■2025年10月号

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バイオジャーナル

不耕起乾田直播推進の意図はどこにあるのか

 

稲作の水田離れが進められている。農水省は2025年のコメ騒動を利用して、農家を応援するのではなく、乾田と呼ばれる水を張らない田んぼでの大規模栽培と、植物工場での稲作を進めている。いずれも農家ではなく企業による工業的な稲作を目指したものである。乾田稲作で最も多いのが不耕起乾田直播である。不耕起とは文字通り耕さないことで、水を張らない田んぼに直接種子を播く稲作である。

牛丼の松屋チェーンを運営している松屋フーズは2025年7月17日、ベンチャー企業のニューグリーン社、芙蓉総合リースと組んで、乾田に直接、水稲用の種子を播き、灌水をしないでコメ作りを行なう、と発表した。その際にバイオスティミュラントを活用するという。バイオスティミュラントに関しては、農水省が5月30日に表示等の指針を策定し、消費・安全局名で公表したばかりだ。バイオスティミュラントとは、土壌が持つ機能を補助する資材のことで、今後、バイオテクノロジーの応用が進む分野と見られている。農薬メーカーの住友化学も、9月25日に行なった経営戦略説明会で、バイオスティミュラントに力を入れると発表しており、今後この分野での開発合戦が進みそうである。 ニューグリーン社は、「アイガモロボ」と呼ばれる水田の雑草抑制のための自走式ロボットを開発しており、その実証試験は千葉県木更津市で行われる。

農水省は9月に「田植え不要の米づくりコンソーシアム」を開催し、マスメディアも乾田直播方式を持ち上げている。水田ではなく畑に種子を播くこの作付けの最大の弱点が連作障害である。通常の水田への作付けでは連作障害は起こらない。だからこそ延々1000年以上も稲作が続いてきたのである。この毎年おコメが収穫できない問題をどう克服するのか。農水省は2年間で3作物の作付けを推奨している。まず稲を植え、収穫後に小麦を作付けし、翌春の小麦収穫後は大豆を栽培するというものである。2年間で稲・小麦・大豆を順番に作り続けるのである。
2000年に入ったころ、不耕起乾田直播を大規模に取り入れようとして、注目されたことがある。この方式を用いた、米国モンサント社(現在の独バイエル社)が開発した遺伝子組み換え稲の試験栽培が行われたのだ。この除草剤耐性稲「ラウンドアップレディ(RR)ライス」は、除草剤ラウンドアップ(主成分グリホサート)に抵抗力を持たせ、枯れないようにしたものである。最初、カリフォルニア米(インディカ米)で開発が進められていた。しかし、アジアへ売り込むために、日本の愛知県総合農業試験場と共同で開発を進めることになった。

愛知県と組んだ理由は、除草剤ラウンドアップは水での分解が早く、効力を発揮できない。いってみれば水田では使い物にならなかった。しかし、水田で使えなければアジアへ売り込むことはできない。そこで注目されたのが「愛知方式」だった。水を張らない不耕起乾田直播の愛知方式ではラウンドアップが使えるからである。愛知で試験栽培したのは、ジャポニカ米の「祭り晴」という品種だった。 この試験栽培に対して消費者を中心に反対運動が広がり署名が集められ、約58万筆に達する個人署名が愛知県知事と愛知県農業総合試験場に提出された。それを受けて愛知県は2002年12月12日、正式にモンサント社との共同研究を終了した。こうしてモンサント社の「祭り晴」を用いた除草剤耐性稲の開発は頓挫したのである。
しかし、この方式が再び注目を集めている。日本政府はいま、土地を集約して大規模化し、ドローンやロボット、AIなどを駆使して自動化で行う方式を取り入れようとしている。経営主体は農家ではなく企業にゆだね、そこで進められている農業が不耕起乾田直播である。除草剤耐性稲を導入する好機がやってきたともいえる。