第二次スーパーロボッコ大戦
EP24


ブルーアイランド 示現エンジンコントロールセンター 特別会議室

「つまり、どういう事かね?」

 会議室に居並ぶ威圧的な男達、半数はスーツ姿、半数は軍服という面々の視線の先、専用のホバーポートに乗ったぬいぐるみ姿の一色 健次郎博士が何度か頷いて口を開く。

「前回のアローンの襲撃、おかしい点が有りすぎる。第一にアローンと同時に出現した謎の無人機、第二にそれがアローンと争っていた事、第三にアローンが傷ついていた事」
「どこかが対アローン用に開発した新兵器という事は?」
「だとしたら、全く効いてなかったから無駄の長物じゃな」
「だが、アローンが傷ついていたというのは…」
「可能性は一つ、この謎の無人機とアローンを傷つけたのは、全く別の存在という事じゃ」

 健次郎の仮説に、その場にいた者達はざわめき出す。

「そもそも、アローンを破壊出来るのはビビットシステムだけという話なのでは?」
「その通り。アローンのその強固過ぎる防御力により、現存の兵器では歯が立たん。だが…」

 会議室の大型ディスプレイに画像解析されたアローンの姿が映し出される。

「明らかに、ビビットシステムとは違う何かの物と思われる戦闘の痕跡が、確認出来る」
「確かに………だが、一体何者が?」
「分からん………そもそも、アローン自体がどこから来ているのかも我々は分からんのだ。その途中で何かと争ったとしても、それを知る術は無い」
「ではどうしようもないのでは?」
「これで終われば、の話だ」

 健次郎の一言に、室内が更にざわめく。

「一色博士は、今後もこのような事が続くと?」
「可能性じゃが、アローンの襲撃とは違う何か、それが起きてきている気がする。この謎の無人機、アローンと同時だったから目立たなかったが、これもかなり危険な存在じゃ。そしてアローンにダメージを与えうる何か、それが果たして敵なのか味方なのか………」

 健次郎の懸念に、答えられる者はその場にいなかった。



 夕闇が迫りくる中、学園の職員駐車場だった場所には多くの人影が未だに作業していた。

「「「せーの!」」」

 掛け声と共に駐車場の外周に植えられていた大きな木が引き抜かれる。

「ご苦労様ー。それじゃその木はあちらの方に植え直しお願いします」
「了解」

 木を引き抜いたラウラと黒ウサギ隊の面々がハンドスピーカーで真耶に支持された場所へと、ISを使って引き抜いた木を運んでいった。

「やはり事前準備はしてたつもりでも、実際にやる段階となると色々出てきますねー」
「これでようやく場所が確保できたわ」
「敷地の準備で一日終わってしまいましたね」

 真耶・ヒュウガ・エミリーが揃って、ため息をつく。
 木が引き抜かれた穴には生徒達の訓練用ISが大型スコップ(ヒュウガがナノマテリアルで造った間に合わせ)で、土を埋めていく。
そこに前回の襲撃で出た、壊れた建物のコンクリート片を細かく砕いた物が敷かれ、ある程度均されていく。

「おーい、またお願い」

ISに乗った生徒達が、そばで作業していた帝都学園の生徒へと声を掛ける。

「はいはーい。セットフォーム」

声を掛けられた生徒は自身のパンツァーを発動。発動した大型のタイヤ型ツールの内部に潜り込む。

「それじゃ行くよ!」

タイヤ型ツールに乗った生徒はスピードを付けて埋められた穴の上を何度も往復して踏み固めていく。

「ああいう能力が先天的に発現するって不思議ですねー」
「無機物生成を伴う、というのが前例の無い能力です。落ち着いたらじっくりと調べてみたい物です」
真耶とエミリーの視線の先には、木を引き抜くために落とした枝をチェンソー型ツールで運びやすいように細かく刻んでいる生徒や、ISに乗った生徒と共に発生した廃材をゴミコンテナに運び込むクレーン型のツールを使う生徒達がいた。

「私達メンタルモデルにだって、十分なナノマテリアルさえあれば何でも作れますわよ」

 卵型ポッドに乗って、上空から周辺を再計測していたヒュウガに、エミリーが苦笑する。

「満足になかったから、スコップ数本しか出来なかったんじゃなかった?」
「う、それは。今は仕方ないのよ」
「はいはい」

 引きつった笑いで答えたヒュウガだったが、表情を切り替え計測結果を転送する。

「僧、こちらの準備は出来たけど。そっちのシミュレーションはどう?」

「やはり難しいですね」

 イー401のブリッジで一人残っていた僧は、ヒュウガから転送されてきた計測結果を事前の計算結果と照らし合わせながら、想定内で有る事を確認していた。

「こちらからの伝送出来るエネルギーと学園のジェネレーターをかけ合わせても、必要とされる起動にわずかに足りません」
「困ったわねー。いおりー、もう少しそっちから引っ張れない?」

「無茶言わないでよ!この計算だけでもいっぱいいっぱいなのに、これ以上だしたら、イオナちゃんがダウンするわよ!」

 401の機関室の中、同じように伝送できるエネルギーを算定していたイオリが通信画面の向こうのヒュウガに怒鳴りつける。

『ちょっと!そうなると私もダウンするんだけど!』

 その通信画面に割り込むようにタカオが入り込んでくる。

「あなたがどうなろうと構わないけど、イオナ姉様に害が及ぶのはいただけないわね」
『ちょっと、私はどうなろうとって何?!』

「とりあえず、設置をすすめながらでこの起動エネルギー問題は考えましょう」

 通信画面越しにヒュウガとタカオのケンカが始まったのを、放置してエミリーはそう結論付ける。

「そうですね、作業用の照明設備も無いですし。残りは明日にして切り上げましょう」

 それに同意した真耶が手にしていたハンドスピーカを再度構える。

「皆さーん! 今の作業が終わり次第、本日は撤収します。明日の作業メンバーは再度連絡いたしますので、撤収準備を始めてください」
「「はーい」」
「待って下さい。我々黒ウサギ隊はまだやれます」

 部下と一緒に先程の木の植え直しが終わったラウラが抗議しようとするが、真耶は首を横にふる。

「貴方達、艀の工事で無理してたじゃないですか。まだ先が有るんだから休みなさい」
「…了解しました」

 ラウラも思い当たる所があったのか、その指示を受け入れた。
黒ウサギ隊も、同様に片付けを始める。

「あれ?隊長、5時の方向を見てください」

 だが隊員の一人が、その手を止めて向こうを見るようラウラに促す。

「どうした?あ、嫁ではないか」

 その視線の先、一夏が2人の男性と楽しげに話をしながら寮の方へと向かっていた。

「視察団の方ですかね?随分と盛り上がっているようですけど」
「そういえば一夏君から視察団の方の自室への入室許可の問い合わせが来たので、許可しましたよ。一応出入りの時は一夏君の立会必要ですけど。久しぶりの男同士の会話だから、語り合いたい事が色々あるんでしょうねー」
「なんだと、嫁のやつ我々では不服なのか?」

 隊員と真耶の話に納得いかなかったのか、一夏の方に向かおうとするラウラの肩に手をかけて引き止める者がいた。

「お待ち下さい隊長」
「なんだ、私は嫁に一言文句を」

 ラウラを止めた、副隊長が先程の真耶の様に首を横に振る。

「いえ、そのまま行かせるべきです。なぜなら………」



「…分かった!これは貴方のためじゃなくイオナ姉様の為の計算なんですからね」
『フザけ…』

 タカオの文句をむりやり通信を切って封殺したヒュウガが周辺を見回すと、辺りにはほとんど人がいなくなっていた。

「あれ?」
「あんたらのケンカに呆れて、みんな帰ったよ」

 卵型ポッドに乗って空中にいた自分と同じ高さから聞こえてきた声にヒュウガが振り向くと、駐車場の隣に立っていた建物の窓からこちらを呆れた表情で見ていた人物がいた。

「土木工事の次は建築工事かよ、まだ入院中なのに騒がしくなんな」
「お騒がせして申し訳ないわね。条件の一番いい場所がここだったのよ」
「それは聞かされてる。迷惑かけてすまんってな」

 卵型ポッドを窓へと近付けたヒュウガだったが、声を掛けてきた当人がベッドの上で足を包帯で固められてるのに気付いた。

「貴方ね、前回の襲撃で一番の重症だったのって」
「聞いてたか。オレは我王ねじるってんだ宜しく」
「あたしはヒュウガ、霧のメンタルモデルよ」
「霧の艦隊、だったか。違う世界で人類の敵って聞いてたが、見てる限りはそうには見えねーけどな」

 僅かな警戒感を滲ませるねじるだったが、ヒュウガはそれを笑って受け流す。

「元・人類の敵よ。今はイオナ姉様の味方、間接的に貴方達の味方よ」
「なんだそりゃ?」
「メンタルモデルのいる霧は、明確に人類の敵とはなりえないって事よ。人間の友達できて、コロッとこっちに来たのもいるしね。貴方も貴方自身か身内でメンタルモデルを簡単に友達にしちゃうのもいるかもしれないわよ」
「ありえねー」

 一応、警戒心を解いたねじるだったがヒュウガの話を真に受けてなかった。

「それじゃ数日は騒がしくするけど、しっかり怪我治す事ね。人間は簡単に治せないと聞いてますし」
「分かってるよ」
「それじゃ」
「おう」

 ヒュウガがその場から去るのを見送ったねじるだったが、その直後に携帯の着信音が鳴り響く。
それをうんざりした表情で手にしたねじるは、届いたメールの差出人をみて引きつった表情を浮かべた。

「また、どりすかよ。今日何度目の視察団報告メールなんだー!」



「ねえねえ聞いた?」
「どの話?」
「サムライ少佐の話」
「剣道部だけでなく、射撃部も総なめだって?」
「とんでもなく強いらしいよ」
「それに、技術顧問に来たのが小学生の超天才少女だって話」
「あの篠ノ之博士が一目置いたらしいって」
「なんか、コート着た変な助手とクマロボット連れてるらしいよ」

 夕食時の食堂、生徒達の間では視察団の話で持ち切りだった。

「すっかり噂やな〜」
「明日その件で号外出す予定」
「書く事多そうだね〜」
「ちゃんと取材許可は取るのだ」

 のぞみ、つばさ、どりす+マオチャオが周辺の噂話を聞きながら、テーブルに付く。

「許可はちゃんと取ったわよ。怒らせたら怖そうな人多いみたいだし」
「特にあの少将さんはすごいおっかないらしいで」
「見るからにおっかなそうだしね」

 色々しゃべりつつ、例のごとく持ってきた夕食をカオスにしたどりすにつばさがため息をつきながら王室料理の缶詰を渡す。

「どりす、もう缶詰ほとんど残ってないから、普通に食べる事覚えた方いいよ?」
「う〜」
「食料も何とかなりそうやけど、無駄にするのはまた違うで?」
「そうなのだ」
「でも………」
「またやってる………」
「うわあ………」
「前衛的?」

 そこへ、トレーを手にした亜乃亜と音羽+ヴァローナが通りかかる。

「ああ、青葉さん」
「相変わらずだね。隣いい?」
「どうぞ、そちらは?」
「桜野 音羽、ソニックダイバー零神のパイロットやってます」
「ああ、あの…」

 音羽の自己紹介に、つばさとのぞみは格納室で見たソニックダイバーの事を思い出す。

「ところでそれ、食べるの?」
「まあ、何というか………」
「バウ!」

 調味料のカオスと化しているどりすの皿を音羽が指差し、つばさが返答に窮した所で、例のごとくチロが現れる。

「はい!」
「バウバウ!」
「………え〜と」
「無駄にはしてない、と言えるのかな?」
「プリンセスのペット?」

 どりすが差し出した犬も食いそうにないカオスを平然と食う犬、という奇妙な風景に音羽が絶句するが、亜乃亜が何度か見た光景に呆れ、ヴァローナがある意味感心しながらチロを指差す。

「そいつ、誰から何もらっても食う奴やで?」
「残飯処理係?」
「さすがにそこまでは………」

 のぞみも呆れて説明する中、ヴァローナの率直な感想につばさが手を振って否定する。

「そう言えば、青葉さんも明日試合に出るんですよね?」
「そう。面白そうだったから、試しに申請してみたらOKだって」
「へ〜、誰と対戦するの?」
「ラウラって子だって。何か、ドイツの軍人だって聞いてるけど」
「この学校、軍人もいるの」
「ウチの方にはおらんと思うけど、IS学園の方には国とかの推薦枠で入ってきてる奴結構おるらしいで? 新型機の試験なんかも兼ねとるそうや」
「あ〜、でも軍や警察のパンツァー部隊志望の子とかはいるかもよ? ここまで本格的なパンツァー設備整ってる学校少ないし」
「色々あるんだ………」

 音羽が感心していた所で、突然音羽の携帯端末が鳴り響く。

「メール? ………え?」

 何気に送られてきたメールを確認した音羽だったが、そこで表情が硬直する。

「どこから?」
「坂本さんから、明日の試合に私も零神で出る事になったって………」
「へ?」

 美緒から(正確にはアーンヴァルの代打ち)のメールに音羽が驚き、亜乃亜も驚く。

「へ〜、そうなんだ」
「機体まで持ってきてるから、ひょっとしてとは思ってたけど」
「また急な話やけどな」

 零神を見た時から何となく予感していた三人は何となく納得するが、音羽は困惑するばかりだった。

「あの、私ああいう試合なんてやった事ないんだけど………」
「私も無いけど」
「そうなの?」
「RVもソニックダイバーも、対抗兵器って奴だからね〜」
「それなら、教えてあげる!」

 どりすが嬉々として試合の説明を始め、二人はそれに根掘り葉掘り質問を繰り返す。

「ソニックダイバーだと、時間制限あるしな〜」
「相手によってルール多少変えるかもって聞いた」
「詳細は後からだって〜」
「にしても、何でまた急に試合なんやろ?」
「どうにもその少佐さん、何しでかすか分からない人みたいだし………」
「う〜ん、坂本さん確かに急に無茶言ったりする人だけど、自分でもその無茶するからな〜」
「前に大型ワームを一人で真っ二つにした事あったしね〜」
「その後無茶のしすぎで寝込んだけどね〜」
「………どこまで無茶苦茶な人なんや」

 のぞみが呆れていたその頃、当の本人は401の艦内にいた。


「とりあえず、許可は取った。これで懸念事項の一つが確認出来る」
「あえて言うなら、懸念事項ばかりだがな」
「それはどこでも一緒でしょうね」
「ええ………」

 401の食堂で、今日一日の視察を終えた美緒+アーンヴァル、嶋、加山、そして群像がそれぞれの見解を照らし合わせていた。

「私が見た限りでは、確かに練度が高い者はいない訳ではないが、やはりまだ訓練生相当、と言った所だ」
「私も同意見だ。だが、設備自体はかなり高度のようだ」
「そうですね。こんな状況なのに、どの子もそれほど苦労してる様子は無い。設備の維持と指導者の管理が徹底してる証拠でしょう」
「だが、逆に言えば緊迫感が足りないとも言える」

 誰もが抱いていた不安要素を、群像がずばりと指摘する。

「致し方あるまい。我らと彼女達とでは、根幹的に違う物がある」
「彼女達は、《戦争》を知らない」

 嶋と美緒の言葉に、加山と群像は頷く。

「少なくても、帝都のような壊滅的被害も受けた事はないみたいですしね」
「こっちの世界はどこも壊滅的な状況だがな」
「それはこちらも同じだ。早急的にその点を自覚し、改善しないと致命的な問題になりかねない」
「だが、だからと言って次に襲撃が起きた時、放置するわけにもいかない」
「マスター、さすがにそれは…」
「そもそも、転移装置とやらの設置状況はどうなっているのかな?」
「ヒュウガも協力して、急ピッチで進んでいるが、数日は掛かるらしい。もしその間に有事が起きれば、この艦で対処すれば…」
「問題はそこだ」

 加山と群像の見解に、嶋が口を挟む。

「ウィッチの世界にて、物理攻撃が一切効かない敵の存在が確認されている。同質の敵が、襲撃を掛けてこないとも限らない。そして、その時この艦で対処出来るかどうか」
「イオナの話では、周辺海域を調査しながらコンゴウもこちらに向かっているらしい。彼女の火力は霧でも有数だし、艦娘やウィッチ達も同乗している」
「エイラとサーニャか、あの二人ならば確かに突発的な事態にも対処可能だな」
「ともあれ、早々最悪の事態は起きない、と思うようにしておこう」
「心構えは必要だろうがな」
「ええ、その通りです」

 加山が気楽そうに言うのを嶋がたしなめるが、加山はそれを平然と受け止める。

「確かに、まだ起きるかどうかも分からない事態を論議してもな」
「もう少し様子を見ましょう。しばらくは滞在する事になりそうですし」
「転移装置とやらがちゃんと動かないと、持ってきたのでどれくらい持つのやら」
「問題は山積みだな」

 嶋のため息と共に、一同は解散する。
 そこでふと美緒がある事を加山に問うた。

「そう言えば、ミサキは?」
「エルナー君に現状の報告した後、少し気になる事があるから、もうちょっと学園内を見てくるって言ってたよ。仕事熱心だね〜彼女」
「見てくる、か」

 その意味する事を何となく察した美緒だったが、ミサキに任せる事にする。

「さて、何を見てくる気だか………」
「問題にならないといいのですが………」
「彼女なら大丈夫だろう」

 彼女の本職を知っている美緒の呟きに、アーンヴァルがそこはかとなく心配するが、美緒はむしろミサキの能力を信頼していた。

「後は、明日の試合次第か」
「マスターはどうなると思うんですか?」
「明日になれば分かる」

 そう言って小さく笑う美緒に、アーンヴァルは首を傾げた。



「とりあえず、大まかな所の視察は終わったようです」
「なるほどな………」

 千冬の私室に、真耶、千冬、どりあ、そして束の四人が集まっていた。

「皆さん、結構細かい所まで見てましたね」
「こっちに来た子なんてすごかったよ〜。あの子一人でIS学園の整備科生徒全員分くらいの頭脳有るんじゃないかな?」
「それは本当に人間か?」
「さあね〜、メンタルモデル二人も連れてたし」

 どりあと束の見解に、千冬が僅かに眉根を寄せるが、束は普段通り、掴みどころのない返答しかしない。

「転移装置の設置は順調のようです。夜間作業の申し出もありましたけれど、輸送してもらった物資に余裕があるので、断っておきました」
「それが妥当だろう。向こうも次の有事を懸念しているようだが、それまで過労を貯めるわけにもいかん」
「あのサムライ少佐さんにノされた子達はしばらく使い物になりそうにありませんけれどね」
「それなら、整備科の子達も自分達の今までの勉強結果、たった数時間で上回られてたよ?」
「査察にきたのか、潰しにきたのか疑いたくなってきたな………」
「あら、潰す気ならもっと簡単でしょうに。恐らくですけれど、あのサムライ少佐さんと互角に戦えるのは、私と千冬さん以外に何人いるか、といった所だと思いますけれど」
「そんなに強いんですか………」

 ため息をもらす千冬に、どりあが更に厳しい言葉を述べて真耶も思わずため息をもらす。

「そう言えば、そのサムライ少佐って人が、連れてきた子と箒ちゃんに試合させたいって話だったっけ」
「ああ、許可は出した。特殊な機体らしく、多少ルール変更が必要らしいが」
「詳細来たら教えてね〜、紅椿調整しとくから」
「やれやれ、明日も忙しくなりそうだ」

 思わずぼやくと、千冬は冷蔵庫まで行くとそこから密かに隠しておいた缶ビールをセットで持ってくる。

「これ以上は素面で話す気にもならんな」
「元からそんな気がしますけど。それとアルコールなんてどこに隠してたんですか………?」
「あら、よろしいんですか?」
「私はいつでも真面目だよ〜」

 千冬の勧めで、それぞれ缶ビールを手に取り、口を開ける。

「ま、こういう時のための代物だ。それでは、視察団の到着その他諸々に」

 千冬が適当に音頭を取り、缶ビールで乾杯の音を立てる。
 なお、翌朝急遽呼び出された一夏が千冬の私室に入ると、そこに放置された大量の空き缶と、ただ一人潰れている真耶を発見する事になった。



「わりいな、こんな時間まで入り浸って」
「いいよ、許可は降りてるし。消灯時間まではまだあるから」
「やっぱ学生だと規則が色々あるか」
「ほぼ女子寮だしな。キツいだろ」
「そりゃね。校舎のトイレは遠いし、気は使うし」
「ふ〜ん、やっぱ苦労はしてるか」
「まあね。男ってオレ一人だけだし、しかも何でIS動かせるかも分からないし。かなり怪しい所からも調べさせてくれって話が………」
「モルモットかよ」

 一夏の部屋で、何か意気投合したらしい僚平と杏平が一夏を交えて男三人で雑談に花を咲かせていた。

「オレの世界だと、むしろ男は希少だからな〜」
「何で?」
「死んでるからだよ、オレらの親世代の男の大多数は」
「………え?」
「ワームとの戦争でな。オレのガキの頃だけど、そりゃひでえ戦争だったからな………」
「あ、これ見てないのか?」

 僚平の説明に、杏平がもらっていた虫食い状態の世界地図をタブレット端末に表示させる。

「これは………」
「戦争の傷跡って奴。もっとも、ワームとの戦いに大量破壊兵器を使用したのは人間の側なんだけどな」
「オレらの世界だと、霧との戦争でここまでじゃねえけどひでえ状態になってるからな。海路も空路も霧に狙われるんで、実質鎖国って奴みたいなもんだ」
「………オレ達って、結構恵まれてるんだな」
「これから、多分そんな事言ってる暇無くなると思うぞ」
「洒落になんねえ事言うのはやめようぜ?」
「いや、実際前にな…」

 そんなそれぞれの状況を雑談している部屋の隣では、ある奇妙な事になっていた。

「あの〜、そろそろ私寝たいんですけど」
『どうぞお先に』

 パジャマ姿で困り顔のつばさを尻目に、専用機持ち達が壁に張り付いて隣の会話を盗み聞こうとしていた。

「何でこんな事に………」
「いや、クラリッサが男同士だと好みの女の話題になる事が多いと言われてだな」

 手に集音器を持ったラウラが、つばさの質問に真顔で答える。

「で、それが本当かどうか確かめたくて」
「ちょっと聞こえないかという話に」

 耳を壁に直当てしている鈴音と、ティーカップを当てているセシリアの言葉に、つばさは呆れ果てる。

「でも、戦争がどうのこうのって話してる」
「そう言えば、かなり荒廃した世界から来たという話だったか?」

 どこから持ってきたのか聴診器を当てているシャルロットと、更にどこから持ってきたのか竹筒を当てている箒が会話の内容に違う意味で関心を持っていた。

「あ〜、そこいらへんも近い内に校内新聞で書こうかと思ってますけど」
「ふむ、確かに協力してくれる相手の情報は必要だな」
「ちょっと静かにして。よく聞こえない」

 つばさとラウラが納得するが、鈴音が手で会話を制する。

「始めましたわ!」
「静かに」
「む………」

 会話の内容が段々恋愛関係になってきた事を察した専用機持ち達が耳を澄ますが、そこで突然音楽が響いてくる。

「ちょ、何これ!?」
「これって、クリスマスソング?」
「く、あの武装神姫にこちらの事がバレたか!?」
「どうして邪魔するんですの!?」
「いかん、まったく聞こえなくなった!」
「それじゃあ早く部屋に帰ってください」

 口々に文句を言う専用機持ち達に完全に呆れ果てながら、つばさは彼女達を部屋から追い出す事にした。
 ちなみに、どりすとマオチャオはすでに爆睡していて気付いてもいなかった。


「反応消失、諦めましたね」
「さっきからその子、何してんだ?」
「さあ………」

 壁に向けてツガルが起動ユニット・レインディアバスターの内蔵スピーカーからクリスマスソングを直に壁に響かせているのを見た男子三人が首を傾げる。

「気にしないでくださいマスター」
「何かたまに変わった事するんだよな」
「造ったのは相当な天才の変わり者だろうって話だからな」
「そういや、音羽ちゃんのはよく彼女の頭の上で昼寝してたな」
「あれはちょっと………ん?」

 そこで僚平が、ツガルがパジャマ姿なのに気付く。

「武装神姫用のパジャマなんてどっから?」
「ああ、あれなら簪が、日本の代表候補生の子がくれたんだ。いくらロボットでも、着替えも無いのは可哀想だから、フィギュア用のでよければって」
「そういう趣味なのかな?」
「前回はそんなとこまで気回してる暇も無かったからな〜」
「しばらく姉さんの手伝いで忙しくなりそうだから、代わりにマスターにつこうとする虫除けを依頼され…ゲフンゲフン」
「え?」

 何か不穏な言葉を聞いた気がした杏平がツガルの方を見るが、当のツガルは横を向いて咳払いで必死にごまかしていた。

「ひょっとしてあの子、買収されてね?」
「オレもそんな気がする………」
「何が?」
『いや、なんでも』

 ひょっとしてこいつ、ロクでもない女ばかりが寄ってきてるんじゃなかろうか?という疑問を、僚平と杏平の二人は口には出さないでいた。



 深夜、誰もが就寝しているであろう時刻、センサーの影を縫って僅かに蠢く人影が有った。

(夜間は一際、でも融合の影響で死角が出来てる)

 日中と一転、バトルスーツ姿のミサキがセンサー類をかいくぐり、あるいは無効化させながら学園の内部へと潜り込んでいく。

(帝都学園もかなりおかしいけど、IS学園はもっとおかしい。最新兵器を、こんな所で一同に試験させるというのは機密保持の時点で矛盾しているし、なによりこのセキュリティ、一見校内を守っているように見えて、逆に校内を監視している)

 配置その他から、地下に何かが有ると踏んだミサキは、手際よくロックを解除しながら、地下へ地下へと進んでいく。

(やはり、地下に何かがある。学園とは違う、もう一つの何かが)

 かなりの深さ、恐らくは一般生徒にはその存在すら知られてないエリアにまで潜入したミサキは、とうとう最深部と思われる地点に到達した。

「これは………」

 異常に厳重なロックが掛けられた扉に、ミサキは慎重に手を伸ばそうとした時だった。

「あら、残業かしら」

 突然響いてきた声に、ミサキは扉から飛び退きながらリニアレールガンを構える。
 その先には、ミステリアス・レイディを展開して大型ランス・蒼流旋を構える楯無の姿が有った。

「まさか、訪ねてきたその日の内にこんな所まで視察に来るとはね」
「この先に有るのは何? ひょっとして、この学園はこれを封じるために造られたの?」
「さあ、それはどうかしらね」

 表情を変えないまま問うミサキに、盾無も顔色を変えずにはぐらかす。

(護衛を置いているという事は、やはりこの先は最重要区域)
(まさかこんな所まであっさり入るなんて、甘く見すぎてたわね)

 互いに思う所がある中、双方の得物を構えたままの膠着状態が続くかと思った瞬間、ミサキが先に動き、いきなり何もないはずの空間を撃ち抜く。
 その場にあった物、室内なのに発生していた霧がその一撃で霧散する。

(気付かれた!)

 霧の正体、ミサキに気付かれないように盾無が遠回りで回り込ませたアクア・ナノマシンにミサキが気付いて先手を打った事に楯無は驚き、更に相手の評価を上げる。

(とんでもない腕利き! なんて奴を送り込んできたの!)
(霧、なんらかの能力の可能性有り。映像データだけだったけど、確か水を制御する機体)

 ミサキが身を翻し、リニアレールガンの銃口を盾無へと向けてためらいなくトリガーを引く。
 放たれたエネルギー弾は、盾無の目前でミステリアス・レイディを覆う水のヴェールに防がれる。

「残念」(反応から考えてスタン弾、一応手加減はしてるようね)
「成る程、そういう使い方をするのね」(予想以上に厄介な能力を持っている)

 お返しとばかりに盾無は蒼流旋の内蔵ガトリングを速射、ミサキはそれを驚異的な動きでかわし、反撃に撃ち返してくる。

(なんて動き、素で私並に動ける人は滅多にいないわね)
(半端な攻撃じゃ、あの防壁は破れない。どうする?)

 互いに考えた所で、同時に距離を詰める。
 盾無が蒼流旋で鋭い刺突を連続で繰り出すが、ミサキはそれをかわし、時にリニアレールガンで受け流していく。
 のみならず、リニアレールガンを構えたまま盾無の持ち手に銃身を絡ませ、それを引きつけながら変形の背負い投げを放つ。

「CQC!?」

 明らかな軍用格闘術に楯無が思わず叫びながら、受け身を取って再度距離を取る。

「あいたた、そんな軽装スーツでISを投げるだなんて、とんでもない凄腕ね」
「ダメージを受けたフリは止めたら?」
「そうでもないわよ」

 完全な不意打ちだったが、楯無は完全に受け身を取っていた事に気付いていたミサキが再度銃口を向ける。
 だがそこで楯無が不敵な笑みを浮かべ、ミサキが視線を僅かに後ろに向けると、投げる直前、楯無がいた空間に浮かぶ物に気付いた。
 そこにあるクリスタルのような物、アクア・ナノマシンの製造プラントであるアクア・クリスタルが霧を纏っている事にミサキがそこから飛び退こうとするが、それよりも楯無の指が鳴る方が早かった。
 アクア・クリスタルの放つ霧が一瞬で熱エネルギーへと転換、爆発が辺りを吹き飛ばす。
 そして、爆風が晴れた後には何も残っていなかった。

(!? 加減したはず………!)

 消し飛ぶ程の威力が無いはずなのに、ミサキの姿が見えない事に楯無が訝しんた瞬間、背後の気配に気付く。

「………成る程。そう言えば、特殊な能力を使う子達もいるって青葉さん言ってたわね………」

 苦笑しながらも、盾無はISのセンサーで自分の背後、天井に張り付くようにしてこちらにチャージ状態のリニアレールガンを向けているミサキを観察する。

「今この場にはミステリアス・レイディの霧が目に見えないギリギリのレベルで満たされている。それに感知させずにそんな所に行く方法は存在しない、瞬間移動でも出来ない限り!」

 ミサキの正体、架空の存在だとばかり思っていたESPソルジャーだという事にたどり着いた楯無が蒼流旋を向けるのと、ミサキのリニアレールガンのチャージが終わるのは同時。

「ミストルティンの槍…」
「これでも喰らえ…」

 お互い、手加減無しの本気の一撃を放とうとした瞬間、全く予想外の事が起きた。

「はいそこまで」

 陽気な声と共に、ギターをかき鳴らす音が響く。
 完全に虚を突かれた二人が本気の一撃を不発にしながらも同時にそちらへと振り向いた。
 そこには、ギターを抱いている加山の姿が有った。

「加山隊長?」
「ウソ………」

 二人そろっての疑問に、互いに加山の事に全く気付いていなかった事を悟る。
 当の加山は涼しい顔のままだった。

「いやはや、これから協力しようって子達が、勝手に内輪もめとかされても困るよね〜」
「あの、加山隊長………」
「いつから、そこに?」
「さあてね〜」

 とぼける加山に、二人は全く同じ答えに辿り着く。

((恐らく、最初から………))
「それじゃあ、今日の交流はお互いここまで。って日付変わってるしね〜、若くても夜更かしは良くないよ。オレはそろそろ帰って寝るから、君達もそうしたらいいよ?」

 どこまでもとぼけたまま、ギターをかき鳴らしつつ加山は去っていく。
 それを見届けた二人だったが、姿が見えなくなった所でミサキが思わず崩れ落ちる。

「………利用されたわ。20世紀初頭の彼にはここのセキュリティは破れないけど、24世紀の私なら破れる」
「つまりは、彼は貴方の後をこっそり付けてきたって事?」
「多分、いえ間違いなく。そして、私が探っていたここのセキュリティからここに何かがある事まで、難なく調べあげた」
「私達の実力までね」

 楯無も完全に脱力した所で、ISを収納し、ミサキへと手を伸ばす。

「改めまして、IS学園生徒会長の更識 盾無よ」
「………一条院 美紗希。銀河連合評議会安全保障理事局特A級査察官、コードネームは『セイレーン』」

 ミサキもバトルスーツを解除させ、楯無の差し出した手を握り返す。

「大した肩書だけど、ようはスパイって訳ね。危険性に過敏なの当たり前、か。だけども、確かにお互い協力した方がいいようね」
「ええ、余計な事をやろうとすれば、利用されるだけみたいだし」
「ついでだから教えるけれど、この先に何が有るかは私も知らないわ。知ってるのは出張中でここに飛ばされなかった学園長と、織斑先生だけ」
「なるほどね。文字通りの最重要機密、そして貴女はその番人」
「そういう事。夜も更けてきたけど、お茶でもどう? ごちそうするわ」
「いただかせてもらうわ」

 互いに苦笑を浮かべつつ、二人はその場から立ち去ろうとする。
 だが、途中で二人同時に足を止めた。

「そういう事だから」
「貴方も早く帰った方がいいわよ」

 振り向きもせず、二人は誰かに警告を残すとその場を後にする。
 そして誰もいなくなったと思った所で、どこかから人影が現われた。

「仕事がやりづらくなりそうですね。束様に報告しないと」

 隠れて様子を伺っていた人物、束の助手のクロエはそう呟くと、再度その場から姿を消した………



「大型施設、発見」
「武装勢力多数」
「軍事施設ノ可能性アリ」
「総員、該当海域ニ集結」
「集結完了次第、該当施設ノ殲滅ヲ開始………」




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