EP31 「こいつよりヤバい奴が来てる!?」 「戦艦水鬼、この戦艦棲姫の上位種と思われる存在です!」 「戦艦か最低でも重巡クラスの艦娘以外は交戦すら許可されてないわ!」 一夏が吹雪と暁の説明に仰天する。 「楯無会長と簪は撤退したらしい! 負傷者も出たようだ!」 「てんちゃんは無事!?」 「重傷なのはミサキさんです。ドラッグの過剰投与が原因だそうですが」 「貴方達、一体どんなのを実戦投入してるの?」 箒も流れてきた情報を確認した所で、どりすが思わず聞き返し、アーンヴァルも情報を確認するが、それを聞いていた加賀が思わず呟く。 「とにかく、こいつを倒さないと!」 「もう少しなんだけど、しぶとい………!」 一夏とどりすが歯噛みしつつ戦艦棲姫を睨む。 艦娘、ウィッチ、IS、パンツァー、更に霧の総攻撃を喰らいながらも、戦艦棲姫は未だ砲撃を止めようとしなかった。 「オー、やはりタフね」 「大井、北上、魚雷は?」 「さっきので全部!」 「こっちも!」 「第六駆逐隊も使い果たしたわ!」 「頼みは金剛さんの砲撃のみ。けど、撃ち合いじゃ分が悪い………」 「私らの攻撃じゃ威力が足りナイ!」 「ネウロイ以上………」 戦艦棲姫の防御力に、徐々に火力不足に陥る艦娘とウィッチだったが、相手の砲撃は止む様子すらない。 「残弾数とかないのか!?」 「深海棲艦は体内で砲弾造ってるって噂です!」 「生き物なのか、それ………」 あまりの非常識さに箒が思わず叫ぶが、吹雪からの返答に一夏の頬が引きつる。 「どうにかして近付ければ、カイザードリルで!」 「でもブリッドもう無いのだ!」 「前のあれ出来ない!?」 「だから絢爛舞踏は私自身制御出来ないんだ!」 どりすが逆転の一手を模索するが、マオチャオやツガルの指摘通り、ブリッド無しではその一手も使えず、艦娘達の攻撃を見守るしかなかった。 「ブッキー、第六の子達とバックね。魚雷無しだと、駆逐にアレの相手は無理ヨ」 「そ、それはそうですけど………」 「せめて、強烈な一発が有れば!」 『強烈な一発が欲しいのか。じゃあくれてやる』 後退を告げる金剛に吹雪達が渋々頷く中、会話を聞いたコンゴウが一気に前へと出てくる。 その船体が光ったかと思うと、何と上下に分割を始め、その内部で大型のレンズのような物が動き始める。 「へ、変形したっ!」 「どうなってるの!?」 「退避しよう、何か危ない気がする」 「了解なのです!」 「みんなもこっちに!」 何か唸り音のような物を立て始めたそれに、駆逐艦娘達は一斉に退避を始める。 「こ、これって!」 「間違いない、超重力砲だよ! しかも401のより強烈なエネルギー反応!」 船内で戦闘の様子をモニターしていた音羽とヴァローナが、コンゴウの船体から出現したそれが見覚えがある事に仰天する。 「まさか、こんな物まで………」 「緊急連絡! 直線状にいる人全員退避!」 「巻き込まれたら跡形もなく消し飛ぶよ!」 周王も予想外の兵装に驚くが、音羽とヴァローナのあまりの狼狽ぶりに、その威力が否応でも予測出来た。 「エイラさん、サーニャさん!」 『分かってル!』 『これは………危険過ぎる………』 周王の通信よりも早く、エイラとサーニャは艦娘達を退避させる。 その間にも、発射準備は進んでいた。 「トラクタービーム発射、ターゲット固定。重力子臨界まで上昇」 コンゴウから発せられたトラクタービームが戦艦棲姫を捉えるだけでなく、その余波だけで海が割れていく。 「オー、グレイト!」 「非常識ね………」 「何、この船………」 「パリの連中の方がマシだったわよ!」 「北上さん!」 「こっちだよ大井っち」 「一夏!」 「分かってる!」 「すごい………」 艦娘とISが武装神姫を伴って退避した所で、コンゴウの船体が光を増していく。 「これが私の最大火力だ。超重力砲、発射」 冷徹に告げながら、コンゴウは超重力砲を発射。 漆黒の凄まじい重力子の渦が、戦艦棲姫が放った砲弾ごと相手を飲み込み、押し潰していく。 「グ、ギャアアァァ………」 絶叫すら飲み込まれ、超重力砲は戦場を貫く。 「すっげえ………」 「うわあ………」 一夏とどりすのみならず、誰もがその凄まじすぎる威力に絶句する。 「こんなのが有ったら、最初から勝負は決まっていたんじゃないのか?」 「だといいんですが………」 箒が呆然と呟く中、隣にいたアーンヴァルがある懸念を呟く。 重力子の渦が消え、トラクタービームから開放された海面が元へと戻るが、超重力砲の余波も合わさり、海面は荒れ狂う。 「うわわわっ!?」 「バランスが維持できない!」 「転覆するかも」 「エマージェンシー! エマージェンシー!」 「おい、そっちの赤いノと白いノ! 手伝エ!」 あまりに海面の荒れ具合に、駆逐艦娘達が転覆しそうになり、ランサメントが救援を求めるのを見たエイラとサーニャは慌てて救援に向かい、箒と一夏もそれに続く。 「そっちは大丈夫!?」 「何とか!」 駆逐艦娘を海面から引っ張り上げながらどりすが声を上げるが、荒波に揉まれながらも他の艦娘達はかろうじてバランスを保つ。 「五航戦、無事?」 「大丈夫です!」 「北上! 大井!」 「なんとか!」 「なんなのあの船! 北上さんに何か有ったらどうするの!」 バランスを保つのが精一杯の空母艦娘や、手を繋いで二人がかりで何とかバランスを保っている軽巡洋艦艦娘の中、金剛だけは腕組みしたまま戦艦棲姫のいた場所を見つめていた。 「オーナー」 「エスパディア、コーションね」 「ダー」 妖精たちに次弾装填を急がせながら、警戒を解いてない金剛に、エスパディアはセンサーを最大にし、そして信じられない物を確認する。 「オノレ………ヨクモ………」 「生きてる!」 「ウソだろ!?」 荒れ狂う水面から、立ち上がってきた戦艦棲姫にどりすと一夏は心底仰天する。 だがその姿は満身創痍で、艤装は半ば吹き飛ばされ、片腕も失い体も大きくえぐられ、黒い血のような物が滴り落ち続けている。 「そうか、一発では足りないか。ならばもう一発…」 「いい加減にシロ!」 最大火力で戦艦棲姫を倒しきれなかった事にコンゴウはさしたる困惑も見せず、再発射にかかろうとするが、そこに片手で吹雪を吊り上げながら文字通り飛んできたエイラが、空いている手で空マガジンをコンゴウの側頭部に投げつける。 「あんなモノ、ポンポン撃ったらあの学園が無くなっちまうダロ!」 「ちゃんと効果範囲からは外している」 「周辺の影響を考えロ!」 「あの、海がすごい事に………」 「さすがにやり過ぎだよ!」 「だが倒せていない」 エイラだけでなく、吹雪とランサメントからも注意されるが、コンゴウは未だ戦闘態勢にある戦艦棲姫の方に冷たい視線を向ける。 「ノープロブレムね、ミストコンゴウ! あとはミーにお任せネ!」 そこで、コンゴウの船体の前に出た金剛が、装填を終わった全砲を戦艦棲姫へと照準する。 「目標測距終了、誤差修正。食らうね、バーニングラ~ブ!!」 戦艦棲姫が撃つよりも早く、金剛の全砲塔が一斉に火を吹いた。 装弾されていた一式徹甲弾は目標の手前で着水、そのまま水中を進むと、戦艦棲姫へと次々着弾。 盛大な水柱に続けて火柱が上がり、戦艦棲姫の体を爆炎が包んでいく。 「ア………アア………シズンデイク………」 限界を超えた戦艦棲姫が、その体を崩壊させながら、海中へと沈んでいった。 「目標、撃沈確認ネ!」 「ハラショー、オーナー。敵、完全沈黙」 ガッツポーズを取る金剛の肩で、エスパディアも戦果を確認。 「金剛さん! 島の反対側に戦艦水鬼がいます! 急いで向かわないと!」 「分かってるね! エブリワン、まだ行けるネ?」 落ち着いてきた海面に降ろされながらの吹雪の言葉に、金剛は他の艦娘達の方を見る。 「私は大丈夫です」 「こちらは残機がちょっと心もとないですが………」 「援護くらいな出来るわ」 「残弾確認、急いで」 「魚雷無しでどこまで出来るか………」 「OK、ブッキー達駆逐は残るネ。私達で急いで…」 「急ぎなら、すぐに行けるぞ」 船団を整える中、船体の舳先に来たコンゴウが意外な事を言ってくる。 「ホワッツ?」 「あの、ひょっとして………」 「このカタパルトなら、あの島の向こう側くらいまでなら十分跳ばせる」 コンゴウが自分の背後、甲板のカタパルトを指差す。 「サンキューね!」 「あの、かなり衝撃が………」 「酔うかも………」 実体験済みの吹雪と暁がそれとなく注意するが、金剛はやる気満々だった。 「今からもう半周してる暇は無いわ! そっちの赤いのと白いの! 私達を甲板上まで運んで!」 「それは構わないが………」 「学園飛び越えるって、かなりの出力だよな? 大丈夫なのか?」 「体持つ? それって防御力ある?」 加賀が箒と一夏に呼びかけるが、一夏とどりすの指摘に艦娘達が顔を見合わせる。 「中破以上の艦は残りましょう」 「多分、駆逐と軽巡もダメね。だとしたら私と金剛さんだけで行くわ」 「けど加賀さん………」 「残念だけど、一航戦の言う通りよ。破損している私達では、戦艦水鬼の相手は務まらないわ」 吹雪の指示に加賀が頷くが、翔鶴と瑞鶴は渋々残留に同意。 そして、矢筒に残っていた艦載機の矢を加賀に手渡す。 「持っていって」 「ご武運を」 「もちろん」 「じゃあブッキー達は後詰よろしくネ!」 「はい!」 「気をつけて!」 「あまり動かないで」 「ちょっと失礼」 他の艦娘達に見送られながら、金剛と加賀を箒と一夏がコンゴウの甲板へと吊り上げていく。 「オゥ、中々素敵な船ネ」 「あちらのバーベキューコンロと物干し竿が気になりますが」 「カタパルトはそれか!」 「少し待て」 甲板の様子を見ながら、金剛と加賀をカタパルト上に下ろそうとする箒と一夏だったが、コンゴウが呼び止めると、彼女の周囲にグラフサークルが出現する。 「な、なんだそれ?」 「メンタルモデルの演算式らしいよ」 一夏が驚くが、ツガルが説明していた所で、コンゴウの演算がすぐに終わる。 「自重、体積からの射出ベクトルを算出した。順次カタパルトに」 「ミストコンゴウ、女同士でも体重と3サイズは勝手に図っちゃノーね」 「そうか」 指を振りながら注意する金剛に、コンゴウは小さく頷く。 「一夏、まだ行けるか!?」 「かなりギリだけど、なんとか!」 「早く行かないとお姉さまに怒られる!」 紅椿の状態と全エネルギーをチェックしながら箒が一夏に確認し、一夏も白式の状態をチェックし、どりすは白式の背で戦況をチェックして顔色を変える。 「順番に乗れ、撃ち出す」 「撃ち?」 「準備OKネ!」 不穏な単語に一夏が首を傾げるが、すでに金剛はカタパルト上に腕組みして仁王立ちしていた。 「それではダメよ、前傾姿勢で艤装の荷重を流さないと」 「ワッツ?」 甲板上に出てきた周王の助言に、金剛がそちらに顔を向ける。 「このカタパルトは私の設計よ。電磁射出式だけど、高速射出の対象保護までは考慮されてないわ。この学園施設を飛び越えるとなると、かなりの速度になるけど耐えられる?」 「オウ、金剛型一番艦は頑丈ね」 「私もなんとか………」 「ドークタル周王、マスター達の装備は特殊。しかし高機動に耐えられるかは不明」 「手なら有るゾ!」 金剛と加賀はそれでも飛ぼうとするが、エスパディアが警告。 そこにエイラが手を挙げる。 「私らと一緒に跳べば、少なくてもシールドで空気抵抗は減らセル!」 「何か、結べる物を」 「コンゴウさん、何か造れる?」 「結ぶ物………」 コンゴウが手を伸ばすと、周辺のナノマテリアルが変形していく。 「オゥ、ファタンスティック」 「すげ………」 「…オイ」 金剛と一夏が驚く中、出来た物、何故か茨のツルを見てエイラが半目になる。 「ワイヤーとカラビナがいるわね」 「ダー、射出速度データをこちらへ。検証する」 「こちらを先に頼む! これ以上エネルギーを無駄に出来ん!」 「多少手荒でも、ISなら耐えられる!」 「こっちも大丈夫!」 「そっちのローンチバーに脚部を固定して。初速がかなり…」 「説明は最小限にしてくれ、急ぎだ」 「分かった」 周王とエスパディアが手早く修正に入る中、打ち出しの準備をしている金剛達と入れ替わりに箒と一夏+どりすがカタパルトに乗り、周王がセッティングして説明している最中に前置き無くコンゴウが射出する。 「ちょ…」 周王がそちらを向いた時には、ソニックブームすら発生する超高速で二機のISが射出された後だった。 「くっ…」 「うわっ…」 「あう…」 悲鳴すらかき消し、紅椿と白式の姿が一瞬で小さくなっていく。 「………砲弾より速い気がします」 「あちらは元々高速機動機だから。貴方達のはもう少し遅くするわ」 加賀ですら呆然と射出された者達を見送る中、周王も射出速度を再計算する。 「こちらも大丈夫」 「この間成層圏まで行った時思い出すナ」 エイラは金剛と、サーニャは加賀に体を固定した所で、GOサインを出す。 「大丈夫? 確か二人共あまりシールド使わないって」 「使う必要が無いからナ」 「使えなくはないよ」 周王を追って甲板に出てきた音羽に心配される中、エイラとサーニャはシールドを張って見せる。 「なるほど、502の人達も見せてくれましたね」 「便利そうネ」 「準備は終わったか」 加賀と金剛が感心する中、コンゴウの声にカタパルトへと向かう。 「それじゃあミストコンゴウ、スクランブルね!」 「分かった」 金剛がローンチバーに足をセットし、前方を指差した瞬間、カウントダウンも無しにカタパルトから射出される。 「ち…」 「ニェ…」 エイラと金剛の懐に入っていたエスパディアの非難も瞬時に掻き消え、その姿が小さくなっていく。 「え~と」 「出来れば秒読みお願いします」 「そうか、3,2,1」 いきなりの事に音羽が唖然とする中、加賀が冷静に指摘。 今度はコンゴウのカウントと共に加賀が射出される。 「エイラさんとサーニャちゃんも一緒だから、大丈夫だよね?」 「だといいのだけれど、向こうはだいぶ苦戦してるようね」 「すごい事になってるね~」 音羽が心配する中、携帯端末で戦況を確認した周王と401とデータリンクしているヴァローナが呟く。 「戦力がまだ必要か」 「ええ、けど相手はかなりの…」 『コンゴウ』 周王との会話の途中で、コンゴウの意識はイオナからの概念通信に跳んだ。 『401、こちらは片がついた。今、向こうへと戦力を回した。私もこれから援護を行う』 『多分、あなたの攻撃でもムダになるわよ』 そこにタカオが割って入ってくる。 『ムダ、だと?』 『先程現れた戦艦水鬼と呼ばれている個体だが、先程までとは防御能力が違いすぎる』 『我々、霧の攻撃を歯牙にもかけないどころか、味方陣営の攻撃のジャマになるだけだ』 続けて現れたハルナとキリシマの言葉に、コンゴウは少し考える。 『ならば、ジャマにならない攻撃ならばいいだろう』 『待て、お前は何をやるつもりだ?』 『少し顔を見に行ってみるまでだ』 「物理攻撃の効果がかなり薄いとなると、取れるべき手段は…」 概念通信から戻ったコンゴウの隣で、周王は説明を続けていた。 「手段はある」 周王の説明の途中で、コンゴウは自らカタパルトに乗る。 「ちょっと待って…」 周王の制止も聞かず、コンゴウの体がカタパルトで撃ち出される。 「行っちゃったね………」 「あの、あの人飛べるんですか?」 「飛ぶ事は出来ないけど、水面に立つ事は出来るみたい」 唖然としているヴァローナと音羽だったが、周王はコンゴウがやってみせたあれこれを思い出して呟く。 「メンタルモデルって、結構強いらしいけど………」 「海上戦出来るの~?」 「さあ………」 「また撃ってきた!」 「SHIELD全開!」 「迎撃する」 「レィザー発射!」 戦艦水鬼の放つ砲撃を、RVを駆る天使達四人がかりで迎撃を試みる。 放たれたレーザーが砲弾の半数を撃墜、爆発させるが、更に残った砲弾の半数が飛来した流体ドリルで撃墜、数発の砲弾がシールドに阻まれるが、その予想以上の破壊力に、亜乃亜のビックバイパーとエリューのロードブリティッシュが吹き飛ばされそうになる。 「あふっ!」「あんっ!」 「大丈夫!?」 何とか体勢を立て直した二人に、流体ドリルを戻しながらどりあが声をかけてくる。 「大丈夫です!」「けど、残存エネルギーをだいぶ持って行かれました………」 「敵分析データを再度上方修正」 「けっこうピンチ」 戦艦水鬼の圧倒的な戦力に、どりあも内心焦りを感じずにはいられなかった。 (レトロな装備に見えて、破壊力が他のに比べて桁違いに高い………しかも防御力も再生力も半端じゃない。ダメージは与えているけど、ゆっくりとだけど確実に再生している。再生力を上回る攻撃を打ち込まないと………) 「アールスティア、オートファイア!」 エグゼリカが持ち前の高機動で相手を翻弄しつつ攻撃を続けるが、戦艦水鬼はビームの直撃を平然と受け止め、その傷口は他の深海棲艦よりも早く塞がっていく。 「トリガーハートの攻撃が、牽制にすらならないなんて………」 「距離を取りなさい! 攻撃が効かないという事は…」 エグゼリカが呆然とする中、どりあがある懸念に気付く。 そこへ、戦艦水鬼の副砲から放たれた砲弾が随伴艦をかすめるが、かすめた部分が大きく破損する。 「え…」 「離れなさい! あなたの武装じゃ、歯がたたないわ!」 当のエグゼリカが予想外の破損に驚く中、どりあが距離を取るように叫ぶ。 (やはり、なんらかの能力を使用した武装じゃなければ、攻撃も防御も無効化されている………雑魚ならまだ時間稼ぎくらいは可能だけれど、アレはレベルが違いすぎる………) どりあは懐に残っているブリッド、残二つを握りながら更に思案する。 (あの左右の巨砲をどうにかしないと………けどあの防御力、同時に破壊は困難。なにより…) どりあの思案を途切れされるように、戦艦水鬼の方が異常なまでの早さで再装填、砲撃を繰り出す。 (この発射速度、それに死角に回ろうとしても、左右の双頭がついてくる!) 先程から何度も背後に回ろうとしているどりあだったが、目らしき物が見当たらないはずの艤装の双頭が、油断なくこちらの動きを察知していた。 「私が突撃する。援護を」 「危ないよエスメラルダ!」 ポイニーの制止を聞かず、エスメラルダの駆るファルシオンが一気に加速する。 (砲弾の速度はそれ程速くない。回避は可能) 再度放たれる戦艦水鬼の砲弾を的確にかいくぐり、エスメラルダはパルスレーザーを戦艦水鬼へと速射するが、巨人のような艤装が素早くその巨腕でガード、さらに副砲が的確に反撃してくる。 「ポイニー!」 「OK~」 エスメラルダが攻撃を集中させる中、ポイニーが素早く戦艦水鬼の背後へと回り、狙いを定める。 艤装の副砲がそちらへと旋回、砲弾をばら撒くが、ポイニーはそれらを難なくかわすと、トリガーに指をかける。 「もらっ…」 ポイニーがトリガーを引こうとした瞬間、突然巨人のような艤装の双頭が、凄まじい咆哮を上げる。 「うわわっ!?」 タイミングを逃したポイニーは一度その場を離脱、それを見たエスメラルダも一度距離を取る。 「み、耳が………」 「なんて咆哮………けど吠えただけ?」 「いえ、恐らく違うわね………」 「センサーに感あり! 周辺の残存勢力が、全てこちらに向かってきてます!」 亜乃亜とエリューが耳鳴りを伴う程の咆哮に顔をしかめるが、どりあはそれが何らかの号令だと直感、すぐに上空に退避していたエグゼリカの警告が皆に響き渡る。 「まだ残ってたの!?」 「水中にでも潜ませていたのかも………」 「そちらはお願い。ここは、私だけで何とかするわ」 「けど瑠璃堂先生!」 RVのセンサーでも深海棲艦の集結を確認した亜乃亜とエリューに、どりあは対処を依頼して戦艦水姫へと向かおうとする。 『大丈夫だ。今増援が向かった!』 「増援?」 そこへ美緒からの通信に続くように、紅と白の影が向かってくる新手へと立ちはだかった。 「こちらは私が何とかする! 一夏、そっちを!」 「足だけ止めればいいからな! 無理するなよ!」 「そっちを援護するよ!」 「うわ、結構いる!」 「何とかするのだ!」 駆けつけた箒は一夏と二手に分かれ、ツガルがその援護にあたり、白式の背のどりすは思っていたよりも多い敵影に驚くが、マオチャオが奮起させる。 『すぐに艦娘達も合流する! 対処可能な者は敵の合流を阻止だ!』 「可能って言っても…」 「エスメラルダ!」 「こちらの対処で限界」 「また撃ってきた~!」 美緒の指示が飛ぶが、激戦が続き、対処可能な者は最早ほとんど残っていない。 「エリュー、回復ドリンク残ってる?」 「無いわ。けど、あの大物は二人に任せるしかない………」 「でも、私達のプラトニックエネジーも、もうほとんど………」 亜乃亜とエリューも、自分達の戦力がほとんど残ってない事を理解しつつも、深海棲艦の合流を防ぐべく、そちらへと向かう。 「向こうを倒すのが先か、こっちのエネルギー切れが先か………うん?」 亜乃亜が焦りを感じる中、他にもこちらに向かってくる機影に気付く。 「助太刀するぞ一夏!」 「残弾にお気をつけください、隊長!」 ラウラとクラリッサが、ISの手にレールガンを構え、向かってくる深海棲艦に狙いを付ける。 「喰らえ!」 レールガンから放たれた弾丸は、駆逐イ級に命中し、その口から絶叫が飛び出す。 「効いてる?」 「何で?」 今までISの攻撃は全く効果が無かったはずなのに、明らかに深海棲艦にダメージを与えた事に、一夏とどりすが首を傾げる。 「効果有り! でかしたぞクラリッサ!」 「聖別済み銀皮膜水銀炸裂弾、本来は吸血鬼用装備ですが、深海棲艦にも有効のようです!」 突貫で用意した新装備の効果を確認しつつ、クラリッサも慎重に狙いを定めつつ、深海棲艦を狙い撃ちする。 「エリュー!」 「何とかなりそうね! エスメラルダとポイニーは瑠璃堂先生と引き続き戦艦水鬼の対処を。私と亜乃亜で敵増援の対処をする。ISで敵を誘導して、こちらでトドメを刺すわ!」 「心得た」 「OK!」 「私も!」 残った戦力をかき集め、深海棲艦との最後の死闘が始まった。 「いたゾ!」 「ダー、飛距離は正確」 「着水するネ!」 戦艦水鬼の姿を認めたエイラとエスパディアが声を上げる中、金剛は身をかがめながら着水。 戦艦水鬼がそちらを狙おうとするが、即座に連結を解いたエイラが宙に舞い上がりながら、銃撃で牽制する。 「次が来るゾ! 場所開けとケ!」 「OKネ!」 エイラと金剛が左右に別れ、続けて加賀が着水する。 「もう一人来る」 「そうか」 連結を解きながら、魔導針で後続を確認したサーニャに、加賀は短く答えながら自分も場所を開ける。 直後、海面にフィールドの着地点を造りながら、壮絶なスライディングをしつつコンゴウがその場に降り立つ。 「OH、ミストコンゴウも来たネ!」 「こいつらのボスの顔を確認したくなったからな」 「大丈夫なのですか? 貴方方の装備では…」 「だが、少しでもあいつに一撃を入れておきたい」 加賀が驚く中、コンゴウは手に六角形のフィールドが組み合って形作られた大剣を作り出す。 「ファンタスティックな艤装ネ」 「来るぞ」 金剛が興味を持つ中、砲声と共に戦艦水鬼の砲弾が迫る。 コンゴウは大剣を手にしたまま、もう片方の手を砲弾へと向けて突き出しつつ、グラフサークルを展開。 瞬時に六角形のフィールドが砲弾の弾道を塞ぐように無数に展開していくが、砲弾はそれをまるで飴細工が如く粉砕していく。 「なるほどな」 「ミストコンゴウ!」 半ば予想していたのか、迫る砲弾に焦りもしないコンゴウに金剛が思わず声を挙げるが、着弾直前にコンゴウはフィールドの大剣を砲弾に横から叩きつける。 直後、大剣も砕け散るが僅かに砲弾は軌道をずらし、コンゴウの間近に着弾、巨大な水柱を上げる。 「至近弾! やはり貴方では戦艦水鬼の相手は不可能です!」 「そうかもな」 加賀も警告を発しながら矢をつがえる中、コンゴウは頭から浴びた海水を気にする風でもなく、爆発の余波で千切れたドレスに目を向けていた。 「何だコイツ! さっきのが可愛い方ダゾ!」 「大型ネウロイ並、下手したらそれ以上………」 エイラとサーニャも戦艦水鬼に攻撃を加えるが、あまりに相手のダメージの少なさに愕然とする。 「言ったはずです。最低でも重巡クラスでないと対処できないと」 「私の火力じゃ無理って事カ」 「ハルトマンさんかペリーヌさんだったら何とかなったかも」 次々艦載機を発進させながらの加賀の警告に、エイラとサーニャが顔を見合わせる。 「先程から、RVの攻撃ですら重傷に至っていない」 「すっごいタフだね~」 艦娘達の戦闘態勢が整うまでの時間を稼ぐべく、エスメラルダとポイニーが戦艦水鬼の周囲を高機動で撹乱しつつ攻撃するが、ダメージは与えている物の、確かに致命傷には程遠い。 「私とサーニャだけじゃ、シールドアタックも使えないシ」 「だったら、出来る事をしよう」 言うや否や、二人のウィッチはそれぞれの固有魔法で飛んでくる砲弾を予測、MG42から放たれた銃弾とフリーガーハマーから放たれた砲弾が、戦艦水鬼の放った砲弾を撃墜する。 「防御は任せロ!」 「私とエイラなら、砲撃を正確に感知出来る」 「攻撃のチャンスはこちらで作る」 「任せて~」 「任せたわ」 砲撃を正確に迎撃するという、艦娘ではとても不可能な芸当をやってのけたウィッチと驚異的な機動性で砲撃の間を掻い潜る天使を信用する事にした加賀は、攻撃へと専念する。 「雷撃開始」 加賀の合図と共に、放たれた艦載機隊が一斉に魚雷を投じ、戦艦水鬼を狙う。 「ガアアァァ!!」 そこで突然、戦艦水鬼の艤装が咆哮を上げたかと思えば、巨腕を持ち上げ、双頭の上で手を組み、一気に海面へと振り下ろす。 一見意味の無い動きは、直後、振り下ろされた拳圧で巨大な水柱を生じ、放たれた魚雷はそれに巻き上げられて目標に達する事無く、爆発していく。 「くっ!」 「すげェ………」 「バルクホルンさんでも出来ないよね」 力技で雷撃を防いだ戦艦水鬼に、加賀は歯噛みし、エイラとサーニャは絶句する。 「やはり、問題はあの巨人」 「レィザーもミッソーも効果薄いし」 「どいてください!」 デタラメな防御にエスメラルダとポイニーも驚くが、そこで上空からエグゼリカの声と共に影がさす。 「ディアフェンド! フルスイング!」 警戒して距離を取っていたエグゼリカが、周辺に漂っていた深海棲艦の艤装の破片をアンカーで収拾、巨大な塊とし、更に縦方向のスイングで戦艦水鬼へと叩きつける。 同質の物ならばあるいは、と判断したエグゼリカの攻撃だったが壮絶な破砕音と爆発が轟いた後、その向こうからは平然としている戦艦水鬼の姿が有った。 「やっぱりダメ………」 「生半可な攻撃は効かないわ。最大攻撃をあの砲撃とマッチョさんをかいくぐって、叩き込みませんと」 その様子を見ていたどりあの指摘に、三人は思わず顔を見合わせる。 「最大攻撃っテ………」 「金剛さんの砲撃を、本体に直撃させるしかない」 「でも、どうやって………」 『私に策がある』 そこで美緒からの通信が飛び込んでくる。 『空羽とトロンは再度合流した後、Gの天使隊は敵機の直上からの攻撃で相手の注意を引き、瑠璃堂教官の攻撃で砲を破壊、そこに艦娘の方の金剛女史の砲撃でトドメを刺す。エイラとサーニャは防衛に専念、砲撃を確実に命中させるため、絶対防衛線を張れ』 「だってサ」 「OK、ストロングな一撃、スタンバイね!」 「霧のコンゴウさんもサポートお願いします」 「いいだろう」 「私も防衛にあたります」 美緒からの作戦に、エイラとサーニャがうなずき、金剛を守るように加賀とコンゴウが前へと出る。 (………潰すべき砲は二つ、あれの防御力からかんがみて、一撃で両方潰すのは難しい。だとしたら………) 自分なりに美緒の作戦を推敲したどりあが手の中のブリッド二つを見て、ある事を思いつく。 「どりすちゃん、一夏君」 「はい?」「なんですか?」 「それ」 「あっ」「っとと」 いきなりどりあに呼ばれた二人が振り向いた時、どりあが無造作にブリッドの一つを放り投げ、ツガルとマオチャオが慌ててそれを受け止める。 「あのマッチョさん、右側は私が潰すから、左は二人でお願い」 「………え?」「あれを?」 いきなりのどりあからの指示に、二人は硬直する。 「片方なら、なんとか出来るでしょ? ブリッドも一つ使っていいから」 にこやかな声で、だがなぜか異様な威圧感を伴うどりあからの“命令”に二人の背に何か冷たい物が走る。 「一夏! こちらのエネルギーを持っていけ!」 「けど…」 「正直、そろそろ私も紅椿も限界だ」 心身共に疲労しきっている箒が、白式に触れて紅椿の僅かに残ったエネルギーのほとんどを白式へと送り込む。 「これなら何とか………そっちは?」 「ブリッドも、私も一回が限度かな~」 どりすはカイザードリルにブリッドを装填しながら、こちらも限度が来始めている事に僅かに顔をしかめる。 「せめて、白式の攻撃が効けば………」 『出来るかもよ~』 そこで突然、束からの通信が入ってくる。 「束さん? 本当ですか?」 『ま、仮定だけどね。今から零落白夜のアップデートデータ送るから、それ使ってみて~』 送られてきたデータを受け取った一夏が、即座にそれをインストールする。 『多分、一回が限度だし、すごい効果時間短いから、使い所間違えないように~』 「ありがとうございます!」 礼を述べつつ、一夏は雪片弐型を構え、その背でどりすもカイザードリルを構える。 「チャンスは一度だけだよ」 「タイミングを合わせるのだ!」 「きっと、あの子達がそのチャンスを作ってくれるわ」 ツガルとマオチャオも応援する中、どりあが隣に並び、戦艦水鬼とそれに向かっていく天使達を見ていた。 「作戦は聞いての通りよ!」 「了解、直上からの一撃離脱戦法」 「あの大砲、すっごいデンジャー」 「食らったらシールド持たないかも!」 合流したRV四機が一斉に急上昇、エリュー、エスメラルダ、ポイニー、亜乃亜の順で急降下しながらも戦艦水鬼に攻撃を開始する。 「食らいなさい!」 「目標爆撃開始」 ロードブリティッシュとジェイドナイトからミサイルが放たれ、戦艦水鬼へと直撃、爆発を起こすが、爆煙も消え去らない内に、副砲からの砲撃が発射される。 「そぉれ!」 「うわわ!?」 砲撃をかわしつつ、ファルシオンσのグラビティバレットとビックバイパーのレーザーが打ち込まれる。 「連続攻撃、相手の注意を誘引」 「了解!」 「う~ん、向こう結構タフネス」 「でも、こいつさえ倒せれば!」 天使達はRVの機動性を活かし、戦艦水鬼にヒット&アウェイを繰り返すが、ダメージを与えつつも、致命傷には至らない。 『無理はしないで、注意さえ引ければいいわ』 「せめて副砲だけでも…」 どりあの警告を聞きつつも、少しでも戦力を削ろうとエリューが攻撃しながら、戦艦水鬼の背後を通過しようとした瞬間、衝撃と共に機体が弾き飛ばされる。 「ああ~!」 『エリュー!!』 予想外の事態に亜乃亜とエスメラルダが同時に叫ぶ。 エリューは何とか機体を立て直そうとするが、それよりも早く、機体が海面に叩きつけられる。 緊急時用のパイロット防止機構が働いて辛うじてエリューはシールドに包まれるが、反転する視界の中でエリューは自分の失策に気付いた。 「尻尾………!」 艤装の巨体と巨砲にばかり気を取られ、背後を通り過ぎるタイミングで尾を叩き込まれた事を悟ったエリューだったが、海面に叩きつけられたショックで、ロードブリティッシュは完全に動きが停止、そこへ巨砲が向けられる。 「エリュー!!」 「どきなさい!」 「コノ、オォ!」 エリューを救うべく、亜乃亜のDバーストとエスメラルダのプラトニックブレイクが同時に戦艦水鬼に炸裂。 サーチレーザーと全方位レーザーの同時攻撃に、戦艦水鬼の攻撃が中断する。 「ディアフェンド!」 「レスキュー!」 その間に、上空に待機していたエグゼリカが素早くアンカーでRVごとエリューをキャプチャー、ポイニーも手伝う中、撤退する。 「今!」 「はいお姉さま! フォームアップ!」 「零落白夜、発動!」 RVの波状攻撃のダメージの効いている間を狙い、二つのドリルが唸りを上げ、通常よりも遥かに強い光を纏った光剣が閃光を放つ。 「コノ…」 戦艦水鬼がそれに気付いた時、漆黒の旋風と化したどりあと、フォームアップしたどりすとフル加速した一夏が間近まで迫っていた。 どりあの放ったカイザー・インフェルノは戦艦水鬼の艤装の片側の頭部と砲のみならず、艤装の半身を半ばまで吹き飛ばし、どりすのドリル・クラッシャーがもう片側の砲を、一夏の零落白夜が巨腕を斬り飛ばす。 「オノレエエェェ!!」 「効いてる!」 「トドメ!」 戦艦水鬼の絶叫が響く中、一夏とどりすが叫ぶ。 「全砲門、ファイァ…」 「待テ!!」 「へ?」 金剛がトドメを刺すべく、一斉砲撃を発射しようとするが、そこでエイラの制止が入る。 静止が間に合わず、一番二番砲塔は発射されるが、憤怒の表情の戦艦水鬼は、己の腕で放たれた砲弾を弾き飛ばした。 「ウソ………」 「化物過ぎル!」 流石に全てとは行かなかったが、放たれた砲弾の半数以上を弾いた戦艦水鬼にサーニャと固有魔法で見ていたエイラが愕然とする。 「確実に当てないとダメダ!」 「No! 徹甲弾は今三番四番に装填してるのでラストね!」 「何だト!?」 金剛からのとんでもない返答に、エイラは更に愕然とする。 「ガラクタドモガ………!」 「残った艦載機全部で隙を作ります」 「サーニャ!」 「こっちも残弾が…」 「全部ぶち込むンダ!」 誰もが枯渇していく中、決着をつけるべく、加賀とエイラとサーニャも残った戦力を全て叩き込む。 「ソノテイドデ!」 攻撃を喰らいながらも、戦艦水鬼はほとんど肉塊状態になっている艤装を半ば引きずり、残った副砲を強引に照準する。 「シズメ…!?」 砲撃を発射しよとうした時、突如として水中から複数のフィールドの剣が飛び出し、戦艦水鬼と艤装の傷口へと突き刺さり、その場に縫い止める。 「コレハ………!」 「なるほど、傷は付けられなくても、傷口をえぐる事は出来るようだな」 いつからか、水中に潜って機会を伺っていたコンゴウが、海面に浮かび上がりながら更にフィールドの剣を戦艦水鬼へと突き刺していく。 「キカナイ!」 力を込めてフィールドの剣を強引に粉砕した戦艦水姫だったが、縫い止められていた僅かな間は、致命的だった。 「ナイスアシストね、ミストコンゴウ!」 「決めろ、レトロ金剛」 「バーニング、ラーブ!!」 正確に狙いを定めた金剛の三番四番砲塔から、風変わりな気合と共に、渾身の砲撃が放たれる。 今度は弾く事も叶わず、四発の一式徹甲弾が戦艦水鬼に直撃、その体をえぐり飛ばす。 「ダメ押しです」 更にそこへ加賀が残った艦載機で爆撃を敢行、投下された爆弾が次々と爆発を起こす。 「ならこちらもだ」 コンゴウの言葉と同時に飛んできたミサイルを見て、皆の顔色が変わる。 「タナトニウム反応あり! あれは侵食弾頭です!」 「ちょっ、オ前またか!」 「退避! 退避だ!」 「ホワッツ?」 「オーナー! アパースノスチ(危険)、下がって」 「侵食弾頭は控えるんじゃなかったの?!」 全員が慌てて離れる中、念には念を入れてコンゴウが打ち出した侵食弾頭ミサイルが戦艦水鬼へと叩き込まれる。 「ソンナ………シズム………ワタシガ………」 強烈な攻撃の連続に、とうとう限界に達した戦艦水鬼の体が崩壊しながら、海中へと没していく。 「目標、エネルギー量急速低下。殲滅と判断。残存敵機ゼロ、作戦終了」 「ヤーも確認、戦闘終了」 エスメラルダとエスパディアの言葉に、全員がようやく胸を撫で下ろす。 『やった、やりました! とうとう深海棲艦のボスを撃破! 我々の勝利です!』 遅れて響くつばさの実況に、学園の方から歓声があがる。 「さて、それじゃ戻…」 胸を撫で下ろした一夏が戻ろうとした時、突然甲高い警報音が白式から発せられる。 「エネルギー警告?」 『あ、ごめんいっ君、やっぱ無理有ったみたい』 それがエネルギー切れを示す警告音だと一夏が気付き、束の謝罪の直後、突然白式の全機能が停止、体を結んでいたどりす諸共海面へと落下、沈没していく。 「ごぼぼ!?」 「ちょ、これ取れな、がばぼ!?」 「ああ、マスター!」 「ご主人様も沈んでいくのだ!」 「一夏!」 「まずい、救助を…」 「カルノバーン・ヴィス!」 武装神姫達と箒やラウラも慌てる中、突然飛来したアンカーが海面に突き刺さり、沈みかけていた二人を引き上げる。 「少し遅かった、けどちょうどよかったみたいね」 「ああ、助かった。その武装、トリガハート?」 「TH32 CRUELTEAR、よろしく」 クルエルティアの随伴艦を見た箒が、彼女がトリガーハートの一人と判断、礼を述べつつ、吊り上げられている一夏とどりすへと近寄る。 「大丈夫か一夏?」 「な、なんとか………」 「最後の最後でこんなになるなんて………」 ずぶ濡れの二人に、周囲で見ていた者達は思わず苦笑。 「とにかく、白式を解除しろ」 「それが、出来ないんだ。電源が完全に落ちてるらしくて、ピクリとも動かない………」 「え………」 『いやあ深海棲艦とやらに、高密度エネルギーをぶつければいいらしいと分かったから、零落白夜のエネルギー消滅を過剰強化してみたんだけど、搭乗者保護システムの分まで使っちゃたみたい。束さん失敗失敗』 「姉さん! なんて事を!」 「まあ、倒せたからOKって事で」 「うう、お風呂入りたい………」 ISで最優先されるはずの搭乗者保護のエネルギーまで使い果たす攻撃に、箒が思わず声を荒げるが、当の一夏がなだめ、どりすに至っては最早諦めの境地に達していた。 「直にジオールさん達やフェインティアも来るわ。事後処置はこちらに任せて、皆さんは帰還を」 「そうね、皆疲れてるの確かですし」 「負傷者を優先、機体に問題が出てる奴もだ!」 クルエルティアの言葉に従い、どりあとラウラの指示の下、皆が次々と帰還を始める。 「金剛さん、私達も」 「イエス、その前に」 加賀も学園へと向かおうとするが、そこで金剛がコンゴウの方へと向かっていく。 「ミストコンゴウ! ハンドアップね」 「? こうか」 片手を上げる金剛に、コンゴウは首をかしげるが、やがて真似するように片手を上げると、金剛はすれ違いざま手と手を叩き合わせる。 「ユーもナイスファイトね!」 「………これはどういう意味だ?」 「よくやったって意味ダ」 「確かに、コンゴウさんがいなかったら勝てなかったかも」 「そういう事ね!」 腕組みして笑う金剛に、コンゴウはどう反応すべきか迷う。 「謝辞、という奴か」 「それくらい素直に受けろヨ」 「言われた事が無いので、どうすればいいのかが分からん」 「そちらこそ、でいいと思うよ」 「ミストコンゴウは照れ屋さんネ」 何かコンゴウの事を色々と誤解しているようにも見える金剛だったが、エイラとサーニャもどう訂正すればいいのか分からないので、とにかく戻る事を優先する。 「私も修理が必要だ。船体各所に損傷が発生している」 「歩いていく気カ? 吊るしてくから掴まれ」 「こっちも」 「ワオ、ファンタスティックね。私も今度やってみたいね」 歩いて戻ろうとするコンゴウをエイラとサーニャが二人がかりで運び、それを見ながら金剛が歓声を上げる。 「さて、まずはどこからやればいいでしょうか………」 加賀は事後処置が山積みになってるのを感じながら、とにかく学園へと向かっていった。 「なんとかなったな」 「ええ、ただ前回よりも負傷者が多く出ています」 戦闘が終結した事で、嶋と千冬も一安心する。 「これで、分かった事が有る」 「我々は、戦力として足りないと?」 「いや、その逆だ。最早これは、各組織で対処出来る状態ではない。今回の件に関わっている、全ての組織で対処しなくてはならない。無論、君達もだ」 「………確かに」 厳しい口調で告げる嶋に、千冬は静かに頷く。 「とにかく、まずは事後処置だな」 「そうですね。負傷者の収容、被害状況の確認、増援部隊の受け入れもしなければ」 「それが済み次第、私は帝都に戻ろう。報告と、今後の方針を協議しなくてはならない」 「今後、ですか………」 「そう、今後だ」 嶋の言わんとする今後とは、この先の戦いを意味してる事を、千冬は生唾と共に受け入れざるを得なかった……… |
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