもしれないし半勃ちしたらしたで鼻血を吹くかもしれないしと、あれこれと不安に思っている材料が揃っている以上、このまますとんと先輩の手に堕ちてしまうわけにはいかないのだ。すでにもう崖っぷちに立たされているのだとしても、それでもまだ地に足がついているならば、抗いたいのだ、だからオレはここは負けじと踏ん張って懇願を続けた。 
 せめてキスくらいしてからにしましょうよ……それから手で触ってください……つーかこういうことってまず相手にもその気になってもらわねぇとまずいですって……いや、だからシてくれてもいんですよ? でも……なんつーか、気持ちの整理がついてないっつーか……だからのっけからフェラってのは勘弁して欲しいっつーか……その、だから……とにかくあれっすよ! まずは手でこれ勃立たせてからにしてくださいとしまいには拝んだりなどもしたのだが…………陳情は、面倒臭いの一言でけんもほろろに跳ねられてしまった……。
 「面倒くさいって、あんたねぇ…」
 そのにべもない返答にはフリなどではなくもうマジでがくりと肩が落ちた。
 万事休すかよとマジ泣きしたいほどに気分だって凹まされちまった。
 ところがだ、項垂れているこの隙を狙ってくればいいのにブン先輩はすぐには手を出してこなかった。
 時が動き出したのは、あれ? と思うのとほぼ同時だった。
 「仕方ねえな……おら、じゃあチュー……しろよ」

 うッ…!

 あ、あんたってひとは……!

 ワザとそれをしたって言うのならかなりのしたたか者だ。
 ナニを握りながら可愛らしく目なんか瞑りやがって……!
 畜生!
 汚ねぇぞ!
 ……それもジェスチャー付きでもってカモーンとお呼びなんか掛けやがってよ……!

 ……ち、畜生、チクショー、ちくしょう、……マジで汚ねぇよ……。

 確かにそれまで強腰にばかり出ていた彼にはなかった可愛らしさが今の彼にはあり、ぐだぐだと散々渋っていたオレでも目を閉じて待つその仕草にはまんまとドキリ!…とさせられてしまったと言うか何と言えばいいのか……。つまりはそれまでいじいじぐずぐず尻込みしてたんだけど今のでたちまちキュピーン…て胸が高鳴っちゃったっつうか……。これがまた抑えられないほど可愛らしいっつうか……。だからもう勃たないとかっての心配はいらないみたいっつうか……。さっきまでのあのぐだぐたはどこ行っちゃったのかなぁって思ってはいるんだけどっつうか……。気懸かりなことが水に流れたってわけでもないんだけど、こんな可愛い先輩にだったらあんなこととかあんなこととかいっぱいしてもらいたいなぁっつうか……俄然元気が出てきちゃったっつうか……。先輩はズリぃなぁっつうか、……えぇい!

 もう畜生!

 オレは、それほど躊躇うこともなくその突き出された唇に舌をペロリと遊ばせた。ぷっくらした感触は、だけどほのかに感じられたアルコールのせいだろうか。
 舌が脳に伝えてくる感触は確かに記憶に刻まれた彼のものではあるのだけれど、口臭とまではいかない匂いだとか、味気とかが彼のものではないような気もして、……でもだったらさっさと慣れてしまおうと、苦味が残されているその表皮の部分を繰り返し舐め上げることにする。そう、酒くささなんてのは、ささっさと慣れちまえばいいのだ。下唇をやわらかく噛んでみたり、左右交互にして端を舐めてみたりなどして、今夜は特別にアルコールが含まれてるみたいではあるけどこの厚み、きゅっとわずかに上がる口角のそれはクセなんだということを知っているならば、いまある違和感などすぐに消えてなくなることだろう。

 「ん、……か、……や、……」

 唇に触れていたと言ってもどちらかと言えば舐めてばかりいたのだが、そんなことばかりを延々としていたらじれったく思ったのか、いきなり先輩の腕が伸びてきて、少し爪の伸びた指が意味ありげに妖しく、かつ自由勝手にオレの首のうしろを撫で始めた。
 その動きは全然強気なんかじゃなかったけど、かえってそれがくすぐったくてちょっと気持ち良かったりなんかした。
 指の先にも最初からちからが籠められていたし、手のひらなんかもべったり貼り付くような動きを見せている。火照り始めてきているオレの体温が原因なのか、撫でられる感触が気付くとねっとりとしていて、先輩は気持ち悪いとかって思っていないんだろうかとオレは気が散るのだけれど、先輩はオレを求めるのに必死になっているみたいで、そんな先輩にオレも目を細めてしまった。へばりつかれると言う感覚にまで到達したときなどには、発した言葉はなかったが本人は強請るつもりでやったのだろう、愛撫と呼ぶよりはむしろ蠢くと表現した方がぴったりとくる動きをその指に見せ、次の瞬間にはもう、指先だけに込められたちからを利用したような引き寄せられ方をされている。
 先に我慢がきかなくなくなるのはブン先輩の方だとは思っていたけど――案の定。
 嬉しいです、先輩。
 そんなに性急な仕草で求められて、悦びでオレの心臓なんてもうドキドキうるさくて皮膚を裂いて飛び出してきそうですよ。
 オレの躯であんたにあげられないとこなんて、ないですよ。全部あげますから、もっと欲しがってください。もっともっと喰らいつくといっすよ。
 「ぅ、……っか、……あっ……っ」
 啄ばむように何度も唇を味わって、その合間でと息も零れてきて、オレが仕掛けた動きに軽く調子を合わせてきていたのがいつまでたっても吸ってやらなかったからか、先輩の方が積極的に唇を押し当ててきては、ぴたりと重なると同時に舌を忍ばせようと頑張る姿が続けて見られるようになった。
 そこまでするならとっとと侵入を果たせばいいものを、オレを欲しがる気持ちが強く影響しているのか、オレから与えられることをこの人は強く望んでいるようだ。なかなか実際にこじ開けてはこないところがオレには結構もどかしくはあるのだが、同時に楽しくもあるから、まだしばらくはこのままでいいかとこっちも薄く唇をひらくことくらいはしてやって、暫し先輩の好きにさせておくことにする。
 どれくらい経ってだろうか。
 煩く騒ぐ鼓動とは別に、突然オレの胸にもさざ波が立ち始めた。
 これまでは耐える側だったが、ここからは心機一転オレが攻める番だ。 
 「……ンっ……」 
 それまで長いこと受身で遊んできた環境から一転、じれったそうに蠢く舌にオレはわざと逃げの姿勢を見せた。いつのまにやら先輩ったらオレの膝の上にしっかりと乗り、オレが逃げるや、腕を背に回してきてそのまま抱きついていっそう激しくもオレを求めてくるが、だけどその激しさに気付かないフリをして背やウエスト、脇腹などを長い時間を掛けて摩るだけの動きだけでもって彼の躯に沸く熱を貪った。 
 「……あ、……か、やっ……!」 
 もどかしげに揺れるその腰は案の定のこと。 
 「……赤也っ……!」 
 だが少し苛め過ぎたか。下唇を噛みながらじれったいのだと、不服そうな声色と共に先輩の手がオレの腿の肉を抓上げた。それでも加減はしてくれたのだろう。痛いというほどのものではない。 
 「……お前生意気……! オレがどうして欲しいのかなんてわかってんだから意地の悪いことすんなよっ……」
 「焦れてる最中のあんたってなんか必死さが伝わってきて可愛いんすよ。いいじゃないすか、本気で虐めてるんじゃないことくらいあんただってわかってるはずっすよ」 
 背中に回してあった手を、背骨に沿って下へと這わすや……ひどく餓えたような目で睨まれてしまった。そんな熱っぽく見ないで欲しい。意識なんかしてないんだろうけど、意地悪を続けたくなるし、いますぐにでも押し倒して足を開きたくなってくるではないか。 
 「でも、そっすね。先輩がこのままじゃ辛いっすよね。じゃあもう、舐めてくれていいっすよ」
 わき腹を撫でながら促すと、口でしてやるって言ってんだからおとなしく言うこと聞いとけなんて騒いでいた先刻とは打って変わって先輩は恥かしげに目を伏せ、そして頭を垂らすや昂っていたオレのそれに手を掛けようと留守になるほうの手を太腿に乗せると一気に頭を下げた。 
 「……っ」
 腰骨のあたりから脇にかけて皮膚を焦がすような電気が瞬時に走るのをやりすごしたあと、オレはふるりと頭を振った。
 やっべぇ……すっげ、気持ち良いかも…。なんだよこの感覚……つか、マジもたねぇかも……。
 オレだって、いきさつだとか手順だとかノリだとかっていう、そういうもろもろなことをくっつけないでシンプルに感想を述べるならば、先輩がやる気になることは全然悪いことではないと思う。だって自分の意思で動くのだから、色々とやってもくれるだろう。無理なことでなければお願いをしても、それだって聞いてくれるかもしれない。ご奉仕もしてくれて言うことまで聞いてくれるなんて最高じゃないか。ましてやお相手が惚れた相手、すなわち恋人がしてくれるって言うんだ、嬉しくならないわけがない。先輩がひとりで勝手に突っ走らなければ、オレだって万歳して大歓迎したさ。
 だけどムードはないし自分本位に動くしで先輩はオレなんてただ前を寛げてアレだけ出してりゃいい、みたいな扱いをするから、嬉しいなんて気分じゃなくなるのだ。嬉しいってのは、気分がノってるから味わえる感覚であって、そんな気分じゃないときに自分本位に迫られたって今夜の前半戦みたいに複雑な感情からじたばたと抗ってしまうことにもなるわけで、ご奉仕もいいけどでもその前にまずは相手の気分も盛り上げてねと、常からうるさくお願いしてるってのにまったく反省の色がない先輩には、たとえ今が強烈な射精感に耐え、頭がくらくらしてくるのにも堪えている状態であっても、チクリとくらい刺したくもなるというもの。まったく、動揺させてくれたり酩酊感を味あわせてくれたりと、肌もろくに触れ合わせてもいないうちからこんなにも振り回してくれるなんて、仁王先輩か柳先輩あたりに知られたなら『しつけが甘過ぎる』とかって笑われた挙句からかわれもしそうだ。
 とは言うものの、もともとオレたちって、ヤりたいって思う気持ちが一致したことなんて数少ないのだ。たいていがどっちかが盛って、押し倒したり抱きついたりとかして『やめろ』『いまはそんな気分じゃねんだ』『ヤったばっかだろ、今日はてめぇで抜いとけ』……てなんかこれはオレが先輩を襲った場合の展開なんだけど、先輩が盛ってオレに襲い掛かってくるときもまぁオレも似たようなこと言ってるからいいのだけど、とにかく、オレたちはエッチしたくなるタイミングがずれてるみたいなのだ。そういうときってどっちにも言えることなのだが、けっこう攻撃的であとからうわぁって赤面してくるようなことなんかでも平気で口にしてたりなんかしてて、もしかしてオレがやったことって言葉責めってやつなんじゃないのかってコトが済んだあとに蒼くなることも、競い合ってるつもりもないのに互いにしばしばある。ただエッチの内容はどっちのが快楽にふけられるかって言うと、このタイミングのずれたときの方が互いに盛り上がっているときよりも数十倍も濃かったりする。攻める側がヤる気になっているからなのだろう、サービス精神が濃厚で、お願いしなくたって勝手に奉仕気分大放出ってなものだし、襲われた側は終わってみりゃあもう腰はがくがくで力入らないし、精なんて尽きた感じでくったりしてシーツが皮膚を擦るだけでまた、ぶるってきちまうくらい躯のどこもかしこもが敏感になってたりする。
 先輩がオレに好き勝手されていいように躯を弄られてくったりさせられること、どう思っているかはよくわからないけれど、オレが先輩にいいようにされることなら、気持ちがいいって点だけは認めるよ。
 けどやっぱり自分の思い通りに先輩を動かしたいとも思う気持ちも残るわけで。攻められるよりは、攻めてた方が断然楽しいものだ。
 傍目には変わらないだろう展開だろうけども当人にとっては地獄から天国、先輩が騒いでた時とオレが舐めてと言ったあとの今とでは、気分に大きく差が出てくるくらい居心地の良し悪しがまったく違うのである。
 性的嗜好は人それぞれだし、どんな趣向で興奮を覚えるかも人によって違うだろうから、なかなかお互いがまったく問題なく共に大満足なんてそううまくいくことなどそうそうないのだろう。
 オレとしても、勝手に咥えられてしまうよりも……自分もそういう気分になってから命令するみたにして咥えさす方がやっぱり……格段に気分はいいのである。 









END

 


 

●赤ブン同棲。アルコール摂取を堂々とさせてるので、これでも一応二十歳は超えてまっせ。

つか、日記に載せてたときよりも長くなり過ぎた!!加え過ぎ!!

加えると言えば、したくなったら言葉で『しようぜぃ』とか言うよりもいっそ自分勝手に咥えてしまうといい、ブンちゃんという子は。イメージっつうか、有島の中では彼は衝動的な子だと思ってます。
うんうん。思い立ったら考えるよりも先にカラダが動いてそうなんだもん。いや、動く子であってくれ。

赤ブンて、付き合いが長くなればなるだけ赤也が苦労させられてそう!

赤也はさ、襲われてばっかいるといいよ。攻めなのにブンちゃんに襲われることが多いの。

エッチの誘いとかはブンちゃんからのが多いってのが理想だ。
色気とかムードもなく、ストレートに押し倒したり、キスとかねだったりとかして赤也の不意をついて迫るブンちゃんが好きなのか、攻めなくせして迫られてたじたじな赤也が好きなのか、どっちなのかもうわかんないけど、とにかく、ブンちゃんに振り回されていながらも愛し合ってんじゃ〜ん、な、展開になる赤ブンならそれでいいよ。

でもエッチって気分はとっても重要よ。赤也ってなんかそういう細かいとこにこだわりそうだ。あはは。

ムードに酔いそうなのも赤也だしな。

でもブンちゃんにムード作ってから迫れって言っても無理そうだ。
『女じゃあるまいし、んな細かいとこまで気なんか使えるか』…ブンブンに言わてそうだな、赤也。

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