第二次スーパーロボッコ大戦
EP02



太正十八年 帝都東京 大帝国劇場

「なるほど、巫女としての役割と併用するため、演劇を行う、か。かつてウィッチにもそういう者達がいたらしいが」
「世界規模で侵略者との戦争か………こちらも下手したらそうなっていた可能性もあるな」

 打ち上げのご馳走が振る舞われる中、美緒と大神は真剣な顔で互いの状況を確認していた。

「似て非なる世界とは言った物ね。そちらの方が深刻みたいなようだけれど」
「いや、まだマシなようだ。前に一緒に戦った者達の中には、世界地図その物が変わってしまうような激戦をしていた者達もいた」
「それって一体………」
「あの〜」

 琴音とかえでも真剣な顔で話を聞く中、同席していた静夏が恐る恐る手を上げる。

「どうした服部?」
「私達、こんな事していてよろしいのでしょうか?」
「これなかなか美味しいデ〜ス」
「そっちの回して〜」
「それあたいが狙っていたの!」
「本場物のコカコオラなんてどこから?」
「はいはい皆慌てないで」

 取り敢えず危険は無いと判断した華撃団、ウィッチ双方が先程の緊迫感と裏腹に、打ち上げを楽しんでいた。
 そう言う静夏の手にもジュースの入ったグラスが、目の前には打ち上げ用の料理が分けておかれ、のみならず、先程から転移ゲートの向こうからウィッチ候補生達が急遽用意した料理やお菓子を持ち込んでいた。

「問題はそこだ。前は跳ばされたらすぐに戦闘に巻き込まれたが、こちらだと今の所その様子は無い」
「帝都は平和その物だ。異常はどこからも報告されてない」
「いえ、そうじゃなくて…」
「まあまあ、難しい事はこちらに任せて、貴女は楽しみなさい」

 口ごもる静夏に、琴音が強引に盛り上がってる華撃団の方へと静夏を押し出す。

「はあ………」
「お〜い、早く食わねえと無くなっちまうぞ〜」
「追加作ってきます?」

 盛り上がってる者達を横目で見ながら、琴音が真剣な顔をする。

「坂本少佐、ひとつ聞きたい事があるわ」
「何だ」
「大神司令にも聞くけど、これと似たような事が前にもあったのね? 一つ聞くけど、それってどれくらいの規模だったのかしら?」
「規模?」
「私達見たの。あれはエジプトにクレオパトラの美容法を調べに行った時の事よ」
「そんな所まで行ってたの………」

 かえでの呆れた声に構わず、琴音は続ける。

「砂漠を移動してた時よ。突然の事だったわ。いきなりすごい霧が立ち込めたかと思ったら、凄まじい突風が吹き荒れたの。何が何だか分からないで皆で抱き合ってたら、すぐに収まったわ。そしたら、目の前にとんでもない物が広がっていたわ」
「………何があったんです」
「海よ。砂漠のど真ん中に、明らかに潮の匂いのする巨大な水たまりと、そこで跳ねてる海のお魚がいたわ」
「琴音さん達が急遽帰国した理由って、それですか………」
「帰路を急ぐ中、私達独自に調べたの。他にも世界のあちこちで、急に何かが現れたり、消えたりする現象が起きてたわ」
「………海か。それなら前に見た事が有る。もっとも、一緒に来たのは巨大なエビのような敵だったが」
「待って! それじゃあ、同じ事がここでも起きるって事!?」

 美緒の返答に、かえでが慌てる。

「いや、あの時は戦闘の最中に、敵側が増援として呼び寄せた物らしい。何もなくただ海だけというのは妙な話だ」
「いや、確かあちこちの世界の物が跳ばされてくるのはオレも見た。魔界だの宇宙を行く船なんて所に跳ばされた事もあったし」
「宇宙を行く船なら私も乗ったぞ。共に戦いもしたし」
「………何か、私達が見たのが急にせせこましく感じてきたわ」
「私には何が何やら………」

 大神と美緒の説明に、琴音とかえでは思わずため息をもらす。

「だが、ここで何かが起きようとしている、という可能性は高いだろう。こちらでかもしれんが」
「う〜ん」

 美緒の指摘に、大神は思わず唸りを上げる。
 その場の雰囲気を、別の声が遮った。

「ねえねえお姉ちゃん、もう一回耳と尻尾だして♪」
「あの、みだりに魔法力を発動させる物では………」
「私も見てみたいデ〜ス」
「さ、坂本教官………」

 アイリスと織姫にねだられ、静夏がすがるような目を美緒に向けるが、美緒はしばし考えてから手を打つ。

「構わんぞ。そうだ、どうせならストライカーユニットを持ってこい。こちらの手を見せておく必要がある」
「いいんですか?」
「必要がある、と言ったぞ」

 その言葉の意味する事に、聡い者達は気付いた。

「紅蘭」
「なんでっか大神はん」
「後で彼女達に格納庫を案内して、霊子甲冑の説明を頼む」
「構わへんけど、部外者によろしいんでっか?」
「恐らく、部外者でいるのは今だけだと思うから」
『!』

 大神の一言に、他の者達も薄々気づき始める。
 何かが起きようとしている事に。

「もう直、こちらの専門家が到着する。詳しい事はその後でだな」
「専門家?」
「宮藤 一郎博士、我々の使うストライカーユニットの開発者で、一時別の世界で研究を進めていた事もある人物だ。恐らくこの転移ホールの事も何か分かるかもしれない」
「そんな人が………」
「彼以外には何も分からない、というのも事実だがな。もっとそちら方面が分かる者達が来れば話は別だが」
「それって、貴方達以外にも誰か来るかもしれない、って事かしら?」
「かもしれない、だがな。顔見知りか話の分かる相手だといいのだが………会ってすぐ交戦しかけた例もあるらしい」
「あまり不安な事は聞かない方がいいわね」

 琴音とかえでが不安要素が増えていくのを感じながら、手にしたコップの中身を飲み干す。

「教官、ストライカーユニット持ってきました」
「そうか。余興がてら、見せておいた方がいいだろう。どこか、人目に付かずにそれなりの飛行スペースが取れそうな場所があるといいのだが………」
「飛行スペースって、それで飛ぶのか?」
「へ〜」

 静夏が持ってきた、レシプロ機の尾翼を小型化したような、左右一対のストライカーユニットに、華撃団の面々が興味津々といった顔で見つめてくる。

「人目に付かなくて、飛ぶ位広いスペース………」
「轟雷号の発射スペースなんてどうや? 仕組みは調べてみないとようか分からへんけど、これが飛ぶ位の広さはあるやろ」
「面白そうデ〜ス」
「じゃあ皆で移動しましょう」

 マリアの先導で、皆が食いかけの料理を手にぞろぞろと地下へと移動していく。
 移動しながら、その先々に広がる帝国華撃団の設備に美緒と静夏は目を見張る。

「これはすごい物だな」
「帝都防衛の重要施設だもの。本来は関係者以外は立ち入り禁止なのだけど」
「あの、よろしいのでしょうか?」
「そちらの話が本当なら、むしろ見てもらっておいた方がいいだろう」

 繁々と設備の数々を見る美緒に、かえでが説明するのを静夏はどこか恐縮していたが、大神はむしろ積極的に見せていた。
 やがて一行は地下に広がる、巨大な転車台の広がる空間へと辿り着く。

「ここは?」
「帝国華撃団の出撃用蒸気列車、轟雷号の出撃場所よ」
「なるほど、あれがそうか」

 転輪台の向こう、大型の蒸気機関車が鎮座しているのを見た美緒が、その分を含めた距離を目算する。

「向こうのトンネルのような物は?」
「各方面に繋がる大型垂直トンネルになってるわ」
「それなら都合がいい。正面の扉を開けておいてくれ。服部、ストライカーユニットを装備して起動、訓練の成果を見せてみろ」
「はい!」

 静夏は轟雷号の隣にまで下がると、そこで魔法力を発動させながらストライカーユニットを装着。
 ストライカーユニットの下部にエーテルプロペラが発生し、やや前傾体勢のまま滑走を始める。

「お、動いた!」
「へ〜、おもしろ〜い!」

 皆が興味深々で見つめる中、静夏は滑空を続け、垂直トンネルへと飛び込むと同時に、上昇していく。

「本当に飛んでますよ、大神さん!」
「すご〜い!」
「確かにこれは一見の価値はある」
「なるほど、これが…」
「ああ、これがウイッチだ」

 巨大な垂直トンネルの中、自在に飛んでみせる静夏に皆が喝采を上げる。

「ようし服部、そろそろ戻れ」
「はい!」

 美緒の指示で静夏が速度を落としながら戻り、ゆっくりと着地する。
 そこで皆の拍手が出迎えた。

「すごいすごい!」
「面白い物見せてもらったぜ」
「動力はどうなってるんやろ?」
「面白そうデ〜ス」

 皆が囃し立てるのを、静夏は少し気恥ずかしそうにしながらストライカーユニットを外す。

「なるほど、これは………」

 簡易計測装置を持ち込んできていた紅蘭が、計測したデータを興味深そうに解析していく。

「詳しいデータが知りたいのなら、宮藤博士に聞くといい。正直、ストライカーユニットの中身の事までは私には分からなくてな」
「ええんか? これホンマ面白いわ」
「そろそろ来てもいいはずなのだが…」
『一郎ちゃ〜ん、宮藤博士と名乗る人が来たわよ〜娘さんも一緒に〜』

 美緒が紅蘭に助言をしていた所で、留守番で残っていた斧彦からの施設内通信が響いてくる。

「お、宮藤も来たのか」
「宮藤博士の娘って、宮藤 芳佳少尉の事ですか!?」

 その通信に、ストライカーユニットを抱えた静夏が一番過敏に反応する。

「少尉? 博士の娘さんも軍人なんか?」
「ああ、私の元部下で、多少軍人としては問題な所もあるが、優秀なウィッチだった」
「……だった?」
「ウィッチは二十歳を超えた頃から魔力が減退するが、私はその時期に無茶をし過ぎてな。結果、それに彼女を巻き込み、彼女のウィッチとしての力まで失わせてしまった。私の現役時代の一番の失態だ」
「そんな事あったんですか………」
「宮藤 芳佳少尉といえば、501統合戦闘航空団でガリア方面及びヴェネチア方面でのネウロイ殲滅に多大な貢献をした、すごく優秀なウィッチだって坂本教官から聞いてます!」
「ほ〜、そりゃすげえ」
「人事じゃないわね。こちらでも長期に渡って霊子甲冑に乗っていると、霊力が低下するわ。紐育でも似たような件で負傷者が出たそうだし」
「どこの世界も似たような事をしてる、とは前に共に戦った指揮官が言ってた台詞だが、その通りのようだな」

 興奮している静夏の説明に、華撃団の隊員達は相槌を打ちながらも、元いた倉庫へと戻っていく。
 室内に入ると、そこには転移ゲートを計測している白衣姿でメガネをかけた男性と、菊之丞が入れたお茶を手にしている小柄な少女の姿があった。

「坂本さん! これって!」
「やあ坂本君か、少し待っててくれ」

 お茶を手に興奮している少女、芳佳と淡々と計測を続ける男性、宮藤 一郎博士が美緒を見てある意味真逆の反応をした。

「急な呼び出しですいません、宮藤博士」
「いや、これを調査出来る人は他にいないだろうからね。それに気になる事が幾つもある」
「宮藤博士ですか? 自分は帝国華撃団司令、大神 一郎です」
「宮藤 一郎だ、くしくも同じ名前だね」
「ええ」

 思わず微笑む二人の一郎だったが、そこで双方の顔が険しくなる。

「それで、このクロスゲートの事は何か分かりますか?」
「そちらだとそう呼んでるらしいね。まだ詳細は分からない。だが………」

 そう言いながらも、宮藤博士は持参したらしいノートに、ある数式を書いていく。

「それは………似たようなの見た事あるで。確か聖魔城が出現した時の観測データや」
「分かるのかい? それじゃあそっちでも計算をお願いしていいかな?」
「お任せや! 蒸気演算器にかけてみるで」

 宮藤博士から数式を受け取った紅蘭が、急いで蒸気演算器の方へと向かっていく。

「こっちは土方君だったか、彼に大本営に持って行ってもらって向こうで計算するしかないな」
「すぐに手配しよう」
「………多分、とんでもない数値が出てくるはずだ」
「それは、どういう事?」

 宮藤博士の言葉に、かえでが首を傾げる。

「本来、異なる世界と繋がる程の次元湾曲には、膨大なエネルギーが必要になるんです。幾ら小さいとはいえ、それが常時?がっているとなると、どれ程のエネルギーが必要になるか、見当もつかない………」
「そんなに………」
「もう一つ、坂本少佐は敵襲の可能性が有ると言ってたが、宮藤博士の見解は?」
「………偶発的にゲートが発生したとは思えない。引き起こした要因が必ずあるはずだ」
「そして、?がっているのはウィッチ養成学校と帝国華撃団の秘密基地、露骨としか言えないだろう」

 大神の問いに宮藤博士は少し言葉を濁すが、美緒はむしろ断言する。

「それって、戦闘が起こるって事ですか!?」
「その可能性は高い、という事ね」

 芳佳が思わず声を荒げるが、マリアは冷静に判断する。

「私、治療道具揃えてきます!」
「あ、宮藤少尉!」
「服部、お前も基地に戻って兵装を準備してこい。それと土方に基地内の警戒体勢を維持、ただし長期化の可能性があるので交代制にせよと伝えてきてくれ」
「了解です。坂本教官」
「皆、疲れてる所悪いが、帝国華撃団、準戦闘態勢! 出撃に備えよ!」
『了解!』

 芳佳が何故かお茶片手にゲートへと飛び込んでいき、服部が慌てて後を追う。
 大神の号令に、華撃団全員が復唱した。

「済まないが、こちらの装備を見せてもらいたいのだが」
「案内するわ、紅蘭がいたらよかったんだけど」
「こちらも動かせるウィッチを集めておこう。ただ訓練生で使えそうなのは服部くらいだし、腕利きは全員海外に行ってるから、どれほど集まるか………本土防衛部隊を動かせるよう掛け合うか?」

 そう言った美緒の脳裏に、前に共に戦った仲間達の事が思い起こされる。

「彼女達は、今どうしているかな………」



AD2085 追浜基地跡地

「観測班、到着しました!」
「情報封鎖、完了しています」
「周辺封鎖、完了!」

 かつて、追浜基地があったはずの場所に、軍とGの人員が入り乱れ、厳重な封鎖網がしかれていた。
 突如として起きた転移現象は、表向きは突風事故として公表され、Gと委託を受けた人類統合軍情報部による厳重な情報封鎖が行われていた。

「見事なまでに、何も残ってないわね………」

 その場に降り立ったエリューが、各種施設どころか滑走路の跡すら残ってない状況に、ため息を漏らす。

「スカイガールズの皆、大丈夫かな………」

 亜乃亜がぽつりと呟き、エリューは表情を曇らせる。

「ちょっと待ってて。今オペレッタと合同で転移先を割り出してるわ。すぐに迎えに行けるよ!」

 マドカがGの観測班と一緒に、集められるだけのデータを集め、転移先の特定を行おうと必死になっていた。

「………跳ばされた、誰かに」

 それを手伝っていたティタの一言に、全員の視線が集中する。

「誰かって、誰!? まさかまた…」
「違う、何か。後は分からない」

 声を荒らげる亜乃亜だったが、ティタは極めて端的な説明のみをして作業を続行していた。
 そこへ、一騎のRVが来たかと思うと、着地してそれからメガネをかけたどこか大人びた少女が降り立つ。

「トゥイー先輩!」「リーダー!」
「待たせたわね皆」

 その少女、グラデゥス学園ユニットリーダー、ジオール・トゥイーの姿に、亜乃亜とエリューが思わず駆け寄る。

「今状況観測中です。転移先の特定はまだ…」
「そう、いいニュースと悪いニュースの二つを持ってきたわ」
「え!?」

 マドカの報告を聞きながら、ジオールの告げた言葉に亜乃亜が興味を持つ。

「いいニュースは、転移されたはずの人間が一部見つかったわ。ここから然程離れてない場所に、半ば放置されてたみたい。全員気絶してたけど、無事だそうよ。ただ、彼女達はその中に含まれてないみたい」
「そうですか………」
「で、悪いニュースは?」

 ジオールのニュースに亜乃亜は肩を落とすが、エリューはもう一つの方に興味を持っていた。

「転移現象が起きたのは、ここだけじゃないわ」

 そう言いながら、ジオールは一枚の写真を差し出す。
 それを受け取ったエリューと亜乃亜はそれを覗き込み、同時に首を傾げた。

「あの、これどこですか?」
「軍病院の一つ、アイーシャの病室だった場所よ」
『!?』

 ジオールの一言に、二人は再度写真を凝視する。
 そこに写っていたのは、全く何も無い、まるで造られたばかりのような室内の様子だった。

「じゃあ、アイーシャも!」
「周王博士も、ね。一緒にいた医療スタッフ二名は、先程の見つかった人達と同じ場所で発見されたわ」
「そんな………」

 予想以上に悪いニュースに、亜乃亜は愕然とする。

「アイーシャも気付いてた。多分一番の狙いはアイーシャ」
「どういう事?」
「ティタは、誰かが狙って転移現象を起こしたらしいって言ってる。確かに、偶発的にこんな綺麗に跳ばされるはずないし」
「それに、人員も選抜されてるわ。転移させられたのは前回攻龍に乗っていた人達と、ソニックダイバーレスキュー隊候補生の人達。露骨過ぎると言ってもいいくらいね」
「早く見つけないと! 音羽ちゃん達、絶対苦労してる!」
「次元歪曲から転移座標割り出せればいいんだけど、どうにもGの思いっきり管轄外に転移してるみたい………」

 皆が焦りを覚える中、ただ時間だけが過ぎていく。
 いつでも後を追って転移出来るよう、自機のビックバイパーの準備だけはしながら、亜乃亜がまんじりと待っていた所で、ふと騒がしい声に気付く。
 現場を封鎖している軍人やGの関係者と口論しているらしい声に聞き覚えが有った亜乃亜が、何気にそちらへと向ってみた。

「だから、関係者だって言ってるだろうが! それに保護者に何の情報も無いってのはどういう事だ!?」
「せめて、安否だけでも教えて下さい。なんで家族にまで知らされてないんですか?」

 封鎖用に緊急で張られたシートの影から、ちらりとそちらを見た亜乃亜が、押し問答している初老の男性と、スーツ姿の若い男性の二人を見つける。
 初老の男性の方に見覚えが有った亜乃亜は、思わず声を上げた。

「おやっさん!?」
「ん? 亜乃亜の嬢ちゃんか! エリーゼは今どこにいるんだ!? こいつら何も教えてくれねえんだ!」

 その初老の男性がかつてのソニックダイバー隊旗艦、攻龍の料理長・源だった事に亜乃亜は驚くが、源は亜乃亜に思わず詰め寄る。

「え〜と、何て言えば………」
「どうした!? エリーゼは無事かどうかって聞いてるだけだぞ?」
「こちらも聞きたい。妹は、可憐はどうなっているんだ?」

 もう一人、スーツ姿の男性の言葉に、それが可憐から聞いていた彼女の兄だと悟った亜乃亜が、更に言葉を詰まらせる。

(ど、どうしよう………おやっさんはともかく、可憐ちゃんのお兄さんに何て説明すれば………)

 焦りまくる亜乃亜に、可憐の兄はしばし考えてから、予想外の言葉を口にする。

「ひょっとして君は、Gの人間かな?」
『!?』

 突如として出た言葉に、亜乃亜だけでなく源も驚く。

「あんた、どこでそれを………まさか可憐か?」
「いや、妹は何も。けど、これだけ完璧な情報操作を出来る組織に心当たりがあってね。
建築業界で、たまに妙な依頼が来る事がある。緊急で倒壊家屋の解体・補修が来るが、依頼主は不明。相場以上の代金は振り込まれるが、その送付元も不明、ただ作業内容は完全機密扱い、そして作業に当たった人間は、奇妙な物を見る事も多い、ってね。
それがGと呼ばれる組織からの依頼だって噂を聞いた事が有っただけで」
「引っ掛けやがったか。どうするよ?」
「う〜ん、可憐ちゃんのお兄さんなら、大丈夫かな?」
「ちょっと亜乃亜、何を………って源さん?」
「お、エリューも来てたのか。エリーゼの保護者として聞かせてもらう。今、この中はどうなっている?」
「………そちらは?」
「可憐ちゃんのお兄さん。Gの事聞いた事はあるって………」
「………一切口外しないと言うなら、中へ」

 しばし考えたエリューだったが、思い切って二人を中へと招く。
 シートを潜った二人は、その先に何も無い事に絶句する。

「お、おい! 追浜基地はどこ行った!?」
「施設だけでなく、滑走路まで消えている………こんな事が………」
「消えたんです。基地も、ソニックダイバー隊も、突然に」
「おい、それってまさか、前みたいにどっか別の世界に行ったって事か!?」
「別の世界?」
「一般的にはパラレルワールド、Gではメガバースと呼ばれている物です。そのメガバースに改変を加えるために襲撃してくるバクテリアンに対抗するために設立された秘密時空組織、それがGです」
「ま、待ってくれ。急にそんな事言われても…」
「私も、こことは違う世界から来ました。今から半年程前、ワームとの最終作戦が発動する直前、ソニックダイバー隊、G、他にも幾つもの組織と世界を掛けた戦いが有りました。何か可憐さんから聞いてませんか?」
「そういえば、変わった友達が出来たとは言ってたが………」
「恐らく、その時の事が何か関係してると思われます。消失したのは、ソニックダイバー隊本拠地であるこの追浜基地、そしてソニックダイバーの関係者のみです。現在、Gが転移先を鋭意捜索中です」
「………どうにも、信じらないな」
「安心しな、こっちも今だあん時の事は信じられねえ。だが、ここは任すしかないって事位は分かる」
「しかし………」

 エリューの一般常識の外にある説明に、可憐の兄は口ごもり、源も顔つきを険しくする。

「その異世界とやらに、仲間になってくれる奴が居る事を祈るしかねえな」
「いるんですか、そういう人達が」
「前はそうだった。次もそうだといいんだが………」
「仲間、か………」

 文字通り祈るしかない状況に、二人が表情を暗くしかけた時だった。

「時空振動確認!」
「空間歪曲発生! 次元転移発生!」
「この数値、間違いなく違う次元から…」

 突如としてGの観測班が口々に観測機が感知した異常データを報告し、マドカがどこか違う世界からの転移が起こると確信した時だった。

「え………」
「おい、こいつは!」

 突然その場にいる者達の中央に、直径2m程の黒い渦のような物が出現する。
 それこそが、かつて数多の世界に招いた転移ゲートだと知っている者達が一斉に警戒するが、そこから何かが出てくる前に、行動を起こした者がいた。

「えい!」
「亜乃亜!?」

 ためらいもなく、亜乃亜が転移ホールに首を突っ込む。
 予想外の行動に、誰もが絶句するしかなかった。



AD2301 香坂財団 超銀河研究所

「システム、オールグリーン」
「エネルギーバイパス、導通確認」
「ジェネレーター、出力20%」

 厳重なシールドが複層に施されたラボの一つで、文字通り世界を変える実験が始まろうとしていた。

「理論は完璧、システムも一から再構築した。セキュリティも万全、これなら!」

 何人もの科学者達が準備を進める中、その場で最年少ながら、実験の指揮を取るメガネを掛けた三つ編みの少女が入念にチェックをしていた。
 その科学者達からシールド一枚挟んだ向こう、実験の監視所から三人の女性がその様子を観察していた。

「今更だけど、本当に大丈夫なの?」

 三人の一人、長い銀髪のドイツ系少女、リアことリーアベルト・フォン・ノイエンシュタインが不安を口にする。

「理論構築と演算には銀河最高のハイベタコンピューターで何度も試算しましたし、システム構築とセキュリティには念には念を入れましたわ。万が一の備えもしてますし」

 栗色の髪の少女、この実験のスポンサーで銀河最大財閥の香坂財団の令嬢、香坂 エリカが胸を張って断言する。

「チルダで使用されていた転移プログラムも流用しています。実験その物は成功する可能性は高いはず」

 最後の一人、幾分他の二人よりは年かさに見える赤髪の女性、実体は局地戦闘用少女型兵器トリガーハート・《TH32 CRUELTEAR》が成功率の高さを肯定する。

「問題は、どこに繋がるか、ね」
「Gの次元間転移データがあればよかったんだけど、機械化惑星に残ってるのは最低限のだけのようでしたから」
「データの流出を危険視したのでしょう。あながち間違ってはいません」
「さすがに、あんな大きいのもう一個作るわけにもいけないしね………」

 今ここで行われてようとしている実験、半年前の戦闘の際、相次いだ異世界への次元間転移技術の実用化実験に、三人はそれぞれ違う感慨を抱いていた。

「今回はあくまで小型の転移ホールの精製ですし、観察ポッドを送るだけですから、問題は無いでしょう」
「こちらの準備も万端です。カルナ」
『はい、観測体勢準備完了、エグゼリカ、フェインティアも準待機状態です』

 非常事態に備えて、クルエルティアが待機させている自分達の母艦、カルナダインのAI・カルナと連絡を取る。

「鬼が出るか蛇が出るか、と言った所かしらね」
「この実験が成功すれば、香坂財団の異世界進出という大目標の大いなる一歩となりますわ」
「侵略じゃなくて進出というのが気になりますが」

 クルエルティアが今まで経験してきた中でもまず無かった、異世界への商業的進出目的の転移実験に、微妙な顔をする。

「ひょっとしたら、貴女達トリガーハートの世界に繋がるかもしれませんわよ?」
「それは、ひょっとして程度でも構いません。エグゼリカもフェインティアも、この世界が気に入ってるようですし、お父さんもよくしてくれます」
「本当に馴染んだわね、貴女達………」
『そろそろ始めます』

 指揮を取っていた少女、教養のエミリーことエミリア・フェアチャイルドが実験開始を告げる。

「始まるわよ」

 リアの一言に、その場に緊張が走った。

同時刻 超銀河研究所接続ポート カルナダイン艦内

「始まるってさ」
「あ、はい」

 ブリッジで送られてくる映像を見ていたオレンジ色の髪の少女、TH44 FAINTEARが、ブリッジの一角で作業していたすみれ色の髪に童顔の少女、TH60 EXELICAに声を掛ける。
 作業の手を止めたエグゼリカに、フェインティアが何気に作業の内容を見て顔をしかめる。

「そういや、レポートの期限明日だっけ………」
「ええ、もう終わる所だけど」
「全く、舞の奴授業適当なのに、きっちり宿題だけは出すのよね〜」
「学校では徳大寺先生、でしょ」

 前回の戦いの後、地球で私立白丘台女子高等学校の学生としての生活を始めたエグゼリカとフェインティア(※クルエルティアは大学部)だったが、今は転移実験の際の不足の事態に備え、アルバイト警備員として待機していた。

『装置起動、ジェネレーター出力上昇中』
「都合よくチルダにでも繋がってくれないかしらね〜」
「ここも結構いい所だよ、フェインティアだって馴染んできたし」
「それは認めるけどね………トリガーハートが三人そろって学生やってるなんて、チルダの連中が聞いたら何て思うのやら」
『空間歪曲発生、これなら無事転移ホールが精製出来そうです』
「いきなり妙なの出てきたりしないでしょうね?」
「それに備えて私達がここにいるんだし、姉さんが向こうで監視してるから大丈夫」

 カルナからの報告を聞きながら、フェインティアが怪訝な顔をしていたが、やがて映像に映る転移装置の中央、あまりいい思い出のない転移ホールの黒い渦が精製される。

『実験は成功したみたいです』
「問題はどこに?がっているかね」
「案外、顔見知りの人がいるかしれま…」

 エグゼリカの言葉が終わるより早く、転移ホールの中からいきなり少女の生首が飛び出す。

『………え?』



「あの〜、ちょっと聞きたいんですけど、スカイガールズこっち来てません?」

 転移ホールの安定と同時に、観察ポッドを送るはずが、いきなり出てきた少女の生首に科学者達が仰天する。

「あら? あの人………」

 その少女に見覚えがあったエリカが首を傾げるが、クルエルティアとリアは慌てて観察室から実験室へと飛び込んでいく。

「ひょっとして、亜乃亜さん!?」
「じゃあこの先は、貴女達の世界!?」
「あ! クルエルティアさんと、………どちら様でしたっけ?」

 見覚えの有る顔に亜乃亜が声を上げるが、ふとリアの顔を見て首を傾げる。
 数秒間リアは考え、徐ろにポケットを弄ってポリリーナマスクを取り出し、装着する。

「ポリリーナさんじゃないですか! ここ、ユナさん達の世界なんですか!?」
「ええ、そうよ」(私、これで覚えられてる?)

 リアが少し顔を引き攣らせるが、それよりも気になる事が有った。

「亜乃亜、さっきスカイガールズがいないかって聞いたわね?」
「そうなんですよ! 音羽ちゃん達、基地ごとどっかに跳ばされちゃったんです!」
「それは本当!?」
「ちょっと亜乃亜……あら?」
「エリューも!」

 亜乃亜を追って思わず転移ホールに首を突っ込んだエリューも、その向こう側にいる見覚えの有る顔達に驚く。

「あの、この転移ホールは…」
「こちらの実験よ。エミリー、ホールを安定させて常時接続!」
「今やってます!」
「エグゼリカ、フェインティア!」
『聞いてました!』『今随伴艦とリンク中!』
「実験段階をフェーズ1から3に上げます! 至急調査隊を組織なさい! 全責任は私がどうにかしますわ!」

 亜乃亜からもたらされたソニックダイバー隊消失の情報に、一気に研究所内が各所で忙しくなる。

「また始まるって言うの? 新たな戦いが………」

 自らも準備をするべく、一度実験室から出ようとしたリアが、ふと転移ホールを見ながら呟いた………



太正十六年 帝都東京 大帝国劇場

「これが帝国華撃団の主戦力、霊子甲冑《光武二式》です」
「ほう、これは………」

 かえでの案内で格納庫に案内された宮藤博士と美緒は、そこに鎮座する大型の搭乗型装備に感心していた。

「なるほど、完全に内部搭乗型か。まさしく甲冑だな」
「かつてストライカーユニット開発の黎明期の資料に、これによく似た物を見た事がある。もっとも出力的問題で試作機が何機か造られただけだったはずだ」
「なるほど、似て非なる世界ってそういう事もあるのね」
「ああ、前の場合、私の部下だった者の子孫まで出てきたくらいだ」
「え?」
「正確にはクロステルマン君のパラレル存在の子孫だったけどね」
「つまり、似て非なる同一人物、という事かしら?」
「そういう事になるらしい。案外こちらとそちらにもいるかもしれんぞ」
「………?」

 自分で言いながらも今一理解出来ないかえでに、美緒は笑いながらその事を思い出していた。

「ふむ、基礎システムもストライカーユニットに酷似してる。ひょっとしたらウィッチでも動かせるかもしれないな」
「それは、逆に華撃団の子達もストライカーユニットを使える、という事になるわね」
「互換性があるのは戦場では重要だが、慣れない装備は危険だ。ましてや、陸戦と空戦では運用方が違い過ぎる」
「それは一理ありまんな。自力で空飛べたら面白そうやけど」

 そこに、レポートを覗き込みながら紅蘭が姿を見せる。

「後でウチもストライカーユニットの詳細、教えてもらってよろしか?」
「もちろんだよ、技術的に近いなら、双方技術交換はしておいた方がいい」
「おおきに、それと………」

 宮藤博士に礼を言うと、紅蘭が難しい顔をしてレポートを睨む。

「宮藤博士、あの計算式、本当にあってるんか?」
「簡易計測と概算からだから、精密とは言いかねるが、大体は有っているはずだ」
「………さいでっか」
「どうしたの?」
「これがホンマなら、あの奇妙な渦にミカサの主蒸気機関を全開で回した以上の動力が必要な事になるんや………」
「それ本当!? 帝都一つをまるまるまかなえる蒸気機関よ!」
「やはり、そうなるか………そしてそれは、今尚消費され続けている………」

 転移ホール一つに、都市一つ分のエネルギーを食い続けている現状に、宮藤博士の表情も険しくなる。

「あんな小さな渦に、それだけの動力が必要とは………」
「正直、どうやって発生しているのかは見当もつかない。前回は一瞬だけだったから、何とかなっていたんだろうが………」
「そちらの調査も必要ね………」

 次々湧き上がる謎に皆が腕組みして唸っていた時だった。
 突然、格納庫内に警報が響き渡る。

「何事!?」
『ミカサ記念公園上空にて異常事態発生! 花組は至急司令室へ! 繰り返します、ミカサ記念公園上空にて異常事態発生! 花組は…』
「………始まったか」

 警報と共に響く報告に、美緒は手にした愛刀の柄を強く握り締めた………





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