第二次スーパーロボッコ大戦
EP11



「う〜ん………」

 ふらつく頭を振って、少年は目を開ける。

「えと、オレは………」

 どちらかと言えば穏やかな顔立ちをした少年、織斑 一夏はどこか混乱する中、何をしていたかを思い出す。

(そうだ、オレは箒に誘われて早朝訓練を…)

 同級生で幼なじみと共に、訓練をしていた事を思い出した一夏は、自分の手を見る。
 その手のみならず、彼の全身は白を基調にしたパワードスーツで覆われていた。
《インフィニット・ストラトス》、通称ISと呼ばれる飛行パワードスーツ、本来なら女性しか扱えないはずのそれを、何故か唯一動かせる男性として、IS操縦者育成を目的としたこのIS学園に在学していた彼だったが、そこである事に気付く。

「む〜〜〜!」

 何らかの理由で地面に尻もちを付いていた一夏だったが、その腹の辺りに何かもがく存在がいた。

「………何だこれ?」

 最初に目に入ってきたのは、何か尖った金属質の物体だった。
 しかもそれがゆっくりとだが、回っている。

「ドリル?」
「むが〜〜〜!」

 更にそこで、ドリルの下から小さな手足がもがいている事にようやく気付き、それがドリルのような物を被った人影だという事に思考が辿り着く。

「え、と………」
「ぶはぁ!」

 ようやく、一夏の腹でもがいていた人影が顔を起こす。
 それは金髪碧眼、それでいてかなり小柄な少女だった。

「ちょっとあんた! 危ないでしょ! 何でいきなり出てくるの!」
「え? え?」

 金髪でドリルを被った少女が、顔を上げるなり顔を荒げる。

「オレには何がどうなってんだか………」
「何って、私が練習中にいきなり前に出てきて邪魔したんでしょ! 串刺しになっても知らないんだから!」

 そこまで言われ、一夏は改めて少女をよく見る。
 少女の体は各所プロテクターのような物に覆われ、その右手には明らかに武器と思われる巨大なドリルが握られていた。

「IS、じゃない?」
「パンツァー見た事ないの? そっちこそ何よそのゴツいの?」
「これはオレ専用ISの《白式》だ。そちらは…」
「一夏!」「どりす! 周り見ろ周り!」

 こちらに掛けられた声に、二人は同時に振り向く。
 声の先には長い黒髪を持ち、赤いISをまとった少女と、プロテクターをまとった褐色の肌の少女がいた。

「周り?」
「それが…」

 一夏とどりすという名らしい少女が同時にそれぞれ左右別方向を見る。
 そして同時に凍りついた。

「な………」
「え………」

 それは、自分達が先程までいたはずの練習場と、そうでない物が入り混じった奇怪な空間だった。

「ここは…」「どこ〜!?」

 二人が同時に発した問は、その後幾つも響く事となっていった………



「つ、何が起きた!」
「わ、分かりません! 急に霧が起きて、そこから竜巻が…」
「そこまでは覚えているのですけど」

 学園の管制室で、ちょっとした作業をしていた者達が、情報をまとめようとして違和感に気付いた。

「誰だお前!? この学園は関係者以外立ち入り禁止だぞ!」
「いつの間に!?」
「それはこちらもなのですが………」

 スーツ姿に鋭い目つきをした女性、IS学園教師にして一夏の姉の織斑 千冬と、メガネをかけた温厚そうな顔をした女性、千冬の同僚の山田 真耶が、先程までいなかったはずのロングヘアーでメガネをかけたおだやかな女性に思わす声を掛ける。

「織斑先生! これ!」
「な、これは………どうなっている!?」

 真耶がふと管制室の画面に映る光景に異常が起きている事に気付く。

「し、周辺が360°全部海に!? しかも見た事の無い建物が混ざっています!」
「何だと!?」
「あの、これはこちらの学校の建物ですね」
「それって………」
「間違いありませんわ。これは私がいた東方帝都学園の一部です。あら、申し遅れました、私は東方帝都学園特別講師の、瑠璃堂どりあと申します」
「………IS学園教師一年一組担任の織斑 千冬だ」
「同じく、副担任の山田 真耶です」

 慌てた様子がほとんど見られないどりあに違和感を覚えつつ、千冬はどりあが差し出した手を握る。

(あら、この人………)
(かなり、出来る………)

 一瞬で互いに只者ではないと判断したどりあと千冬だったが、今はそれよりも優先事項が幾つもあった。

「山田先生、生徒の安全確認を」
「はい!」
「何故かは分かりませんけど、お互いの学校がいきなり合併したみたいですわね」
「………普通は物理的に合併はせんがな」
「それはそうですけれど」
「IS学園の生徒は全員無事を確認しました! けれど、所属不明の反応が多数!」
「多分それはこちらの生徒だと思いますわ。ざっと見ですけれど、建物が一部だけという事は、総数はそれ程多くないはず………」
「双方合わせての総数は?」
「双方合わせては………823人!?」
「………本校全生徒教員の倍になってるな」
「あら、こちらの一部だけで済んでますわ。もしこちらの全部だったら、桁が一つ上がってますし」
「………何が一体どうなっているんだ?」
「さあ………」
「取り敢えず………」



「成る程、ISという特殊兵器操縦者の方々専門の学校なんですのね」
「ああ、そちらはそのパンツァー専門という訳でないのだな?」
「ええ、多く在籍はしてるのですけれど」

 取り敢えず、無事だった食堂(※ただしこちらも合併して巨大化)で朝食を取りながら、どりあと千冬は双方の事情を確認していた。

「ともあれ、ここが無事だったのは不幸中の幸いだったな」
「食事が取れなくなるのは、一番の問題ですし」
「おそらく今朝用の調理済み料理は揃ってましたけど、厨房には誰もいませんでしたね」
「一体、どういう基準で人がここに来てるんでしょうか?」
「さあな。何がどうなっているのかはさっぱり分からん」
「お互い、霧の竜巻に飲み込まれたという所までは一致してますが、それが何だったのか………」
「攻撃、というのも変だな」
「何か狙いがあるのは…」
「何ですって〜〜!!」

 そこで、食器が転がる音と共に大きな怒声が鳴り響く。
 二人が振り向くと、そこには小さな体で仁王立ちするどりすと、その前で慌てている一夏の姿が有った。

「いやすまん、別に悪く言うつもりは…」
「言った! 今絶対言った!」

 一夏が謝るが、どりすは構わず声を荒げる。

「何をしている一夏」
「あらあら、どうしたのどりすちゃん」
「千冬姉………」「どりあお姉さま」

 近寄ってきた千冬とどりあに、一夏とどりすが双方姉の姿を確認する。

「あら、弟さん?」
「ああ、そちらは妹か。で、何がどうなっている?」
「こいつがパンツァーの事を馬鹿にした!」
「オレは、簡易的なISみたいかなって言っただけで………」
「また言った!!」

 明らかに一夏の失言と、必要以上に騒ぎ立てるどりすに千冬はため息をもらす。

「落ち着けどりす」
「だってねじる!」

 どりすの後ろから、同じ練習場にいた褐色の肌の少女、我王 ねじるが肩を掴んでどりすを諌める。

「馬鹿にはしてないと思うぜ。ただ、下には見られてるな」

 どりすを止めつつ、ねじる自身も鋭い殺気を一夏へと向ける。

「いや、あの…」
「焦るな一夏、中学生相手に」

 一夏が焦る中、同じく練習場にいた黒髪の少女、篠ノ之 箒が落ち着くよう促すが、その一言が火に更なる油を注いだ。

「中学生だから下ってのか?」
「いや、年下相手にムキになる必要は…」
「聞き捨てなりませんわね」
「どういう意味かしら?」

 気付くと、双方の背後にそれぞれの学園の生徒が集まり、にらみ合いが始まっていた。

(これ、ひょっとしてオレが原因?)

 双方殺気を飛ばし始めた所で、一夏が更に焦る。
 必死になって打開策を思案する一夏だったが、そこで小さく手を打つ音が響いた。

「それじゃ、戦ってみましょう」
『え?』

 どりあの予想外の一言に、全員が絶句するしかなかった。



『皆さん、お待たせしました! 何故か突然に物理的合併をしてしまった東方帝都学園とIS学園! 何が起きているか全く分かりませんが、片やパンツァー、片やIS、似て非なる二つの存在が、今ここでぶつかろうとしています!』

 東方帝都学園のパンツァー闘技場、IS学園のアリーナと融合して若干設備が混じっているが、システム自体には異常が無かったため、急遽生徒達はそこに招集され、これから始める試合を前に歓声が上がっていた。

『実況はこの私、東方帝都学園一年80組・報道部所属 銀乃つばさ、解説は』
『IS学園一年一組副担任、山田 真耶がお届けします』
『それでは、簡単に説明を。パンツァーとは各自の能力が具現化した能力(アビリティ)を素材とした鎧(重甲)をまとい、武器(ツール)を使い闘う特殊能力者の事を言います。東方帝都では10人に1人がパンツァーである程一般化しており、当学園にも多くのパンツァー達がパンツァーリーグで日々ランキングを競い合っております!』
『次はこちら、ISは天才科学者、篠ノ之 束博士が開発した、開発された宇宙空間での活動を想定して作られたマルチフォーム・スーツですが、その驚異的な性能により兵器転用されましたが、国際条約により現在はスポーツとして扱われております!』
『画して、この似てるようで違う二者ですが、試合の基本ルールは一緒、相手を攻撃してエネルギーゲージをゼロにした方が勝ち! 極めてシンプルです!』
『今回は互いの性能差を考慮し、若干のルール改定が行われております』
『ルールはパンツァーバトルを基準とし、三分間2セット、間に一分のブレイクが入ります! 相手をダウン出来ない場合はポイント勝負、また今回は特別ルールとして、ISの飛行は許可されますが、一定以上相手から距離を取るのはルール違反、一回で警告、二回で減点、三回で試合放棄と見なされ失格となりますので、注意してください!』
『また、今回は双方の交流も目的となるため、チームでの星取り戦形式となります』
『それでは双方、そろそろ出場選手が決まった模様です!』


「なんか、妙な事になったような………」
「だが口論するよりは建設的かもしれん」

 ISチーム控室で一夏が引きつった顔をするが、箒はむしろ嬉々とする。
 そしてその二人を中心に、一年生の専用機持ちの生徒達が集結していた。

「それで、誰が出るの?」

 やるき満々の小柄なおさげの中華系少女、一夏のセカンド幼馴染で中国代表候補生の凰 鈴音(ファン リンイン)が拳を手のひらに叩きつける。

「五人となると、二人余りますわ」

 長い金髪で碧眼、そして上品な仕草のイギリス代表候補生、セシリア・オルコットがその場にいる者を見回し、指折り数える。

「原因の一夏は当然として、あと四人か………」

 僅かに伸ばした金髪を後ろで束ね、どこかボーイッシュなフランス代表候補生、シャルロット・デュノアがまず一夏を指差し、その後指を迷わせる。

「あ〜、その事なんだが」
「実は…」

 小柄で銀髪、さらに眼帯をしているどこか硬い雰囲気のドイツ代表候補生、ラウラ・ボーデヴィッヒと水色の髪でどこか弱気そうな雰囲気をした日本代表候補生、更識 簪が手を挙げる。

「織斑教官から、学園の現状調査を命じられた」
「私とラウラさんの二人、それにあちらからも人が来るそうです」
「ラウラと簪がいないなら、ちょうど五人か」
「なら面倒が無くていいわね! 先鋒、私が行くわ!」
「構いませんわ」
「ボクもいいよ」

 鈴音の宣言に、セシリアとシャルロットは了承、そこで試合開始間近のアラームが鳴る。

「準備はできてるかお前達」
「いつでもいいわよ織斑先生!」
「先鋒は鳳か。いいだろう。それではボーデヴィッヒと更識は調査の方を頼む」
「了解であります」
「それじゃ」

 様子を見に来た千冬に、鈴音は元気よく答え、自分の専用機・《甲龍》を展開させる。
 赤と黒を基調とし、せり出した肩部と双刃型青龍刀・《双天牙月》を手にした甲龍をまとった鈴音は、試合開始の合図を待ち構えた。



「という訳で、急ですが皆さんに試合をしてもらう事になりました〜」
「それは別に構わないんですけれど」
「どりあ様が言うのでしたら」
「ただ………」

 どりあの招集で、東方帝都学園中等部の中でもパンツァーランク上位者、長いおさげ姿のどこか皮肉な雰囲気の高枝 はさみ、ショートカットで丁寧口調の栗奈 のずる、ランクトップで髪を肩口まで伸ばした光井 あかりが頷きながら、視線を隣にいるどりすとねじるに向ける。

「私達はともかく、どうしてあの二人が?」
「あら、元々の原因の二人には出てもらわないと困るでしょ」
「前回の引き分けで、ランクは一応上がってますしね」
「じゃあどの順で出る? ランク順?」
「やだ! 私が大将やる!」
「お前、意味分かってるのか?」
「あらあら。ここは公平にじゃんけんで決めたら?」
「そうね、それじゃあ」
『じゃんけん…ポン!』



『それでは先鋒戦、パンツァーチーム、二年57組、高枝 はさみ! パンツァーネーム・ラージコーン ビートル! ISチーム、一年二組、鳳 鈴音! 使用機体・甲龍!』

 観客席の生徒達が一斉に歓声を上げる中、出場選手の名が告げられ、試合開始のカウントダウンが始まる。

『3、2、1、スタート!』

 カウントゼロと同時に、双方のベースゲートが開き、両者が飛び出す。

「3分と言わず、30秒で片付けてあげる!」

 意気揚々と飛び出した鈴音だったが、そこで相手のはさみの姿を確認する。

(両手に大型シザー、見るからに近接戦用ね。だったら!)

 そのままの勢いで激突するかと思われた両者だったが、直前で鈴音は甲龍を急上昇させる。

「ギリギリの距離から、砲撃戦で…」

 パンツァーの飛行能力は低い、と聞いていた鈴音は規定距離限界まで一気に上昇しようとする。

「そう来ると思ってたわ」
「え…」

 だがそこで、急上昇したはずの甲龍の真正面にはさみがいるのに気付く。

「てえぇぇ〜!」

 鈴音の顔が驚愕している隙に、はさみが右手のシザーを思いっきり相手へと切りつけた。

「きゃあぁ!」
『ラージコーン ビートル、ファーストヒット!』

 実況のつばさの興奮した声が響く中、続けて左手のシザーを繰り出すはさみだったが、鈴音は双天牙月でかろうじてそれを防ぐ。

「ちょ、これどうなって…」

 訳が分からない鈴音だったが、その視界に背部のホバーバーニアで体勢を整えながら着地し、素早く背後に回り込もうとするはさみの姿が入ってくる。

「こいつ、動きが早い! そっか、飛んだんじゃなくて…」

 振り向いた鈴音の前に、再度はさみが現れ、今度は左右の連続シザーアタックを繰り出すが、なんとかそれを防ぐ。

「ちっ!」
「貴方、何m跳べるのよ!?」

 限界まで距離を取ろうとした鈴音だったが、相手が楽々そこまでジャンプしてきたという事実に、今更ながらルールの意味を悟っていた。

『鳳選手、再度の攻撃は喰らいませんでしたが、パンツァーの力は思い知った模様です!』
『私も驚きました、三次元機動力はIS程ではありませんが、機体運動性はいい勝負のようです』
『両選手、ここからどう動くでしょうか!?』
「なら、近付けないだけよ!」

 鈴音は高度を下げながら、両肩の空間圧作用兵器・衝撃砲《龍咆(りゅうほう)》を連射、はさみは巧みにフィールド内の建築物の影を縫って不可視の砲撃をかわしていく。

『鳳選手、砲撃戦に持ち込みたいが、ラージコーン ビートル、巧みに動いてそれを防ぐ! あっと、今かすめました!』
『甲龍の龍咆は砲身、砲弾共に不可視のため、回避は極めて難しいんですよ』
『しかしラージコーン ビートル、ここで一気に加速! 鳳選手これに答えた!』

 大型シザーと双天牙月がぶつかり合い、双方が至近距離で睨み合う。

「結構便利なの持ってるわね、当たらないけど」
「そっちこそ、中々やるじゃない。それにかすってるわよ」

 互いに笑みを浮かべてにらみ合いながら鍔迫り合いを演じるが、やはりパワーはISに分があるらしく、じわじわとシザーが押し込まれていく。

(長期戦はまずい!)

 はさみは鍔迫り合いから力をこめて弾きながら、後ろへと跳ぶ。

「そこっ!」

 鈴音は好機とばかりに龍咆を叩きこもうとするが、はさみはシザーで地面を大きく穿ち、即席の煙幕にする。

『ラージコーン ビートル、距離を取りました! 正面戦闘は不利との判断でしょうか!?』
『いい判断ですね、サイズから見てもパワー勝負は難しいと思います』

 一進一退の攻防に、実況・解説も熱が入り、観客席も更にヒートアップしていく。

「そんな手で!」

 鈴音はIS特有の全方位視界感知のハイパーセンサーで即座に相手の位置を探り、背後に回った事に気付くとそちらへと龍咆を向ける。
 しかしそこで、相手が右のシザーに何かを装填し、それを高々と上へと掲げる。

「何それ? 降伏かしら?」
「その、逆よ!」

 はさみは一気にシザーを振り下ろす。
 そこからすさまじい衝撃波が発生し、地割れとなって鈴音へと迫っていった。

「え…」

 全く予想外の事態に、反応が遅れた鈴音はそれをまともに喰らい、それでもなお地割れは収まらず、フィールドを大きく両断していく。

『出ました! ラージコーン ビートルの必殺技、フォールドシザー! 鳳選手、一気にエネルギーが減っていきます!』
『これはすさまじいとしか言いようがありません………ISでもここまでの出力は中々ありません』

 IS学園側が絶句する中、東方帝都学園側は歓声を上げる。
 ちょうどそこで、前半終了のアラームが鳴り響いた。

『ここでブレイクタイムです! 後半戦はどのような戦いになるのでしょうか!?』



「いい展開よ、はさみ!」
「けど、前半でフォールドシザー使って倒しきれなかったの痛いわね」
「あの至近距離なら仕留められるかと思ったんだけど」

 システムチェックを受けるはさみの両脇で、のずるとひかりがそれを手伝う。

「これで向こうの特性が大体分かったな」
「兵装は複数、高度な三次元機動力、パワーも上のようね。けど、運動性やブリットチャージの出力は負けてないわよ、充分勝機は有るわ」

 先ほどのバトルの画像を見ながらねじるとどりあが呟く。

「つまり、ガッツンガッツン行けばいいって事?」
「行ければだけどな」

 熱気に当てられたか、興奮しているどりすにねじるは呆れた顔をする。

「後半戦、始まるわよ」
「今度こそ!」

 はさみはチェックシートから跳ね起きて、シザーを構えた。



「鈴大丈夫か!?」
「あ、アレくらい平気よ!」
「シールドエネルギー、もう半分以下になってますわよ………」

 戻ってきた鈴音に一夏が心配そうに声をかけるが、当の鈴音は胸を張る。
 だが、セシリアが言う通り、ダメージは深刻だった。

「向こう、結構やるね」
「ああ、まさかあそこまで運動性が高いとは。それにあの技、とんでもない威力だ」
「軽装だからと舐めてかかるからだ」

 シャルロットと箒が先ほどの戦闘を分析する中、千冬は厳しい声を掛ける。

「あの大技、次に食らったらまずいぞ」
「分かってるわよ!」
「初戦から負けたりしないようにお願いしますわ」
「ここから逆転するわ!」

 戦意は衰えていない鈴音は、鼻息を荒くしながら後半戦に備えた。



「随分盛り上がってるようだな」
「鈴、結構危ないみたいですけど」
「お、あんたらか、そっちの調査班は」
「よろしくお願いします」

 試合の状況を確認していたラウラと簪だったが、そこにやたらと気さくな関西弁の少女とメガネを掛けた無愛想な少女が話しかけてくる。

「こっちの分の案内する事になった愛野 のぞみや、よろしうな」
「天野サイコです」
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
「更識 簪です」

 互いに自己紹介しながら、握手をかわす。

「それにしても、状況がけったいすぎて、どこから調べたらいいんやろ………」
「まずはライフラインだ、電気関係の配線と水道関係のパイプラインを調べる必要があるだろう」
「その通りですね」
「あれ、私さっきトイレに行きましたけど、電気も水もちゃんと来てたような………」
「そういやそうやな? 食堂も使えたし」
「………まずは向こうの明らかに融合している建物を調べよう」
「あれ半分ウチらの学生寮や」
「もう半分こっちの学生寮です………」
「同じ役割の建物が融合しているのか?」

 のぞみと簪の言葉に、ラウラは違和感を覚える。

「偶然、にしては出来過ぎだな」
「確かに。先ほどの食堂もでしたが、校舎等も同じように融合している模様です」
「人為的、な現象なのでしょうか?」
「これが? どないしたらこないな事出来るちゅうんや?」

 融合している学生寮へと入りながら、四人は口々に意見を述べつつ、電気配線や水道管を調べていく。

「うげ、これどれがブレーカーや………」
「でも照明や空調は普通に動いてます………」
「こっちの水道管もすごい事になっているぞ」
「水は普通に出ています。成分も問題ありません。ただタンクの容量が問題ですが………」

 手持ちの機器やISのセンサーなどを利用して調査を進めていく四人だったが、ある所で足が止まる。

「………ここって、物置やったよな?」
「そちらだと、物置ってこんな頑丈なんですか?」
「どう見ても違う物です、そちらのでは?」
「………見覚えがある。だが、学園の物ではない」

 学生寮の中に、異常に頑丈そうな鉄扉という違和感が有り過ぎる存在が鎮座していたが、その扉に眼帯を付けた黒うさぎのエンブレムが描かれている事にラウラが眉根を寄せる。

「? 何か聞こえへん?」
「まさかとは思うが、今連絡を…」

 何か鉄扉の向こうから異音が響いてくるのに気付いたのぞみが顔を近づけようとし、ラウラは携帯電話を取り出すが、その直後に鉄扉から何かが突き出してくる。

「おわぁ!?」
「何事です!」
「これって、ISの腕!?」

 のぞみ、サイコ、簪が慌てる中、ラウラはその腕に見覚えが有った。
 そのまま腕は強引に鉄扉を開き、中から一騎のISが姿を表す。

「突破口確保!」
「何をしている、クラリッサ」
「え、隊長!?」
「あ、本当に隊長だ!」
「なんで?」

 ISに騎乗していたラウラと同じ眼帯を付けた女性にラウラが問いかけ、向こうが驚いた所で、後ろから続々と同じ眼帯を付けた軍服姿の若い女性達が姿を表す。

「何や、知り合いなん?」
「私の部下達だ」
「我々はドイツ軍特殊部隊シュヴァルツェ・ハーゼ、通称黒ウサギ隊であります!」

 ISに騎乗していた女性、副隊長のクラリッサが名乗りながら敬礼し、部下達もそれに続いて敬礼する。

「成る程、雰囲気からひょっとしてと思ってましたが、軍人でしたか」
「まあな、だが………」
「隊長、この方達は? そもそもここは………」

 サイコが何か納得した顔をしていたが、状況を全く理解出来ないクラリッサが周囲を見回す。

「ここはIS学園、と言っていいのかどうか分からない場所だ」
「どういう意味です?」
「右と左、よく見てみい」

 ラウラもどう説明するべきか悩むが、のぞみが左右の手でそれぞれの方向を指さし、その先に明らかに作りの違う学生寮が並んでいるのを見させる。

「理由は全く分かりませんが、私達の東方帝都学園と、こちらのIS学園が突然どこかの海上に融合した形で現れたのです」
『………は?』

 サイコの端的な説明に、黒ウサギ隊は全員間の抜けた声を思わずもらす。

「もっとも他にもあったようですが」

 サイコは今壊された鉄扉の中、多少ゴチャついてはいるが、整備ハンガーや複数のターミナルが並ぶ黒ウサギ隊の本部に顔つきを険しくする。

「これ以上は私達も調査中だ。これより黒ウサギ隊は全力を持って我々の調査をサポートせよ!」
『了解!』

 説明を受ければ受ける程混乱している黒ウサギ隊だったが、隊長のラウラの命令に全員が一斉に返礼する。

「………この調子やと、他にも妙な連中来てるんちゃうか?」
「かもしれません………」

 状況が更に混沌としていく予感に、のぞみと簪がため息をもらす。
 そこで、簪のかけていたメガネ型端末にある情報が表示された。

「次の試合が始まるみたいです」
「お、先鋒戦の結果どうなったん?」
「それは…」



 異音と共に、半ばから砕けたシザーが宙を待って地面へと突き刺さる。
 それに僅かに遅れて、接合部が破損した青龍刀が離れた場所に突き刺さった。

『喰らえっ!』

 期せずして同じ言葉を叫びながら、至近距離でフォールドシザーと龍咆が激突する。
 周辺をすさまじい衝撃波が荒れ狂う中、鈴音が甲龍の装甲に物を言わせて強引に衝撃波の渦を突破、はさみへと向けて残った双天牙月を叩き込んだ。

「きゃああぁ!」
『あ〜っと、ラージコーン ビートル、今の一撃でエネルギー残量0! ダウン、KO判定です! 先鋒戦、勝者は鳳選手!!』

 勝者報告に、観客席から一際大きな歓声が飛び交う。

「ざっとこんな物よ」

 胸を逸らしながら、鈴音は控室へと戻っていく。

「やったな鈴!」
「ふふ、本気を出せばあれくらいどうって事ないわ」
「………エネルギー残量、11%と出ているが」

 勝利を喜ぶ一夏に鈴音はいかにもと言った顔をするが、箒は冷静に表示されている数値を読み上げる。

「クリーンヒットがもう一、二発入ってたらまずかったね」
「油断しすぎですわ」
「い、いいじゃない! 勝ったんだから!」

 冷静に分析するシャルロットとセシリアに、鈴音はむきになって反論する。

「ルール的問題云々よりも、純粋に相手は決して侮れる相手ではない、そういう事だな」
「う〜ん、確かに」
「ちょっと!」

 箒が険しい顔をするのに一夏も同意し、鈴音が更に声を荒げる。

「ご心配なく。大体向こうの特性はわかりましたわ。今度はこのセシリア・オルコットが華麗に勝ってみせますわ」

 優雅に微笑みながら、セシリアが蒼い装甲が特徴の専用機・《ブルー・ティアーズ》を展開させる。

「幾ら大技を持っていても、私の狙撃技術なら充分先手を打てますわ」
「そう上手くいくといいのだがな」

 長大な銃身を持つ六七口径特殊レーザーライフル・《スターライトmkV》を構えるセシリアに、今まで黙って話を聞いていた千冬が苦言を呈す。

「油断禁物だぞ、セシリア」
「大丈夫、一夏さんは安心して見ていてください」

 一夏に手を振りながら、セシリアは試合開始を待った。


「ごめん、負けちゃった………」
「おしかったです」
「大丈夫、取り返して上げるから」

 がっくりうなだれるはさみに、のずるとひかりが声を掛ける。

「確かにおしかったな、だがこれで勝機は充分あるって分かった」
「もうちょっとだったのに!」

 ねじるも声を掛ける中、どりすは勝手に怒っている。

「対策も無しに、あれだけ出来れば上等よ。次は誰だったかしら?」
「私です、セットフォーム」

 どりあも労いの声を掛ける中、友の敵を打たんと、のずるがパンツァーを発動、掃除機にも似た風変わりなアームを構える。

「それじゃ、行ってきます」
「頼んだわよ!」
「頑張って!」
「連敗は勘弁な」
「いっちゃえ!」

 他のメンバー達に声を掛けられる中、試合開始間近のアラームが鳴る。

『続けて次鋒戦、パンツァーチーム、二年55組 栗菜 のずる、パンツァーネーム・トルネード モーター! ISチーム、一年一組 セシリア・オルコット! 使用機体、ブルーティアーズ!』
「そう簡単に連勝とは行かせないわ」

 双方の次鋒紹介が響く中、のずるが闘志を高め、とうとう試合開始のアラームが鳴り響いた。
 待ち構えていた両者は、同時に飛び出し、そして同時に得物を相手へと向けて構えた。



「どうだ?」
「コンソールではシステムがこの室内以外には全く反応しません。他基地との連携から断絶しています。この状況だと当然ですが」
「非常安全措置が働いて閉じ込められてた訳だな」
「だから強行脱出したんか」

 のぞみの視線の先には大きくひしゃげた鉄扉が、そのままの状態になっていた。

「そちらはどうだ?」

 何故か寮の物置だった場所に現れた黒ウサギ隊基地の内部で、軍用通信機を操作していた部下にラウラが問うが、首を横に降るだけだった。

「全く電波が拾えんちゅうのはなんぼなんでもおかしいやろ?」
「携帯も完全に繋がらん。これはドイツ軍正規支給品の衛星回線使用モデルだぞ」
「えらい高そうなの使ってるわね。でも使えないなら私の市販品と一緒」

 ラウラとサイコが互いに自分の携帯電話を見ながら、顔をしかめる。

「電話もダメ、無線もダメっちゅう事か」
「通信電波全般が不通、という事になります。これは明らかに以上です。可能性は二つ。そもそも全く存在しないか、あるいは…」
「高度な電波妨害」

 のぞみが首を傾げる中、サイコと簪が二つの可能性を示す。

「前者は考えたくはないです。後者は………」
「もし後者ならば、明確な敵が存在するという証明になるからな」

 クラリッサが唸る中、ラウラは確信を付く。

「敵って、学園をいきなり強制合併した奴って事になるんか?」
「どんな技術を使ったら可能なのか、想像も出来ませんが………」
「でも、なぜこのような事をしたのでしょう?」

 のぞみと簪も首を傾げて唸る中、最大の疑問をサイコが口にする。

「両者を対立させるため、というのはどうでしょうか?」
「無理だ。ある程度の衝突は起こるだろうが、織斑教官がいる限り、全面衝突はあり得ない」
「こちらもどりあさんがいる限り無理でしょう。スーパーパンツァーである彼女に歯向かえる人は当学園に存在しません」
「つまり、どっちもお目付け役がいるって事かい」

 クラリッサの仮説をラウラとサイコがそろって否定、のぞみが更に首を傾げて唸る。

「結局、何も分からないって事ですか………」
「もっと詳しく調査しよう。引き続き通信を試みてくれ。他の物は校内を調査」
『了解!』
「まあ、手が増えるのはいい事やけど………」
「軍人というのはある意味好都合です。烏合の衆が増えても面倒なだけですから」

 急に増えた調査班にのぞみが微妙な顔をするが、サイコはいともたやすく了承する。

「これは、また奇怪な………」
「どうなってるんでしょうか?」
「それを今調べている」

 外に出た黒ウサギ隊は、資料で見た事の有るIS学園と全く見た事の無い東方帝都学園が融合している状況に、思い思いの声を漏らす。
 そこで、簪が再度試合の状況を受信した。

「次鋒戦、決着がついたみたいです」
「で、どっち勝ったん?」
「それは…」



「きゃああぁぁぁ!!」

 セシリアの悲鳴が、暴風と共に吹き飛ばされる。

「こ、これくらい!」

 慌ててブルー・ティアーズの体勢を建て直そうとするが、そこで警告音が鳴り響いた。

「しまいましたわ!」
『おっとオルコット選手、ここで二回目の距離超過! 減点で残エネルギーにマイナス補正がかかります!』
『これは、相性が悪いとしか言いようがありませんね………』
「くっ!」

 真耶の解説に、セシリアが歯噛みする。

「あんな兵装、あり得ませんわ!」
「それはそっちの話でしょ?」

 文句を言うセシリアに、のずるが再度掃除機にも似たアームを向ける。

「何度も同じ手は食いませんわ!」

 低空飛行に切り替えたセシリアが、のずるへと向かうがアームから放たれる協力な暴風にブルー・ティアーズが激しく揺れる。

『トルネード モーター、続けての暴風攻撃です! 敵を近付かさせない攻防一体の攻撃に、オルコット選手翻弄されております!』
『オルコットさんのブルー・ティアーズは遠距離狙撃機ですから、栗菜さんの中距離撹乱攻撃には弱いですね』
「そんなの分かってますわ!」

 思わず怒鳴りながら、セシリアは建物の影に隠れる。

「こ、このセシリア・オルコットが身を隠さねばならないなんて、屈辱ですわ………」

 全く予想していなかった攻撃に、セシリアが荒くなっていた呼吸を整え、物陰から狙撃体勢を取る。
 そこでFCS越しに、のずるがアームを上へと向けて何かを行っていた。

「何を…」

 ハイパーセンサーで確認しようとしたセシリアが、のずるの真上に小規模ながら、本物の竜巻が生じている事に仰天する。

「喰らいなさい!」
「そんな!?」

 解き放たれた竜巻は一気にセシリアへと迫り、離れようとしたセシリアを巻き込んでその体を弾き上げる。

「耐えなさい、ブルー・ティアーズ!」

 必死になって機体を制御するセシリアだったが、かろうじて規定距離オーバーは防いだが、建築物へと叩きつけられて大きくエネルギーが減る。

「あうっ!」
『セシリア!』『大丈夫か!』

 心配した仲間達から思わず安否を問う通信が届くが、セシリアは苦悶しつつも僅かに笑みを浮かべる。

「見えてましたわ………」

 竜巻に飲み込まれる直前、分離していた射撃ポッドが、のずるを囲む。

「パンツァーの方達は、大技を使う前に必ず何かを兵装にセットしていました。つまりそれを使いきった今がチャンス!」
「!」

 射撃ポッドが一斉にのずるを狙うが、のずるはいきなりその場にしゃがみ込み、その背に有る背部ファンから強風が吹き出し、射撃ポッドを吹き飛ばす。

「そんな!?」
「あうっ!」

 驚くセシリアだったが、射撃ポッド全ては吹き飛ばせなかったらしく、放たれたレーザーの一発がのずるへと直撃、今度はのずるのエネルギーが大きく減る。

『おっとオルコット選手、ブリットチャージの隙を狙っての反撃! トルネード モーター、かわしきれませんでした!』
『オルコットさん、狙ってましたね』
『しかしここで前半戦終了です! トルネードモーター有利でしたが、最後の一撃で双方痛み分けと言った所でしょうか!』



「大丈夫かセシリア!?」
「どうという事ありませんわ。少しばかり変わった攻撃で驚いただけです」
「まさか風で攻撃してくるとはな………」
「面白いね〜」
「どういう仕組みになってるのかしら?」

 心配してくる一夏にセシリアは平然としてみせるが、他の者達はむしろ相手のアームに興味を持っていた。

「それに、相手の特性は掴みました。後半一気に決めてみせますわ」
「油断大敵だぞセシリア」
「ご心配なく」

 笑みを浮かべたセシリアは、後半戦の開始を待った。


「押してるわ、のずる!」
「最後の一発は痛かったけど」
「あの射撃ポッド、すごい厄介ね。注意しないと」

 はさみとあかりが声をかけてくる中、のずるは冷静に相手の特性を分析していた。

「もう一発ふっ飛ばしたら相手の負けだろ?」
「あら、多分向こうはもうその手に乗ってこないわよ? 恐らくのずるさんの攻撃範囲は完全に読まれたと思うわ」
「え、そうなのお姉さま?」
「真正面から突っ込んでいった馬鹿はお前だけだよ………」

 ねじるの提案をどりあが否定するが、どりすが首を傾げて二人共呆れる。

「大丈夫ですどりあ様。読んだのはこちらもです」
「あらそう?」
「後半戦、始まるぞ!」
「頑張って!」

 何か秘策があるのか、自信有りげに宣言するのずるをはさみとあかりが送り出す。
 後半戦開始のアラームと同時に、両者は飛び出した。
 のずるはアームに《ブリット》と呼ばれるエネルギー弾をセットし、セシリアは射撃ポッド四機を一斉に解き放つ。
 のずるはアームをセシリアへと向けるが、セシリアは横にスライドして狙いを逸らそうとする。
 その時、のずるは向こうの狙いに気が付いた。

『おっとこれは!? オルコット選手、射撃ポッドと共にトルネード モーターの周囲を旋回し始めました!』
『サークルロンド、本来は複数の機体で行う訓練用の飛び方なのですが、相手の攻撃を封じる目的で使ってきたみたいですね』

 真耶の解説通り、射撃ポッドとブルー・ティアーズは等間隔で円状にのずるの周囲を旋回し、のずるに狙いを付けさせない。

「さあ攻撃するならしてみなさい! 全部吹き飛ばせるのなら!」
「くっ!」

 のずるの攻防一体の風が、範囲は広くても一方向にしか向けられないと読んだセシリアは、更に旋回速度を上げていく。

「来ないのなら、こちらから行きますわ!」

 相手が捉えらない程の速度になったのを確信しながら、セシリアは攻撃を開始。
 射撃ポッドから断続して放たれるレーザーを、のずるはなんとかかわそうとするが、かわしきれずに徐々にエネルギーが減っていく。

『これは攻守交代です! トルネード モーター、オルコット選手の攻撃を一方的に食らっています!』
『栗菜さんの暴風攻撃は驚異的ですが、射撃ポッドとブルー・ティアーズのどれかを吹き飛ばしても、残りが攻撃を仕掛ける。上手い戦法です』

 更に攻撃は続けられ、のずるのエネルギー残量が危険域へと達しようとした。

「トドメですわ!」

 旋回をしたまま、セシリアはスターライトmkVを構える。

(射撃ポッドの一斉射撃で相手を止めて、狙撃で決着、完璧ですわ!)

 自分のプランの成功を確信しつつ、セシリアは狙いを定める。
 最後のあがきか、のずるがアームを構えるがセシリアは構わすトドメに入ろうとする。
 そのため、のずるが普段と逆方向にアームのスイッチを入れたのに気付かなかった。

(一斉攻撃…)

 射撃ポッドに射撃命令を出そうとした瞬間、セシリアは異常に気付く。
 銃口がぶれて、狙いが定まらない。それどころか機体がやけに重い、というかほとんど言う事を効かない事に。

「え!?」

 そこで、狙っていた相手の姿が大きくなっている、つまりは自分が相手に吸い寄せられている事にセシリアはようやく気付いたが、すでに遅かった。

「攻撃…」

 ブリット使用の先程までの暴風を上回る威力と範囲ののずるの吸引攻撃に、機体の制御すらままならず、銃口すら安定しない状態のセシリアは慌てて射撃ポッドにに攻撃命令を出すが、自分が吸い寄せられているという事は、射撃ポッドも同様という事を完全に忘れていた。

「あ…きゃあああぁぁ!」

 旋回行動していはずが、自分の真後ろに吸い寄せられていた射撃ポッドに攻撃命令を出した事に気付いたセシリアだったが、時すでに遅く、かろうじて安全装置が働いた一機を除き、三機のレーザーが他でもないブルー・ティアーズへと直撃、一気にシールドエネルギーが激減した。

『ああっと、トルネード モーターの起死回生の吸引攻撃に、オルコット選手まさかの自爆! ここでエネルギーが減点域に達したため、KO判定です! 次鋒戦、勝者はトルネード モーター!!』
「そんな………」
「トドメを差しにこなかったら、そっちが削り勝ってたでしょうけど」

 がっくりと項垂れるセシリアを前に、のずるはアームを高々と持ち上げて勝利宣言をした。
 それに呼応するように、観客席の熱気が更に上がっていった。



「セシリアの奴、負けたか」
「半分自滅やけどな」
「ま、待ってください隊長!」

 勝敗結果とその内容を確認したラウラとのぞみだったが、クラリッサが慌てた声を上げる。

「どうしたクラリッサ?」
「どうした、じゃありません隊長! ISに勝てるのはISのみ、それが我々のみならず今の世界の常識のはずです! そのパンツァーというのが、幾らルール上とはいえ勝ったとは、その常識が根底から覆ります!」
「だが、事実だ」
「しかし………」

 声を荒げるクラリッサだったが、ラウラは淡々と事実を認識する。

「仕組みは分からないが、パンツァーはISと充分戦える戦力を保有している。これは今分かった新しい事実だ」
「ですが………」
「待ってください」

 納得しかねるクラリッサだったが、そこでサイコが険しい表情で呟く。

「今その方、世界の常識と言いましたね」
「そうですが………」
「しかし、我々はそんな常識は聞いた事もありません。互いに知らない存在、知らない能力、知らない常識。あまりにも食い違い過ぎます。あまりに突飛なので、私自身信じたくはないのですが、ひょっとして私達は、それぞれ全く違う世界の存在なのではないでしょうか?」
「は? サイコいきなり何言うて…」
「それって、パラレルワールドって事? 確かにそれなら説明が付く………」

 サイコの言い出したあまりに飛躍し過ぎな仮設だったが、簪はやや顔を青ざめさせながら肯定した。

「似ているのに、違うISとパンツァー。互角に戦えるのに、知らない存在。それぞれがパラレルワールドの存在だとしたら、辻褄があうの………」
「馬鹿な! 異世界というのは中世風の世界に飛ばされた主人公が美形の仲間達と冒険に出るような話のはず!」
「………あんたんとこの副隊長、なんかずれてるで」
「そうか? クラリッサの助言で私は随分助けられてるが」
(あんたもかい!)

 何か黒ウサギ隊にそこはかとない不安を抱きつつ、のぞみが一度思考を整理しようとするが、さすがに自分の想像をあっさり超えるような状態に、早々に思考を中断させる。

「ま、もうちょっと調べてみよ。異世界だかパラレルだか知らんけど、何か分かるかもしれんし」
「あくまで過程の話です。私自身、完全に結論づけたわけではありませんし」
「そうですね………状況が全く不明なのだけは分かってますけど」

 サイコと簪も深く項垂れる中、ラウラは再度周囲を見回す。

「状況を全て客観的に解析出来る頭脳の持ち主でも入れば、何か分かるかもしれないが………」



「ふ〜ん、面白くなってきたね♪」

 闘技場が見下ろせる建物の一角、そこに風変わりな人物が腰を降ろし、試合の様子を見学していた。
 エプロンドレス姿にウサギの耳を思わせるような風変わりなアクセサリーを頭に付け、どこかとぼけた雰囲気の若い女性が、建物の角から足を投げ出し、一見危ない体勢ながらもそれを気にせず、鼻歌交じりにその女性は自分の前面に投射させた映像に、試合の状況や周辺の状態を移しては解析を進めていた。

「ただいま戻りました」
「お帰りクーちゃん」

 彼女の背後に、フレアドレス姿の銀髪の少女が突然現れるが、女性は気にせず作業を続ける。

「それで、どうだった?」
「現状では敵対勢力のような物は確認出来ません、あの人達以外は」
「パンツァーか、ISとは根幹的に違う原理で構築されてるね。こんなの見た事無いよ」
「束様がIS以外に興味を持つとは珍しいですね」

 エプロンドレスの女性、束が熱心にパンツァーの解析をしている事に、少女は僅かに驚く。

「ボクだって日々勉強しないとね。もっともなんでこんな状態になったかは相変わらずさっぱりだけど」
「そうなのですか? てっきり私は…」
「ひどいなクーちゃん、何でもかんでも私のせいにしなくても」
「ですが、状況は芳しくありません」
「そうだね、外とは全然連絡出来ないし。もっとも、覗いているのはいるみたいだけど」

 そう言いながら、束は上空、そこに一基だけ確認出来た人工衛星の方を見る。

「これからどうしようっかな〜?」

 解析の手を一旦止め、まるで困った様子を見せずにその女性、ISを単独で開発し、今なおIS中枢コアを作る技術を持った唯一の天才科学者、篠ノ之 束はさも楽しげに呟いた………





感想、その他あればお願いします。


NEXT
小説トップへ
INDEX


Copyright(c) 2004 all rights reserved.