ソルトレークのスキー場 (その1) (その2)
ソルトレークのスキー場(その2)
「スノーバード」
アメリカのスキー場で最も印象に残っているスキー場を一つ選べといわれたら、迷わず「スノーバード」を選ぶ。スキー場の規模や快適さで考えると「パークシティ(ソルトレーク)」や「ベイル(コロラド)」といった、ここより快適なスキー場はいくらもあるが、いかにもアメリカらしいという点ではここが一番だと思う。
スノーバードは、ソルトレークから車で1時間弱の位置にあり、隣の「アルタ」と頂上でつながっている。ソルトレークから州間高速I-15で15分ほど南下し、そこから、向きを東にかえると山登りが始まる。この山脈はロッキー山脈から分岐した山脈で、ソルトレークの東側に屏風のようにそびえたつ。
てしばらく山道を登ると右手の方に「スノーバード」が見えてくる。麓に「クリフホテル」という有名なホテルがあり、そこからトラム(ロープウェイ)で頂上まで上がる。スノーバードは下から見ると苗場に近い感じがする。この道をさらに登ると、「アルタ」に到着する。夏は山を越えてパークシティまで抜けることが出来るが、冬季はここが終点となる。
アメリカの車は、基本装備として年間を通じてフォーシーズンタイヤと言われるタイヤを利用している。このタイヤの性能は日本のスノータイヤ並で、ちょっとした雪なら走ることが可能だが、スタッドレスタイヤのような性能ははないので、下が凍結したりするとかなりあぶない状態となる。幸いなことに、アメリカのメインの道路は融雪剤を使って下のアスファルトが見えるまで除雪しているし、私はスピードを出す方ではないのであまり危ない目にあったことはないが、それでも時々ブレーキをかけた時にABSのお世話になったり、停止位置で止まれなかったり、横滑りを経験したりする。
なぜ「スノーバード」を最もアメリカらしいスキー場かと言うと、正面にそびえる、崖なのかコースなのか判らないようなダイナミックなコースにある。このスキー場のコースガイドを見ると、中央の尾根に沿って、標高2000mのホテルの前から標高3353mのヒドンピークまで上るトラムがスキー場を二分する。この右側にはリフトが5本かかかっている一般的なスキー場だが、左側は下から三分の一のところまで上るリフトが1本ある以外は全くリフトがない。何があるかと言うと、そこには真っ白な大斜面が広がる。この大斜面には、大斜面をS字に横切る圧雪車が圧雪した中級コースがあるだけで、後はアメリカで最も良い雪質といわれるパウダースノーコースが広がる。
このコースを滑るためには、まずはトラムで麓から頂上に上がる。トラムは途中で森林限界を超え、ごつごつした岩場に建てられた支柱を通過しながら真っ白くそびえる大斜面を望む。大斜面を越えると、トラムを動かすための大きなプーリー以外は何もない山頂駅に到着する。山頂駅という建物がないので、トラムが降りていくと、雪山に取り残されたような錯覚におちいる。この山頂から左手(下から見た場合の右手)の方には、リフトがかかったコースが広がる。これに対して、ロープウェイから右手(下から見た左)を望むと、ほとんど人造物のない大斜面が広がる。大斜面を大きく迂回する中級コースがあるが、それ以外は自然そのもので、特にロープウェイ降り場からまっすぐ下に下りると、ところどころに岩がそびえる斜度30度を超える急斜面が待ち構える。私がスノーバードへ言ったのは、3月の中旬で、次の日にいった「パークシティ」では雪質が悪かったという印象が残っているが、さすがにこのロープウェイ降り場あたりは雪もかるく、深雪とコブが混じったようなコースは、見た目よりは楽に滑ることが出来た。途中の岩場を小回りターンでスピードをコントロールしながらコースを選んで滑り降りる。ロープウエィは満員だったが、この大斜面を降りている人は少なく、コースの途中で立ち止まると、大自然の中に一人でいるような錯覚に陥る。
岩場の下の急斜面を乗り切ると迂回コースに合流する。標高が高いために空気がうすくすぐに息がきれる。再び中級コースと別れまっすぐにトラム乗り場に向かって滑ると、徐々に木々が増え雪質が重くなり、左側の斜面にかかる唯一のリフトの降り場に到着する。ここから下は針葉樹の間に作られた林間コースとなり雪はかなり重くなる。
行ったのが10年前の話ということもあるが、自然との調和を重んじているためか、トラム以外のリフトは固定式のペアリフトが中心で、右側のコースだけであれば、ローカルっぽい印象のスキー場となる。斜面に対するリフト密度が低いので、リフト5本といってもエリアの広さは相当なものだが、それでもこの程度のコースなら日本でも滑ることは出来ると思う。しかし、あのトラムの左側に広がる大斜面を超える斜面は他のどこでも経験できないと思う。
その3へ続く