第二次スーパーロボッコ大戦
EP14



「磁場、重力場、双方に異常発生を確認。再度の時空湾曲前兆と推測」
「規模はBレベル、中規模襲撃の可能性有り」
「転移施設の人員に警戒は見られず、異常を感知していない可能性有り」
「本部に連絡、民間人保護のため戦闘許可を打診、繰り返す、戦闘許可を打診………」



「今の所は頑張ってるわね」
「やっぱ自由に飛べるのずるい!」

 どりあが珍しく素直に褒めるのに、インターバルでダメージチェック中のどりすは膨れていた。

「ねじるさん、さすがに無理し過ぎじゃ………」
「あの高さから落ちた時、こっちの血の気が引いたわよ」
「大丈夫だろ、あれくらい。それに向こう、多分あの機体に慣れてない。いいバトルが出来そうだ」

 こちらもダメージチェックをしているねじるに、あかりやのずるが注意するが、結構深刻なダメージを負っているのにも関わらず、むしろねじるは嬉々としていた。

「多分当たりね。最新型だけあって、まだ習熟が済んでないのでしょう。けど、後半からは向こうも何らかの対策を打ってくるでしょう」
「というか、あんな重武装とゼロ距離戦闘なんて馬鹿するのはあんたくらいよ………」

 同じことを感じていたどりあが警告する中、はさみは呆れた顔でねじるのダメージ部分を簡易修復してやる。

「タッグマッチだって事、二人共忘れないようにね」
「でもお姉さま、タッグマッチの練習なんてしてないんだけど………」
「そりゃこっちもだ」
「う〜ん。でも、一度戦ったならお互いの癖くらい分かるでしょう? その事を頭の隅にでも置いておきなさい」
『う〜ん………』

 どりあの提言にどりすとねじるが二人して唸る中、後半開始のカウントダウンが始まる。

「それじゃあ、後半も頑張ってね〜」



「大丈夫か箒?」
「ダメージはそれ程でもない」

 あからさまに表情が曇っている箒に、一夏は声をかけるが声色にも少し力が無かった。

「自殺志願? あっちの黒いドリル使い………」
「小さなプリンセスも結構無茶してますわ」
「でも、自分の能力をよく把握してるよ。ちょっとでも隙を見せたら、自分の間合いに持ち込んできてる」
「その通りだ、油断すれば即座に相手のパターンにはめられるぞ」

 鈴音とセシリアが呆れる中、シャルロットと千冬は冷静に相手を判断していた。

「あのドリル、僕のグレースケール以上の破壊力かも」
「まともに喰らったらやばいのはよく分かった。あの小っちゃい体のどこにあんだけのパワーあるんだろう?」
「見た目で判断しない方がいい。まだ何か隠してるかもしれん。そっち出された方がまだ楽かもしれんが………」
「それを出させるかどうかはお前達で決めろ。向こうは後半一気に決めに来るぞ」
「だったら………」

 千冬の警告に、一夏と箒は頷くと一夏はある事を箒に囁く。
 そこで後半戦開始のカウントダウンが始まり、開始と同時に二人は一気にISを加速させた。


『おおっと、後半戦開始と同時にISタッグは急加速!』
『これは…』

 加速した白式の背後に、紅椿が並ぶように着いて完全に向こうの視界から隠れる。

「来たぞどりす!」
「でも何を…」

 警戒するパンツァータッグだったが、そこで一夏が雪羅の荷電粒子砲を放ってくる。

「それくらい!」

 向かってきた荷電粒子砲をどりすはカイザードリルで受け止め、貫いていく。

「どりすっ!」

 だがそう来る事を読んでいたのか、即座に箒が飛び上がると、大刀・空割を横薙ぎに振るうと、そこから放たれたエネルギーの刃がどりすを狙う。

「!」
「動くなどりす!」

 とっさにねじるが前へと出てシールドでエネルギー刃を受け止める。
 そこへ一夏は白式を更に加速させ、雪片弐型をねじるのシールドへと叩き込み、耐え切れなかったねじるの体が吹っ飛ぶ。

「くっ!」
「ねじる!」

 今度はどりすがねじるの手を掴む、が、勢いの強さに二人揃って吹き飛ばされる。どりすが咄嗟にカイザードリルを地面に突き刺し強引にそれ以上吹き飛ぶのを阻止する。

『ISタッグ、前半とは打って変わって見事なコンビネーションでパンツァータッグを圧倒しています!』
『白式と紅椿は対として設計されてるそうですから、使い手同士の呼吸が合えば中々いいコンビネーションを発揮するはずです』
『対してパンツァータッグは組むのも初めて、そもそも筋金入りのライバル同士! 果たして対抗出来るのでしょうか!?』

 つばさの実況通り、箒が二刀の連続のエネルギー刃の攻撃と、その隙を付く一夏の斬撃にパンツァータッグは防戦一方に追い込まれていく。

「ちっ! 急に息合わせてきやがって!」
「うわあっ!」

 攻撃の合間に間合いを詰めようとすると、即座に互いを入れ替えてくるISタッグに、ねじるはシールドをかざしたまま対抗手段を考える。

(ドリルの間合いに徹底的に入らせない気か、オレがさっき取った戦法の逆。どうにかしてこいつを崩さないと!)
「このおっ!」

 入れ替わりで飛んできた荷電粒子砲をどりすがカイザードリルで弾き飛ばすのを見たねじるは、ある手を思いつく。

「どりす、いい手思いついたから協力しろ!」
「それってどんなの?」
「話してる暇は無え! 手出せ!」
「え?」

 言われて武装していない左手を差し出したどりすだったが、ねじるはそれを無造作に掴み、思いっきり引っ張る。

「え? え?」
「そおりゃあ!」

 バーニアまで使用し、ねじるはどりすの片手を掴んだまま、その場で振り回し続ける。

『おおっと、これはどういう事でしょう? ブラッディ・ドリル、ドリルプリンセスをいきなり振り回し始めました!』
『ええと、これはひょっとして………』

「そお、れえ!」
「ええええ!!??」

 渾身の力で振り回したどりすを、ねじるはそのままの勢いでISタッグの方へと放り投げる。

「げっ!」
「そんな手で!」

 この予想外の飛び道具に一夏は仰天し、箒は二刀をかざして迎撃しようとする。

「箒、避け…」

 一夏は放り投げられたどりすが、ブリッドを使用しながらカイザードリルをかざしている事に気付いて声をかけようとするが、すでに遅かった。

「はああぁ!」
「行っけぇ!」

 二刀とカイザードリルがぶつかり、エネルギーの余波がすさまじい火花となって弾け飛ぶ。
 そして、パワー負けして吹き飛ばされたのは紅椿の方だった。

「ば、馬鹿な!?」
「箒!」
「おっと色男、お前の相手はオレだ!」

 一夏が慌てる中、その正面にはいつの間にかねじるが立ちはだかっていた。

『パンツァータッグ、予想外の奇襲でISタッグのコンビネーションを崩しました!』
『こうなるって分かっててやったとしたら、そちらも大したコンビネーションですね』

 真耶が驚く中、前半戦と入れ替わった両者の対峙が始まっていた。

「く、この!」
「何のぉ!」

 箒は二刀を振るってエネルギー刃を次々繰り出すが、どりすはカイザードリルで平然とそれを破壊しながら接近していく。

「行っけぇ〜!」
「食らわん!」

 猛回転して迫るドリルに、箒は雨月の刃で受け止め、そこに空割の峰を雨月の峰に叩きつけるという強引な力技で、ドリルをかろうじて受け流す。

「まだまだぁ!」

 どりすは即座に体勢を建て直そうとするが、箒は紅椿を加速させ、どりすの正面と相対しないようにする。

(あのドリルは驚異的だが、幾らパワーやスピードが有っても、サイズ差は埋められまい!)

 前半の教訓から、箒は向こうの攻撃が届かないギリギリの間合いを見計らい、紅椿を動かし続ける。

(いささか卑怯かもしれんが、あの突撃をまともに食らうわけには行かないからな)

 白式のシールドエネルギーを一撃で削りとったどりすの攻撃に寒気を覚えつつ、箒は動き続けながら斬撃を連続で繰り出していく。

「攻撃がせこい!」
「ISですら一撃で落とせそうな破壊力に付き合う気は無い!」

 二刀の攻撃をどりすは驚異的な反応速度でさばき、かわしていくが、攻撃がかすめ、エネルギーが減っていく。

『篠ノ之選手、見事な機動でドリルプリンセスの動きを封じています!』
『突破力がすごいなら、突破させないようにすればいい。単純ですが、効果的ですね』

「そうか、そうすれば良かったのか…」
「どこ見てる!」

 感心する一夏に向けて、ねじるがドリルを突き出してくる。

「危なっ!」

 雪片弐型でなんとかそれをさばいた一夏だったが、同時にある事にも気付いた。

(あっちの子よりも鋭いけど、軽い! これなら…)

 なんとかドリルをさばいたと思った一夏だったが、その影から繰り出されていたボディブローがモロに腹へと叩き込まれる。

「ぐっ!?」
「どりすよか破壊力が無いってのは先刻承知だぜ!」

 そのまま再度近接格闘に持ち込もうとしたねじるは、ドリルを引いてシールド部分で一夏の顎を突き上げようとする。
 顎を引いてシールドバッシュの一撃をかわした一夏だったが、続けてミドルキックが足へと叩き込まれる。

「だから図体がデカすぎるって…」

 いけると思ったねじるが再度拳を叩きこもうとした時、その腕が掴んで止められる。

「生憎、女の子に殴られるのは慣れててね」

 自分自身情けない事を言ってると自覚しつつ、一夏は掴んだねじるの腕を引きつつ、足払いを掛ける。

「なっ…」

 予想外の投技にねじるが受け身を取りながら腕を振り払って距離を取る。
 再度相対した時、一夏の手が何も持っていない事に気付いた。

「それに色々教えてくれる人達も多くてね」

 雪片弐型を収納した一夏は白式の両手を前へと揃えて出す構えを取る。

『おおっとこれは予想外! 織斑選手、得物を仕舞い込んでまさかの格闘戦です!』
『合気道ですね。更識さんに習ったんでしょうか』

(習っとくもんだな〜)

 簪の姉の楯無から叩きこまれた事を思い出しつつ、一夏はねじるの攻撃を対処する。

「たりゃあぁ!」

 ねじるのハイキックを片腕で受け止め、もう片手でその足を掴み、バランスを崩す。

「ちっ!」

 バーニアを吹かして転倒を防ごうとしたねじるだったが、無防備な足を蹴り上げられ、制御しそこねて転倒する。

「あつっ!」
「サイズが違っても、これなら関係ない」

 転がって距離を取ったねじるだったが、一夏が一気に距離を詰め、ねじるの首元のプロテクター部分を掴む。

(奥襟、今度は柔道か! けど!)

 一夏が投げの体勢に入る直前、ねじるは一夏が全く予想していなかった行動を取る。
 突然顔面に衝撃が走り、一夏の意識が一瞬飛びかける。

「な、んだ!?」

 掴んだ手を離してしまった一夏が、ふらつく意識をなんとか立てなおす。
 そこで、ISの絶対防御を僅かに上回った謎の一撃の正体に気付く
 自分の鼻から僅かに血が流れ出している事と、ねじるの額に血痕が付いている事に。

『ブラッディ・ドリル、まさかの頭突きで窮地を抜け出しました!』
『あの、本当にそちらではどういう訓練を?』

 IS学園ではまず絶対誰もやらない攻撃に真耶がドン引く中、ねじるは一気に距離を取る。

「どりす!」
「ねじる!」

 ねじるの呼び声に答え、どりすも大きく距離を取ると、互いに背中合わせになる。

「どうやら、相性悪いみたいだな」
「やる事せこい!」
「スピードは向こうが上だからな。けど…」
「パワーなら…」

 そこで二人は互いに頷くと、突然互いの位置を入れ替え、前半同様、どりすは一夏に、ねじるは箒へと向かっていった。

『ああっと、ここで選手交代! パンツァータッグ、再度前半と同じ相手に向かっていきます!』
『成る程、互いに相手を信頼して任せる、これがそちらのコンビネーションなんですね』

 観客の歓声が無数に飛び交う中、四人がそれぞれと激突する。

「くっ!」
「何のぉ!」

 雪片弐型を再度呼び出した一夏とどりすのカイザードリルがぶつかり、周辺に火花が飛び散る。

「同じ手は二度と…」
「じゃあ奥の手だ!」

 先程と同じ手で近接戦を避けようとした箒だったが、そこでねじるがブリットをチャージ、ドリルが高速回転を始めたかと思うと、そのまま一気に突き出され、回転そのままのエネルギーの渦が高速で撃ち出される。

「がはっ!?」

 予想外のねじるの攻撃は、紅椿の防御を貫き、箒にまでダメージを与える。

『ブラッディ・ドリル、とうとう切り札のドリル・ペネトレートを繰り出しました!』
『紅椿のシールドを貫くなんて、とんでもない技ですね………』

 一気に紅椿のシールドエネルギーが減るのを見たIS学園勢は愕然とするが、帝都学園勢は更に盛り上がっていく。

「一発じゃ仕留め切れなかったか………」
「確かに、これは奥の手だな………」

 間違いなくもっとも最新型ISの紅椿の防御すら貫いた攻撃に箒は驚愕しつつ、ねじるが再度ブリットを装填するのを見て身構える。

「ねじる、あれ使ったんだ」
「やっぱ、君もそういうの持ってる?」

 どりすと一夏がちらりと向こうを見ていたいが、一夏の一言にどりすがにやりと笑う。

「それじゃあ、こっちも奥の手! フォ〜ムアーップ!」

 どりすが片手を掲げながら叫ぶと、突然その体が光の粒子に包まれる。
 その直後起こった変化に、一夏のみならず、IS学園勢全員が目を見開いた。
 光の粒子に包まれたどりすの体が、瞬く間に成長していく。
 手足も身長も、一回り以上伸び、その外見も明らかに10代後半を思わせる物へと完全に変化した。

『ドリルプリンセス、こちらも切り札のフォームアップです!』
『い、今変身しましたよ!? チビっ子からレディですよ! ペタンコからボインボインですよ! 有りですかそんなの!?』
『一部に関しては私も納得いきませんが、生憎とこちらでは有りです! 全ての能力が一段階上昇するドリルプリンセスのフォームアップ、しかし短時間しか持たない決着専用の技でもあります!』

「まさか必殺技じゃなくて変身が切り札とは。でも、それならこちらも! 零落白夜、発動!」

 狼狽する真耶の解説につばさが詳細を説明する中、一夏はこちらも切り札を開放する。
 雪片弐型が眩い光に包まれ、長大なレーザーブレードを形成する。

『ああっと、織斑選手も何らかの奥の手を使用した模様!』
『零落白夜、いかなるエネルギーをも無効化・消滅させる白式の切り札です! しかし、シールドエネルギーを激しく消費するため、こちらも短時間しか使用出来ません!』
『ドリルプリンセス、織斑選手、双方決着を付けるつもりです!』

「そうか、ならばこちらも…」
「そうだな!」

 箒とねじるも、二刀を構え、ブリットをチャージさせる。
 観客席全てから割れんがばかりの歓声が響く中、四人は互いの相手に向かって同時に動き出す。

『全員が決着を付けに行きました! 果たしてこの激突の後、立っているのは誰なんでしょうか!?』

 つばさの実況も興奮する中、距離が一気に詰まっていく。
 どりすも一夏も一撃必殺を叩きこもうと、己の得物を高く構えた時だった。
 二人の背筋に、すさまじい悪寒が走る。

「何っ!?」
「何だ!?」

 何者かに見られている、という感覚と共に、双方の動きが止まり、同時に上を見る。

「どりす!?」
「一夏!?」

 二人の異常に、もう二人も気付き、思わず動きを止めてこちらも上を見る。
 そして、四人が同時にそれに気付いた。

『これはどういう事でしょう!? 両者動きが止まって…』
『あ、上! 上見て下さい!』

 つばさも困惑する中、真耶の声が響く。
 誰もが上空を見て、それに気付いた。
 闘技場上空に渦巻き始める霧に。

『あれって、ここに学園が現われた時の!?』
『な、何が起こってるんでしょうか!?』

 実況席の二人も混乱するが、変化は即座に現われた。
 上空の霧は竜巻状態にまで成長し、そこから何か巨大な物が降ってくる。

「うわぁ!?」「くっ!」「何だぁ!?」「こ、これは!?」

 自分達の真上から迫る謎の物体に闘技場の四人は即座に回避し、それは闘技場を揺るがすような振動と共に地面に激突し、盛大に土埃を上げた。

『え〜と、その、これは一体何なのでしょう?』
『さあ………』

 全く予想外の事態につばさも真耶も説明出来ない中、次の変化が起きた。
 突然その物体の表面が、縞模様の明滅を始め、表面が振動しているようにぶれ始める。

「何これ………」
「さあ………」

 頭が全くついてこない状況にどりすと一夏が間抜けな声を漏らすが、その物体のちょうど二人の真正面に、淡い光が灯る。

『!!』

 どりすと一夏だけでなく、ねじると箒の正面にも現われた光の正体に四人は同時に気付いた。
 そして数瞬を持ってそれが当たっていた事を四人は知る。
 その物体から放たれた、ビーム攻撃によって。

「このっ!」「くっ!」
「ちいっ!」「やはりか!」

 放たれたビームをどりすと一夏はカイザードリルと雪片弐型で受け止め、ねじると箒は身を捻ってかわす。
 狙いが外れたビームはそのまま闘技場の内壁に当たり、盛大な衝撃と土埃を撒き散らした。

『こ、攻撃! 謎の物体が四人を攻撃しました!』
『敵襲! 敵襲です!』

 何が起きているのかをようやく理解したつばさと真耶が叫ぶ中、遅れ馳せながら非常事態を告げる警報が鳴り響く。

『皆さん落ち着いて! 織斑先生! すぐに対処を…』
『ああ、必要だな。しかも早急に』
『そうですわね』

 真耶が慌てながら千冬に指示を願う中、千冬とどりあの声が闘技場内のスピーカーから響く。
 それは、真耶が予想していたのとは真逆の意味だった。

「ちょっと! 上からまだ何か降ってくる!」
「しかもたくさん!」
「うそでしょ!?」

 観客席の生徒達が騒ぐ通り、上空の霧の竜巻からは、闘技場の物よりは小さいが、無数の何かが次々と出現していた。



「どりあ様!」
「皆、まだ行ける? 行けるなら他の人達が避難するまで、上からのアレの相手をお願い出来るかしら?」
『はい!』

 どりあが小首を傾げながらの問いかけに、はさみ、のずる、あかりが同時に答え、セットフォームしながら室外へと飛び出していく。

「思っていたよりは遅かったわね」

 残ったどりあの呟きを、聞く者はいなかった。


「織斑先生!」
「専用機持ちは全員出撃、避難が済むまで時間を稼げ!」
『了解!』

 千冬の号令に、鈴音、セシリア、シャルロットはISを展開しながら飛び出していく。

「更識、そちらは?」
『準備OKです』
「では誘導を頼む」
『分かりました』

 通信越しにある相手に確認を取ると、千冬は一息ついて、パンツァー側の控室に通信を入れる。

『はいこちらパンツァーチーム、と言いましても、私一人しか残ってませんけれど』
「こちらもだ。そちらのは使えるか?」
『皆さんまだ元気でしたから、しばらくは大丈夫でしょう。ただ………』
「ああ、敵がどれくらいか、だな」

 突然の敵襲に二人共全く慌てた様子が無く、淡々と双方の状況を確認する。

『そちら、使える方は他にどれくらいおりますの?』
「IS学園が保有しているISは専用機を除けば、全30機。出撃準備はすぐに出来る。そちらは?」
『ここに来た生徒の半数以上がパンツァーのようですけれど、実戦で使い物になるのはそれほど多くありませんわね。守るならともかく、攻められるのは50人前後かしら?』
「そして、敵は………」
『………ちょっと数えるのが手間ですわね』

 二人の視線は、上空を移す画面へと移る。
 そこには、サイズ差、個体差はあれど、全て同じ明滅する縞模様と振動する躯体を持った敵が、次から次へと現れていた。

「この数は予想外だったな」
『ええ、全く』

 二人の言葉に、初めて僅かな焦りが加わっていた。



「撃ってきた!」
「だ、大丈夫! この闘技場にはバリアが張られてるはず!」
「パンツァー用のシールドも完備してるわ! けど!」

 次々と現れる謎の敵に、生徒達がパニックになりかける中、試合中継用の大型ディスプレイに一人の少女が映しだされる。

『は〜い、皆落ち着いて。こちらIS学園生徒会長の更識 楯無です。現在、当学園は所属不明、そもそも正体不明の敵に攻撃されてます。だから、皆さんは闘技場地下のシェルターに順次避難してください。全員入れる余裕は有るから、慌てないでね〜』

 映しだされた快活そうな少女、簪の姉でもあるIS学園生徒会長の楯無の言葉に、観戦していた生徒達は急いで、だが混乱は最小限にシェルターに続く出入り口へと向かっていく。

「ひょっとして、そっちもこの下がシェルター?」
「ええそうよ。ちょうど良かったと言うべきかしら?」
「かもね」
「そちら、何か慣れてません?」
「いや、家の学園、たまに襲撃が有って………そちらもそんな慌ててないように見えるけど?」
「いえ、たまに野試合に負けた方がカチコミを………」

 IS学園、東方帝都学園双方の生徒が苦笑しながら、迅速に避難を進める。

「皆さん、落ち着いて! 落ち着いてくださいね! 慌てないで!」
「先生が一番慌ててます!」

 通路で生徒の誘導をしていた東方帝都学園一年80組担任の足立が、上ずった声を上げるが、そこでそばの扉がいきなり吹き飛ぶ。

「きゃぁっ!」
「何だ!?」

 運良く巻き込まれた生徒はいなかったが、破壊された扉の向こうから、ティーポッドのような本体に細長い四脚を持った、小型陸戦用と思われる敵が姿を表す。

「ひいいぃぃ!」
「セット…」
「フォーム!」

 足立が情けない悲鳴を上げる中、生徒の中からパンツァー能力を持った者達がセットフォームしながらその小型陸戦機へと立ち向かう。

「ここは私達に任せて!」
「先生は避難して!」
「は、はいいぃぃ!」
「早く!」

 腰が抜けたのか、這って逃げようとする足立を他の生徒達が抱き起こして逃げる中、パンツァー達はアームを手に立ちはだかる。

「パンツァーを」
「舐めないで!」

 そこへ、別の扉が吹き飛び、新たな敵影が現れる。

「あっちからも!」
「任せて!」

 戦闘中のパンツァーの後ろを、教習用ISの打鉄を展開させたIS学園の生徒達が駆け抜けていく。

「早々簡単にこの学校は落ちないわよ!」
「相手になってあげる!」

 他にも各所で防戦が繰り広げられる中、避難は順次進んでいく。
 だが、戦闘はそこだけでは留まらなかった。



「隊長!」
「分かっている! 予備機も出せ! 全装備使用許可! 黒ウサギ隊の力を示してやれ!」

 突然の敵襲に困惑する部下達に叱咤しながら、ラウラも自分の専用機、巨大なレールガンを持った漆黒の機体、シュヴァルツァ・レーゲンを展開させる。

「織斑教官! 敵襲です!」
『分かっている。そちらから見た状況は?』
「敵の数は不明! 無数に出現しています! 学園各所に破壊行動を行っている模様!」
『順次撃破しろ、学園への被害を最小限に抑えるんだ。今、他の専用機持ちも対処にあたっている』
「了解!」
「こっち来おったで!」

 声と同時にのぞみの手から巨大なブーメラン型のアームが放たれ、大きく弧を描きながら小型飛行型と思われる敵を破壊していく。

「へ〜、君達もパンツァーなんだ」
「言っとくけど、試合しとった連中で比べんといてや! ウチはランキングそんな高くないんや!」

 束の問に怒鳴るように答えながら、戻ってきたアームを受け取ったのぞみ(パンツァーネーム、ブレード・スピリット)が再度それを構える。

「それは貴方の戦い方がセコいだけです」
「ブリッドだって高いんやで!」

 その隣で横笛型のアームを構えたサイコ(パンツァーネーム、カーム・シンフォニー)が迫ってくる陸戦型に向かってアームを吹き鳴らし、放たれた超音波が陸戦型の足を留め、やがて崩壊させていく。

「変わった戦い方だね〜」
「危ないですから、束博士は私達の後ろに!」

 簪が自分の専用機、大型のミサイルポッドが特徴の打鉄弐式を展開させながら、束の前に立つ。

「上から更に来たで!」
「任せて下さい! 山嵐!」

 のぞみの言葉に、簪は打鉄弐式をそちらに向けると、ミサイルを一斉発射。
 計48発のミサイルを簪が各個にマニュアル制御、全てが目標へと正確に命中していく。

「いやはや、やるね〜」
「そっちは何かと派手やな〜」
「派手にでもしないとやってられん!」

 更にラウラは両肩の大型レールカノンを速射、向かってくる敵を次々と撃ち落としていく。

「く、狙いが定めにくい!」
「この敵、全機ジャミングを始終かけてます! レーダー制御だけじゃ当たりません!」
「なんと厄介な………」
「それなら目視でやればいいんや!」
「やっている! くそ!」

 悪態を付きながら、ラウラは眼帯を外す。
 その下からは金色に光る目《越界の瞳(ヴォーダン・アージェ)》が現れ、ハイパーセンサーの感度を更に上げていく。

「一体こいつらは何者だ!」
「聞きたいんはこっちや! こんな連中見た事無いで!」
「こちらでもです! こんな高度な無人機、まだどこも開発してません!」
「じゃあ、これはどこから?」
「うう〜ん、謎だね〜」

 互いに思わず悪態をつきながら戦闘を繰り広げる四人の背後で、ただ一人緊迫感の無い束が首を傾げる。

「隊長〜!」
「お手伝いします!」

 そこへ基地からありったけの武装を引っ張りだしてきた黒ウサギ隊が、それぞれ大型の重火器を手に戦闘へと加わる。

「敵は高度な電子戦能力を持っている! FCSは光学照準! 誘導兵器は使うな!」
「しかしあの鳴動、光学照準も狙いにくいです!」
「それが狙いか! どこまで高度な技術で作られている!?」

 ISを展開させている副隊長クラリッサの言葉通り、誰もが異常な戦いにくさを感じていた。

「間違いなく、まだ存在しない技術で作られてるね。私だって見た事ないもの」
「つまり、ISよりも高度な技術で作られている、と?」
「ちょっと調べてみよう」

 興味深そうに謎の敵を観察する束だったが、簪の問に何を思いついたのか、突然敵の方へと歩き出す。

「ちょ、何しとるんや!」
「篠ノ之博士!」

 のぞみとラウラが慌てて連れ戻そうとするが、そこに陸戦型が束の真正面へと降下してきた。

「やば…」
「伏せ…」

 束を守るべく攻撃しようとした二人だったが、それよりも早く、束の両手から手品がごとく無数の工具が飛び出す。

「それっ!」

 工作用カッターが無造作に振るわれ、陸戦型の表面が大きく切り裂かれる。

「表面コーティングはナノマシンかな? でもこの組成はもうちょっと…」

 さらにその断面に次々と工具が突っ込まれ、内部構造まで調べ始めた所で、陸戦型はその場で崩壊してしまう。

「あれ? そっか内部にある程度ダメージ入ると自己崩壊するんだ。失敗失敗」

 にこやかに頷きながら、束は他の敵を探し始める。

「い、今襲ってきた敵を分解しようとしたで………」
「変わった人物だとは知っていたが、あそこまでとは………」
「とんでもないマッドサイエンティストにしか見えませんが」
「ええ、まあ………」

 次の獲物を探す束に皆がドン引く中、ふとある事に気付いた。

「あれ、あの小っこいのドコいったん?」
「闘技場の方に行ったみたいです。どうにもすごい大型が出現したらしく、一夏君達が応戦中だそうですが………」
「どりすさん達の増援に行きたい所ですが、ここから動くのも難しい状況では…」
「ここで敵を一体でも多く減らすんだ! 闘技場に行かせないように!」

 ラウラの言葉に皆が一斉に頷き、更に数を増やし続ける敵へと立ち向かう。

「そう言えば、あの子達の事も調べてなかったね………」

 束が小首を傾げながら、闘技場の方を見つめる。
 そこからは、一際激しい戦闘音が途切れる事無く続いていた。



「このっ!」

 一夏の気合と共に雪片弐型が振り下ろされるが、刃はあっさりと装甲に弾かれる。

「か、硬い!」
「これならどうだ!」

 ねじるがドリルを高回転させながら突き刺そうとするが、表面に引っかき傷を残すのが精々だった。

「何で出来てやがる!」

 悪態と共に、ねじるがこちらに向かって放たれたビームを回避する。
 突如上空から降ってきた謎の敵は、その姿を露わにしていた。
 小山程はあろうかというそれは、全身を縞模様の明滅と鳴動で覆い、まるで頭部の無い甲虫のような形をしていた。

「こちらなら!」

 虫の節足を思わせる脚部、その関節部に箒が連続して斬撃を叩き込み、その一本をようやく斬り飛ばす。
 だがそれをあざ笑うように、新たな節足が胴体から伸び、箒を狙って連続で振り下ろされる。

「一体何なのだこれは!」

 ISの中でももっとも最新型のはずの紅椿を持ってしても中々ダメージを与えられない謎の敵に、箒は明らかに狼狽していた。

「行っけぇ!」

 フォームアップが解け、元の幼い姿に戻ったどりすがカイザードリルを突き刺すが、今度は傷すらつかずに弾かれる。

「どりすのでもダメか!」
「こいつは、どうやって戦えば………」

 四人のどの攻撃も効かないような敵相手に、どう戦うべきか皆が迷っていた。

「バラバラに戦ったらダメなのだ!」
「そうだよ! 私達と一緒に組んで戦わないと!」
「そう言っても…え?」
「今、どこから?」
「ここなのだ!」
「こっちです!」

 突然聞こえてきた聞き慣れない声に、どりすと一夏が首を傾げ、おもむろに声のする方を見ると、そこにいる小さな人影に気付く。

「………へ?」
「な、なんだコレ!?」
「あたしは武装神姫、猫型MMS・マオチャオなのだ! 該当条件に一致、今からあなたがあたしのご主人様なのだ!」
「私は武装神姫、サンタ型MMS・ツガル。該当条件一致、今からあなたが私のマスターだよ」

 どりすの肩にはマオチャオが、一夏の肩にはツガルが居て、それぞれが相手をマスター登録する。

「なんだそのオモチャ!」
「マスターって………」

 いきなり現われた武装神姫に、ねじると箒も驚くが、それよりも敵の攻撃再開の方が早かった。

「危ないのだ!」
「させない!」

 マオチャオは飛び出しながら防壁ファンビーをかざし、その横に並んだツガルはスナイパーライフル・ホーンスナイパーライフルを二丁構えで速射、ビームの発射口を狙い撃って誘爆させる、漏れたビームはマオチャオのファンビーからどりす達をまとめて覆うほどのバリアが発生し、それを受け止め、拡散させる。

「うわぁ!」
「だ、大丈夫?」

 ビームは拡散させたが、衝撃までは止めきれなかったマオチャオが吹き飛ばされるのをどりすが慌てて受け止める。

「ありがとうなのだ、ご主人様!」
「結構強いんだ」
「そうか、攻撃する場所を逆に狙えば!」
「マスター、狙撃は得意?」
「…結構やるじゃねえか」
「確かに」

 どりすと一夏が感心する中、ねじると箒も予想外の武装神姫の能力に驚いていた。

「どうやら、あの小っこいのの言う通りにするしかなさそうだな………」
「まだいける?」
「全員似たようなモンだろ」

 ねじると箒が自分達の状態、先程までの試合でかなりのダメージを負っている事を再確認して思わず苦笑する。

「今この面子で、あのデカブツの装甲破れるとしたら、フォームアップしたどりすしかいねえ」
「けど、さっきの変身、すぐに解けたわね………」
「その短時間で確実に装甲破れる隙を、どうにか作るしかねえ………」
「そうか………」

 自分達で言いながら、ねじるも箒も生ぬるい汗を流さずにいられなかった。

「私が先陣を切る! 緋椿の機動なら、相手を撹乱させるにはもってこいだ」
「その隙にオレがどうにか傷を作る。運良くブリッドもまだ余ってるからな」
「一夏! 私達でどうにか隙を作る! そしてそのプリンセスに装甲を破らせるんだ!」
「どりす! それまでフォームアップしての一発分、取っておけよ!」
「ちょっと待った…」「分かった!」

 困惑する一夏と頷くどりすを尻目に、箒とねじるは巨大な敵へと向かっていく。

「援護するよ!」
「やるのだ!」

 ツガルとマオチャオもそれに続き、一夏もそれに続こうかと迷うが、覚悟を決めてその場に留まる。

「オレ達の役目は、あいつに完全にトドメを刺す事だ」
「分かってる!」
「あと一撃、しかも最高のを取っておかなくちゃならない」
「ブリッド、あと何発あったかな………ねじるの余ってないかな?」
「頼んだぞ、箒………」

 一撃を叩き込む隙を作るため向かっていく者達を信じ、二人は最後の力を温存する覚悟を決めた………





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