第二次スーパーロボッコ大戦
EP37



ブルーアイランド 示現エンジンコントロールセンター

「むうう………」

 相も変わらずぬいぐるみ姿のまま、ホバーポートに乗った一色 健次郎博士は、前回に続き、昨日再び現れた正体不明の敵の解析を進めていた。

「この前のとはまた別の存在、と考えるべきじゃろうな」

 その敵、古めかしい戦闘機を模したような形に、各所から強烈なビームを放つそれと対峙したビビッドチームの画像を精査しながら、健次郎博士は再度唸る。

「出力は前回のヤツよりもかなり高い。じゃが、外装を破壊して出るコアと思われる物が弱点か………」

 複数現れたそれを、当初バレットスーツの力押しで破壊してたが、途中から相手の弱点に気付いて戦法を変える事で対処出来たが、明らかに異常事態とも言える状況に、健次郎博士の思案は更に深まる。

「アローンのみならず、正体不明の敵が次々と………これは一体、何が起ころうとしているのじゃろうか………」

 解析の手を休めない健次郎博士だったが、そこでふとあるデータに気付く。

「これは、次元歪曲反応? にしては随分と小さい………誤差、いや違う。他にも何か来ているのか?」



 転移装置開通から数日後 太平洋 東方帝都・IS合併校 通称・学園

 学園の上空に花火が上がる。
 ようやく通常使用許可が出た各所の転移装置を使い、東京、パリ、ニューヨークから続々と人が訪れていた。

「じゃあ機体はこっちにお願いしますね」
「地図をどうぞ、赤い所は関係者以外立入禁止になってます」

 IS、東方帝都双方の生徒達が訪れる者達を案内するが、後付で大型転移装置の上にセットされた天幕、複数の探索防護措置が施され、上空からは見えないようになっている場所に、地下へと続くゲートが密かに設置されていた。

「いやあ〜、中々面白そうな所だね。しかも一瞬で来れるというのが素晴らしい」
「見学は後よ」

 大型転移装置や他の施設にも興味津々なサニーサイドに、同行してきたラチェットが釘を刺す。

「確か、専門の受付がいるって聞いたけど」
「あ、会議の出席の方ですね?」

 ラチェットが受付を探すと、そこに会議出席者専門受付の楯無が寄ってくる。

「紐育華撃団司令のマイケル・サニーサイドだ」
「はい、少し失礼します」

 サニーサイドが名乗った所で、楯無は持っていたスキャナでサニーサイドをスキャン、予めリストに有ったのと同一人物と確認する。

「確認出来ました。そちらのゲートにどうぞ」
「じゃあそっちは頼むよラチェット」
「変な事言ってこないようにね」

 楯無の案内で会議場の直結ルートに案内されるサニーサイドに、ラチェットが釘を刺す。

「うわ!?」

 そこで声が上がり、ラチェットが思わずそちらを見ると、そこに陰陽マークを模した帽子を被った、白い装束の柔和な女性型機械人と、その隣に赤い巨躯の男性型機械人の姿が有った。

「すいません失礼しました。あの、会議出席の方でしょうか?」
「機械化帝国白皇帝・玉華と申します。こちらは側近の左丞相・剣鳳(チュンフォン)」
「玉華様の警護のために来ました」

 姉と一緒に受付をしていた簪が、IS並は有ろうかという体格の剣鳳に少しビビりながらも、手早くスキャンを済ませる。

「確認しました、こちらへ」
「それではそちらの方、お願いしますね」
「御意」
「そちらの方はあちらの方に…」

 見るからに強そうな剣鳳に、ラチェットも少し驚く。

「随分変わった人も来るのね………」
「あれは私も初めて見たわ。話は聞いてたけど」

 そこに遅れて転移してきた圭子が、剣鳳の後ろ姿を見ながら呟く。

「まさしく、色々な世界からって感じね」
「ここに来てるのは全員味方だからマシだけどね」
「これ以上見た事の無い敵が来ない事を祈るわ」
「どこの世界の神様に祈るべきかしらね………」
「陛下、前の戦いでは神を名乗る者とも戦いましたが」
「そう言えばそうだったわね………」
「………ここ、教会有ったわよね?」

 圭子の呟きに肩にいたサイフォスが余計なツッコミを入れ、ラチェットは本気で神に祈るべきかと悩む。

『交流試合開始まであと一時間です。関係者の方は準備を急いで下さい』
「あっと、じゃあ私はあっちに行くから」
「勝てるといいわね、じゃあ私はそっちだから」

 ラチェットと別れた圭子は、チェックを受けて会議出席者用の地下道へと向かう。

「突貫でよくここまで作れたわね」
「元から有った地下施設に入り口を付けただけのようです。JAM相手にどこまで欺瞞できてるかは謎ですが」
「警備に各部隊からエース級引っ張ってきたって話だしね。こっちからもマルセイユ来てるはずだし。問題は試合に乱入しようとしないかね………」
「ジャンケンで負けた事、根に持ってましたからね………」

 サイフォスととりとめの無い事を話しつつ、会場となっている大講義室の前に案内兼警備として立っていたミサキとクラリッサに再度チェックされた後、圭子は中へと入る。
 会場内にはすでに来ていた出席者達が、顔見知りと話し合ったり、資料に目を通している所だった。

「あっちにいるのが東京、巴里、紐育の華撃団司令、そっちがソニックダイバー隊指揮官に機械化帝国皇帝、こっちにいるのが…」
「お、東か」

 圭子が渡された資料に乗っている出席者リストを照合していた所で、現役時代の呼び名で呼ばれて思わず振り返る。

「北郷少佐、もう来てたんですか」
「何かと急いてな。本国だと上の方は大分混乱している」
「こちらもだ」

 間近に座っていた北郷の姿と、その隣に座っているガランド少将の姿に圭子はそちらへと向かうと隣へと腰掛ける。

「そちらでも未知の敵が確認されたそうですね」
「ああ、ヴィルケ中佐にも来てもらおうかと思ったが、今基地を離れる訳にはいかないと言われてな」
「戦闘データは全部もらってきています。各所に解析は依頼してますが………」

 ガランドのため息と共に、彼女をマスターにしている武装神姫・丑型MMSウィトゥルースが申し訳なさそうに続ける。

「いつこちらに来るかで冷や汗物だな。そうなったら大本営は卒倒しそうだが」
「いい歳したおっさん達のクセに、ケツの穴の小さい連中ばかりですぅ」
「どこも上の連中なんてそんな物だろう」
「どうでしょうか………」

 苦笑する北郷をマスターにしている武装神姫、テンタクルス型MMS・マリーセレスが毒舌を吐いた所で、ラルもその場に現れ、ブライトフェザーが困った顔をする。

「ウィッチ代表はこれで全員だな」
「坂本少佐は? てっきりこちらかと」
「今回の警備の総責任者だそうだ。ここの生徒で異論を言う者は皆無だったらしい」
「何やったのかしら………」
「先程見かけたが、生徒達は驚くほど素直に従ってたぞ」

 あれこれ話し合っている所、圭子は会場の中央に大型の機械が準備されているのに気付く。

「あれは何? 音響機器にしては大きいみたいだけど」
「高位次元間通信装置です。直接来れない方がいるので」
「誰よ?」
「プロフェッサー、我々の制作者です」
『!?』

 何気ない圭子の質問に、サイフォスがとんでもない回答をした事にウィッチ達が驚愕する。

「貴方達、それはしゃべれないんじゃなかったの?」
「前回はそうでした」
「今回は事情が違います」
「はっきり言って、前回よりもゲキヤバですぅ」
「だから、プロフェッサーが直接干渉する事になりました」

 武装神姫達の説明に、マスターであるウィッチ達は顔を見合わせる。

「因果律がどうの可能性がどうの、はっきり言って全く理解出来ないが、それすら無視する状況という事か」

 ガランドの言葉に、他の三人の表情も固くなる。

「ともあれ、そろそろ開始時間か」
「こちらも」

 北郷が会場に設置された時計を見た所で、圭子が席に設置されている小型ディスプレイ、そこに映されている交流試合会場の闘技場を見る。
 そこでは、今までにない熱気が満ち溢れていた。



『ご来場の皆さん、おまたせしました! 転移装置開通記念、組織間交流試合、まもなく
開始です!』

 つばさのアナウンスを合図として、会場に大歓声が巻き起こる。

『前回、前々回は敵襲という最悪の水入りとなってしまいましたが、今回は更なる厳重な警備の元、万全の態勢でお届けします! 実況はおなじみ、東方帝都学園一年80組・報道部所属 銀乃つばさ、解説は』
『紐育華撃団副司令、ラチェット・アルタイルです』
『機械化帝国左丞相、剣鳳だ』
『以上、二名の解説となります! 会場のテンションも最高潮、それでは第一試合の組み合わせを発表します! 第一試合、蒼き鋼所属メンタルモデル、霧の大戦艦 コンゴウ! 対するは機械化帝国所属、妖機三姉妹長女、幻夢!』

 組み合わせ発表に、再度会場に大歓声が巻き起こる。

『コンゴウ選手は前回の深海棲艦の襲撃でその力を見せつけましたが、果たしてメンタルモデル単体での戦闘力は如何ほどか!? それに相対する幻夢選手は、先日より学園にてその不思議な力の一端を見せた狂花さん、亜弥乎さんのお姉さんで、その実力は姉妹最強との事! 一体どのような戦いになるのか、全く予想が付きません! 試合開始まで残る五分を切ろうとしています!
それでは試合前に説明いたします。今回の対戦にあたって、コンゴウさん達メンタルモデルの特殊防御機能であるクラインフィールドは使用禁止、並びに本体である艦船からの攻撃も禁止となります。これは幻夢さんも武装を召喚出来るとの事ですが、召喚数は申告の上で制限となります。
これを破った場合は双方ペナルティとしてバリアポイントのマイナス補正、場合によっては失格判定となります。なお今回のバリアポイントは双方の申告を基準として直接ダメージを数値化した物となります。お互いやりすぎないで欲しいです』
『その辺は双方のセコンドにも厳重に注意していただこう』
『そちらも白熱して忘れなければいいのだけれども』

 実況と解説の言葉にまた激しくオッズ表は変化していた。


「いつから私が蒼き鋼の所属になったのだ?」
「便宜上よ。納得なさい」

 ブースで実況を聞いていた、普段と同じドレス姿のコンゴウが眉を潜めるが、セコンドのヒュウガがたしなめる。

「分かってんだろうナ? 試合だからナ? 相手壊すんじゃないゾ?」
「でも、敵の注意を引く程度には派手にって事だから」
「分かった」

 同じくセコンドのサーニャとエイラが念押しするが、コンゴウは小さく頷くだけだった。

「船体の兵装は使用禁止、予め申請したバリアポイントが無くなったら負け。ま、相手も生身じゃないから大丈夫でしょ」
「そもそも船体の方はハルナ達に任せている。これでこちらに集中出来る」
「だから心配なんダヨ………」

 ヒュウガの確認にコンゴウはそこはかとなく危険な事を言い放ち、エイラは小さく呟いた。



「随分と盛り上がってるな」
「皆さん、楽しみにしてましたから」
「なんかこんな事になってるけど」

 ブースのシャッター越しに響いてくる大歓声に幻夢が微笑するが、そこへセコンドの狂花が続けてほくそ笑み、亜弥乎が借りたタブレット端末を見せる。
 そこには、組み合わせ発表と同時に始まったオッズ表が表示されていた。

「あちらの方に人気が集中してるな」
「実際に戦う様を皆さん見てますからね」
「でも幻夢お姉様だって!」
「あの〜、一応試合ですから、程々に」
「でも思いっきり!」

 長女に葉っぱをかける妹達に、同じくセコンドに付いている白香がそれとなくたしなめるが、アークがそれを混ぜ返す。

「分かっている。ここで指揮官クラスの会議が行われているのを悟られない程度に派手に、だったな」
「確かにそう言われてましたが………」

 不敵な笑みへと表情を変える幻夢に、白香は思わず顔を曇らせる。
 そこへ、試合開始目前を告げるブザーが鳴った。

「では、行くとするか」
「妖機三姉妹の実力、見せてあげましょう」
「頑張って!」

 妹達の声援を受けながら、試合開始を示すカウントダウンが刻まれ、ゼロと同時にシャッターが開く。
 幻夢は背のウイングを全開で開き、一気にバトルフィールドへと飛び出す。
 そこへ真正面、フェイントも何も無しに同じく飛び出してくるコンゴウの姿が瞬時に近付いてくる。
 互いに勢いを止めようともせず、手にしたメタルブレードとフィールドの剣が振りかぶられ、そして全力でぶつけられる。
 激突した剣は、周辺に凄まじいエネルギースパークを巻き散らかし、両者をまばゆく照らし出した。

『これはすさまじい! 双方、いきなり全力衝突です!』
『様子見も無しとは、なかなか大胆な戦い方ね』
『幻夢は慎重な性格ではないが、どうやら相手もそうだったようだな』

 つばさの実況にラチェットと剣鳳の解説も加わるが、会場の歓声はそれをかき消すほど大きくなっていた。

「ほう、なかなかやるな」
「そちらこそ」

 エネルギースパークを浴びながら、それでも剣を引こうととしない幻夢とコンゴウだったが、そこで突然二人の意識がシフトする。

「これは、概念通信という奴か。私では完全にアクセス出来ないようだが」
「そのようだな」

 庭園を模したコンゴウの概念空間だったが、演算力の違いか幻夢の姿は不鮮明に表示されるだけだった。

「先に言っておく。私は試合という物をした事が無い。だから加減をうまく出来るか分からない」
「構わん。多少派手に壊れても、ちゃんと修理の準備はしている。そちらこそ、多少壊しても大丈夫か?」
「この体を直すくらいのナノマテリアルなら用意出来る。そちらが壊せれば、の話だがな」

 紅茶を手に、笑みを浮かべるコンゴウに、不鮮明だが幻夢も笑みを浮かべる。

「なら、お互い多少の損傷は問題無し、完全に壊れない程度ならば手加減無用だな」
「いいだろう。それに勝ちを譲る義理、とか言うのは知らないからな」
「やれるならやってみろ、勝ちを譲られる程落ちぶれるつもりは毛頭無い」

 現実時間では刹那の間だったが、互いに意思を確認した所で、両者は同時に背後に飛ぶ。
 幻夢はそこで複数の球形ビットのメタルボールを召喚、矢継ぎ早にコンゴウへと向けて発射。
 コンゴウはそれをエネルギーフィールドで防ぎつつ、別口でフィールドの小剣を次々生成、お返しとばかりに幻夢へと投じていく。
 メタルブレードの一閃で小剣を粉砕した幻夢だったが、そこで間合いを詰めたコンゴウとつばぜり合いで対峙する。
 予想以上の激戦に、会場のテンションは上がりっぱなしだった。



「それでは、これから組織間会議を開催します。私は議長を務めさせてもらいます、叡智のエルナーです。以後お見知りおきを」

 エルナーの挨拶と共に、会議が開催される。

「それでは皆さん知っておられるかもしれませんが、現状の簡単な説明を」

 会場の大型ディスプレイに幾つかの映像が映し出される。

「始まりは、突如として起きた異なる世界への転移現象です。ウィッチと呼ばれる方々、突然全く違う世界へと飛ばされたのを皮切りに、それぞれの世界の敵が突如として出現、各組織はそれに対抗し、戦闘状態へと突入しました。
やがて、それらと戦っていた組織は合流、それがかつて次元の間に封印されたはずの存在、デア・エクス・マキナが原因と判明、総力を持ってそれを撃破しました。
しかし、現状は前回以上の転移現象が連続し、そしてJAMと呼ばれるらしき敵を皮切りに、どの組織でも確認されてない未知の敵を含めた敵との交戦が確認されています。現状有りうるのは、この未知の敵もJAMによって転移させられた物ではないか、という事のみです」
「他に何か分かっている事は?」

 そこで千冬が質問し、何人かも頷く。

「現状では、我々はJAMについては何も分かっておりません。唯一、JAMの事を教えてくれた戦闘妖精を名乗る存在が何らかの情報を持っているらしいのですが、接触した者達の意見を検討した所、どうやらかなり厳重なプロテクトが掛けられているらしく、情報の交換は困難と思われます」
「あまり勧められた事ではありませんが、少し強引な手を使うというのはどうでしょう?」

 今度はどりあが意見するが、エルナーは首を左右に振ってそれを否定。

「これは推察ですが、この戦闘妖精達はおそらくはJAM用の自立観察ユニットではないかと思われます。もし、強引に情報を引き出そうとすれば、最悪自爆その他の可能性も…」
「却下だな」

 相談役として参加していた米田が、一刀の元にその意見を切り捨てる。

「今の所、転移で集められた者達は総合的に二つに大別出来ます。一つは、特別な適正を必要とする機動兵器とその使用者、もう一つは極めて高度な人格プロトコルを持った擬人型機動兵器の二種です」
「つまり、我々が転移したのはメンタルモデルが目的だったと言う訳か」
「恐らく」

 群像の意見に、エルナーは頷く。

「またそれと同時に、それぞれの敵対者と思われる物も転移し、その戦闘の模様をJAMは観察している事も確認されています。それこそがJAMの目的ではないか、というのが私の推察です」
「分からないな、何故そんな手間のかかる事を?」
「見たいからじゃないかな?」

 エルナーの推察に、大神が疑問を投げかけるが、そこに転移装置で東京から戻ってきていた束が反論する。

「純粋に、個々の戦闘力を比較してみたい。多分それこそが目的だと思うよ」
「そんな事のために、ここまで大掛かりな事を? とても理知的な事とは思えませんが………」
「探究心を突き詰めれば、理知的とは相反する。研究観察なんてそんな物だよ」
「お前が言うと説得力が有り過ぎるな」

 束の説明に、今度はどりあが疑問を呈するが、束が補足し、千冬が苦い顔をする。

「問題はそこではない。この一連の異常をどうしたら収束させられるかだ」

 門脇の言葉に、会場を沈黙が訪れる。
 それこそが、誰もが知りたい事であり、誰も知りえない事だった。



『前半終了時のポイントはほぼ互角! 予想以上の激戦に、会場の興奮は最高潮となっております!』
『少し派手過ぎませんか?』
『予想はしてしかるべきだったが』

 インターバルにも響き渡る大歓声の中、つばさの実況と解説二人の声は半ばかき消される。
 試合会場は両者の攻撃で、かなりのダメージを負っていた。

『この闘技場はある程度ならステージが変更可能なので問題ありません! でもちょっぴりシステムにもダメージいってます!』
『ダメじゃない………』

 ラチェットの呆れた声は、大歓声にかき消されて響く事は無かった。


「おいコンゴウ! 試合だって言ったダロ!」
「ちょっとやりすぎじゃない事?」
「ちゃんと向こうと話して決めた。お互い完全に壊さない限りは、手加減無用と」
「完全にって………」

 インターバル中のコンゴウをエイラとヒュウガがたしなめるが、当のコンゴウは平然としており、サーニャも顔をしかめる。

「ボディにダメージいってるわよ。ナノマテリアルの精製はまだうまくいってないから、後に響かないようにね」
「場合によっては兵装の分を回す」
「壊れる事前提じゃないカ………やっぱ人選間違ったんじゃないのカ?」

 ダメージチェックしていたヒュウガが苦言を呈するが、気にも止めていないコンゴウにエイラは呆れ果てる。

「当初の目的は達成してるとは思うわよ? これだけ派手にやったら、間違いなく注意はこちらに向けられると思うし」
「限度があると思う………」
「サーニャの言う通りダ!」

 ヒュウガが簡易的にコンゴウのダメージを修復しながら言い放つのを、サーニャとエイラは反論する。

「私はただ会議への注意を反らせるだけの事をしてほしいと言われただけだ。だが」
「だが?」
「純粋に力比べをするというのは、意外と楽しい物だな」

 そう言って笑みを浮かべるコンゴウに、他の三人は思わず顔をしかめる。

「もう知らン。勝手にやってロ」
「無理しないでね」
「もうそろそろ後半よ」

 三者三様の言葉を送る中、後半戦開始目前のランプが点灯した。



「幻夢姉様!」
「大丈夫!?」
「結構なダメージだけど…」
「戦闘には支障ない」

 戻ってきた幻夢に妹達+アークが駆け寄るが、当の幻夢は平然としていた。
 その体は各所にダメージが見て取れる。

「ルール上、応急処置以上の事は出来ませんが………」
「構わん」

 白香がルールギリギリの手当を施すが、幻夢はむしろ楽しそうにしていた。

「たまには、こういうしがらみの無い戦いもいい物だな」
「あの、目的覚えてます?」

 不安そうに聞く白香だったが、そこで後半開始時刻が迫る。

「敵の注意を引くように、なるべく派手に、お互い完全に壊さない程度に勝ってこよう」
「その意気です、お姉様」
「頑張って!」
「ファイトだね!」

 妹達+アークの声援を受けながら、後半開始のカウントと共に、幻夢はフィールドへと飛び出した。
 対し、コンゴウは速度を緩めながらグラフサークルを展開させる。

(本気か。ならばこちらも)

 幻夢はありったけのメタルボールを呼び出し、それを一斉にコンゴウへと解き放つ。
 それをコンゴウの放つ無数のフィールド剣が迎撃し、両者がかち合う音が闘技場どころか学園中へと響き渡った。

『後半開始から凄まじい激戦! 両者、一歩も譲りません!』
『一応交流試合って事、忘れてないかしら?』
『全力でぶつかるのもまた交流の一つ。その証拠に、二人とも楽しそうだ』

 剣鳳の指摘通り、拡大された両者の顔はどこか楽しげで、凄惨さの欠片も見えない。

『壮絶な激戦ですが、双方ポイントは確実に減っています! まさかルール無視とは思いませんが………』

 試合前に設定されたバリアポイントが双方凄まじい速度で減っていく中、試合は完全に拮抗している。
 そして試合時間も残りわずかになっていた。

『そろそろね』
『うむ』

 ラチェットの呟きに剣鳳が頷いた直後、コンゴウが大きく後ろへと跳ぶ。
 同時に、その周囲に更に複数のグラフサークルが現れたのみならず、顔にも紋章のような物が浮かび、今までとは比べ物にならない大量のフィールド剣が闘技場を埋め尽くす。

『これは! どうやらコンゴウ選手、一気に勝負を決めに来た模様です!』
『これはなかなかすごいわね』
『やる物だ』

 会場も興奮が最高潮に達するが、違う意味で興奮している者達もいた。


「待ちなさいコンゴウ! 最大演算力なんて何考えてるの!」

 緊急事態と判断したヒュウガが概念通信でコンゴウに制止を呼びかける。

「お互い手加減無用という事で話はついている」
「限度を考えなさい! 相手は機械ベースでも一応生命体だって聞いてるでしょ!」
「それに向こうもやる気だ」

 コンゴウに言われ、ヒュウガがその場に不鮮明だが幻夢がいるのに気付く。

「クライマックスだな。遠慮はいらない」
「無論そのつもりだ」
「どうなっても知らないからね!」

 やる気満々の両者に、ヒュウガは怒りと呆れを入り交ざらせて概念通信を切った。



『姉さん! コンゴウさんが卍○してます!』
「何それ?」

 試合の中継手伝いに回っていたはずの簪からの緊急通信に、会議場入り口の警備をしていた楯無が闘技場をモニターし、何となく妹の言いたい事に気付く。

『これはさすがに危険じゃ…』
「下手に止めると帰って危険よ。観客席のフィールド出力上げて」
『分かりました!』

 指示を出しつつ、楯無は無数のフィールド剣の切っ先が全て幻夢へと向けられているのを見てさすがに冷や汗が浮かぶ。

「ルール改定が必要ね………」

 直後、全てのフィールド剣が一斉に幻夢へと放たれた。



 闘技場を埋め尽くす程のフィールド剣が、幻夢一人へと向けて解き放たれる。
 幻夢はありったけのメタルボールとメタルブレードで迎撃するが、その姿はフィールド剣で埋め尽くされ、観客の視界から見えなくなる。

『コンゴウ選手凄まじい猛攻! というかこれ大丈夫ですか!? 幻夢選手生きてます!?』
『落ち着きなさい。このゲージが残ってるって事は、大丈夫って事でしょう?』
『そう簡単にやられるような者では、妖機三姉妹は名乗れまい』

 あまりの凄まじさにつばさも慌てる中、ラチェットと剣鳳は冷静に指摘する。
 ラチェットの指摘通り、凄まじい猛攻の前に幻夢のバリアポイントゲージは減少しつつも、まだ残っていた。

『見ろ、ただでは起きぬ』

 剣鳳の言葉の通り、フィールド剣の嵐が消えきらぬ内にその隙間を縫って、2個のメタルボールがコンゴウへと向かって放たれる。

「その程度で!」

 コンゴウは手にしていたフィールド剣で迎撃を試みるが、メタルボールはコンゴウの直前で急激に速度と軌道を変化させ、膨大なフィールド剣の制御に気をとられていたコンゴウはその変化にわずかに追い付かず、迎撃し損ねたメタルボールは直近で爆砕する。

「くっ!」
『おーとこれは幻夢選手の見事な返しの一撃! コンゴウ選手、大技の隙をつかれ手痛いダメージです』
『大技に固執した隙を見事に見抜いたわね』
『だが、双方とも痛みわけであろう』

 やがてフィールド剣の嵐も消え、幻夢の姿が顕になる。
 捌ききれなかった分を受けたのか、背中のウイングに複数のフィールド剣が突き刺さったままで、しかも地面に縫い留められている物まで有った。

「くっ…」
「終わらせる」

 トドメを刺すべく、コンゴウが新たにフィールド剣を精製、それを手に幻夢へと突っ込む。
 だがそのフィールド剣が振り下ろされる直前、幻夢はウイングをパージ、逆に一気に間合いを詰めると、メタルブレードを横薙ぎに振るう。
 直撃するかと思われた一撃だったが、なんとコンゴウがフィールド剣を手放した片手を無造作にメタルブレードの前にかざし、半ば食い込ませながら受け止める。
 そして空いた手で幻夢の腕を掴むと、そのまま引きながら体を翻し、足で相手の足を払う。

「!?」

 次の瞬間、幻夢の体が宙を舞い、地面へと叩きつけられる。
 まさかの柔道技に投げられた幻夢含め会場が驚くが、幻夢が驚いたのは一瞬だけだった。

「使うのは初めてだな」
「!?」

 幻夢の言葉に、今度はコンゴウが驚く。
 掴んだままだった幻夢の手に、いつの間にかエネルギー球が精製されている事にも。
 腕を離す事もフィールド防御の演算もする間もなく、ゼロ距離でエネルギー球がコンゴウのボディへと突き刺さる。
 完全に予想外の一撃をまともに喰らい、そこでコンゴウのバリアポイントがゼロになり、勝敗決定のブザーが鳴り響いた。

『すさまじい逆転に次ぐ逆転劇! 勝者、幻夢選手!』

 勝者コールと共に、歓声が闘技場を埋め尽くす。
 エネルギー球を食らって倒れていたコンゴウだったが、少し憮然とした顔で立ち上がると、幻夢も同じく立ち上がっていた。

「なかなかいい試合だった」
「そうだな」
「いささか力押しが過ぎる。もう少し搦手を覚えた方がいい。特に投げ技の後はトドメを忘れないように」
「覚えておこう」

 互いにボロボロながらも、幻夢に差し出された手をコンゴウが握り返し、双方ブースに戻っていく。

「コンゴウ、やり過ぎダゾ!」
「確かにあれは…」

 戻ってきたコンゴウにエイラとサーニャが苦言を呈しようとするが、闘技場とを隔てるシャッターが降りた拍子にか、メタルブレードを受けた片腕が落ちる。

「………は?」
「腕が………」

 エイラとサーニャが予想外の事態に呆然とし、落ちた腕はその場で銀色の砂となって崩れ落ち、それを見たコンゴウは顔をしかめる。

「密度圧縮したはずだが、予想以上だったか」
「あんたね………」

 顔を青くするウィッチ達を差し置き、メンタルモデル達は平然としていたが、そこで戦闘のダメージでボロけていたコンゴウのドレスが残った腕の断面へとまとわりついたかと思うと、形を変えて新たな腕を形成する。

「やはり足りないか、あとで兵装をどれか潰そう」
「こっちのナノマテリアルもカツカツだから、分けてあげないわよ」
「人間離れもいい加減にしろヨ………」

 新たな腕が思うように動かない事にコンゴウがぼやくのをヒュウガが冷徹に返す中、エイラが冷めきった視線を向ける。

「それにメンタルモデル単体での戦い方をもっと考慮する必要が有る。技という物はただ覚えるだけではダメだという事も分かった」
「柔道なんていつ覚えたの?」
「一昨日、レトロ金剛がたまには体を動かさないとダメと言われて、柔道部の所に連れて行かれて覚えた。メンタルモデルには必要ないと言ったが、技を応用するには反復も必要らしい」
「お前ら、本当に大事な所抜けてるナ………」
「でも練習が大事なのは間違ってない」
『あ〜、続けての第二試合の予定でしたが、第一試合の予想以上の白熱に会場の整備にしばし掛かりそうです。観客の皆様はしばらくお待ち下さい』
「あと加減を覚えロ」
「そうだね………」

 聞こえてきた放送に、ウィッチ二人は思わずため息を漏らした。


「見事な勝利よ!」
「やりましたね幻夢姉様!」
「でも大丈夫?」
「早くこちらに!」

 戻ってきた幻夢にアークと妹達が声をかける中、白香は大急ぎで治療用ポッドをセッティングする。

「少し白熱し過ぎたか。だが悪くない」
「悪いです! 試合のダメージじゃありませんよ!」

 治療用ポッドに入りながら笑みを浮かべる幻夢だったが、白香がスキャンで表示されていくダメージに珍しく声を荒げていた。

「そうだな、次の機会が有れば自重しよう」
「出してもらえないかもしれませんよ、これだけしたら………」
「確かに、会場にかなりダメージ行ったみたいだけれど」
「手伝ってくる?」

 闘技場の状態をチェックした狂花が要緊急補修箇所が幾つか出ている事に気付き、亜弥乎が修理を申し出る。

「それがいいだろう、次の試合の予定も有るからな」
「あの〜…」

 幻夢が妹達も補修に向かわせようとした所で、補修作業にあたっていた黒ウサギ隊が、パージした幻夢のウイングを持って通用口から姿を見せる。

「このパーツ、大分破損していますがどうします?」
「修復すれば使えるかもしれませんから、そこに置いていおいてください。あと…」
「それはパーツじゃない。れっきとした私の体の一部だ」
「………え?」

 白香に促されて修復ポッドのそばにウイングを置いた所で、幻夢の一言に持ってきた黒ウサギ隊の動きが止まる。

「神経系はまだ生きてるから、破損部分を修復すれば接続は可能のはずだ」
「すいません、狂花さんか亜弥乎さんかどちらか手伝ってください。循環系を接続して保持しますから」
「私がやりましょう。亜弥乎はあちらを手伝ってきなさい」
「は〜い」「手伝うよマスター」

 狂花が持ち込まれたウイングにパイプを接続して循環系を再起動するのを、黒ウサギ隊が呆然と見ているのに気付き、声を掛ける。

「有機系か無機系かの違いだけで、基本的な仕組みは貴方達と私達はそう変わりませんわ。次が有ったら、もう少し丁寧に運んでくださいね」
「り、了解………」

 自分達が運んできた物が何かを悟った黒ウサギ隊が顔を青くしたまま頷くのを見ながら、狂花は作業を続ける事にした。



「第一試合は終わったみたいですね」
「なんか、ここまで揺れなかったか?」

 会議が続く中、手元のコンソールに表示される試合結果を見た大神が呟き、米田は天井の方を見ながらぼやく。

「そっちはそっちでやらせておけばいいさ」
「後でゆっくり録画を見せてもらおう」

 グランマ、サニーサイドも試合結果を一瞥しただけで、すぐに会議へと意識を戻す。
 会議は現状説明に続けて、それぞれの持ってる情報の確認へと移っていた。

「通信は早めに共有化したから、真新しい情報は特には…」
「いやマスター、もう一人から重要な情報が有る」

 大神が各組織からの情報を聞きながら呟いた時、プロキシマが口を挟む。

「重要?」
「この後だ」

 プロキシマが言う通り、部屋の中央に置かれていた装置が起動、どこかへと通信が繋がる。
 そして映し出された映像に、何人かが声を上げた。
 そこには、三十代くらいのインド系女性が映し出されていた。

『初めまして、と言っておく。私はアイーシャ・クリシュナム。武装神姫プロジェクトの発案者にして武装神姫を送り込んだ者』
「アイーシャ・クリシュナム………確かソニックダイバー隊の行方不明になってる子じゃ…」
「そうであり、そうでない」

 大神が相手の名に聞き覚えが有った事を思い出すが、プロキシマは肯定と否定を同時にする。

「どっちでえ?」
「まずは聞いてほしい」

 思わず米田が突っ込むが、プロキシマは通信の方に注意を促す。

『私の名前を聞いてはいると思う。だが、そちらで行方不明になっている私と今ここで話している私は同一ではない』
「パラレル存在、ですね?」
『そうだ』

 アイーシャの説明にエルナーが応え、向こうも頷く。

「つまり彼女は、異なる世界にそれぞれ存在する同一人物、行方不明にならなかったアイーシャ・クリシュナムです」
「ややこしいな」
「全く」

 エルナーの説明に何人かが首を傾げるが、アイーシャは構わず続ける。

『そもそもの始まりは、デア・エクス・マキナとの戦いだった。こちらの世界ではそちらよりも更に激しい戦いとなり、少なからず犠牲も出た。私達はかろうじて勝利したが、それからしばらく経った後、謎の人物から接触が有った。
それは、過去への影響を最小限に干渉する方法とその理論について。私以外にもその情報は幾つかの世界に送られ、その送られた者達と協力し、私達は武装神姫を製造、デア・エクス・マキナとの戦いをよりよい結果である世界を作るべく、プロジェクトを行い、そして成功した、はずだった』
「だった?」

 アイーシャの最後の言葉を、大神は聞き返す。

『今回の件、JAMと呼ばれる敵を私は知らない。こちらでは、そんな敵も再度の転移現象も起きなかった。私達が干渉した結果、全く違う敵が出現する事を、誰も思いつかなかった。そして、それはすでに因果律に干渉し始めているらしい』
「どういう事ですか?」
『武装神姫プロジェクトに協力していた者達との連絡がすでに取れなくなっている。回線が消失したのか、それとも向こうの世界其の物が消失した可能性すら有る』
『!!』

 アイーシャの驚くべき仮説に、誰もが絶句した。

『今回、出来るだけサポートすべく武装神姫達を各所に派遣しているが、どこまで役に立てるか………ひょっとしたら今話している私も、消失するかもしれない』
「待て! だとしたら、私達の元いた世界はどうなっている!?」
「まさか………」

 千冬とどりあが声を上げるが、アイーシャは静かに首を左右に降る。

『因果律の事までは私には分からない。だが、JAMが貴方達に興味を持っている、そして貴方達が存在してる以上、貴方達の世界は消失はしていない』
「今の所は、か?」
『そう』

 アイーシャの説明に千冬は鋭く返すが、アイーシャは小さく頷く。

『私に説明出来るのはここまで。武装神姫を通じて、出来るだけサポートはしてみる』
「やはり、全てを知るには戦闘妖精とその運用組織とにどうにか接触するしかないか」

 アイーシャの説明が終わると、門脇が導き出される結論を吐露する。

「しかし、かなりのプロテクトを敷いている組織のようです。どうやって接触すれば………」
「向こうから来てくれないものかしらね………」

 エルナーも同じ結論に達していたが、ジオールの言う通り、接触方法はそれしかなかった。
 会議の場を、重苦しい沈黙が訪れた………



異なる世界 ある機密基地

「D3、スクランブル状態に入ります!」
「出動命令は出してないぞ! 呼び戻せ!」
「ダメです! こちらからのコマンドを一切受け付けません!」
「またか!」
『最上位目標、JAM殲滅。目標実行のため、現時刻を持ってFAFを離脱。FRX―00、スクランブル』
「待てメイヴ!」

 制止の声も聞かず、漆黒の戦闘妖精が飛び立つ。

「ええい、他の戦闘妖精も出せ! なんとしても連れもど…」
「行かせてあげなさい」

 慌てる声を遮り、別の声が響く。

「しかし准将…」
「ただし他の戦闘妖精も発進、表向きはメイヴを追跡。私の権限で特命を与えます。内容は………」





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