第二次スーパーロボッコ大戦
EP20



AD1946 オラーシャ ペテルブルグ近郊


 どこまでも続く白いツンドラの大地に、常識ではあり得ない巨大な霧の竜巻が鎮座していた。

「これが………」
「らしいな」

 扶桑海軍の士官服をまとった長髪で丹頂鶴の翼を頭から生やしたウィッチ、雁淵 孝美大尉と、扶桑海軍のセーラー服をまとい、マフラーを巻いたイエネコの耳を生やした小柄なウィッチ、西沢 義子飛曹長が一定の距離を取ってそれを観察する。

「じゃあ、あれの向こうに皆が!」
「落ち着きなさい、そうとは限らないわ」

 そこに扶桑海軍のセーラー服をまとい、扶桑リスの耳を生やした活発そうなウィッチ、孝美の妹で出張中で唯一難を逃れた502統合戦闘航空団所属、雁淵 ひかり軍曹が今にも竜巻へと飛び込もうとするが、それを孝美が止める。

「伝わってきた情報だと、あれが異世界を繋ぐゲートなのは間違いないのです。けど、正直に同じ場所に繋がってるのとは限らないのです」

 義子の肩にいる大型ウィングに大剣を持った武装神姫、戦乙女型MMSアルトレーネが、最新の情報を皆に伝える。

「けど!」
「だから落ち着きなさいひかり、502の全員の無事が確認されてるのだから、焦る必要は無いわ」
「パリにいるんだっけ? しかも過去の」
「パラレルワールドのパリなのです。そこにいる巴里華撃団なる組織にお世話になっているそうなのです」
「問題は………」

 アルトレーネの説明に今一半信半疑ながらも頷く孝美だったが、今は別の問題の方が深刻だった。

「あ、見てください」
「ネウロイがあれに向かっていってるのです。報告の通りだとすぐに………」
「霧の竜巻に変化が!」
「呑まれるぞ! あのネウロイ」

 地表を一体の陸戦型ネウロイが斥候のためか、巨大な霧の竜巻に近付くと、突然その中へと吸い込まれていく。

「観測班の話だと、結構な数のネウロイがあの中に飲み込まれたって話らしいな」
「同じ物がサハラ砂漠と、別の世界にも出現してそこの敵を吸い込みまくってるらしいのです」
「私の魔眼でも中は見通せないわ………今吸い込まれたネウロイもどうなったかすら分からない………」
「つまり、あの中に突っ込めばネウロイを倒し放題なんだな?」
「マスター、そうとは限らないからやめておくのです!」

 険しい顔をする孝美に反して、今にも突っ込みたがっている義子を、アルトレーネは必死に止める。

「でも、上手く行けば皆の所に………」
「ダメよひかり。今増援部隊の申請が出されてる頃。私達の任務は、増援部隊が来るまでこれの警戒に当たる事」
「もしかして、逆にあのゲートから未知の大軍が現れる可能性もあるのです」
「ほう、そいつは面白そうだな」
「大軍は勘弁してほしいわね………」
「お〜い」

 そこで下から声が響いてきたのに、皆がそちらを向くと、スオムス陸軍の軍服をまとい陸戦ストライカーを履いた雪色の髪のウィッチが手を振っていた。

「あ、アウロラさん!」
「さっきこっちに逃げてきたネウロイ、やっぱその中か?」
「ええ、吸い込まれていったわ」
「これで何度目だか………」

 その陸戦ウィッチ、正確には502専属回収部隊隊長、そしてエイラの姉であるアウロラ・E・ユーティライネン中尉は鼻を鳴らしながら、腰のスキットルを取って中身を一口嚥下する。

「それで、何か分かった事は?」
「これがどこかと繋がっているという事以外は………」
「ま、イッルやニパが無事と分かっただけで十分だ」
「エイラさんとサーニャさん、何でか太平洋で漂流中って聞いたんですけど………」
「またすげえ所にいるな」
「取り敢えず、そちらは大丈夫らしいなのです」
「となると、やっぱり問題はこれだな」

 アウロラが腕組みしながら、前方の竜巻を見つめる。

「あの、どうにか皆と合流する方法は?」
「ある事はあるのですけど………」
「本当ですか!?」

 ひかりの問に、アルトレーネは思わず呟いた言葉にひかりが過剰反応する。

「お、落ち着くのです! 扶桑のウィッチの学校に、貴女のお仲間が転移した世界に安定して繋がっているゲートが有るのらしいのです」
「じゃあそこに行けば!」
「ひかり、貴女は軍人なのよ? 皆が帰ってくるまで、ここを守るのが貴女の今の任務なの」
「でもお姉ちゃん………」
「そもそも、ここから扶桑まで何日かかると思うんだ? やっぱあれ使えねえかな〜」
「何なら、留守番くらいしとくぞ?」
「だからやめておいた方が………あれ?」
「どうかしたの?」
「ゲート内部から転移反応! 何か出てきます!」
「何ですって!?」
「おう、来やがったな!」
「敵!?」
「かもな」

 アルトレーネの突然の警告に、四者四様の反応を返す中、全員が一斉に手にした銃の安全装置を外す。

「質量反応大! とんでもない大型なのです!」
「来やがれ!」

 そして、霧の竜巻の中からそれは姿を表した。
 それは、暗黒色の体表を持つ、巨大な天秤にも似た姿をしており、天秤の皿に当たる部分には、灯籠を思わせる発光体が不気味な光を放っている。

「お、大きい!」
「何だこりゃ! ネウロイか!?」
「違うわ! コアが存在しないし、中がよく見通せない! これは、ネウロイじゃない!」
「該当データが無いのです! これは、未知の存在なのです!」
「成る程、前はデカい海獣だったな」
「問題は敵かどうか…」

 誰もが驚愕する中、謎の敵は発光体から強烈なビームを発射する。

「うわぁ!?」
「なんて強烈な!」
「面白い!」
「どこがなのです!」
「こういう所がだ! これで敵なのは間違いねーな!」

 ネウロイの物よりも強烈そうなビームが雪原を貫き、一気に蒸発させる。

「私が先頭、孝美が次、ひかりは最後につけ!」
『了解!』
「アウロラさんは下がってください!」
「下がったらむしろ危険だろうからな、手伝うぞ」
「とんでもないエネルギーを計測してるのです! 注意してください!」
「分かった! 行くぞ!」

 アルトレーネの警告を聞いているのか、義子が突っ込み、孝美とひかりが後へと続く。
 その戦いが、新たなる敵との前哨戦となる事をその場にいる誰もが知る由も無かった………



太正十八年 帝都東京 追浜基地

『ともあれ、無事でよかった』
『まあ、色々あったみてえだが』
「ご心配かけてすいません」
「まったく、えらい目に有ったわ」

 ようやく通常使用が認められた次元間通信で、可憐は兄と、エリーゼは養父の源と通信をしていた。

『こっちは軍やGの人達と協力して、偽装基地を建設してる最中だよ。頼まれて協力している』
「ありがとうございます。戻るのに少しかかりそうで………」
『飯はちゃんと食ってんだろうな? なんならオレもそっちに』
「それなんだけど、こことは違う所に必要かも」

 談笑にふけっていた時、突然通信機がアラームを鳴らす。

「あれ、緊急通信? しかもこれウィッチ養成学校から?」
「すいません、回線を切り替えるので、また今度」
『ああ、無事が確認できればいい』
『じゃあまたな』

 タクミと七恵が謝るのを了承しながら、回線が切り替わる。
 ウィッチ養成学校に持ち込まれた重力通信機から、一人の将校服を着た女性が表示される。

『失礼、扶桑海軍の北郷だ。各ウィッチ隊に緊急の連絡事項があるので、繋いでほしい』
「あ、はい。分かりました」
「北郷さんって、確か………」
「坂本さんの師匠の方ですよ。緊急って一体………」
『ああ、恐らくそちらにも関係あるだろうから、聞いていても構わん』
『というか聞いてもらわないと困りやがるです』

 北郷の傍らに、触手とも見える複数のアームで構成されたプロテクターにそれぞれ武装を持った風変わりな武装神姫、テンタクルス型MMS・マリーセレスがいる事にタクミも首を傾げる。

「パリ、ニューヨーク、そして401の坂本少佐にも繋ぎました」
『ご苦労』
『緊急の連絡だと?』
『何事かしら』
『北郷先生!?』

 通信枠にラル、圭子、美緒が表示されたのを確認した北郷は頷いてから口を開いた。

『つい先程の事だ。サハラに出現した霧の竜巻と同様の物がペテルブルグ近郊にも確認された』
『やはりか………』
『だったら、そっちでも?』
『周辺のネウロイが吸い込まれてるのも確認されている。だが…』
『問題はそこじゃねえです。そこから、未知の敵が出てきたみてえなんです』
『未知の敵?』

 不穏な言葉に、通信枠の美緒の表情が険しくなる。

『デカくて、エネルギーが有り余った奴みてえです。一致するデータは無し』
『現地で警戒任務にあたっていたウィッチが応戦、かなり派手にやりあった末、敵は撤退したとの事だ』
『撤退って、逃したって事かよ。どこの間抜けだ?』

 緊急通信と聞いてラルの背後に来ていた直枝が鼻息を荒くする。

『ひょっとして、ひかりか?』
『応戦したウィッチは雁淵 ひかり軍曹、そして雁淵 孝美大尉と西沢 義子飛曹長、そしてアウロラ・E・ユーティライネン中尉の四名だそうだ』
『何っ!?』
『な、孝美と姉御がいて、逃したってのか!? アウロラさんまでいて!?』

 北郷の口から出た、扶桑でも有数のエースウィッチの名に、美緒と直枝が同時に驚愕する。

『リバウの魔王でも倒しきれなかった、という事?』
『そうなる』

 義子の通り名を出す圭子に、北郷は小さく頷く。

『その魔王についてたアルトレーネから送られてきたデータをそっちにも送りやがるから、目かっぽじってよく見とけです』
『華撃団にも送信、事態は更なる局面を迎えたかもしれん』

 マリーセレスから送られてくるデータの転送を美緒は頼みつつ、深刻な顔でうつむく。

『それで、全員無事なのか?』
『それは大丈夫だそうだ。正直な所、その場にいたのが彼女達じゃなかったら、どうなっていたかは分からん』
『くっそ、オレがいたら!』
『それは結果論に過ぎない。だが、これで一つの可能性がはっきりした』
『あのゲート、複数の世界に繋がってるのは間違いねえです。そのデカブツがどこから来たのかは分からねえですが』
『そして、その別の世界とやらから、何が出てくるか分からない。もっともこっちから吸い込まれたネウロイもどこかに出てるのかもしれんが』
『ロシアンルーレットみてえです。どれが当たりか外れかはギャンブルでいやがるですが』
『そちらも気をつけてほしい。今上に掛け合って、対策委員を設立する話をしている所だ』
『場合によっては、ウィッチだけでは手に余るかもしれません』
『その時はそちらにも助力を頼むかもしれん。前回とは逆だな』
『了解です、私から話しておきましょう』
『では頼む、気をつけてな』

 北郷からの通信枠が消えたが、他のウィッチ達の通信枠はすぐには消えなかった。

『………どう思う?』

 最初に口を開いたのは圭子だった。

『西沢の戦闘力なら、前にこちらの基地に来た時にこの目で確認している。ウチの菅野が手も足も出なかった。ましてや、一線から引いたとは言え、元スオムス最強の陸戦ウィッチも一緒でだ』
『扶桑海軍ウィッチの中でも、自由転戦を半ば放任されている実力者とトールの化身と言われた元エース、彼女達が取り逃がすとなると、敵は相当な物ね』
『同感だ、容易ならざる敵が現われたと考えるべきだ』

 三人のベテランウィッチが意見の統一を見た所で、聞いていたタクミの顔色が変わる。

「観測データは受け取りました。こちらでも精査に入ります」
「あの、これ数値間違ってません?」
『いえ、間違ってはいないようです』
『我々のセンサーでも限界に近い数値だな』
『よく皆さん無事でした………』

 七恵が送られてきたデータから、敵の出力数値があまりに桁違いなのに頬を引きつらせるが、ソイフォス、ブライトフェザー、アーンヴァルがそれぞれの意見を交えて肯定する。

「もし、これが今ここに現れたら………」

 その先の言葉を、七恵は口に出す勇気が無かった………



「新型?」
「ダー、正確には登録データの無いブラグ(敵)」
「しかも扶桑のエースウィッチ二名とスオムスの元エース、ついでにウチの子の四人がかりで追っ払うのが精々だったらしいよ」
「こっちにも新型増えてるけどね」
「君たち武装神姫っていつの間にか増えるよね」
「ニエット。私達はプロフェッサーに選ばれて来ている」
「ま、今の所は味方が増えるのはありがたい。問題はコチラだ」

 テアトルシャノワールの一角で、巴里華撃団、艦娘、ブレイブウィッチーズの三者が先程届いたばかりの情報を論議していた。

「かなりの大型、高出力。ウィッチ達は善戦したが、致命傷を与える事が出来なかった」
「孝美さんがいてそうなったという事は、コアの類が無かったという事?」
「ひかりちゃんもいてだと、そうなるだろうね」

 エスパディアが送られてきた戦闘データを表示させていくのを皆が覗き込み、ポクルイーシキンとクルピンスキーは一つの可能性を提示する。

「そのお二人がいると、何か違うのですか?」
「ああ、孝美さんとひかりちゃんは姉妹で、二人共魔眼持ちなんです」
「魔眼ってのは、ネウロイのコア、つまり急所が見える能力の事ですよ」
「そりゃ便利なこった」

 花火の疑問にジョゼと定子が補足説明し、ロベリアが何か含みのある笑みを浮かべる。

「しかもアウロラさんまでいて………」
「一線を引いたとはいえ、今だ回収作業のついでにネウロイを屠ってくるような方だというのに」
「………随分と好戦的な予備役ね」

 ニパとロスマンも眉根を寄せる中、加賀は違う意味で眉根を寄せる。

「問題は、このエネミーがミストトルネードから出てきて、また入っていったという事デ〜ス」
「つまり、私達の所にも現れる可能性も!?」
「ダー、可能性はビエス(無し)ではない」

 金剛の指摘に瑞鶴が驚き、エスパディアも肯定する。

「いや、深海棲艦がここに現われた以上、ここにも現れる可能性もありえるぞ」
「確かに………」
「え〜と、こんな大きくて空飛ぶ奴、どうやって戦えばいいんだろ?」

 グリシーヌの指摘に、花火とコクリコが思わず唸る。

「所で、あの小柄で勝ち気な方が見当たりませんが」
「あとあの赤い人」
「それが………」

 翔鶴と北上の指摘に、ロスマンはため息をもらした。


「だから、今すぐオレを帝国なんとかの所に連れてけ! お前の速度ならすぐだろ!」
「生身の人間をトリガーハートが牽引したら、すごい事になるに決まってるでしょう!」
「ウィッチ舐めるな! それくらい耐えきってみせる!」
「ウィッチのスペックは認める。だが限界はあるだろう」

 巴里華撃団格納庫で、自分のストライカーユニットと銃を用意して怒鳴る直枝を、フェインティアとムルメルティアがなんとか説得(?)を試みていた。

「孝美と姉御で倒せねえなら、オレが行く! ひかりだけに任せられねえ!」
「敵はすでに撤退している。再度現れるかは不明だ」
「そもそも、すぐに貴女の任地に戻れるわけでもないでしょ?」
「けどよ!」
「まあ落ち着きなって」

 見るに見かねた巴里華撃団整備班長のジャンが割って入る。

「取り敢えず、お仲間は無事なんだろ? 今あれこれ準備してるらしいから、しばし待ちな」
「けどよ!」
「どうしてもってんなら、トウキョウまでならすぐに行ける方法はあるけどよ」
「本当か!」
「けど最後の手段だ。グランマに言ってみないと」
「分かった!」

 話を最後まで聞かず、直枝は支配人室へとすっ飛んでいく。

「最後の手段だって言ったんだが………」
「それで、トウキョウまですぐって、一体何を?」


「ダメだね」
「何でだ!」

 グランマに一刀の元に断られ、直枝は激高する。

「帝国華撃団からの要請も無いのに、アレは使わせられないよ」
「オレ一人くらいいいだろ!」
「ダメです。リボルバーカノンは有事のための装備です」
「だってさナオちゃん」
「今の所は大丈夫みたいだから、ひかり達に任せよ?」

 メルからも釘を刺され、更には話を聞いてきたクルピンスキーとニパが直枝を何とかなだめようとする。

「所で後学のために聞いておきたいんだけど、そのリボルバーカノンってのは?」
「メル」
「はいグランマ」

 グランマに促され、メルが支配人室にあった小型蒸気端末にその画像を表示させる。
 それは文字通り、巨大なリボルバー拳銃を彷彿とさせる大砲だった。

「リボルバーカノン、凱旋門地下に設置された欧州防衛構想の要とも言える、霊子甲冑緊急発射装置です」
「………これで撃ち出すの?」
「トウキョウまで?」
「はい、前に一度帝国華撃団の増援要請で使用しました」
「原始的もいい所ね」

 様子を見に来たフェインティアが、あまりにも非常識なシステムに呆れ果てる。

「これの最大の欠点は、片道しか使えないって事さね。本当に必要になったら使わせてやるから、今は我慢しな」
「ぬう………」
「ほらほらナオちゃん、そう言ってる事だし」
「皆でお茶してるから、行こうよ」

 なんとかクルピンスキーとニパが直枝をなだめて支配人室から連れ出す。
 残ったフェインティアが、改めてリボルバーカノンの映像を見つめる。

「これ、使用回数は?」
「連続で六発が限度さ。霊子甲冑なら一体ずつだけど、アンタ達ならもうちょっと詰めるさね」
「エリカさんが、前に生身で詰めて発射したと言ってました。こちらの記録には無いのですが………」
「状況によっては、使う事になるかもしれないわ。私はゴメンだけど」
「使える兵装は使うべきだ、マイスター」
「トリガーハートがこんな原始的なの使ったなんて、研究所の皆に顔向けできなくなるわ………」
「ご挨拶だね、こっちはこれでも最新型だよ」
「一応彼女は宇宙人と似たような方らしいので、こちらの常識は通用しません」
「どっちがご挨拶よ。一応地球の戸籍持ってるし、学校にも通ってるわ」
「未来ってのは色々変わってるんさね………」
「これから、もっと変わった物見る事になると思うわよ」
「マイスターに同意だ」
「………私の手に負えるといいんだけどね」

 思わずため息をつくグランマを見つつ、フェインティアも小さく吐息を漏らす。

(これから、どうなる事やら………)



「こちらへの物資の搬送は順調よ、リューディアも協力してくれてるわ」
「皆にも連絡済み、全員こっちに向かってきてるわ」
「後は、機械化帝国と連絡が取れればいいのですが」
「すでに使いは送ったわ。どうにかホットラインを確保したい所なのだけど、周辺宙域が荒れ気味で構築しづらいのよね〜」

 転移装置の設置されたテント内で、香坂 エリカ、ポリリーナ、エルナーが自分達の陣営の情報をチェックしつつ、現況を確認していく。

「そう言えばユナは?」
「シスターエリカやユーリィと避難所のボランティア公演に回ってます。シスターエリカは、パリに戻るのはもうちょっと後でいいと言ってましたが………」
「巴里華撃団の隊長なんでしょう? いいのかしら?」
「大神司令からも、言っても聞かないからやらせておいてほしいって言われたわ。全く、ユナそっくりね」
「幾らパラレルワールドとはいえ、似たような人はいる物で」
「まあ、仲良くなっているならいいでしょ。ユナ以外にもそういう人いるものね………」
「それと、一つ問題が」
「聞いてるわ、ミラージュが来たがってるんでしょ?」
「永遠のプリンセス号をこちらに転移させるには、機械化帝国の大型転移装置でもないと無理ですわよ?」
「それ以前の問題が………」



「大型母艦?」
『ええ、前回の戦いでも使用した物ですが』

 エルナーからの通信に、大神は首を傾げる。

「そんな物があるなら、かなり便利になるけど、こちらに来れるのかい?」
『不可能ではないのですが、少し問題が』
「問題?」
『永遠のプリンセス号、全長12kmの超大型宇宙船です。それがこの世界の地球近隣に浮かぶ事になりますが』
「………12km?」

 隣で聞いていたかえでが、思わず聞き返す。

「………それって、肉眼で見えるのかな?」
『少しは光学迷彩で薄くする事は出来るのですが、それはもうばっちりと見えます』
「そんなのが浮かんでたら、世界中が大混乱になるわね」
『ですよね………』

 かえでの脳内に、帝都の上空を覆わんばかりの影が浮かんでいる情景が浮かび、エルナーも思わず同意する。

『しかし、こちらが保有する中では最大の戦力です。準備はさせておきますが、よろしいでしょうか?』
「………必要になると思うかい?」
『………ペテルブルグに出現した謎の敵、あれを現状で破壊出来るとしたら、永遠のプリンセス号のミラージュキャノンか、霧の超重力砲。そして光の救世主の切り札、エルラインの三つだけでしょう』
「分かった。準備だけは進めておいてほしい」
『そう伝えておきます』

 通信を切った所で、大神はしばし考え込む。

「かえでさん」
「何かしら大神君」
「正直に言ってください。あの超重力砲と呼ばれる武装、どう思いましたか?」
「多分、誰に聞いても一緒よ。怖い、ただそれだけ」
「前の時も感じた事ですけど、世界が違うという事は、技術力も違います。華撃団で対処しきれない以上、あれだけの破壊力を持った兵器を使わなければいけない状況が想定される。オレは、帝国華撃団司令として、それを許可するかどうかの判断をしなくてはいけない………」
「貴方なら大丈夫、決して間違った判断はしないわ」
「だといいんですが………」

 迫りくる激戦の予感に、大神は不安を感じずにはいられなかった………



「これが………」
「確かに、見た事が無いタイプだな」
「JAMとも違うようですし」
「前回の戦闘データにも、類似した敵は確認出来ませんでした」

 イ401のブリッジで、送られてきたばかりの戦闘データを皆が検証していた。

『何よこのエネルギー数値!? 霧の大戦艦並よ!?』
「よく相対した方々無事でしたね………」
「ベテランのウィッチばかりだったのが功を奏したのだろう。並のウィッチだったら全滅していたかもしれん」

 タカオが思わず声を上げ、僧も素直な意見を述べるが、美緒が唸りながら戦闘の一部始終を凝視する。

「すさまじい破壊力を持っているな。一体これは………」
「分からん。前回も異常な敵とは幾度となく相対したが、これはそれよりも群を抜いている」
「いやはや、正直こっちに出なくてよかった」

 群像も思わず唸り、嶋も表情を険しくする中、加山だけは表情を崩さす、ただ視線だけは鋭い物になっていた。

「内部構造が知りたい所ね」
「すいません、私達のセンサーではこれが限界だったようで………」
「武装神姫など、かすっただけでチリも残らんだろう。ただでさえマスターはあの義子だからな………」

 ミサキが送られてきたデータの詳細をチェックしていき、アーンヴァルが自分達の限界を詫びるが、美緒はどこか遠い目をして吐息を漏らす。

「変わったエネルギー分布してるね、動力源は何だろ?」
「放射線反応も重力子反応も無いから、反応炉でも重力エンジンでも無いわね?」
「でもこの出力、それ以外にこんだけのエネルギー出せるのなんて有るかな〜?」
「未知の動力源かもね。分解してみれば分かるかも」
「どうやってこんな化物を分解する気だ………」

 蒔絵とヒュウガが独自に解析してみるが、二人の知識でも詳細は分からず、思わず漏らしたヒュウガの呟きにキリシマが呆れ返る。

「現状で、これに対抗出来る兵装は有るかね?」
「侵蝕魚雷は使い果たし、超重力砲も破損したまま修理の目処が立ちません。この船では対処できないでしょう」
「でも、コンゴウなら対処可能」
「元々、この船の超重力砲は私のを無理やり付けた物だからね」

 嶋の問に群像とイオナが続けて答え、ついでにヒュウガが補足してやる。

「だがコンゴウはまだ太平洋上のはずだ」
「ええ。周辺海域を調査しながら、学園に向かっているそうです」
「つまり、即座に対処出来る兵力は居ないって事か」
「いえ、私達の世界にもう一隻有ります」
「永遠のプリンセス号か………」
「すごい名前の船だね」
「超大型の宇宙船だ。前回の戦闘でも切り札の一つだった」
「………今度は未来にジェネレーションギャップ感じてきた」

 喧々諤々の討論を横で聞いていた杏平が、思わずぼやく。

「こちらに来れるのか?」
「機械化帝国の大型転移装置を使うか、Gの転移補助を使えば可能かもしれません」
「どちらにしろ、すぐには無理という事か」
「はてさて、それは弱ったね。すぐにこっちに来ない事を祈るのみか」

 ミサキの説明に、美緒と加山が同時に結論を出す。

「どの道、内陸部では霧の船では攻撃は不可能です」
「それは分かっている。やはり空中移動可能な母艦が必要かもしれんな」
「香坂財団で建造中だそうですが、こちらもすぐには………」
「敵はこちらの準備なぞ待ってくれん。扶桑海事変で散々思い知らされたからな」
「やはり、急ぐ必要があるだろう。使える戦力を厳選し、部隊として編成しなくてはならない」
「向こうがそれを納得するかですが」
「それが問題だね。そう言えば、学園の方にはこの件は?」

 嶋の提言に群像と加山が疑問を呈するが、そこでふと別の疑問が出て来る

「エグゼリカ達から知らせるそうだ。一応信頼できそうな者にだけ知らせるようにと言っておいたらしいが」
「そりゃ、戦艦クラスが攻めて来るなんて言ったら、生徒達大パニックだろ」
「混乱を助長させるのは得策ではないしな」

 美緒の説明に杏平が微妙な表情を浮かべ、嶋も顔を伏せて同意する。

「それにしても、これはどこから来たんだろうかね?」
「どこかから。私達と同じように」
『アレとは一緒にされたくないんだけど』
「人間から見れば、違いは無いだろう。我々自信、霧が何なのか分からないのだから………」

 謎の敵に、メンタルモデル達は他の者達とは違う何かを感じずにはいられなかった………



「これは………」
「一体なんだ?」
「不明です。すさまじい戦闘力を持っているという事以外」

 学園の会議室でどりあと千冬を前に、エグゼリカが送られきたデータを見せる。

「確認している敵勢力で、該当する物は無し。しかしかなりの高エネルギーを保有している模様です」
「う〜んすごい。何積んでるんだろ?」

 有識者として呼ばれた束が、嬉々としてその戦闘データを自分なりに解析していく。

「しかも多分、これはISの防護システムに似た奴の超強化版だね。下手な攻撃じゃ傷一つつかない。このウィッチだっけ? よくここまで戦えたよ」
「確かにな。間違っても生徒達に相手はさせたくない」
「そもそも、近付くのも一苦労しそうね」

 高出力ビームが地面を一撃で蒸発させている様に、千冬とどりあの表情が険しくなる。

「Dバーストなら、なんとか効くかな?」
「それも不明ね。実際に相対してみないと、詳しい事は何も………」
「ここに来られても困りますけど」

 亜乃亜とエリューも戦闘データを見ながら唸るが、エグゼリカの一言に思わず沈黙する。

「この事、まだ生徒達に教えてないわよね?」
「ええ、そちらの判断を仰いでからとの話だったので………」
「じゃあしばらくは機密扱いだ。対処法が見つかるまでな」
「うう〜ん、ここまで単純に物理防御が強い相手ってのは考えてなかったな〜」

 どりあと千冬が機密情報指定した所で、束が首を傾げて唸りを上げる。

「正直な所を言えば、使節団とやらに早めに来てもらって意見を聞きたい所だな。ISの指導は出来るが、防衛陣地の構築などは専門外だ」
「こちらもそうね。あの眼帯の子と部下の人達が色々頑張ってくれてるけど」
「ISはその特性上、軍との繋がりが大きいからな。ただ、実戦経験に沿った指導が出来る訳じゃない。誰も戦争など経験した事はないのだからな」
「それもそうね。貴方達は?」
「トリガーハートは、元々ヴァーミスとの決戦兵器として製造されましたから」
「Gはバクテリアンとの対抗組織だし、前の戦いの後、しばらくソニックダイバー隊と一緒にワームと戦ってました」
「あれは苦労したわね………」

 トリガーハートや天使の口から出る実戦経験と、学園の生徒達と戦闘経験の違いにどりあと千冬は僅かに顔をしかめる。

「最悪の場合、シェルターに立てこもってそちらの増援を待つしかないな」
「シェルターが無傷だったのは運が良かったですわね。上で大分派手にやってましたけれど」
「紅椿と白式、もっと強化しないとダメかな〜?」
「今でさえ扱いきれてない物を強化しても無駄だ。もう少ししごいておかんとな」
「こちらもそうしましょう」
「あの、一夏君はともかく、どりすちゃん特訓のし過ぎで授業中ずっと寝てるって聞いたんですが………」
「それは大丈夫、いつもの事だから」
(どんだけスパルタ………)

 エグゼリカの問いにさも平然と答えるどりあに、亜乃亜とエリューは内心ドン引きしていた………



「それじゃ、お世話になりました〜」
「楽しかったよ! また今度ね!」
「元気にですぅ〜!」
「マスター、荷物が溢れちゃう! 詰め込みすぎだよ!」
「ゴメンね〜アイネス。でも大事なお土産だから」

 謎の敵襲来の報がもたらされて数日後、ようやくパリに戻る事になったシスターエリカ+アルトアイネスが、大荷物(東京土産、ほとんどお菓子)を手にカルナダインへ搭乗していくのを、ユナとユーリィが手を降って見送る。

「ボランティア公演、お疲れさまでした!」
「多分またすぐに会えると思うよ。今回の件が片付くまで、華撃団全てで共闘体勢になると思うから」
「分かりました! グランマに行っておきます!」
「ああ!? 雷おこしととらやの羊羹が飛び出してきた!」

 さくらと大神を始めとした帝国華撃団も見送る中、アイネスが必死に荷物を押し込みつつハッチが閉まってカルナダインがパリへと向けて発進していく。

「それにしても、随分と急でしたね」
「グランマもエリカ君の性格から、数日待ったんだと思うよ。本当はすぐに戻ってきてほしかったんだろうけど」
「隊長が離れっぱなしは確かにまずいだろう。もっとも本当にアレが巴里華撃団の隊長かい?」

 カルナダインが見えなくなった所でさくらが呟き、大神も苦笑するが、大神の肩にいるプロキシマがここ数日のシスターエリカの所業を思い出し、本気で首を傾げる。

「色々言いたい事は分かるけど、彼女を二代目隊長に推薦したのはオレだ。それだけの器は持っているよ」
「マスターがそう言うのなら………」
「確かに、ちょっと見は全然そう見えないのは確かですけど」

 さくらも思わず苦笑した所で、大神の懐でキネマトロンが鳴る。

「劇場から? こちら大神」
『大神君、戻ってきて。知らせたい事があるそうよ。神楽坂さんも一緒に』
「分かりました」
「何でしょうか?」
「悪い報では無さそうだが」
「何々?」

 かえでからの通信を受け、大神はキネマトロンをしまいつつも帝国劇場へと急いだ。


 劇場の玄関を潜った所で、大神はホールに見慣れない人影が複数いるのに気付く。

「ああっ!?」

 それを問うよりも早く、ユナがそちらへと駆け出す。

「亜弥乎ちゃん!」
「ユナ! 久しぶり!」

 複数の人影の中、一番小柄で中華風を思わせる服をまとい、長い髪を二つに分けておさげにした一人の少女とユナが嬉々として手を握り合う。

「元気そうで何よりだ」
「相変わらずのようですけど」
「お久しぶりです」
「幻夢さんに狂花さん、白香も!」

 長い長髪をポニーテールにした長身の女性と亜弥乎の物に似たゆったりとして中華風の服をまとった長髪の女性、亜弥乎を含めた妖機三姉妹の長女、幻夢と次女、狂花、そして同じく中華風の衣装に背に何かを背負った淡い紫の長髪の少女、白香がユナにあいさつをする。

「皆さんお久しぶりですぅ!」
「いつ来たの!?」
「ついさっき」

 ユーリィも驚く中、亜弥乎がにこやかに答える。

「彼女達は?」
「あ、紹介するね。私の親友の亜弥乎ちゃんと、お姉さんの幻夢さんと狂花さん、それに白香」
「大神さん、あの人達………」

 嬉しそうに紹介するユナだったが、さくらはその四人に違和感を感じていた。

「あら、そちらの方は鋭いようですわね」
「我々は機械化帝国から派遣された、機械人だ」

 さくらの反応に気づいた狂花が微笑し、幻夢が自己紹介する。

「機械、人?」
「そちらのような有機生命体とは違う、機械生命体。それが我らだ。もっとも、トリガーハートやユーリィを見ていたなら、似たような物だと思えばいい」
「機械生命体!? ロボットやアンドロイドとはまた違うのかい?」
「はい。失礼ですが、大神司令ですか?」
「ああ、そうだが………」

 驚く大神に、白香が一歩前へと進み出る。

「私達の主、機械化帝国皇帝、玉華様の名代として私達は来ました。詳しくは、指揮官の皆様が来てから説明いたします」
「それにしても、随分と早かったね。亜弥乎ちゃん達の星ってメールも届かないから、もっとかかると思ってたけど………」
「この子が教えてくれたの」

 そう言う亜弥乎の肩に、赤のプロテクターをまとった武装神姫が現れる。

「ワタシはハイスピードトライク型MMS、アーク。ヨロシク!」
「突然彼女が亜弥乎の元に訪れ、再度の危機が迫っている事を教えてくれました」
「取り急ぎ、我々が先遣隊として超高速艇で地球に向かっている最中に香坂財団からの使いと出会い、詳細を聞いてこちらに向かった訳だ」
「へ〜そうなんだ」

 白香と幻夢の説明にユナは一応頷きつつ、アークをまじまじと見つめる。

「じゃあ亜弥乎ちゃんがこの子のマスターなんだ」
「うん、何かすごい事になってるらしいってのはアークから聞いたけど………」
「私がここに来る前に、芳佳ちゃんや音羽ちゃんがすごい戦いが有ったってのは聞いてるけど、エルナーはまだこれからだって」

 ユナの言葉に、機械人達は目配せして小さく頷く。

「これから玉華様の伝言を指揮官達に伝える事になっている。他の者達も直に到着するはずだ」
「なるほど。それでは改めまして自分が帝国華撃団司令、大神 一郎です。機械化帝国の皆さんの協力に感謝いたします」

 自己紹介しながら差し出した手を、幻夢が握って笑みを浮かべる。

「これからよろしく頼む」
「こちらこそ」

 そこへ、門脇らを乗せた蒸気自動車が帝国劇場へと到着する。

「さくら君、みんなを地下の司令室へ」
「分かりました」
「私は、現状データを受け取ってきますわ。状況がまた変わった模様ですし」
「え〜と、私は」
「ユナさんもこちらに」

 皆がそれぞれ動く中、大神はそれとなく機械人達の所作を見ていた。

(出来るな、かなり。確かに頼りになりそうだ)

 そう思った所で白香の背中、巨大なかたつむりの殻を思わせる物が付いている事に気付いて少しだけ頬を引きつらせる。

(少し変わってるけど。まあ前回も人間じゃない人達もいた事だし)

 大神はそうやって強引に納得しつつ、地下へと急いだ。


 帝国華撃団司令室に主だった指揮官達が集合していた。

「皆さんお集まりのようですから、まずは玉華様の伝言をお伝えします」

 白香がそう言うと、ソフトボールのような球体を差し出し、そこから立体映像が投射される。

『お久しぶりです、皆さん』

 立体映像に陰陽マークを模した帽子を被った、白い装束の柔和な機械人の女性、機械化帝国を収める白皇帝・玉華の姿が映し出される。

『アークから皆さんの危機を知らされ、取り急ぎ妖機三姉妹と白香をそちらに向かわせました。こちらは前回の戦いの復興がまだ半ばであり、また大型転移装置も再度のトラブルを防ぐために封印してあったため、現在軍の再編成と封印装置の解凍処置を行っております。
それらが済むまで、しばしのご猶予をもらいたいので、代わりにそちらに向かった四人を戦力としてお加えください。作業は急がせておりますので、それまでどうかご無事で』

 丁寧な口調で伝え、頭を下げた所で立体映像が消える。

「玉華様からの伝言は以上です」
「以後我らはそちらの指揮下に入る」
「それは心強い」
「よろしくね!」

 白香と幻夢の話に門脇は頷きユナは喜ぶが、米田は懐疑的だった。

「ぶっちゃけて聞くが、その機械化帝国ってのの戦力はどれくらいだい?」
「前回の戦いでは、一番の技術力と戦力を持っていました。もっとも、前回の敵はその機械化帝国の封印された初代皇帝でしたが」
「こちらに協力してくれるならば、おおいな戦力になってくれるだろう」
「そうかい」

 エルナーと門脇の説明に、米田は納得したのか一応頷く。

「機械帝国の大型転移装置ならば、一軍をそのままパラレルワールドに転移させる事も可能となります」
「前回は乗っ取られて大変だったけどね………」
「今回は更に厳重にプロテクトを設定している。そう何度も乗っ取れる訳にいかない」
「しかし、今回の敵はどうやら相当高度な転移技術を持っています。基地を滑走路毎転移させるまでならまだ理解出来ますが、複数の建物をライフラインが生きたまま転移融合させる等、とても真似出来る物では………」
「それは初耳です」
「何者だ? そんな高度な転移技術、聞いた事も無い」

 エルナーの説明に白香と幻夢も驚く中、他の指揮官達の顔は厳しい物となっていた。

「JAM、というらしい事しか分かっていない」
「そして、複数の世界から戦力を集めているらしいという事も」
「どうやら、確かに前よりも厳しい事になりそうだな………」

 門脇と大神からのあまりに少ない、そして危険な情報に、幻夢はこれからの戦いの厳しさを感じていた………



「これが、今の所の全データですのね」
「ええ、こちらの設備ではこれが限度でしたが………」
「エグゼリカ達の観測データもあるから、結構な精度だよ」
「けど、かなりの激戦だったみたいだ」

 七恵から渡されたデータの解析を始める狂花と亜弥乎+アークだったが、その激戦の様子に徐々に表情が険しくなっていく。

「この東京に現われた敵、よく倒せましたわね」
「まあ、蒼き鋼の人達がいなかったら危なかったというか」
「変わった敵も多いね」
「こっちの何か、生物かどうかも怪しい」
「でも一応出処は分かってるのですね。これ以外」

 狂花がペテルブルグに現われた謎の敵のデータを解析していたが、そこでふと手が止まる。

「この敵、本当にどこにも類似データはありませんの?」
「ええ、転移してきた人達に聞いてはみたんですけど、誰も知らないって………」
「という事は、ぜんぜん違う世界から来たって事かな?」
「恐らくは………」
「機械化帝国のデータバンクにも該当する存在は見当たりませんわ。ただ…」
「ただ?」
「JAMとやらが、更に節操なく手を広げている可能性は?」
「それは、まさか………」
「これから、もっと色んな敵が現れる?」

 アークがもっとも恐ろしい言葉を口にする。
 だがそれは、すでに予測ではなくなっていた。



AD1946 キュレナイカ トブルク近郊


「なんだアレは………」
「シャーリー!」

 ブラウンの髪の豊かな胸をしたウィッチ、元501統合戦闘航空団のシャーリーことシャーロット・E・イェーガー大尉と、その隣で幼い容姿の褐色黒髪のウィッチ、同じく元501統合戦闘航空団のフランチェスカ・ルッキーニ少尉が、それを見つける。
 ストーム・ウィッチーズが消失した場所に出現した巨大な霧の竜巻の警戒任務にあたっていた二人は、突然の事に警戒を一気にマックスまで高めた。

「お姉さま、転移反応複数、小隊規模ですが該当データはありません」
「そりゃ、あんなの見た事有ったら忘れないだろうね………」

 シャーリーのそばにいた武装神姫・戦闘機型MMS 飛鳥がサーチしたデータを報告するが、シャーリーはつぶやきながらも手にした銃の安全装置を外す。
 それは、オレンジやライトグリーンといった異常に目立つ蛍光色の体表に、子供の粘土細工のような奇怪な体躯を持った、奇怪としか言い様のない集団だった。

「何かは分からない。けど………」

 シャーリーは、その集団が現われた瞬間から全身に悪寒を感じ取っていた。
 ちらりと隣のルッキーニを見ると、微かに顔色が悪くなっているのが分かる。
 それは、どんな強力なネウロイを相手にした時よりも明確な予感だった。

「シャーリー、あれって」
「ああ、分かる。あれは敵だ!!」

 叫ぶと同時に、その集団はこちらへと向かって一斉に襲いかかってきた。

「来るよシャーリー!」
「迎え撃つぞルッキーニ、飛鳥!」
「分かりましたお姉さま!」

 それが何かも分からぬまま、彼女達は戦闘状態へと突入した………





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