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 昼過ぎから降り出し始めた雨は、結局部活が終わった今もまだ変わらずに降り続いている。
 梅雨でもあるまいにこんなに長々と降るなんてのはこの月にしたら珍しいことだろう。
 さあ、これは困った。
 生憎と置き傘なんてものはないし、用意もしてきてはいない。
 今日はこのまま濡れて帰るしかないのか。

 「日吉?」
 
 雨の降る中へと駆け出すかと思い立ったそのすぐ直後に背後より声が掛かった。
 鳳である。わざわざ振り返ってやるまでもない。
 どうやらまだヤツも帰ってはいなかったらしい。
 それにしてもこんな場面で遭遇してしまうなんてあまりにも運が無さ過ぎる。

 「もしかして傘持ってきてないの?」
 「うるせえな。いちいち構ってくんな」
 「置き傘もないの?」
 「構うなって言ってんのがわかんねえのかよ」
 「べつに構ってるつもりないよ。世間話っての? そういうのをしてるつもりなんだけど」
 「だったらルセエよ。いいから放っといてさっさと帰ってくれ」
 「結局は傘、ないんだろ? 途中まで入ってく? タクシー拾えるまで付き合うよ?」
 「スルーしてんじゃねえよ。よくないけどイ・ヤだね。お前と並んで歩くなんて冗談じゃねえ」
 「イヤって俺がこのまま帰っちゃったら日吉濡れちゃうよ? 車を拾うとこまで付き合ってやるよ」
 
 優しいのは素なのだとわかっても、今の日吉には素直に頷くことが出来ない。躊躇いと意地とがごちゃまぜになったような感情が沸いていて、とても素直に首を縦に振るなんて仕種は出来はしない。
 本音を言えばそりゃあ誘ってもらえて嬉しいものがある。
 気にも掛けてもらえずに『お先に』なんて言われなくてよかったとほっともしている。
 だけどそう思う一方で性分ってやつなのか片意地ってヤツが張ってきてしまうのだ。
 素直にありがとうなんてとてもじゃないが恥かしいものがあって日吉には言いにくい言葉だ。
 それでなくとも日頃から鳳には苦手意識なんてものを持ちながら接しているのだ。
 親切で言ってくれたのだとしても、なんだか難題を吹っかけられたみたいで、むらむらと面白くなく思う気持ちが燃え上がってきてしまうのだ。

 心の中では喜んでいたってそれを口に出して表すとなったら話はまた別なのである。

 

 

 

 


END
(06.07.16)


 

日吉→鳳ちっくに。

鳳はまだ気付いてませんよ。なのにカレは日吉をかまってくれます。これは痛い!
へたに優しくされると無性にイラつくじゃありませんか、まさに鳳はザクザクと心を突付いてくれそうで日吉がかわいそうになってきます。

つか、日吉の気持ちを知っててしばらく様子を見てひとり楽しくやりそうだね、うちの鳳は。つか、そんな鳳に紙テープ投げますよ有島は。

いやがらせではなくて、応援の意味でね。ふふ。

不憫が似合うんだなぁ日吉って。

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