■2021年12月号

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バイオジャーナル

アルゼンチン、世界で初めてGM小麦を承認

10月8日、アルゼンチンは世界で初めて遺伝子組み換え小麦を承認したと、同国農業省の国家科学技術研究会議(CONICET)が発表した。アルゼンチンの小麦生産高は世界4位で影響は大きい。この小麦は、干ばつ耐性と除草剤耐性の2つの性質を持つ「HB4」で、アルゼンチンのバイオ企業ビオセレス・クロップ・ソリューション社と、CONICET、国立リトラル大学が共同で開発した。使用される除草剤はグルホシネートで、農家は環境や人体への汚染の拡大を懸念している。また農家や環境保護団体、消費者団体は反対運動を進めており、その対象はアルゼンチンの国民的な菓子「アルファホール」である。ビオセレス社が菓子メーカーアバナの「アルファホール」へのGM小麦使用を明らかにしているからである。
このGM小麦栽培の前提として必要だったのが、隣国ブラジルでの承認だった。アルゼンチンで生産される小麦の45%がブラジルに輸出されるためである。今年5月にはアルゼンチンの駐ブラジル大使がブラジルとの交渉を進めていると発言し、承認に向けた交渉が進行していた。同時にアルゼンチンでの栽培も進められていた。11月11日、ブラジル政府・国家バイオセーフティ技術委員会(CTNBio)がこの小麦の輸入を承認した。すでにアルゼンチンでは5万5000ヘクタールもの広大な農地でGM小麦は栽培されている。〔Reuters 2021/11/11ほか〕

世界的にはゲノム編集小麦の開発も進んでおり、小麦を軸に遺伝子操作作物の開発は進行していくことになりそうだ。ゲノム編集小麦では、中国でいち早く開発された除草剤耐性小麦がある。華中農業大学によって開発され、スルホニルウレア系、イミダゾリノン、アリルオキシフェノキシ・プロピオン酸系の除草剤に耐性をもつ。中国にはスイス・シンジェンタ社を買収した中国化工集団公司があり、同社との関係の濃い開発とみられる。その他にも、収量増小麦をコルテバ・アグリサイエンス社が開発している。さらに高食物繊維小麦、うどん粉病抵抗性小麦を、米国のベンチャー企業カリクスト社が開発している。
日本では、岡山大学の研究チームが、種子休眠性遺伝子を操作して、種子の休眠期間を長くして、種子が雨などにぬれても発芽し難くした小麦を開発し、11月中旬から岡山・倉敷にある同大学試験圃場で栽培試験を開始した。
英国でもローザムステッド研究所で栽培試験が始まっている。この小麦は、パンが焦げたときに生じる、がんを引き起こすとされるアクリルアミドが低減するよう、アスパラギンを減らしているという。このように、現在ゲノム編集小麦の開発合戦が起きている。