クリスマスの変

クリスマス………キリストの降誕を記念する祝祭。一二月二五日に行なわれる。北ヨーロッパの冬至の祭りと融合したものといわれる。現在では、親しい者とパーティー等をして過ごすのが一般的である。



@ティニアの場合

 目前に立っている大きな物を、ティニアは不思議そうに見上げる。
 自分の身長の5倍以上はある大きな樹に色々な飾りが飾られ、それを電飾が覆っている。
 生まれて初めて見る”クリスマスツリー”に、ティニアは見とれていた。

「大きい方がキレイか?」
「うん」

 ジュースの入ったグラスを手渡しつつ聞いてきたDBに頷きながら、ティニアはじっとツリーを眺めている。

「よお、DB、お前がこういうとこに来るなんて珍しいな。楽しんでるか?」
「それなりにな」

 二人の側を通りすがったハンターに適当に応えつつ、DBはグラスを傾ける。
 ダビアホテル・大ホールを借り切って行われるハンターギルド主催の大クリスマス・パーティーはハンター達が心待ちにする、一大イベントだった。
 普段はそういうイベントに顔を出さないDBだが、ティニアが興味を持ったようなので随伴の形で訪れていた。

「メリ〜クリスマス〜!はいこれ〜」

 通りすがった露出度高めのサンタ衣装に身を包んだギルドの受付嬢が、ティニアの頭に赤地のトンガリの先に白い飾りが付いたサンタ帽を被せる。
 一度それを手にとってしげしげと見たティニアが、気に入ったのか再度それを被って笑みを浮かべた。

『さ〜て、いよいよ大詰め!特賞のダビアホテルロイヤルハイスィートルームの宿泊権は誰の手に渡るのか〜!!』

 ホールの壇上には、大クリスマスパーティ恒例ロシアンルーレット大会(使用するのはペンキ入りモデルガン)で、何か壮絶な気迫のこもったレイラがコメカミに銃口を当てている。
 しかし、トリガーを引くと同時に、彼女の顔面半分を緑のペンキが覆った。

『お〜っと残念!失格です!』
「…………うがあぁぁぁ〜〜〜!!」
「わ〜、誰か押さえろ!」
「二人っきりでロイヤルハイスィート〜!!」
「だからこの商品やめろって言ったんだ〜!」
「しゃんぎゃあああぁぁ!!」

「……やっぱりこうなったな」
「去年もか?」
「あん時はハイエル・パークのジュエリーネックだったな」

 全身を真っ赤な塗装にして頭にサンタ帽、背中に大きな袋を担いだダインが呆れた顔で壇上で暴れているレイラを見る。

「おっと、これプレゼント」
「?」

 ダインが背中の袋をまさぐり、そこからキレイにラッピングされてリボンの掛けられた大きな箱をティニアへと手渡す。
 ティニアがそれを開けると、中からはケープの付いた子供用コートが出てきた。

「……ありがとう」
「悪いな」
「いいって事よ。お前もちゃんと用意してんだろうな?」
「……まあ、一応は」

 はみかみながらコートを抱きしめるティニアの頭を撫でてやりながら、DBは自宅に置いてある小さなプレゼントの事を思い出す。

「おんぎゃああぁぁ!!」
「総員で取り掛かれ〜!」
「ダメだ!テクニックの使用許可を!」
「………止めてくる」
「オレも手伝おう」

 段々とケーキや七面鳥が飛び交う乱戦へと発展しつつある壇上に、DBがため息つきながら昇る。

 一時間後
 結局、お土産のケーキを渡されて会場から叩き出された一行は、ぶちぶちと文句を言いながら(レイラ一人がだが)、途中で買った酒や料理を持ってDBの部屋で小さなパーティーを行っていた。

「レイラ、お前来年からあれ出るな」
「いいじゃん!参加は自由なんだし!」
「出てもいいと思うが、暴れるのは問題だろ」
「うん」
「う…………」

 髪から生クリーム、服からローストチキンの匂いが漂っているレイラが、ティニアにまで指摘されて言葉に詰まる。

「うう、最後まで頑張ったのに………」
「中途半端な運に頼るからだ。時には諦めも重要だぞ」
「こいつがそんな器用な事出きる訳ないだろ?」
「もう飲んでやる〜〜!!」

 シャンペンをラッパ飲みし始めたレイラに、全員が呆れた視線を集中させていた…………
 なお、翌日ティニアが目覚めると、枕元で小さなツリー型のオルゴールが澄んだ音でクリスマスソングを奏でていた。


Aカチーヤ・音葉の場合

「……本当にここなんですか?」
「みたいだな」

 交換用のプレゼントを入れた包みを持ったカチーヤと八雲は、指定された場所に着いて唖然としていた。

「すごい高そうですね、ここ………」
「ヒィロホテルつったら、国内でもトップ10に入るホテルだからな〜。オレもこういうとこに私用で入んのは初めてだ」

 黒塗りのリムジンばかり玄関に来るのを唖然と見ていたカチーヤは、私服で来た事を後悔し始めていた。

「ホームパーティーって書いてましたよね………」
「そう書いてあるぞ」

 八雲が懐から届いた招待状(差出人は轟所長名義)を確認する。

「ちゃんと看板もあるし」

 玄関脇の予約看板に、”第1小ホール 葛葉興業ご一行様クリスマスパーティー”と書かれているのを見ながら、八雲は平然と回転ドアを潜る。

「あ、待ってください!」

 カチーヤも慌てて後に続き、中へと踏み入れて硬直する。
 どうみても一流(特に値段)の内装に引きながら、恐る恐るカウンターへと向かう。

「葛葉興業のパーティーに呼ばれたんだが」
「はい、小岩 八雲様にカチーヤ・音葉様ですね。承っております。向こうの通路の先が会場になっております。」

 招待状を渡されたカウンターがリストをチェックすると、案内役のボーイが恭しく一礼しながら会場へと先導する。

「こちらでございます」
「あんがと」
「どうも」

 会場内に一歩踏み入れた二人の耳に、大音量のカラオケが響き渡った。

「き〜〜ぃ〜よ〜ぉ〜し〜いいぃ〜〜〜こ〜〜おおぉ〜の〜〜〜よ〜〜ぉ〜る〜〜うぅ〜〜」
「こら!オレの途中だろうが!」
「うるせえ!こういうのはプロに任せとけって」

 パーティー会場の壇上では、コブの聞いた演歌調とリズムに乗ったラップ調のクリスマスソングを巡って、ブラウンとマークがマイクの奪い合いをしていた。

「あ、来た来た」
「もう始まってるんですか?」
「いんや、あの二人が勝手に始めてんの」

 手作りらしいカナッペを皿に盛っていたうららが、カチーヤを手招きする。

「勝手にやってりゃいいさ。パーティーなんざ皆で騒ぐモンだからな」
「そうりゃそうだ」

 すでにグラスに注いだワインを空けているパオフゥに、八雲も側のテーブルから持ってきたグラスに自分の分を注ぐ。

「飲み過ぎないでね、ったく…………」
「それ以前の問題じゃないか?」

 すでに会場内では用意された料理を食う者、仲魔を召還して一緒に騒ぐ者、赤をベースにしたクリスマス風メイド服を着て来たメアリとアリサにカメラを構えて群がる者、ラッパ飲み三本目に突入する者が混在していた。

「賑やかですね………」
「南条君が会場段取ってくれたから、もう呼べるだけ呼んだからね〜」
「楽しそうでいいだろ」
「ガルルルル!!」
「ニャアアアアァァァ!!」
「フウウゥゥゥ!!」
「ヒュウゥ!ヒュウゥ!」
 複数のサマナーが呼び出した仲魔達が会場中央にセットされている豚の丸焼きの奪い合いを始めたのを人事のように(ケルベロスとカーリーは八雲の仲魔)見ながら、八雲はカナッペに手を伸ばす。

「うん、うまい」
「そう?いっぱい作ってきたからカチーヤちゃんも食べて」
「それじゃ遠慮なく」

 カチーヤがカマンベールチーズとサラミのトッピングされたカナッペを口に運んだ所で、入り口の扉が開き、克哉が手製のケーキをワゴンに載せて運んできた。

「でか!!」
「昨日から10時間掛けて作ったらしいわよ」
「まあ、確かにあの大きさは………」

 デコレーション用のウェディングケーキのような大きさのタワー状のクリスマスケーキ(クリスマス・プディング、レアチーズ、チーズ、生クリーム、生チョコの五弾重ね)に、皆が一様に歓声を上げる。

「Oh、Great!」
「すげぇ!」
「あ、私チーズね♪」
「どうぞ、今切るから」

 克哉がナイフを手にしようとした時だった。

「待ちなさ〜い!」

 七面鳥の丸焼きを咥えて逃げるネコマタと、それを追うたまきが運悪くケーキを載せたワゴンに玉突き衝突を起こす。


「あ!」
「ああ!」
「あぶない!」
「何の!」

 とっさにそばにいたマキとゆきのが自らのペルソナで倒れようとするケーキを支える。
 ケーキの崩壊は免れたが、静止したケーキの上部にピクシーを中心とした飛行系の仲魔達が群がり、落下予想地点には大口開けた仲魔達がじっと待ち構えていた。

「こ、こらアンタら!」
「まずい!食われるぞ!」
「ならば先に食うのみ!」

 側のテーブルからフォークを引っつかみ、八雲がケーキへと突撃する。

「素風奇異図流奥義!卦益強奪ざ〜ん!」

 意味不明の技名を叫びつつ、八雲は腰からHVナイフを抜刀。ケーキを乗せている土台部分の柱を切り、上層部をひっさらう。

「でわ、いただきます!」
「ちゃんと分けろ!」

 ためらいなく手にしたケーキ(上層三段)にフォークを突き立てようとした八雲から克哉がケーキを取り戻すと、ワゴンに載せ直す。

「じゃあ順番に並んでくれ。まずはプディングから分けよう」
「全種類半ホールずつ」

 性懲りも無く列の一番前に並んだ八雲の首根っこをたまきとレイホウが引っつかみ、そのまま会場の隅へと連行する。

「ああ、誰が取り戻したと〜」
「少しは慎み深くなりなさい!」
「ちゃんと取っておいてあげるから」

 やたらと手際よく八雲を隅のイスに縛り上げると、そのまま放置しつつたまきとレイホウも皿を手に列へと並ぶ。

「あ、おいし〜」
「後でレシピ教えてもらおう♪」
「おかわり!」
「一人2ピースまでだ!」
「じゃあペルソナの分も!」
「済まないが、子供の土産にしたいんだが………」
「ああ、持って行きたまえ。鷹司君もだいぶ大きくなっただろう?」
「オレの分〜!!」
「はい」

 イスに縛り上げられた状態でどんどん減っていくケーキに漢泣き(演技率60%)していた八雲に、カチーヤが切り分けられたケーキを手渡す。

「うう、悪いな、カチーヤ」
「いいえ、八雲さんにはお世話になってますから」

 いつの間にか隠し持っていた隠しナイフで縄を切った八雲が、カチーヤから渡されたケーキを感涙しながら貪る。

「さて、お楽しみのプレゼント交換!みんな金目の物持ってきたかぁ〜?オレ様からは来年発売予定のブラウン流ギャグトーク満載CDを…」
『いらん!』


「あ〜食った食った」
「楽しかったですね」

 散々騒いだ後、用意された料理を完全に食い尽くして解散となったパーティー会場から、交換で手に入れたプレゼントを手に八雲とカチーヤは帰路へと着いていた。

「そういや、何当たったんだろ?」
「さあ、なんか結構軽いですけど」

 包装を解いてみると、カチーヤの貰ったプレゼントからは小さな銀のロザリオが出てきた。

「わあ……」
「あ。それオレが用意したプレゼントだ」
「八雲さんが?素敵ですね………」
「ちょっとした護符機能が付けてあるし、中央の飾りを押すと隠し刃が出てくるから護身用に最適だぞ」
「ありがとうございます、大事にしますね」
「そう……か……」

 自分の分の包装を解いた八雲の手が、小刻みに震える。
 中から出てきたのは、”ブラウン流!絶対零度ギャグ総行進!”と銘打たれたCDだった。

「あら………」
「……クリスマスの馬鹿野郎〜〜〜〜!!」

 八雲の絶叫を覆い隠すように、静かに雪が降り始めていた…………


Bミリア・マクセルの場合

「ただイま〜…………?」

 手にクリスマス用の食材を持ったミリィが、水沢家に帰ってきた所で妙に静かな事に気付いた。

「お帰り」
「あれ、ミンなは?」
「父さんと母さんは町内会の忘年会で温泉旅行、夢は友達の家で泊りがけのパーティーだそうだ」
「エ?」

 自室から出てきた練の言葉に、ミリィが硬直する。

「昨日までそンな事はヒトコトも…………」
「オレもさっき帰って来た時に聞かされた」
「そ、ソウ…………」

 内心の緊張を押し隠しつつ、ミリィは台所へと向かう。

(別にイブに二人っきりだからって、何か有る訳じゃないし………)

 友人から”日本でクリスマス・イブは恋人と二人っきりになって既成事実を作る日”と聞かされていたが、まず絶対にウソだろう、と思っている。

(どうせ、ケーキ食べたら部屋に篭って銃と刀でも磨いてるんだろうし…………)

 買ってきた食材を整理しようと冷蔵庫を開けた所で、ふと見覚えの無いボトルに気付いた。
 手にとって見ると、ちょっと高めのワインに小さなメッセージカードが付いている。

 頑張ってね? 夢

(何を!?)

 思わず声に出しそうになるが、押し留めてワインを再度冷蔵庫へと戻す。

(ま、まあワイン飲むくらいならいいかな?)

 内心の動揺を押さえつつ、ミリィはエプロンに手を伸ばして夕食の準備を始めた。


「メリークリスマス!元気でやってるか〜?」
「まあなんとかな」

 バイトなのか、サンタクロースの格好をして注文していたケーキの宅配に来た高校時代の同級生に、練は適当に応えながら代金を渡す。

「相変わらずミリィの奴困らせてんのか?」
「悪かったな」
「そう思うんなら、イブの夜くらい食事にでも誘ってやれ」
「そうだな、二人だけならそれでも良かったかもな?」
「…………え?」
「父さんと母さんは温泉旅行に行ったし、夢は友達の所でパーティーだと」

 それを聞いた同級生は、無言で予約者サービスのシャンメリーを引っ込めると、宅配車に戻って別のボトルを持ってきてそれを渡す。

「やる。オレからのサービスだ」
「いいのか?」

 渡されたスパークリングワインを手にした練に、同級生が別の物を練のポケットへとねじ込む。

「オマケだ。上手く使え」
「………何に使えと?」
「いいから」

 ポケットから取り出した物、未使用の目薬を手に練が同級生に冷めた視線を送るが、すでに同級生は踵を返した後だった。

「じゃあな、頑張れよ!」
「……何を」

 妙な笑みを残して去っていく宅配車を見送りつつ、練はケーキとスパークリングワインを手に台所へと向かう。

「あれ、シりあいでもキてたの?」
「同級生の立花だった。バイトでもしてたんだろ」
「フ〜ン」

 オーブンから程よく焼けたローストレッグを取り出し、ミリィがケーキとボトルを仕舞おうとしてそれがスパークリングワインである事に気付く。

「あれ、ワイン?」
「立花からのサービスだと」
「コッチにも一本………」
「どっちかだけ飲めばいいだろ。飲めないなら無理に飲むなよ」
「う、ウン………」

 ふと、冷蔵庫にあったワインのメッセージを思い出したミリィが、赤面しつつそれを振り払ってボトルを冷蔵庫に仕舞う。

「モウ直出きるカら」
「ああ」
(ムードの欠片も無いイブね………)

 素っ気無い練の態度にミリィはため息をつきつつ、棚から皿を取り出した。


「Merry X’mas!」
「陰陽師がクリスマス祝ってもな…………」

 練の冷め切った反応にクラッカーを鳴らした状態で硬直しているミリィの前で、練はコルク抜きでワインの栓を抜きに掛かる。
 しかし、コルク栓は途中でもげて栓は抜けずじまいに終わってしまう。

「ちっ………」
「Oh……」

 舌打ち一つした練は、用意してあった肉用のナイフを手に取ると、ワインボトルを手にナイフを横に一閃。
 栓の詰まっている部分をちょうど境に斬られたボトルの栓が、テーブルへと落ちた。

「まだまだだな」
「………どこガ?」

 真剣を用いても不可能な位の鋭利な切断面を見せるボトルから練が自分のグラスとミリィのグラスにワインを注ぐ。

「徳治なら斬っても小突かん限り落ちないんだけどな」
「でも、コレ栓出来なイわよ」
「全部飲めばいい。ワインは栓開けたらすぐ飲まないと酸化する」
「飲み過ぎナイでネ」
「これ位じゃなんともない。乾杯」

 二つのグラスが、澄んだ音を立てる。

「結構いける、この鶏」
「ホント?ちょっとショーユ使ってみたノ」
「ただ、こっちの海苔巻はなんで牛肉とケチャップが巻いてある?」
「USA風ニ…………」
「ハンバーガーじゃないんだから」
「結構オイシイけど?」
「渡米経験無い奴には食わすなよ。特に師匠には」
「ウ〜〜ん……」

 二人っきりという割にはいまいちムードに欠けたまま、用意された料理は減っていき、杯が重ねられる。

「ミリィ、それで何杯目だ?」
「エ?」

 ふと、いつの間にかワインが二本とも空になっているのにようやく気付いたミリィが、手にしたグラスが何杯目だったかを思い出そうとするが、思考にモヤが掛かって思い出せず、そのままそれを一気に開ける。

『コレ、オイシイ』
『酔ってるだろ、完全に』

 母国語の英語ですらろれつが回らなくなっているミリィが、いきなり練の手からグラスを奪うと、それも一気に飲み干す。

『アト、無い?』
『無い、オマケに飲み過ぎだ。弱いくせに………』
『ソ、じゃあ後片付けを………』

 肉用のナイフの刃の方を掴もうとしたミリィの手を、練が掴んで辞めさせる。

『あ、ソンナいきなり……』
『酔いを覚ましてからやればいいから、取りあえず休め』
『レン優しい〜』

 完全に酔って抱きついてくるミリィを介抱しながら、練が仕方なしにミリィを彼女の部屋へと運ぶ。

『今晩はもう寝ろ。そんなんじゃ……』
『レン…………』

 ベッドにミリィを寝かしつけようとした所で、いきなりミリィが練を引きずり込む。

『……オイ』
『レン、好き」
『……酔い過ぎだろ』
『本気よ……』
『状況を考えろ……』
『いいの………』

 練の顔をミリィは引き寄せると、その唇に自らのを強く押し当てた………


 
(ん…………)

 軽い頭痛を覚えながら、ミリィはまどろみから目覚める。

(えっと………)

 何かの違和感を覚えながら、枕元の眼鏡を掛けつつミリィは寝るまでの行動を思い出そうとする。

「目が覚めたか?」
「!!」

 至近距離からの練の声に、ミリィの意識が一気に覚醒した。

『な、何でレンがアタシのベッドに!?』
『よって人の事を引きずり込んだのを覚えてないのか?』
『ア………』

 途切れ途切れながらも、昨夜の記憶がミリィの脳裏にフラッシュバックする。

(あたし、酔ってレンに告白して、キスして、それから………)

 赤面しながら昨夜の行動を思い出した所で、ふと服を一切脱いでいない事に気付いた。

『アレ?昨夜………』
『一晩中人を抱きしめて放さなかったろうが。オレじゃなかったら何されてたか分からないぞ』
『それって……………』
『安心しろ、何もしてない』

 言い切った所で、練の顔面に枕が直撃する。

『馬鹿!!』
「だから何もしてないって………」
『馬鹿馬鹿、馬鹿〜!!』

 英語で怒鳴りつつ、ミリィが練の顔面を枕で連続して叩く。

「何もしてないのに、何で叩かれる?」
『何もしてないからよ!』

 そこで、ミリィが目に涙を溜めている事に練は気付いた。

『あたしが、今までずっとどんな思いで一緒に暮らしてたか、気付いてもいないの!』
「落ち着け、一度」

 その言葉に、攻撃を止めたミリィは練をきつく睨みつける。
 そして、いきなり練の顔を掴むと、その唇に自分のを強く押し付けた。
 耳まで赤くなりながら、窒息寸前までそれを続けたミリィが、ゆっくりと唇を離す。

「まだ、酔ってるのか?」
「酔ってないワ………」

 涙で潤んだ瞳で、ミリィは練の目を見た。

「レン、好き。大好き。誰よりモ、一番好キ」
「……本気か?」
「ウン………」

 もう一度、今度は優しく唇を重ねる。

「分かッて……くレた?」
「…………いいのか、オレで」
「レンだから…………いいの」

 ゆっくりと練の体を抱きしめながら、ミリィはベッドへと倒れ込む。

「来テ………」
「オレなんか選んだら、何回泣くか分からないぞ………」
「覚悟してルから……でモ、程ほどにネ……」
「ああ………」

 ゆっくりと、力を込めて、練はミリィの体を抱き締めた……………





 聖夜、あなたは誰と、どんな夜を過ごしますか?………… 


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