第二次スーパーロボッコ大戦
EP26


惑星エアル アルタイ公国 しましま亭

 ガルデローベ襲撃事件から数日経った夜更け、年中を通じて寒い国のある酒場に、一人の男が訪れる。
 太めな体格に小さなメガネをかけた男が席に付くと、マイスター乙HiMEの証である正装に身を包んだ赤毛の少女が数席離れた場所に座る。

「こんな所でそんな格好してていいのかい」
「あら、何よ今更。それよりも、ヤマダッチ頼んでた物は?」

 男、情報屋のヤマダに赤毛の少女、マイスター乙HiMEを護るとされる五柱の一人、四の柱・《破絃の尖晶石》ジュリエット・ナオ・チャンは問いかける。

「その呼び方は止めろ。だが、生憎と期待には沿えそうにない」

 ヤマダは出てきた酒を煽りながら、厳しい顔をする。

「あら、貴方でも探れない事があるの?」
「オレだけじゃない。表も裏も、ガルデローベを襲った奴を探ろうと躍起になってるが、どこもまだ情報を掴んじゃいないようだ」
「つまり、どこかの国や裏組織の物じゃない?」
「だろうな。調べにいったこっちが何か知らないか聞かれる始末だ。情報操作の類も疑ったが、どこの国の情報部も必死だ。あれが何か、本当に誰も知らないんだろうな」
「何も分からないって事が分かったって事ね」

 ナオはため息をつきつつ、懐から取り出したやすりで爪など研ぎ始める。

「じゃ、こういう情報も有るわよ。猫神様、知ってる?」
「あの黒い谷の守護者か」
「そ、あの子も見た事無いって聞いたわ」
「待て、確か噂だと………」
「猫神様はその名の通り、あちこちに自分の使い魔の猫を放って、その目で見た物を全て把握してるらしいわよ。ここにもいるけど」

 ナオはそう言いながら、店の隅の席で堂々と居座っているデカい黒猫を指差す。

「だとしたら………」
「つまりあの謎の襲撃者は、猫すら入れない所にいるか、元々ここの物じゃないかって話。後者は眉唾だけどね」
「さて、どちらが当たりだか」

 ヤマダは残った酒を一気に飲み干すと、空になった杯と代金をその場に置いて席を立つ。

「あら、もうお帰り?」
「さっきの線でもう一度当たってみる。猫すら入れそうにない所って行ったら、限られてくるからな」
「ここの物じゃない、ってのだったら?」
「その内分かるさ」

 ヤマダを見送りながら、ナオはため息を再度吐きつつ、頭を抱える。

「どこどう探しても何も分からないのを、どうやって探せってのよ。全くお金にならないし………」


 しましま亭を出たヤマダは、しばらく歩いた所で妙な人影に気付く。

(何だ?)

 ふらふらとしたその足取りのその人影は、ヤマダの前でいきなり力尽きるように路面へと倒れる。

「おっと、あんた大丈夫か…」

 倒れた相手を抱き起こした所で、ヤマダの目が大きく見開かれた。


「おい、大変だ!」
「あら、忘れ物?」

 先程出ていったはずのヤマダが戻ってきた事にナオが首を傾げるが、彼が誰かを連れてきている事に気付く。

「何それ」
「行き倒れだ」
「そんなお金持ってなさそうなの、拾ってきた所で…」
「この顔を見ても言えるか?」

 マイスター乙HiME、しかも五柱にしてはあるまじき事をほざくナオに、ヤマダはその相手の顔を見せる。

「セルゲイ少佐!?」

 その行き倒れが、かつて惑星エアル全土を巻き込んだヴィント事変を引き起こしたナギ大公の側近、そしてナオを乙HiMEにするべくガルデローベに送り込んだ張本人である事にナオの顔が驚愕に変わる。

「君達は、ボクを知っているの………?」
「………ボク?」

 セルゲイの口から、かつての彼とは思えない口調で話すのを聞いたナオが呆気に取られる。

「どうやら、記憶喪失らしい。オレの事も覚えてないようだ。それよりも、休ませてやってくれ。一応医者も」
「口の硬い闇医者呼びなさい。大至急」
「それよりも………ニナが………」
「ニナ? ニナがどうしたの?」

 セルゲイを治療しようとするナオだったが、セルゲイが残った力でしがみついてきて、自分のお世話係にして、ヴィント事変の中心となった乙HiMEの名を呟く。

「ニナが、さらわれた!」
「なん、ですって………」



「………こちらナツキ。誰だこんな時間に」
『はあい学園長』
「ナオか、急ぎじゃなければ切るぞ」

 就寝中だったナツキにかかってきた電話口の相手が、ナオだと気付いたナツキは受話器を戻そうとする。

『一応急ぎよ。前回襲ってきた相手の目的、分かったかも』
「何だと?」

 予想外の情報に、ナツキはベッドから跳ね起きる。

『そちらでもその兆候が有ったらしいけど、狙いは間違いなく乙HiMEの身柄の確保。確定したわ』
「根拠は?」
『さらわれたマヌケがいたのよ、一人』
「………そんな情報は来てないが」
『さらわれたのはニナ・ウォンよ』
「何っ!?」

 予想外の名前に、ナツキの眠気が完全に吹き飛ぶ。

「本当かそれは!」
『ホントも何も、今セルゲイ元少佐から直接聞いた話よ。ニナが妙な縞模様の機械にさらわれたって。で、探し回っている内に行き倒れたのをこっちで拾って、今闇医者に見せてる所。衰弱はしてるけど、大丈夫みたいよ』
「まさか、ニナが………だとしたら!」
『他のマイスター乙HiMEが狙われる可能性も有るわね』
「私の名ですぐに警告を出そう。他には?」
『何も分からないって事が分かったわ。ニナがさらわれた事以外は』
「そうか、ニナの件も含め、他の五柱にも調査させよう」
『セルゲイ元少佐殿はどうする? 記憶喪失みたいなんだけど』
「それらしい事は聞いていた。しばらくかくまってくれ。表に出せないのは分かるだろう?」
『はいはい、一応貴重な情報元だしね』
「頼む」

 そこで電話を切ると、ナツキはすぐに別の電話を掛ける。

『はいシズル』
「私だ、ナツキだ」
『あらナツキ。わざわざ電話なんてせえへんでも』
「急用だ。ナオから連絡が有った。ニナ・ウォンが、前回の連中に拉致されたらしい」
『………ホンマ?』
「セルゲイ元少佐の口から直接聞いたらしい。当人は今ナオに匿わせてる」
『でも、今あの子は乙HiMEじゃあらへんのに』
「元乙HiMEも狙われているのか、それとも…」
『あの子が、ヴィント事変の中心だったからか』
「各国のマイスター乙HiMEにはガルデローベの名で注意するように連絡する。他の五柱にニナの捜索を」
『任せとくれやす。………それで、ニナはんの事、アリカはんには………』
「………知らせない方がいいだろう。知ったら探しに行くと言い出すだろうしな」
『ウチもそう思うわ。じゃあ、ニナはんの事は五柱だけの秘密で』
「そうしてくれ」

 電話を切った所で、ナツキはエアルの夜空を見上げる。

「これから、一体何が起ころうとしているのだ………」



「なるほど、これは確かに熱狂する訳だな」
「訓練としてもいいでしょうね」

 議論が長引いたため、会議室のテレビで観戦しながら会議を続行していた嶋と加山が第一試合を見て頷く。

「緊張状態を緩める娯楽としても行けるでしょう」
「キリシマが賭け札大量に用意してた」

 意見を求められて同席していた群像とイオナも頷く。

「やはり、こうやって見ていると似て非なるというのが実感できるな」
「次はもっと変わったのが出てきますよ?」

 千冬とどりあも議論を一時止めて試合を見ていた。

「戦力として見れば、十分にも見えるね」
「だが、戦術運用ともなれば話が違う」
「ISは個々の能力が突出している。集団戦となるとむしろ難しいかもしれん」
「パンツァーの方はあくまで学生試合なので、色々制限がありますし」
「やはり、問題は戦術だと思います」

 色々議論する中、群像が一つの結論を出す。

「いかに戦力として優れようと、それを運用する戦術が無ければ、意味がない」
「私達メンタルモデルは、元々戦術を運用する人間的思考を理解するために造られた」

 群像とイオナの意見に、他の者達は顔を見合わせる。

「確かに、その通りだ。この学園を守る為の防衛戦にせよ、単純な力押しで済まない可能性はある。帝都での戦闘においてJAMと呼称している敵は極めて高い戦術能力を有しているのが確認されている」
「しかし、戦術運用となると専門教育か、かなりの実戦経験が必須となるな」

 嶋が頷いた所で、千冬が更なる問題を提起する。
 誰もが頭を抱え始めた時、不意にイオナの意識は概念空間へと飛んだ。

『401』
『コンゴウ。そちらは大丈夫?』
『ああ、現在の所は異常は無い。予定通りであれば、明朝にはその学園へと到着できる』

庭園を思わせる空間内の白いテーブルで差し向かいに座ったコンゴウとイオナだったが、コンゴウの様子が普段と違う事にイオナは気付いた。

『何かあった?』

 イオナの問いかけに、コンゴウは少しためらってから口を開いた。

『今、私は何人もの他者と行動している。霧以外の者と行動するのは、こんなにも大変なのだな』
『それが誰かと一緒に歩む、と言う事。嫌だった?』

 微かな苦笑を浮かべるコンゴウにイオナは問いかけるが、コンゴウは首を横に振る。

『こちらでも同じ事を聞かれた。が、これを嫌ではない、と感じている私がいる』

 そう言って視線を脇へとずらし、何か眩しい物を見るかのように見やる。
 イオナも吊られて視線を向けると、その視線の先の柱には、拙い絵柄で描かれた一枚の絵が飾ってあった。

『これ、コンゴウ?』
『そうだ、こちらにいる艦娘とやらが描いた物だ』
『何かを送るのは好意の証。貴女が彼女達に好かれてる事に他ならない』
『そうなのだろうな、他の者も絵を飾るのに額縁が無いとか画鋲が無いとか、この一枚に大騒ぎだ』

 コンゴウの表情に柔らかい物が混じり始めているのに、気付いたイオナは微笑。

『私も群像も、貴女達を待っている。不本意かもしれないけど、貴女の協力が必要』
『そうだな、今の私には人類に敵対する意義も無ければ、他の目的も分からない。不本意とまでは言わないが、せめて必要とされる所に向かうとしよう』
『会えるのを楽しみにしてる』
『そうだな』

 イオナの意識が現実に戻る。実時間では数秒しか経っていない中、誰もが頭を抱えたままだった。

「群像、コンゴウから連絡があった。予定通り、明日の朝には到着する」
「そうか。皆さん、聞いての通りで、こちらの世界の霧の大戦艦コンゴウが同行の者と一緒にこの学園にもうじき到着します」
「概念通信とかいう物か、いつの間にやらという短時間で通信を取り合えるのだな」
「ええ、そうです。先日までは空間歪曲の影響で支障が出ていましたが、それが落ち着いたようなので、イオナとコンゴウの間のやり取りならば、数瞬で可能です」

 その言葉に嶋は厳しい表情を浮かべる。

「かつて、そちらの世界で敵対した霧の大戦艦コンゴウか、今更だが本当に信用できるのか?」
「それはこちらも聞いておきたい。ISを上回る戦力を持つと思われる船が敵か味方か分からんのでは困るからな」

 嶋と、千冬も同様に厳しい意見を述べる。
 だが群像はその厳しい視線を正面から揺らがずに受け止めた。

「イオナが彼女の事を信じている。それならば俺は、イオナの判断を信じる」

 その信念に満ちた言葉に、嶋と千冬の双方は厳しい表情を解く。

「いやはや、対した信頼関係だね」
「千早艦長も度量が広いのですね」

 固くなりかけた場の空気を、加山とどりあが解きほぐす。
 群像は笑みでその言葉に答えた。

「それほどでも。それに、敵と仲間になってしまう事に関しては、帝都に来ている神楽坂さんには敵いませんよ」
「光の救世主、と呼ばれている彼女か」
「エグゼリカさんに聞きましたわ。彼女の仲間って、ほとんど元・敵対関係だったとか」
「前回の戦いの時に見たよ。彼女は友と信じた者に絶対の信頼を見せる。周りもそれに惹かれてしまう。個人の大きな資質だ、おいそれと真似はできん」
「俺も資料しか見てませんが、帝都にいる間にも会って間もない人間を次々と友達にしてしまう。こちらのクルーとも、あっという間に親しげに付き合ってましたよ」
「詐欺師も顔負けだ。その内に今回の敵も仲間にしちゃったりしてね」
「対話も出来ない相手では無理だろう」
「問答無用どころでは無かったしな」
「確かにそうでしたわね」 

 皆の意見が一致した所で、テレビでは次の試合のアナウンスが始まろうとしていた。

「コンゴウに関する件は、君達の意見を認める事にしよう。到着してからの扱いに関してだが」
「資料を見た限りでは、現在この世界に来ている中じゃあ、下手したら最大の単騎戦力のようだしね、彼女」

 嶋と加山の言葉に、群像は深く頷く。

「到着してからの話次第ですが、俺の考えとしては学園の防衛の要になって貰えないかと思っています」
「それに、ヒュウガと僧の話だと大型転移装置の機動エネルギーは現状ではどうやっても不足。コンゴウの協力でエネルギーを回してもらうのが一番の手段と言っている」
「それも大型転移装置の組み立てが終わってからの話ですわね」
「昨日の山田先生の話だと、組み上げるにはまだかかるそうだ」
「やれやれ、問題が増えていく一方だね」
「次の試合が始まりますから、それを見ながら考えましょう」

 加山が思わずぼやいた所で、どりあが画面を見て観戦を促す。
 だが、ある問題がすぐに露呈する事になるなぞ、その場の誰もが予想していなかった。



『それでは第二試合! 秘密時空組織「G」所属大天使・空羽 亜乃亜、使用機体・ビックバイパー! IS学園一年一組、ラウラ・ボーデヴィッヒ、使用機体・シュバルツェア・レーゲン!』
「次が始まるわよ」
「今度は、どんな人達でしょうか?」

 夜更けのリトルリップ・シアターの一室でコーヒーを飲みながら圭子と新次郎が設置さればかりの大型ディスプレイで学園からの配信される試合を見ていた。

「なかなか面白そうだな、私も出てみるか?」
「いいねいいね。スターで出れるかな?」

 マルセイユが冗談めいて言うと、ジェミニもその気になり始める。

「ルール変更が必須となります、姫」
「ウィッチでもこんな試合なんてないですしね」
「それならこっちもだ」

 ジェミニの肩にいたフブキが注意すると、真美とサジータが自分達の武装と試合の様子を比べて首を傾げる。

「それにしてもすごいねこれは。身内だけで見るのがもったいない位だ」
「シアターで公開なんて馬鹿な真似はしないでね」

 見てる中で一番興奮しているサニーサイドに、ラチェットが釘を刺す。

「できればしたい所だけど、ミッドナイトショーでは難しいかな?」
「時間が時間ですから」
「つまりこういう事か」
「ZZZ、もっとお代わり………」
「あらあら」

 サニーサイドが残念そうにするのをライーサが時計を見て頷き、昴はすでに熟睡してしまっているリカを見るが、ダイアナはリカに上着をかけてやる。

「確かGのRVって、高速機だったわね」
「前回、少し見ただけだけど、武装もすごかったのは覚えてるわ」
「機動性、武装双方が特化してた機体です、陛下」

 マイルズが前回の戦いで見かけた天使達を思い出し、圭子もそうするのをサイフォスがサポートする。

「あ、始まります」
「さあて、どんな試合になるのかしら」

 新次郎と圭子の言葉を合図にするがごとく、第二試合が始まった。



「うわ、すごい速い………」
「ホント………」
「相変わらずのスピードだよナ」

 艦内に作った食堂で、昼食を取りながら試合を見ていた吹雪と暁が、開始と同時に急加速して飛び出したRV、IS双方を見て思わず手が止まり、エイラは更に急上昇していくビックバイパーを見ながら食事の手は休めていなかった。

「相手の機体も結構いい動きしてるわね」
「見た目はそんな速そうにも見えないけれど」

 周王がビックバイバーを追うシュヴァルツェア・レーゲンの機動を興味深そうに見つめ、サーニャも不思議そうに二機の超高速戦闘を見ていた。

「このような戦い方もあるのだな」
「水上艦のお前には珍しいかもナ」
「私達も飛べれば深海棲艦に楽勝なのに」
「無理。私達は艦娘、飛行機娘じゃない」
「前回は、宇宙戦艦に乗って戦った事もあったよ」
「あったわね………今回はまだ持ってきてないそうだけど」
「すごい話ですね………」

 試合を見ながら前回の戦いの件も交えての話に、艦娘達はどこか唖然としていた。

「RVは機動性重視の機体だけれど、このISもかなりの機動性ね。確か元は宇宙開発用に設計されてるらしいけれど」
「宇宙開発にこんな重武装必要なのカナ?」
「軍事転用だと思う。前にウルスラさんがミサイル技術は宇宙ロケットの転用だって話してたし」

 亜乃亜はビックバイパーを更に加速し、その機動力でラウラを翻弄しつつミサイルやレーザーで攻撃するが、ラウラもシュヴァルツェア・レーゲンを機敏に動かして攻撃を避けつつ、大型レールガンで反撃してくる。

『これはすごい! 凄まじい空中戦の様相を呈してきました!』
『速度では明らかにRVの方が上だが、あの黒いISも無駄の無い、いい動きをしているな』
「坂本少佐が褒めるって、相当ダナ」
「だが、追いつけないのでは無意味だ」

 響いてくる実況と解説を聞きつつ、エイラが呟いたのをコンゴウが一言で両断する。
 その言葉通り、試合的にはラウラの方が押され始めていた。

「あの青い機体、また速くなってない?」
「確かに何か更に速くなったのです!」
「モードを上げたのね。RVは状況に応じてモード変更して対応出来るようになっているの」

 雷と電がカメラが追いつけないかのように速度を上げたビックバイパーに驚くが、周王はそれを補足説明しつつスピードで相手を翻弄している亜乃亜を見て感心する。

「空羽の奴、火力じゃ敵わないから、速さでケリ付ける気なんダナ」
「戦術的には間違ってないと思う。あの黒いの、すごいの出してきた」

 ラウラは戦法を変えたのか、80口径レールカノン《パンツァー・カノニーア》を展開させると、それを速射。
 亜乃亜はビックバイパーを加速させて放たれる砲弾をかわすが、時限、近接信管を混ぜて速射される砲弾が空中で爆発し、慌てて逃げ惑い始める。

「戦艦クラスかな………?」
「長門さんよりすごいの使ってる」
「機体サイズに似合わない物を使っているな」

 暁、響、そしてコンゴウがそれぞれ感想を述べる中、前半戦終了のブザーが鳴った。

「何とか亜乃亜さんが有利だけど、あの大型砲は食らったらまずいわね」
「武装がポンポン変えられるのはずるい!」
「アタシらもそう思うけどサ………」
「………む?」

 周王、暁、エイラがあれこれ言う中、コンゴウの表情が僅かに変わる。

「コンゴウさん、どうかした?」
「何か、妙な反応が有った気がした」
「敵カ?」
「分からない。今は何も感じない」
「気になるわね。食事の後、哨戒に出てもらった方がいいかも」
「了〜解」

 周王の提案に、エイラが頷くと食事の残りをかきこみ始める。
 だが、事態はすでに動き始めていた。



「どうだラウラ?」
「予想以上だ。見た目から高速重視の機体とは思っていたが、あそこまでとは………」
「ISより速い機体だとは思わなかったね」

 ベースに戻ってきたラウラに、一夏が状況を聞きつつ、シャルロットがスポーツドリンクを差し入れる。

「複数の武装や運行モードがあるみたい。状況に応じて変更して運用するのが前提だと思う」
「ISより徹底してるな」

 脳震盪から回復した簪がRVを的確に分析し、一夏がそれを見ながら少し驚く。

「どうするの? 逃げられたら追いつけないよ?」
「だがそれでは試合にならない。向こうもそれを理解してるだろうから、決着をつけに来るはずだ。そこを狙う」

 心配そうに聞いてくるシャルロットに、ラウラが不敵に笑いながら応える。

「頑張ってね! アイパッチのお姉ちゃん」
「ああ、見てるといい蒔絵」
「折角の特等席だ。しっかり見物させてもらうぞ」
「すまんな我々まで」

 ベースの中に設けられた来賓席から蒔絵とハルナ・キリシマからの声にラウラは笑みを強くする。

「ねえ、なんでこっちに来賓席用意したの?」
「クラリッサが小さい子供は特別扱いを喜ぶと聞いてたからな」
「なにそれ? ま、喜んでいるみたいだからいいけど」

 小声で聞くシャルロットの質問に当然とばかりに答えたラウラだが、相変わらずのずれた返答にシャルロットは深く考えない事にする。

「ラウラー! 絶対に勝ちなさいよ」
「その通りですわ。専用機持ちの意地を見せる所ですわ」

 来賓席の隣に陣取っていたセシリアと鈴音が手に持った賭け札を握り締めながら、檄を飛ばしてくる。

「まだ賭けてたのか」
「いいじゃない!勝ったら皆にも分けてあげるわよ」
「それに私はお菓子目当てで賭けたのではありませんわ。専用機持ちの皆さんの名誉にかけたんですわ」
「ISの一点賭けか」

 一夏が呆れながら、視線を来賓席のテーブルに置かれた茶菓子に向ける。
第一試合前にラウラが用意していたチョコレート(軍用保存食)の他に、中華干菓子とスコーンが先程の試合後に増えていた。

「安心しろ。今度は私も彼女に賭けている」

 キリシマの手にも賭け札が有るのを見た一夏が見なかった事にする事にした。

「すいません、名誉保てませんでした。すいません」
「そんな事ないよ。眼鏡のお姉ちゃんの名誉美味しいよ」
「あ、ちょっと他の試合まだあるのに、なんでもう食べてるのよ」
「お菓子を前にした子供に、無茶言うんじゃないの。美味しい名誉なら良かったじゃないの」
「姉さんまで言わなくても…」 

 そんなやり取りを見たラウラは余裕に満ちた笑みを浮かべる。

「まかせておけ、たっぷり取り戻させるさ。さて、それでは後半戦だ」



「ちょ、ちょっと危なかった………」
「大丈夫?」
「調子に乗りすぎよ」

 向こうの予想外の火力にビビりながら、息を整えながらダメージをチェックする亜乃亜に、音羽とエリューがそれぞれ声をかける。

「速度ならこっちが上だけど、相手もけっこういい動きしてるわ」
「向こう軍人さんだからね〜」
「え、そうなの?」
「聞いてるぜ。黒ウサギ隊とやらの隊長だろ? まだ学生なのにすげえよな」

 エリューがラウラを的確に評価する中、亜乃亜と音羽がラウラのプロフィールを思い出すが、そこで次の試合に向けて零神をチェックしていた僚平が口を挟んでくる。

「向こうの火力に捕まったら終わりだね」
「その通りではあるんだけど………D・バーストは危険だから使用禁止だし」
「あ、そうなんだ」
「シールドごと撃ち抜きかねないって事でね。向こうもあれ、弱装弾よ」

 ヴァローナの指摘に亜乃亜が唸るが、音羽とエリューは試合のルール上の制限に頷くしかなかった。

「おっと、そろそろ時間だぜ」
「よおし、行ってくる!」
「動きは止めたらダメよ!」
「がんばって!」

 応援を受けながら、後半戦開始と共に亜乃亜は飛び出した。

「モード・IDATEN! SPEED UP!」

 飛び出すと同時にMAXスピートにセットした亜乃亜が、ビックバイパーを急上昇させる。

『空羽選手、いきなりの急上昇! 後半戦からフルスロットルです!』
『速度で決めるつもりのようだな』

「させるか!」

 ラウラもシュヴァルツェア・レーゲンを加速させるが、RVの速度には追いつけない。

「それじゃあ行くよ!」

 亜乃亜は機体を大きく反転させながら、レーザーでシュヴァルツェア・レーゲンを狙う。
 相手がかわした所に、さらにミサイルを連射していく。

「食らうか!」

 ラウラは大型レールガンの速射でミサイルを撃ち落とすが、その隙に亜乃亜は相手の背後を取ってレーザーを撃ち込んでくる。

『ボーデヴィッヒ選手、善戦しておりますが、やはり速度差は如何ともしがたいか!?』
『いや、死角を即座に無くすように動いているな。何かを狙っているかもしれん』

「それなら、その前に!」

 美緒の解説を聞いた亜乃亜が勝負を決めるべく、レーザーを最大出力(※演習用の)で発射しようとする。

「ルステン テルング!」

 その瞬間、ラウラがドイツ語で何かを叫ぶ。
 すると、シュヴァルツェア・レーゲンの武装や装甲までもが、一気に分離した。

「!?」
「行くぞ!」

 余計な物全てを排除したラウラが、プラズマ手刀を展開して一気に亜乃亜へと迫る。

『何とぉ! ボーデヴィッヒ選手アーマーパージして高速仕様に! これが奥の手か!?』
『なるほどな、だが…』

「うひゃあ!?」

 予想外の手に亜乃亜がビックバイパーをロールさせながらラウラから距離を取ろうとする。

「逃さん!」
「何のぉ!」

 迫るラウラに逃げながら反撃する亜乃亜だったが、それでもなお、ビックバイパーの方が僅かに速い。

『凄い追撃戦です! しかし、そのままだと規程試合範囲を飛び出します!』
『そう言えばそんなの決めていたな』

「そうだったぁ!」

 表示される試合エリアの端を思い出した亜乃亜が強引に機体をひるがえし、追跡していたラウラとすれ違うようにしながらエリア内に戻ろうとするが、突然機体が急制動する。

「あう!? 何なに!?」

 突然の衝撃に亜乃亜の体が大きく揺さぶられ、ビックバイパーが急減速する。

「何が…」

 亜乃亜が驚いて振り返り、その原因に気付く。
 ビックバイパーに絡みついている、シュヴァルツェア・レーゲンのワイヤーブレードに。

「あ………」
「終わりだ」

 武装を全部捨てる振りで、一個だけ残しておいたワイヤーブレードをすれ違いざまに相手に絡みつかせたラウラが、笑みを浮かべながら、収納しておいたもう一丁の大型レールガンを展開させる。

「ちょっと待った…きゃあ〜!」

 亜乃亜の情けない悲鳴と共に、ビックバイパーに大型レールガンの一撃が直撃、シールドゲージが一気に消え、ラウラの勝利判定が下される。

『ボーデヴィッヒ選手、見事な逆転勝利です!』
『相手が白兵戦も出来るという事を失念してた空羽の失策だな』

 ラウラの勝利に、観客が一気に沸く。

「負けちゃった………」
「いや、ルールが無ければどうなっていたか分からない」

 がっくりとうなだれる亜乃亜を、ビックバイパーごと曳航する形でラウラが闘技場に戻ってくる。

『なかなか白熱した試合でした! 坂本少佐はどうでしたか?』
『相手の裏をかくのは戦闘の定石だな。性能差を機転で補った、見事な一戦だった』


「やったー! アイパッチのお姉ちゃん勝ったー!」
「よくやったわ、ラウラ!」
「見事に有言実行しましわね!」

 ベースに戻ってきたラウラに蒔絵・鈴音・セシリアが歓声を上げる。

「まかせておけ、と言っただろ」

 その歓声に答えながら戻ってきたラウラにシャルロットがタオルを手渡す。

「お疲れ様ー。凄かったよ、よくあんな手段思いついたね」
「なに、前半も何度か規定試合範囲を超えそうになってたからな。スピード勝負と思わせれば、ミスが出ると思っての事だ」
「対した観察眼だな。恐れ入ったよ」
「嫁の前で無様は晒せんからな」

 一夏とラウラのやり取りに、蒔絵が首を傾げる。

「嫁?男の人なのに?」
「そうだ、一夏は私の嫁だ」

 その一言にベース内の他の面子が目を吊り上げる。

「ちょっと! またそんな事言って、私は認めてないわよ!」
「私もですわ!」
「ぼ、僕だって」
「あらあら、それならお姉さんが嫁にしちゃうのはありかしら?」
「ちょ、お姉ちゃん!」
「まぁまぁ皆、落ち着いて」
「一夏〜! アンタが悪いのよ、この甲斐性なし!」
「嫁の悪口は許さんぞ」
「だから認めてませんわよ!」

 賑やかになったベース内のやり取りに、蒔絵は更に首を傾げた。

「ハルハル、どういう事だろ?」
「………これが『甲斐性なし』。タグ添付・分類・保存」
「どうだっていい、このまま3タテだ!」

 いつのまにやら自分の頭に小さな鉢巻をつけたキリシマが、賭け札を挟み込みながら力説する。

「そうか、私が勝てば賭け3タテか」

 試合前の精神統一をしていた箒が、キリシマに声を掛けるが、かけられたキリシマはそれに答えず視線を明後日の方向に向ける。

「おい、その反応はなんだ?」
「イヤ、チャントホウキサンニカケマシタヨ」
「その口調はなんだ? ちょっと賭け札見せてみろ」
「イエ、ソレニハオヨビマセン」

 賭け札を見ようと、箒は手を伸ばすがキリシマは巧みな動きでその手を躱す。

「いいから見せろ!」
「そうはいくか!」

 躍起になって手を伸ばす箒にキリシマはとっさに掛け札を自分の口へと押し込んだ。

「あ?! この!」

 箒は口を開かせようとするが、キリシマはがんとして口を開けない。

「ダメだよヨタロウ。お姉ちゃんと喧嘩しちゃ」
「ひや、ふぉんなつもりは」
「意地でも見せないつもりか」

 蒔絵に注意されつつも口を開かないキリシマに箒は呆れ果てたのか、軽く一瞥したあと、キリシマの頭を掴んでいた手を離す。

「見てろ、後悔させてやる」

 意気込みながら、試合場へと向かう箒の肩を誰かが叩く。

「意気込み過ぎだよ、箒」
「一夏………」

 箒を呼び止めた一夏は、少しだけ困ったような笑みを見せる。

「たしか、本当なら連続出場は出来ないはずの規定を、曲げてまでの特別試合だし、前回の疲れも残ってる。無理しすぎないでいこうよ」
「そうだな。これは異種試合なんだ、学ぶつもりで行ってくるさ」

 一夏の言葉に落ち着きを取り戻した箒は、ゆっくりと所定位置に付くと紅椿を展開させた。



『それでは次は昨夜急遽決まった第三試合! 人類統合軍 ソニックダイバー隊、桜野 音羽曹長! 使用機体・零神! IS学園一年一組、篠ノ之 箒! 使用機体・紅椿! また、ソニックダイバーにはシールドゲージが無いため、ルールが変更されます。試合はインターバル無しの五分制、ダメージでなく攻撃ヒット判定で勝敗となります! 3本のヒット判定先取した方が勝利となります』

 紹介に会場が湧く中、双方が出撃準備を整える。

「飛行外骨格『零神』。桜野。RWUR、MLDS、『パッシブリカバリーシステム、オールグリーン』っ!」
「行って来い、音羽!」

『3、2、1、スタート!』

「行ってくる! 零神 桜野、ゼロ行くよ!」

 僚平の掛け声を受けながら、カウントと同時に音羽は零神を発進させる。

「それでは、行くぞ!」
「ラウラに続け箒!」

 双刀を構え、一夏に声援を送られながら箒は紅椿を発進させる。
 飛び出した双方が一度距離を取って対峙、音羽は即座に零神をAモードに変形、MVソードを引き抜く。
 その様子をブースで見ていた専用機持ち達は首を傾げた。

「ジェット推進の可変機?」
「また随分とレトロな機体よね」

 セシリアがざっと見の零神の特徴を口にし、鈴音もそれがISよりも明らかに古い技術な事に顔をしかめる。

「この試合、坂本少佐の提言で決まったそうですけれど」
「あのサムライ少佐、二次大戦の人って話だから、機体の技術差気付いてないんじゃない?」
「そうでもないみたいだぜ」

 いきなりの声に、二人が後ろを振り向くとそこに杏平といおりがいた。

「ちょっと、何を勝手に入って来てるのよ!」
「すいません、蒔絵ちゃんがこっちから見た方が面白いっていうんで」
「ちゃんとそこの生徒会長さんには許可もらったぜ」

 鈴音の文句に杏平といおりが反論。専用機持ち達の視線が楯無へと向けられるが、当人は涼しい顔で受け流す。

「いいじゃない、ひょっとしたら何か助言貰えるかもよ」
「じゃ早速。そうでもない、って言える根拠は?」

 一夏の質問に乗り気になったのか、いおりと杏平は身を乗り出す。

「あの少佐、前も似たような戦いに参加して最前線にいたらしいよ。機体の技術差なんて理解してないはずないけど」
「ここに来るまでも、401の兵装やメンタルモデルについてあれこれ聞かれたし、前の試合の様子も何度も見てたぜ」

 いおりと杏平の説明に、セシリアと鈴音は更に首を傾げる。

「それで、この試合を?」
「どうして?」
「見てりゃ分かるだろ」

 闘技場では、まさに両者がぶつかる所だった。
 互いに剣を構えた零神と紅椿が、真正面から己が一撃を激突させる。

『これはすごい! 先ほどと一転、今度は双方正面衝突です! この試合、ポイント制となっているので、有効な攻撃判定を出した方が勝者となります!』
『つまりは攻めた方が勝ちだ』

「たああぁ!」
「とおおぉ!」

 気合と共に、互いの剣がぶつかり合う。
 箒は雨月と空割の双刀で次々と攻撃を繰り出すが、音羽はMVソードでその攻撃をさばく。

(出来る!)

 恐らくはパワーは紅椿の方が上なのだろうが、音羽はその斬撃を正面から受け止めず、受け流すようにさばいているのに、箒は相手の腕を認めざるをえなかった。

「ならば!」

 箒は紅椿を後退させながら空割を一閃、そこからエネルギー刃が投射される。

「なんのぉ!」

 音羽は零神を巧みに動かし、箒が次々放つエネルギー刃をかわしていく。

「な…」
「それは可憐ちゃんに対策済み!」

 予め話してあったのか、午前中に送られてきた回避プログラムを併用し、紅椿の攻撃をかわしてく零神に、箒は一度距離を取るべく、紅椿を加速させる。

「Gモードチェンジ!」

 音羽は即座に零神をGモードに変形、紅椿を追いつつ、肩部2連ビーム砲を速射する。

「可変はそういう事か!」
「ソニックダイバーをなめないでね!」

 Gモードの加速性に箒は改めてソニックダイバーの特性を理解するが、同時にその状態では近接戦が不可能と判断し、今度は一気に接近しながら双刀を構える。

「この紅椿も舐めるな!」

 唯一の第四世代ISの運動性と速度で、箒は零神に一撃を加えようとするが、音羽は零神をロールさせながら変形、更に変形しながらの抜刀で逆に紅椿に一撃を加えた。

『篠ノ之選手に攻撃hit判定! 桜野選手、性能差を物ともしない素晴らしい戦いです!』

「く…」

 予想外過ぎる反撃に、箒は再度距離を取って音羽と退治する。

(これは………)

 対して、音羽を距離を取ったままMVソードを構える。

(あ、危な………あれ、動画で見るよりもすごく速い………けど、何とか戦える!)

 ISの、というよりも紅椿の圧倒的な性能に内心焦りつつ、それでも試合にはなっている事に何とか落ち着きを取り戻す。

『ああ、やはりか』
『何がでしょうか?』
『前に見た時から感じていた。あの赤い機体、最新型と聞いているが、まだ習熟が済んでないな』
『は?』
『明らかに機体を使いこなせていない。私もテストパイロットをしていた時期が有るから、なんとなく分かる』
『なるほど、ベテランの方は目の付け所が違いますね』

 聞こえてきた美緒の解説に、箒は内心を深く抉られる感触を感じていた。
 己自身、自覚は有ったが、それを外部の、しかもかなりの歴戦らしい人間に指摘された事に、動揺を感じずにはいられなかった。

(確かに、私は紅椿を使いこなせてない………それに対し、向こうはあの機体を完全に手足のように使いこなしている。機体の性能差以上に、操縦者としての技能、いや経験差が大きいのか?)

 動揺したまま、接近しながらの一撃を音羽は僅かに零神をバックさせて見切りでかわし、音羽の反撃を箒は思わず急加速させてかわす。

「すごいね、その………赤うなぎだっけ?」
「紅椿だ!」
「けど、こっちも負けないよ! 行くよゼロ!」
「こちらもだ!」

 両者は気合と共に、再度ぶつかった。


「よし、なんとかいけてる!」
「音羽ちゃん、がんばって!」
「なかなか頑張ってますね」
「そうだね〜」

 声援を送る僚平と亜乃亜、試合後もブースに残って観戦していたサイコに続いて聞こえた声に、僚平と亜乃亜が思わずそちらを見ると、そこにいつの間にか見覚えのない人物が増えていた。

「おわ!? アンタいつの間に!」
「あれ、篠ノ之博士?」
「篠ノ之博士って、あのIS作ったっていう?」

 驚く僚平だったが、亜乃亜がそれが束だと気付く。

「篠ノ之博士、貴女はアチラのブースなのでは………」
「ん〜? 紅椿の調整は完璧にしといたからね。今はこっちの方に興味あって」

 サイコも驚く中、束の目は妹と紅椿でなく、音羽と零神に向けられていた。

「ソニックダイバー、ナノマシン暴走体であるワーム対策専用機、だったっけ」
「ああ、そうです。特にあの零神は近接戦に特化して調整してるんで」
「う〜ん、このルールだとちょっと箒ちゃんに不利かな? 確か、制限時間があるんだよね?」
「ええ、ナノスキンにはホメロス効果発動のために時間制限が…」

 束の質問に、僚平は思わず調子に乗ってソニックダイバーの説明を始める。

「あ! 一本取られた!」

 その間に、箒は性能に物を言わせて零神に一撃を加えていた。

「三本先取で決着だったよな?」
「うんそう、あ!」
「今のは相討ちね」

 僚平が説明を止めて試合を見るが、今度は両者同時に攻撃が入り、エリューが残時間を確認する。

「大丈夫、音羽には坂本少佐から教えられた秘策がある!」
「秘策? サムライ少佐から?」
「上手く行けばいいんだけど………」



『残り時間、一分を切ろうとしています! ポイントは互角! あと一撃で決着が付きます!』
『どちらが先に勝負に出るかな?』

 白熱する実況に、観客席も大いに湧き上がる。
 対峙する両者は、互いに白刃を手に息を整えていた。

(さすが最新型、GモードとAモードを同時に使ってるみたいなすごい動きしてる………)
(大丈夫だ。熟練度は明らかに向こうが上だが、紅椿ならついていける………)

 ある程度、相手の特徴を掴んできた所で、残り時間が一分を切った事を告げるブザーが鳴り響く。

「今!」

 それを合図にしたように、音羽は零神をGモードにチェンジ、突然相手に背を向けて離脱するかのような動きを取る。

「な…」
『おおっと桜野選手、まさかの敵前逃亡か!?』

 予想外の行動に箒は呆気にとられ、実況のつばさも驚きの声を上げる。

「させるか!」

 相手の意図が分からないが、高速で離れていく零神を追って、箒は紅椿を加速させる。

(やっぱり速い! 勝負は一瞬、タイミングがちょっとでもずれたら…)

 ぐんぐん距離を詰めてくる紅椿に、音羽は内心焦りを抑え、美緒から聞いていた作戦を実行させる。
 距離が詰まってきた所で、音羽は零神を上昇、急角度の放物線にかかるGを押さえ込みながら、速度は緩めようとしない。

「何のつもりで…」

 急激な軌道変化に零神の速度が落ちるのを見ながら、箒は双刀を振りかざす。

(今!)

 そこで音羽は更に一気に機体を引き起こす。
 次の瞬間、箒は音羽の狙いに気付いた。

(太陽!)

 零神が、太陽に重なるように飛行していた事を悟った箒だったが、太陽に重なる直前、即座に紅椿のAIが視覚に閃光自動補正を掛ける。

(そんな古い手…)

 太陽の目眩ましという原始的な手段だと箒が思った時、零神が目の前から消える。

「え………」

 一瞬何が起きたか理解出来なかった箒だったが、直後に紅椿のハイパーセンサーが何が起きたかを知らせる。
 太陽と自機が重なった瞬間、音羽は零神をAモードに変形させてエアブレーキを掛けていた事を。
 その事を理解する本当に数瞬の間、だが紅椿の速度なら零神を追い越してしまうには十分だった。

「しまっ…」

 慌てて急制動をかけようとする箒だったが、その時すでに零神は変形を終え、背後から二連ビーム砲をこちらに向けていた。

(負けた!)

 完全に相手の作戦にはまってしまった事に、箒は敗北を直感。
 だが、そこで誰もが予想してない事が起きる。
 学園の全スピーカーから、突然けたたましい警報が鳴り響く。

「何? 何?」
「これは…」

 音羽も思わず攻撃を中断、箒も何事かと周囲を見回す。

『こちら401! 正体不明の一団がこちらに接近中! 繰り返します! 正体不明の一団が接近中!』

 通信越しに響いてくる静の警告に、音羽、箒共に顔色が変わった。

『こ、これは…』
『試合は中止だ! 桜野! 篠ノ之! 斥候に出られるか!』
「はい!」
「わ、分かりました!」

 慌てる翼の声を遮るように、美緒の声が響き、音羽は即答、箒も続けて思わず返答する。

『総員警戒態勢! 非戦闘員は防空壕に退避! 戦闘可能要員は臨戦体勢を取れ! IS隊は即座に武装して上空に待機! パンツァー隊は海岸線に防衛線を構築!』
『あの…』

 矢継ぎ早の美緒の指示だったが、そもそも彼女に学園の指揮権など無い事につばさが何か言おうとし、生徒達も戸惑う。
 それを見た美緒は、大きく息を吸い込み、叫ぶ。

『急げっ!!』
「「は、はいいぃぃ!」」

 美緒の凄まじい迫力に、生徒達は一斉に行動を開始した。

「何で私達があの方の言う事を聞かねばなりませんの!?」
「サムライ少佐が何一つ間違った事言ってないからよ!」
「そんなの分かってますわ!」

 ブルー・ティアーズを展開させて飛び出しながら、セシリアがぼやいた所で、観客席からセットフォームしながらのずるが叫び、セシリアも思わず叫び返す。

『空羽、トロン、エグゼリカ、出られるか!』
「い、今ダメージチェック中です!」
「発進準備に少しかかります!」
「こちらも!」
『アーンヴァル!』
「行けますマスター! ライドシステムを用意してください!」
「待ってオーニャー!」

 それぞれが準備に取り掛かる中、零神と紅椿が先行して401から送られてきた座標へと向かう。

「また敵襲!?」
「かもしれない! モードを実戦モードに」
「こっちも!」

 Gモードの零神と紅椿が並走しながら、モードを書き換える。
 その間に、目的地とそこにいる者達に気付く。

「な、何だあれは………」
「人? いや怪物?」

 それは、海上を学園へと向かって進む、漆黒の異形達の姿だった。

「オ〜ニャ〜!」
「あれが目標?」

 そこにヴァローナとアーンヴァルが追いつき、海上の存在に気付く。

「あれって………」
「ブライトフェザーからの情報と照合………一致しました! マスター、接近してきているのはパリに出現したのと同じ、深海棲艦です!」

 武装神姫達が相手の正体を確認した時、砲声が轟く。

「オーニャー!」
「撃ってきた!」
「問答無用か!」
「向こうからの戦闘行動を確認しました!」

 深海棲艦の発砲に、四者が同時に散開してかわす。

『桜野、篠ノ之、迎撃しろ! ただし無理はするな! 増援を向かわせ…』
『反応更に増加しました! 数は20,いえ30…まだ増えます!』

 美緒の指示が飛ぼうとするが、そこに静の更なる報告が飛び込んでくる。

「深海棲艦とは、どういう存在!?」
「私もよく知らない! けど、パリじゃすごい苦戦したって聞いてる!」
「オーニャー! 変なの来た!」
「深海棲艦の艦載機です!」

 箒の問いに音羽が首を横に降るが、そこに小型の眼と口を持った奇怪な小型機が迫ってくる。

「戦ってみれば分かる! 行くよ箒ちゃん!」
「はい桜野さん!」

 Aモードに変形させてMVソードを構える零神に、空割と雨月を構えた紅椿が並ぶ。
 二人の剣士の突撃が、学園を襲った二度目の襲撃、そして激戦の始まりを告げた………




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