■2003年10月号

今月の潮流
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バイオジャーナル

ニュース


●海外事情
EU、遺伝子組み換え作物栽培指針決まる

 欧州議会の新しい遺伝子組み換え作物表示規則(前号参照)が、7月22日発効した。それを受けて、モラトリアム状態がつづいていたGM作物の承認作業が再開された。さらに翌23日には、EUの行政機関である欧州委員会が、GM作物を栽培する際の指針を発表した。
 遺伝子汚染を避けるため、GM作付け農地と他の作付け農地の間に、一定の距離を定めたり、木を植えて緩衝地帯を設けること。生産者間で情報を共有して、花粉飛散の異なる作物を植える、などがあげられている。
 この指針に基づき各国で検討が始まり、栽培のルールがつくられる。

米国司法省、DNAデータベース法を提案

 米国司法省が秘密裏に起草した「2003年国内安全保障強化法」(通称、第2パトリオット法)に、テロ容疑者のDNA情報のデータベース作成を認める「2003年テロリスト識別データベース法」が含まれていることが明らかになった。これに対し、警察が強制的に中東系や政治活動家の人々からサンプルを採取する可能性があるとして、米国民の間に不安が広がっている。もしこれが成立すれば、司法長官は「テロ活動の発見、捜査、訴追、予防、対応」を目的として、裁判所の命令なしにDNAサンプルを収集する権限を得ることになる。サンプルの提供を拒否した人には、最高20万ドルの罰金と最高1年の拘禁
刑という重罰が科せられる。 〔Wired News 2003/8/13〕

ヴァチカン評議会がGM容認

 ヴァチカン教皇庁では、評議会が、「世界の飢餓を救う」ためとして、遺伝子組み換え作物を支持する方針を発表した。法王は、現在、評議会の提案を受け入れるか否か検討中で、今秋にも見解を発表する。
 同評議会会長レナート・マルティーノは、「飢餓の解決のために科学の進歩を支持する」と述べている。〔Crosswalk.com 2003/8/13〕

●遺伝子組み換え作物
ブラジルでモンサントのGM大豆容認へ

 ブラジルでは、1998年に遺伝子組み換え作物の栽培と販売が認められた。しかし、栽培が始まる直前の2000年に、消費者団体と環境保護団体が差止め訴訟を起こし、栽培と販売の禁止状態がつづいてきた。その後、アルゼンチンから違法な形で種子が流入し、実質的に栽培は進行した。
 連邦裁判所の差し止め訴訟において、3人の判事のうちの1人が、このたび禁止措置の解除を命令した。この命令を受け、確定判決が出るまでGM大豆の禁止措置は一時解除される。ただし他の2人の判事の判断しだいで、禁止措置が復活する可能性もある。
 ブラジルでは非GM大豆のヨーロッパなどへの輸入量が増えていただけに、政府や生産者の対応が注目されている。 〔ロイター 2003/8/12〕

北米でのGM小麦をめぐる動き

 本年3月、米国小麦協会東京事務所は「除草剤耐性小麦を日本に輸出すると、米国農産物のボイコット運動に発展するかもしれない」という報告を本国に送った。〔日本農業新聞 2003/8/24〕
 米国バーモント州でシェア50%を超える製粉企業King Arthur Flour が、「GM小麦の導入に反対する」声明を出すことを明らかにした。
 カナダではGMナタネの導入によって、遺伝子汚染が拡大し、ヨーロッパ市場を失うなど、生産農家にダメージが広がったことから、農業団体・穀物業界団体などの間でGM小麦に反対する動きが活発になっている。

除草剤ラウンドアップは小麦の大敵?

 現在カナダでは、モンサント社が申請した除草剤耐性小麦(ラウンドアップレディ小麦)の審査の最中だが、除草剤ラウンドアップの主成分であるグリホサートが、小麦に赤カビ病原菌を増殖させることが報告された。
 半乾燥平原農業研究センターのミリアム・フェルナンデスは、グリホサートを撒くと小麦のフザリウム穂枯れ病の被害が拡大することに注目して実験を行った。グリホサートを加えた培地では、赤カビ病原菌の生長が早まることが確認された。同研究は、来春にも正式に発表される。 〔New Scientist 2003/8/14〕


バイオ作物懇話会の活動その後

 前号で報告した茨城県谷和原村につづき、岐阜県瑞穂市、滋賀県中主町でも、バイオ作物懇話会によってGM大豆が作付けされていた。瑞穂市の場合、県の要請で8月2日に自主的に刈り取った。中主町の場合は、8月16日に地元のJAおうみ冨士が自主的な刈り取りを要請、拒否した場合は中主町の農作物を扱わない決定を下し、その後、県の要請で20日に刈り取った。また、前日の19日には、国松善次知事が滋賀県ではGM作物を栽培できないよう指針をつくることを表明した。

表1 バイオ作物懇話会の栽培実績
2001年 2002年 2003年

山形県藤島町 10 北海道北見市  100 茨城県谷和原村 20

長野県穂高町 10 茨城県谷和原村 10 岐阜県瑞穂市  20

新潟県柏崎市 10 茨城県新利根町 10 滋賀県中主町  20

新潟県越路町 10 福井県福井市  10

富山県下村  10 滋賀県高月町  20

福井県武生町 10 鳥取県鹿野町  10

石川県松任市 10

福岡県大川市 10

宮崎県宮崎市 10

注:単位はアール(=100u)

●遺伝子組み換え食品
GM納豆、販売延期

 元北海道大学教授の冨田房男らが設立したベンチャー企業A-HIT Bioは、モンサント社のラウンドアップレディ大豆を95%以上原料にした「納豆のススメ」という納豆を、7月から通信販売を始める予定だった。しかし、消費者の抵抗が強いことから納豆メーカーが製造を拒否したため、急遽自ら製造することになった。〔日経バイオテク 2003/9/1ほか〕


●政府動向
30万人遺伝子バンク計画に倫理委員会発足


 8月5日、文科省が200億円の予算を投じて進めるビッグプロジェクト「30万人遺伝子バンク計画」のなかに、倫理的・法的・社会的問題について検討するELSIワーキンググループが発足した。メンバーは、加藤和人(京大人文科学研究所助教授)、菱山豊(政策研究大学院大学教授)、丸山英二(神戸大学大学院法学研究科教授)、宮田満(日経BP社先端技術情報センター長)、武藤香織(信州大学医学部保健学科講師)の計5名。グループ立ち上げ直後の8日には、協力医療機関の一つである日大松戸歯学部付
属歯科病院における、学内倫理委員会の手続き不備に対する提言を行った。
 このグループがまず検討すべきは、なんの国民的な議論もなく、総合科学技術会議と文科省との密談によって決定したプロジェクトの成り立ちであろう。