第二次スーパーロボッコ大戦
EP18



「これがつい先程送られてきた写真だ」

 帝国華撃団指揮所に急遽招集された指揮官達と、リアルタイムで繋がっているパリ、ニューヨークの指揮官達と太平洋上のコンゴウに乗っている者達が美緒が取り出した数枚の写真を凝視する。

「これは………」
「間違いないな」

 そこには、各都市の襲撃の際、目撃された物と同様の、巨大な霧の竜巻の写真に皆の顔が険しくなる。

「待て、先程送られてきたと言ったが、そちらでどうやって送ってきた? 写真の電送技術はまだ無いと思ったが」
「簡単です。私宛に送られてきたのを印刷しました」

 嶋のふとした疑問に、アーンヴァルが答える。

「これも先程判明したのだが、前回参戦した武装神姫達が、その時のマスターの元へ再度現われたらしい。これは、第31統合戦闘航空団失踪の報を聞いた、かつての501隊員がその武装神姫と共に調査に赴いた時に撮影した物だ」
「飛鳥が送ったデータを、他の武装神姫達を中継して私に届きました」
「案外便利だな」
「何体中継したのかは不明だがな」

 美緒とアーンヴァルの説明に思わず大神が漏らした言葉を、プロキシマが補足する。

『こちらでもこのミスト・トルネードは出たまんまで〜す』
『吸い込まれた深海棲艦はどうやらこちらに出てきてるみたいだけど………』

 画面越しに金剛と加賀も自分達の世界に同様の物が有った事を告げ、指揮官達の顔が更に険しくなった。

「これがパラレルワールドを繋ぐ転移ゲートであるのはまず間違いありません。ただ気になる事が」
「それは?」

 エルナーが言葉を濁した事に、群像が思わず問い返す。

「吸い込まれたネウロイや深海棲艦の総数と、こちらに現われた総数は、一致しているのかどうか。という疑問です」
『こっちに現れたのは、私達と一緒に飛ばされた連中だけね』
『他の場所に現れてない限りは』

 エルナーの疑問に、圭子が即答しソイフォスが補足する。

『前回こちらで倒したのどれくらいだったかね?』
『魚型が15、砲台型が3、帽子付きが1です』
『他は見てないな』
『深海棲艦ならこちらでも接触した』
『けど、そんなに数はいなかったわ』
『確かニな』

 グランマの問にメルが答えるのに、ラルが頷き、続けてコンゴウと暁、エイラが頷く。
 それらの解答を聞いたエルナーは、金剛達とアーンヴァルに視線を送る。

『………正確な数は計測してないけど、足りないわね』
『飛鳥の報告では、かなりの数のネウロイが吸い込まれているようです………』

 その意味は、その場にいる誰もが口に出さなくても理解していた。

「可能性は二つ。温存しているのか、それとも」
「別の所に出ているか」

 エルナーの言わんとした事を、門脇が代弁する。
 その別の所が何を意味するかは、誰もがそれとなく察していた。

「あの学園の連中に、この事は教えたのかい?」
「いえ、まだ………」

 米田のさりげない質問に、エルナーが言葉を濁す。

「ここにいる者達と違い、彼女達は軍隊でも戦闘組織ですらもない。前回は急襲だったとはいえ、今後の戦闘に参加させるべきだろうか?」
「自衛できるだけの力があるのは確かです。ただ、こちらの味方になってくれるかどうかとなると………」

 嶋の指摘に、ジオールも顔を曇らせる。

「今回の敵、エグゼリカからの情報によれば、《JAM》というらしいけれど、そいつらにあの学園の生徒その物が標的になっているのは確かね」
「随分と節操の無い連中だ」

 ポリリーナの説明に美緒が思わず呟くが、その節操の無さこそ問題だった。

「私の記録にも、Gの本部にも、カルナのデータベースにも照合してみましたが、どちらにも記録が存在してません。未知の敵です」

 エルナーの言葉に、皆の表情が厳しくなる。嶋が呻くように呟いた。

「まるで行動が読めない相手か」
「しかもそれが複数の敵勢力を取り込み現状ではそれらがどこに出現するか分からない。JAMの狙いが多過ぎるのが最大の問題です」
『いやはや、さすがに気が多過ぎだね』
『全くだよ』

 サニーサイドが茶化した所で、グランマが思わずため息を漏らす。

『来るならいつでも来るがいい。殲滅するだけだ』
『お前、それで前危うく島消し飛ばす所だったダロ!』
『さすがにあれは肝を冷やしたわ………』

 平然としているコンゴウにエイラが怒鳴り、周王が首を振る。

『問題は他にもあります。本来、深海棲艦は私達艦娘でしか対処出来ないのです』
『華撃団やウィッチの人達は出来たようで〜す』
『少しばかり苦戦したがな』

 加賀と金剛の指摘に、ラルは苦笑する。

「………早急に敵がどこに現れても対処できるよう、体制を整える必要がある」
「それも、全ての場所でですわね」

 門脇の出した結論を香坂 エリカが補足。
 全員が無言で頷いた。

「だとしたら、一箇所問題がある」
「あの学園、ですね」
「もし、次の敵襲が有ったら、持つんかい?」

 門脇、エルナー、米田の共通見解に、誰もが唸り声を上げる。

「エグゼリカからの報告では、ある程度までは対処するだけの設備は整ってるそうですが………」
「防空壕があったのは行幸だっただろう。お陰で犠牲者は出なかったようだし」
「しかし、見ていた限りは防壁や迎撃兵器の類は確認できなかった」
「そんなの普通学校にはないでしょ………」

 クルエルティアの発言に、大神と群像がそれぞれ意見を述べるが、流石にポリリーナが呆れる。

「それぞれが使用しているパンツァーとISがそのまま盾と矛なのだろう。それだけの性能は持っていた」
「しかしそれは悪魔で小規模戦闘に対してだ。前回の襲撃以上の大規模攻勢の可能性も有る」

 美緒も意見を述べるが、門脇がある懸念を持って反論する。

「では、どうすればいい?」
「あの、少し時間をいただければ、こちらで中型の転移装置を用意出来ますけど………」

 大神の総論に、香坂 エリカが手を上げる。

「転移装置? 今積んでいるのとは別の物か?」
「ええ、今積んでいるのは次元間転移を前提とした物ですけれど、それとは別に空間転移のみ、すなわち同一世界上での任意位置への転移を目的とした物です。パラレルワールド交流時のために開発させていた物が。ただ、量産体制までは………」

 群像の質問に香坂 エリカが少し言葉を濁す。

「よく分かんねえが、それさえあればどうにかなるんかい?」
「小規模な部隊くらいなら瞬時転送が可能になります。製造を急がせますが、そうそうすぐには………」
「そうかい、そりゃ便利なこった。それまで敵さんが待っててくれりゃいいんだが」

 米田の発言に、その場に沈黙が訪れる。

「誰かが現地に赴き、視察し、場合によっては指導する必要が有る」

 しばしの沈黙の後、嶋の発言に誰もが顔を上げる。

「つまり、あの学園を軍事要塞化するという事ですか?」
「場合によってはそうなるだろう」

 ポリリーナの質問に、嶋は即答。

「………要塞化というのはともかく、視察を行う必要は確かでしょう」
「言い出した私が行こう。階級の有る人間が行った方が話も通じやすい」

 エルナーもそれを妥当と判断した所で、嶋が自ら視察に名乗りを上げる。

「嶋少将だけでなく、他にも人員や技術を視察する武官や技官も必要になるかと」
「では私も行こう」

 エルナーの追加案に美緒も名乗りを上げる。

「成る程、坂本少佐なら武官としては申し分ない」
「それなら、オレもご一緒します。華撃団からも誰か行く必要があるでしょうし」

 門脇が頷いた所で、何時から居たのか、太神の背後に控えていた加山も名乗りを上げる。

「確かにこの世界の詳細情報を持った情報官も必要ですね」
「………私も行くわ。電子機器に詳しい情報官もいるでしょう?」

 更にそこで今まで無言だったミサキも手を挙げる。

「残るは技官ですね」
「あれだけの技術を解析出来る人間となると、誰か適材は………」
「宮藤博士は?」
「こちらで物置に開いたゲートの詳細調査中です。それに、彼の専攻からは少しずれる可能性も………」
「エミリーは?」
「兵器関連は専攻じゃありませんし、それに転移装置の設置にかかりきりになる可能性も」
「じゃあ他には………」
「あの、こちらから一人候補が」

 喧々諤々の人材選定に、僧が手を挙げる。

「兵器関連に詳しく、先端技術に先見の明がある人材なら、一致するのが一名」
「それは?」
「それは………」



「反対だ」

 群像が告げた言葉に、401の改装を手伝っていたハルナが開口一番で断言する。
 学園への派遣が決定した視察団の、技官候補として蒔絵が選ばれた事に、断固たる態度でハルナは反対していた。

「オレも本意ではないが、確かに一番妥当な人選なんだ」
「だがそれは蒔絵の特異性を見せる事になる。それが蒔絵にとっていい事とは思えない」
「しかし…」
「いいよ。私行く」
「蒔絵………」

 そこで蒔絵がむしろ立候補するように頷く。

「今大変な事になっているってのはよく分かるよ。だったら、私も出来る事をする。だからハルハルは心配しなくていいよ」
「………蒔絵がそう言うのなら」

 顔をしかめながらも、当人の意見を尊重してハルナも渋々頷く。

「そんな心配する必要は無いんじゃないのか? パラレルワールドとやらから集まったのは妙な連中ばかりだ。蒔絵が然程目立つとは限らんだろう」
「それは、そうかもしれんが………」

 キリシマの助言に、群像は艦に戻る時に見た素手でコンテナを運ぶウィッチ達やそれを手伝っている薔薇組を思い出し、思わず肯定してしまう。

「ともあれ、人数が多いし物資も運ばなくてはならない。居住スペースには空きはあるが、格納スペースはなんとかなりそうか?」
「再計算の必要があるかもしれないな」
「ああ、それと他に運ぶ物が………」



「視察団?」
「あの学園に送る事になったんだとさ。嶋少将が団長らしい」
「おっかない視察団になりそうだね」
「そだね」

 零神の整備をしている僚平の脇で、日課の素振りをしていた音羽が視察団の話を聞いて、頭上のヴァローナと共に首を傾げる。

「他にも坂本少佐とかあの加山さんとかも同行するらしいぜ」
「それって、視察というか査察なんじゃ………」
「見る目厳しそ〜だよね〜」

 明らかに人選に何か危険を感じながら、音羽が素振りを続けていると、そこに美緒が姿を見せる。

「桜野! 橘!」
「はい!」「何か用っすか?」
「門脇中将から正式に許可をもらった。両名は零神及び諸装備を用意し、明朝0730出立する使節団に同行するように」
「はい、ってええ!?」
「何でオレらが? しかも零神持って?」
「理由は後で分かる。至急準備に取り掛かれ」
「あたしは〜?」

 突然の美緒からの指示に二人が驚く中、ヴァローナが手を挙げる。

「一緒でいいそうです。私も一緒に行きますから」
「片道でも一週間近くかかる事を考慮しておけ」
「分かった〜」
「え〜と、そんな着替え有ったかな………」
「オレ、おやっさんに言ってくる!」

 美緒の肩にいるアーンヴァルの返答に美緒が補足し、それを聞いた二人+ヴァローナが慌てて準備に入るのを見ながら、美緒も自分の準備に取り掛かろうとする。

「でもマスター、なんでソニックダイバーを持っていくんですか?」
「少し気になる事が有ってな。それには桜野と零神が一番妥当だろう」
「?」

 アーンヴァルが文字通り小首を傾げる中、美緒は脳内で学園で起きた戦闘の事を思い出していた。

(恐らく、杞憂ではないだろうな………)



「あら、雄一ちゃんも行くの?」
「ああ、組織間の連絡も月組の仕事だからね」
「これに乗っていくんでしょう?」
「潜水艦って一度乗ってみたいですね〜」

 荷物の積み込みを手伝っている薔薇組に、荷物の一覧を見せてもらっていた加山が答える。

「オレも乗るのは初めてだ。まだ長距離航行可能な潜水艦はこの国には無いからね」
「昨日は高速飛行機で巴里に紐育、その次は潜水艦で太平洋。過酷ね〜」
「なに、こちらは移動の間は乗せてもらってるだけさ。楽な物だよ」
「留守は任せてちょうだい。早い所、その海の上の学校の子達に食料運んであげないとね」
「本当にこんなので食料送れるんだろうかね〜?」
「香坂財団の作り上げた物です。信頼は出来ると思います」

 そこへ様子を見に来たミサキが、搬入の終わった転送装置のコンテナを確認しながら告げる。

「ま、何百年も先の物なんて、見た所で分かる訳ないしね」
「だから私が同行します。分からない事は何でも聞いてください」
「そうさせてもらうよ」

 それだけ言うと、ミサキはその場を去る。

「何か、可愛い顔してるけど無愛想な子ね〜」
「そうですね」

 斧彦と雪之丞がやたら事務的なミサキを見送るが、琴音はある事に気付いていた。

「雄一ちゃん、気付いてた?」
「ああ。あの子、わざと足音を立ててるような歩き方してた」
「つまり、普段は足音を立てないって事ね」
「未来の捜査官って話らしいよ。つまりはオレとご同業って事」
「人材豊富ね〜。協力できればだけど」
「そのために行くんだから」

 自分で口にしつつも、加山はそれがうまくいくかどうかの自信は無かった。

「あ、ミサキちゃん」
「ユナ、ユーリィも」

 積み荷のチェックをしていたミサキの前に、何か荷物を持ったユナとユーリィが現れる。

「聞いたよ。この潜水艦に乗って、海の上の学校に行くんだって?」
「仕事だけどね。上への報告も考えておかないと………」
「皆で学校見学行きました〜でいいんじゃない?」
「ユナさん、前にそれでレポート出して舞ちゃんに怒られたですぅ」
「う………」
「ユナさ〜ん!」
「こっちも打ち合わせするよ〜」
「あ、今行く〜」

 そこで、向こうでシスターエリカと共にソニックダイバーレスキュー隊や華撃団の隊員達が呼び、ユナが手を振って答える。

「打ち合わせ?」
「あのね、帝国劇場でボランティア公演するんだって。皆でその準備してるんだ」
「シスターのエリカさんとユナさんで前座する事になったですぅ♪」
「そう、頑張ってね」

 打ち合わせに向かう二人を見送りながら、ミサキは小さく息を漏らす。

「ホント、誰とでもすぐ友達になれるわね」
「へ〜、そうなんだ」

 いきなり響いた声に、ミサキは驚愕と同時に振り向きながら、瞬時に抜いた護身用拳銃を声のした方に向ける。

「おっと」
「加山隊長ですか。いきなり背後に立たないでください」

 全く気配を感じなかった事にミサキは警戒心を露わにしつつ、両手を上げている加山から銃口を下げる。

「ごめんごめん驚かせたかな〜?」
「ええ、思わず引き金を引く所でした」
「じゃあ今後気をつけるよ」
「そうしてください」

 そう言いながらその場を去るミサキを見送ると、加山は少し考え込む。

「はてさて、よっぽどあの子に気を許してるのか、それともあの子が気を許させてるのか………」



「視察団?」
「今後についての話し合いも兼ねて送られてくるって」
「物資も一緒に来るそうだから、それまで間に合わせればどうにか」

 整備ブースの一角で、IS学園整備科の生徒達と一緒にRVの点検をしていた亜乃亜とエリューの話に、周りの生徒達が反応する。

「しかも嶋さんが来るのか………あの人、どうも苦手なんだよね〜」
「どんな人?」
「良くも悪くも、ガチガチの軍人よ。生真面目で戦歴も長い。かなり厳しい視察になるでしょうね」
「それって査察って言うんじゃ………」
「音羽ちゃんと美緒さんも来るって」
「坂本少佐はともかく、なんで音羽まで?」
「さあ? 美緒さんが零神持って付いてこいって言ったらしいよ?」
「ソニックダイバーまで持ってくるなんて………」

 エリューが首を傾げる中、向こうのブースから束がふらふらとした足取りで出てくる。

「ふあ〜、疲れたぁ〜」
「だ、大丈夫?」

 普段から不規則な生活が常態化して目の下のクマが出来気味の束だったが、今回に至ってはあまりにはっきりとクマが浮かび上がり、思わず亜乃亜も手を止めて声をかける。

「誰か箒ちゃんといっ君に紅椿と白式、修理終わったって言っておいて〜。束さんはちょっと疲れたから寝る〜」
「え、もう!?」
「さすが篠ノ之博士………」

 整備科総出で破損したISの修復になんとか目処を建てようかとしている最中なのに、すでに終わらせた束に生徒達が驚愕するが、当の本人は設置してあったベンチに横になると、すでに寝息を立て始めていた。

「さすがに開発者は技術者としてもレベルが段違いのようね」
「多分桁で違うよ………」
「それじゃあ誰か知らせてきてくれる? あれを実行したいから」
「………本気でやるの?」
「状況が状況だからね………」



 青い海上を、四機の影が飛来する。

「目標確認! ポイント測定!」
「ポイント確認、投下準備!」
「投下!」

 エリューのロードブリティッシュの送ってきたデータを元に、亜乃亜のビックバイパーと一夏の白式から特別装備が海へと投じられる。

「ポイントまで到達確認! 速度合わせ!」
「上昇するぞ!」

 箒の声に合わせて、四機が一斉に上昇を開始。
 特別装備、本来は非殺傷捕縛用の特殊繊維ネットを繋いだ特性漁網をワイヤーで一気に引き上げる。

「ようし、大漁大漁♪」
「おお、結構いけるモンだな!」
「いっぱ〜い!」

 ネット内で飛び跳ねる大量の魚に喜ぶ亜乃亜と一夏+ツガルに対し、箒とエリューは微妙な顔をしていた。

「まさか、最新の第四世代ISで漁業とは………」
「亜乃亜は前からやってみたいと言っていたけど、本当にやる時が来るとは思ってなかったわ………」

 思わずため息をもらす二人だったが、実質的な食糧問題を抱えている以上、必要な事では有った。

「それで、最初にこれ考えた子って、何だってこんな事を?」
「乗ってた母艦の食料庫が敵襲で吹っ飛んで、止むに止まれずと聞いてるわ」
「音羽ちゃんは現役の海女だから、こういう事詳しいの。そう言えば坂本さん達と一緒に来るって言ってたっけ」
「………来たら一言言っていいかしら?」
「いやー、その子がその時の企画書送ってもらわなかったら、ここでやろうとも考えなかったし。いいんじゃないかな」
「ほらほら、まだまだ必要だから。降ろしたら次行こう次!」
「そうだな!」
「あっちでもやってるよ!」

 飛び跳ねる魚を嬉々として運ぶ亜乃亜と一夏に、ツガルがある場所を指差す。

「せ〜の!」
『お〜えす! お〜えす!』

 そこでは、パンツァー達が中心となって体育館から持ってきたネットを改良した人力トロール漁の最中だった。

「ここの生徒って、結構たくましいわね………」
「確かにな。元の世界に戻れるまで、どうにかやっていかなくてはならんからな」
「転送装置が使えるようになるまでの我慢ですよ。オペレッタも皆さんの世界の座標検索してるって言ってたし」
「でも、あんながっちりくっついたのって元に戻るのかな?」
「さあ?」

 皆がそれぞれの感想を口にする中、別方向から同じように漁網を吊り下げた一団が向かってくる。

「織斑く〜ん、こっちも大漁ですよ〜」

 損傷の少なかった教習用ISで構成された一団で、真耶がこちらに向かって手を振る。

「お、あっちもすごいな」
「………ねえ、何かやけに大きくない?」
「あれは………」


「おお、大漁。でもこれは………」

 他の生徒達と釣果の仕分け準備をしていた鈴音が、目の前に積み上げられた釣果を確認する。

「これって………」
「マグロ、ですわね」
「すごいでしょう」

 釣果を見に来たシャルロットとセシリアが絶句する。
 魚群は魚群でもマグロの魚群に当たったらしい真耶が、巨大な釣果に豊かな胸を更に逸らす。

「マグロって、保護指定じゃありませんでしたか?」
「今は20世紀だから大丈夫だと思うよ」
「これだけあれば、十分人数分賄えるな」
「それはそうだけど、これ、誰が捌くの?」

 巨大な釣果を見に多くの生徒達が集まってきてる中、鈴音の一言に全員の動きが止まる。

「普通の包丁じゃ無理だよね?」
「そもそも、専門の業者がする物でしょう?」

 様々な異論に、先程まで自慢していた真耶の額に汗が浮かび始める。

「ほう、こらごっついの捕ったな〜」
「マグロの大群とは………」
「それで、皆さんして何をしてますの?」

 そこにのぞみ、つばさ、サイコも姿を見せるが、何故か皆が困惑しているのを見て首を傾げる。

「誰が捌くか、っていうか捌ける人材そっちにいる?」
「………さすがにマグロ解体出来る奴はおらんと思うわ」
「専門業者呼ぶ事も出来ないし………」
「確か、刀みたいな専用の包丁がいるのでしょう?」
『刀?』

 サイコの一言に、全員の視線がちょうど漁から帰ってきた箒へと集中する。

「な、何だ? なぜそんな目で私を見る?」
「………箒、確か真剣持ってたわね?」
「これ、ちょっと捌いてもらえんか?」
「はあ!? 出来る訳ないだろう! 魚なら捌けるが、マグロなんて無理だ! そもそも、巻藁切るのとは訳が違う!」
「何々?」
「マグロを捌ける人がいないって」
「やっぱり………」

 同じく漁から戻ってきた亜乃亜、一夏、エリューが揉めてる原因を聞いて呆れる。

「けど、せっかく採ったんだし、食べないともったいないよ?」
「けどな、また随分と立派なマグロだぞ? 切るのだって一苦労だ」
「最悪、東京からマグロ職人でも連れてくるしか………」
「じゃあさ、それ使えばいいじゃん」

 どうにか出来ないかと皆が思案する中、一夏の肩にいたツガルがそう言いながら、箒の方、正確には紅椿を指差す。

「………は?」
「それのパワーだったら、一人でも十分捌けるじゃないかって思って」
「ふ、ふざけるな! 姉さんが作ってくれた第四世代ISをマグロ解体に使えと…」
「へ〜」

 ツガルのとんでもない提案に箒が狼狽する中、仮眠から目覚めたらしい当の束が姿を現す。

「あ、姉さん………」
「箒ちゃん」
「その、本気に…」

 更に狼狽する箒だったが、そこで束がある物を差し出す。

「大トロと赤身お願いね♪ あ、そう言えばお料理用のプリセットは入れてなかったね〜。ちょっと待って、すぐ組むから」

 皿を差し出しながら催促する束が、即座に紅椿の調整に入る。
 全く予想外の展開に、箒が完全に凍りついた。

「とりあえず雨月と空割のエネルギーフィールドを最低限にして、冷却装置を少し強めにして刀身を冷たくしておいて。そうだ、骨まで切っちゃわないように位置の自動微調整もつけちゃおう。いや〜、箒ちゃんの手料理楽しみだな〜」
「………姉さん、その」
「………諦めろ、箒」

 束本人が嬉々として紅椿に料理用プリセットを組み込むのを、箒は何とか抵抗しようとするが、一夏がその肩に手を置いて首を左右に振る。

「………分別する台と皿がいるな」
「私、生ゴミ入れ探してくるわ」
「氷とかクーラーボックスも必要やな」
「調味料探してきます」

 他の皆も納得したのか諦めたのか、テキパキと準備に入り、箒も観念したのか、雨月と空割を消毒して構える。

「ようし、準備OK♪ それじゃあ箒ちゃんお願いね♪」
「………始めます」

 画して、前代未聞のISによるマグロ解体ショーが執り行われ、他の釣果と合わせて向こうしばらく分の食料確保には成功するのだった。



「それで隊長、我々の基地は本当に戻るのでしょうか?」
「増援に来た「G」との話ではな」

 黒ウサギ隊による地形測量で算出された場所に、ISで鋼材を運んでいたクラリッサが、隣で手に図面を写したタブレットを持ったラウラに問いかけるが、ラウラも困惑顔で答える。

「学校関係者ではない我々がなぜ来たんでしょう」
「私がIS学園に居たからかもしれん」
「そのような理由で軍事施設を転移させるとは」
「ま、理由は転移させた奴のみ知る事だろう。取り敢えずはやれる事をやるしかない」
「我々は隊長に従うまでです」

 ラウラとクラリッサが、視線の先でかき集めた鋼材やコンクリート等の資材を準備している黒ウサギ隊の元へと向かっていった。

「それでは我々黒ウサギ隊は、これより視察団と物資受け入れの為の桟橋の制作にかかる。資材は有限だ。失敗は許されないぞ」
「「「了解!」」」

 ラウラの号令の元、黒ウサギ隊は一斉に作業を開始した。





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