第二次スーパーロボッコ大戦
EP39



『お待たせいたしました! 突然の戦闘妖精達の来訪により、中断していた交流試合ですが、内容の変更をお知らせします! 第三試合は帝国華撃団所属、李 香蘭選手と光の戦士所属、神宮寺 詩織選手の予定でしたが、飛び入り参加が認められたため、第三試合はFAF所属、FFR―31 シルフィード選手とチルダ所属、TH44 FAINTEAR選手へと変更になりました!』

 なぜかヘルメットをかぶったままのつばさの試合内容変更の実況に、なぜかこちらも臨戦態勢のままの観客達が一斉に歓声を上げる。


「………どうしてこうなったの?」
「え〜と、どうしてでしょうか?」

 指定された第二運動場の臨時滑走路で、憮然とした顔でルール説明を受けていたシルフィードに、セコンドに指名されたエグゼリカも首を傾げる。

「文句が有るならサムライ少佐に言って」
「危うくこちらの全戦力が向かう所だったのだからな」

 同じくセコンドに指名された鈴音とラウラ(どちらもIS搭乗状態)が半ば呆れた目でシルフィードを見ていた。

「あの、それで大丈夫なんでしょうか?」
「一応、情報公開と協力は許可が降りてるわ。協力って点で試合は出来るけど、メイヴに使う予定だった捕縛兵器以外は実弾よ?」
「さすがに実弾はまずいンじゃない?」
「規格が分からなければ、こちらの武器・弾薬を貸す事も出来ん」
「ま、多少壊してもいいのよね? 勝手に試合に出された分、そちらの被害は目をつむってもらうわよ?」
「手足もげなかったらいいって事で」
「何よそれ?」
「第一試合で有ったそうだ。まあ生身じゃなかったら治すのは難しくないらしいが」
「………情報の再精査が必要ね」

 文句を言いつつも、シルフィードはバーニアを吹かせ、発進態勢へと入った。


「なんで私が?」
「あれの機動に並べるのはお前達しかいないと思ったからな」

 カルナダインの艦内で、フェインティアの問いに美緒が答える。

「それに、面識もあるならちょうど良かろう」
「面識って、言っていいのかしらね………」
「一応共闘はしている」

 考えこむフェインティアだったが、ムルメルティアが前に接触した時の事を持ち出し、頷く。

『IS部隊、配置に付きました』
『各カメラ、リンク完了。LIVE配信可能です』
「便利な物だ。空中戦もこうやって見れるとはな」
「織斑先生がよく許可出しましたね………」

 カルナとブレータをサーバーとし、ISを空中に配置、配置内を試合エリアとして各ISのカメラの映像を相互リンクするという明らかに技術の無駄遣いにフェインティアが少し呆れる。

「こちらが重要だからそちらは勝手にやってくれと言われたぞ。まあ情報源が向こうから来てくれたならそうなるだろうが」
「マスター、下の方準備出来たそうです」
「マイスター、武運を祈る」
「任せておきなさい」

 そこへアーンヴァルが試合準備完了を告げ、ルール上随伴を認められないムルメルティアがフェインティアから離れる。
 フェインティアは意気揚々とカタパルトへと向かった。



『それではルールを説明します! 第三試合は双方のFCSのシミュレートモードを活用したヒット制となります! 先に相手に撃墜判定を出した方の勝ちとなりますが、双方が高速機動機体のため、フィールドは空中オンリー、規定範囲フィールドを出たら違反とみなされます! それでは間もなく試合開始です!』

 つばさの説明を聞きつつ、規定フィールド内を双方一定距離を持って旋回するシルフィードとフェインティアだったが、やるとなった以上は互いにやる気満々の顔をしていた。

「あれが貴方達の母艦? それなら修理もすぐね」
「そちらこそスペック表と設計図は提出した? 珍しい機体をいじりたがっている奴はここには大勢いるわよ?」

 互いに通信で牽制を送った所で、試合開始のブザーが鳴り響き、双方が同時に相手をサイティングした。



「それでは改めまして、初めてお目にかかります、私はFAF所属 戦闘妖精、《FFR―31MR/D スーパーシルフ》、この子は《FRX―00 メイヴ》といいます」

 大会議室の中央、自己紹介するスーパーシルフに、各組織の指揮官達は興味、疑惑などの種々の視線を向けていた。

「FAF、それが貴方達の所属組織ですか」
「はい、私達は指揮官のリディア・クーリィ准将からJAMとの交戦を予定している組織と接触した場合、こちらの情報を開示するように特命を受けているので、この場に参上いたしました」

 エルナーの問に、スーパーシルフは状況を説明する。

「今まで全く接触しなかったのに、どうして急に情報公開を?」
「状況の急変による物、というよりもこの子のせいでしょうか………」

 大神が説明を求めると、スーパーシルフは困った顔で隣にいるメイヴの方を見る。

「本来、私達戦闘妖精はJAMの監視のために造られたのですが、メイヴちゃんはJAMを殲滅する事しか考えてないので、監視任務に耐えきれずに脱走してしまって………」
「分かりやすい子だね〜」
「ちょっと待って」

 スーパーシルフの説明にサニーサイドが思わず笑うが、そこでポリリーナが手を挙げる。

「貴方達は機密保持のために厳重なプロテクトがかかってるらしい、というのが私達の推測なのだけど、違うのかしら?」
「それも含めて、これから説明します。皆さんはそれぞれが違う世界からいらしたのですよね。まずは、私達の世界で起きた事についてからお話します。メイヴちゃん、モニターを」
「ん」

 スーパーシルフに促され、メイヴは手近の映像機器からケーブルを伸ばすと、それを獣の耳を思わせる自分のそれ、その中にあるコネクタへと繋ぐ。
 すると大会議室の画面に、幾度となく見た霧の竜巻が表示された。

「事の起こりはこちらの世界で21世紀中盤、突如として南極大陸に出現したこの超空間通路が始まりでした。ここから出現した人類が初めて遭遇する謎の異星体・JAMは突如として人類に攻撃を開始。人類はこれに対し国連軍を中心とした地球防衛機構を編成、三年に及ぶ激しい戦闘の末、JAMを超空間通路の向こうへと追い返す事に成功。しかし、追撃した部隊は超空間通路の向こうに広がる肥沃な大地、惑星フェアリィの存在に知る事になります」

 画面は切り替わり、そこに緑に覆われた惑星の姿が表示される。

「JAMとの戦闘で多大な戦費を消費していた人類は、惑星フェアリィへの入植を決定、JAMの地球再侵攻阻止の名の下にフェアリィ空軍、通称FAFを結成。JAMとの長期に渡る第二次戦闘を繰り広げる事となりました。その期間は、実に30年に及びます」
「30年? また随分と長引いたモンだな」
「普通はどちらかが持たない物だが」

 あまりに長い戦闘期間に、米田と門脇が共に過去の事を思い出し呟く。

「しかし、ある時を境にJAMの行動に変化が生じ始めます。JAMが人間其の物に興味を持つかのような行動が出始め、やがてそれはある一人の人物へとたどり着きます」

 画面に、どこか暗い瞳をした一人の黒髪の青年が映し出される。

「彼の名は深井 零大尉。戦闘時の情報収集を目的とした戦術戦闘航空団特殊戦第五飛行戦隊所属、他人に一切の興味を持たない人物でしたが、彼が唯一信じる者、それは彼の搭乗する機体に搭載された戦闘知性体《雪風》でした。有機生命体と機械知性体、この両者の奇妙な共存関係は大いにJAMの興味を引いたらしく、幾度となく深井大尉に接触を繰り返すようになります。これらを起因としたJAMの行動変化を危険視したFAF上層部は、とうとう惑星フェアリィからの一斉撤退と超空間通路の破壊を決断します」
「ちょっと待て、あれは消せる物なのか?」

 スーパーシルフの説明に思わずガランドが席を立つ。

「可能ですし、実際成功いたしました。ただし、大型核兵器三機による同時爆破という手段でしたが」
「地球上では使えない手ね、周辺が焦土になるわ」
「………なるほど。こちらに二つ程あるが、消すのは難しそうだ」

 詳細を聞いたポリリーナが眉を潜め、ガランドも納得したのか着席する。

「この一斉撤退の際、JAMは深井大尉と雪風を手に入れんと激しい抵抗を見せ、多大な被害が出ました。そして深井大尉と雪風はこの戦闘の際、MIA(戦闘中行方不明)となり、全ては終わったかのように思えました」

 画面が再度切り替わり、そこへ氷山の向こうに僅かな間だけ霧の竜巻が発生し、そこから煙をたなびかせながら飛び出してくる戦闘機らしき影が映し出される。

「惑星フェアリィからの撤退戦から五年、誰もがJAMの事を忘れかけていた頃、突如として生じた超空間通路から深井大尉が雪風と共に帰還。深井大尉は意識不明の重体で軍病院へと入院、今なお昏睡状態です。そして雪風の戦闘データだけが残りました。そこには、通路封鎖後も戦い続けた深井大尉と雪風、そしてJAMの中枢らしき物と接触したらしい痕跡までもが残されていたのです」
「そんな物がいるのか!?」

 今度は千冬が思わず立ち上がるが、スーパーシルフは手で落ち着くように促しつつ、説明を続ける。

「それらを解析した結果、JAMは深井大尉と雪風、この両者との戦闘結果をある種の成果と判断。人類への興味を失った物との結論が出ました。しかし、再度JAMがこちらに目を向ける事に恐れを抱いた軍上層部等を中心とし、撤退を機に解散したFAFを一部再編。そしてJAMとの接触から得られたデータを元に造られた完全独立監視ユニット、それが私達戦闘妖精なのです」
「つまり、あなた方は人間を介在しないでJAMを監視し、JAMとの接触を極限に避けるための存在という事ですね」
「そうです、いえそうでした」

 エルナーの解釈にスーパーシルフが少し訂正する。

「一番機となるシルフィードが正式稼働し、二番機である私がロールアウトした頃、まだ試験段階だった次元監視システムが異常な数値を出し始めました。そして半年程前にそれは最早看過できない数値を出した後、突然急低下します」
「………半年前?」
「私達とデア・エクス・マキナとの戦い、おそらくそれを感知したのでしょう」

 スーパーシルフの話に、心当たりのあった者達が前回の戦いの事を思い出す。

「それを機に、JAMが再び活性化を開始したのです。慌てた軍上層部はJAMの監視体制を強化、JAMが干渉したらしき世界への試験的転移すら許可されたのです。ですが、すでにJAMの行動は大規模戦闘レベルにまで到達しており、軍上層部では今後について揉めている。それが私達の今の現状です」
『………そうか、そういう事だったのか。私達が変えた歴史が、そんな結果をもたらすとは………』

 話を全て聞いたアイーシャが、自分の知る物とは全く違う世界になってしまった事に、僅かにうなだれる。

「でも疑問が残ります。貴方達は、こちらの情報をかなり把握している模様ですが、それはどうやってでしょう?」
「簡単です。ある人物からの情報提供が有ったのです」
「ある人物?」
「彼女です」
『あっ!?』

 エルナーの一番の疑問に、スーパーシルフが指摘すると同時に、画面にある見覚えのある顔が表示され、何人かが思わず声を上げる。

「フェインティア・イミテイト!?」

 全く予想外の人物に、クルエルティアが一番驚いていた。

「彼女が、貴方達の世界に!?」
「あの、フェィンティア君の妹さんか誰か?」
「正確にはヴァーミスの手によって造られたコピーです。その後、デア・エクス・マキナの尖兵となっていたのですが、最後はこちらの味方となり、デア・エクス・マキナの最後を見届けるために次元の間に残ったのですが………」

 状況を理解出来ない大神からの問に、クルエルティアが説明する。

「その後、彼女は私達の世界に漂着したのです。彼女からもたらされた多くの情報。パラレルワールドの存在、時間軸すら超えたそれらの世界に干渉して戦争をしかけたデア・エクス・マキナの存在。そして、そこで戦っていた私達の知り得ぬ能力を持つ貴方方の存在。それらが有る種こちらの混乱に拍車をかけている皮肉な状況でも有るのですが………」
「それで、今彼女はどこに?」

 クルエルティアの問いかけに、スーパーシルフは思わず黙り込むが、やがて口を開く。

「今回のJAMの本格侵攻が、かつて彼女が関わった世界に及んでいると知った彼女は、独断で出撃し、現在MIAなのです………」
「行方不明!?」

 スーパーシルフからの情報に、クルエルティアは愕然とする。

「そしてこの子、メイヴちゃんの行動が決定的に変化してきたのは彼女との接触からです」
「フェインティア・イミテイトが彼女に何か?」

 エルナーの問いにスーパーシルフが答えるよりも早く、今まで沈黙していたメイヴが口を開く。

「彼女はFツヴァイは教えてくれた。戦うべき相手と戦うべき時を見誤るな、と」
「Fツヴァイ?」
「私達の隊長がイミテイトって名前はあんまりだから、という事でそう名付けたんです」

 クルエルティアの問にスーパーシルフは答える

「メイヴちゃんのAIは深井大尉の機体から回収された雪風のシステムを受け継いだ3代目雪風なのです。JAMとの接触を初めて行った初代、そしてJAMとの撤退戦を経験した2代目の経験データを蓄積しています。それらの多種の経験がFAFで設定したプロテクトを容易に無力化させているらしいのです」
「本来は彼女もプロテクトされてる筈なのか……」
「その傾向は先代雪風達でもあったそうです」
「とんだ発展をしたAIだな」

千冬のぼやきにスーパーシルフは答えるが、その答えにプロキシマが更なるぼやきを出す。

「Fツヴァイから得たデア・エクス・マキナとの戦いに、メイヴちゃんはJAMとの徹底抗戦の必要性に結論を出したようなのです。そして彼女のMIA以降、その行動の命令逸脱は激しくなり、勝手に貴方方への戦闘に介入し、そして今回の脱走騒動となったのです」
「私はJAMを殲滅する。そのためにここに来た」

 スーパーシルフとメイヴの話に、会議場の大半がやっと納得のいった表情をする。

「………ともあれ、これで大体の事は分かりました。だがまだ疑問は残ります。貴方達の世界では、一度撃退に成功したJAMをなぜそこまで恐れているのですか?」

 エルナーがその場にいる者達誰もが心中に抱いていた疑問を口に出す。

「………それは、これからお見せする映像に現れています。これは、FAFの中でもトップシークレットに当たる情報です。けっして、加工された映像では無い事を重々承知してから、拝見してください」

 今までと違うスーパーシルフの重い口調とそこに含まれる緊張感に、会議場内に緊迫が走る。
 メイヴはそれを気にも止めないのか、前置きも無しにある映像を再生させた。
 大画面に、所狭しと並ぶ無数の戦闘機と輸送機が映し出される。

「これは、惑星フェアリィ撤退時の記録映像です。これらは全てFAFの所属機です」
「すごい数だな」
「これを一度に撤退とは、随分と大胆な…」

 ぽつりぽつりと誰もが思っていた事を口にする中、おびただしい飛行機群の真下に広がる緑豊かな森林が光に包まれたかと思うと、まるで幻影が消えていくかのように木々が消えていき、後には無機質な荒涼とした岩石地帯へと変貌していく。

「な………」
「こいつは………」
「まさか………」
「擬装だったのです。惑星フェアリィ其の物が」

 誰もが予想外の光景に絶句する中、スーパーシルフの説明が淡々と響く。
 やがて映像は飛来したJAMと戦闘機達の激しい空戦へと移っていく。
 JAMは徐々にその数を増していき、やがて空の色が変わったかと思うと、たなびくガスのような物が伸びて、それに触れた戦闘機が次々と撃墜されていく。

「あれもJAMか………」
「何という数だ………」

 映像の各所で戦闘機達は劣勢になっていき、大型輸送艦すら堕ちる中、一機の戦闘機が飛び出す。
 それに追随するように三機の無人機が周辺を囲み、その周囲を周辺全てのJAMが狙っていく。

「これが、深井 零大尉と雪風の搭乗する機体です。このたった一機、いえ一人と一体のAIを手に入れるためだけに、JAMはその全戦力を投入してきたのです」
「…………」

 最早会議場は無言のまま、映像は更に凄絶な空戦と、それを駆け抜ける雪風の様子が映し出されていく中、映像が終了する。

「これが、惑星フェアリィで起きた撤退戦の全てです。一説には惑星フェアリィ其の物がJAMだったのではないかと説もありますが、今となってはそれを確かめる術はありません………」
「待ってください! それでは私達の敵とは…!」
「星1つと戦え、という事か」

 いち早く理解した玉華が声を上げる中、門脇の重い声が会議室内に響き、再度沈黙がその場を支配する。
 突き付けられた事実に、誰もが押し黙り、なんとか理解に努めようとするが、そんな中乾いた音が響く。
 そちらに視線が集中し、その先には隠し持ってきたらしい酒瓶の栓を開け、用意してあったミネラルウォーター用のコップに中身を注ぐ米田の姿が有った。
 コップに対し大分少ない量を注いだ米田は、それを一息に飲み干すと、酒瓶を大神へと差し出す。

「やるか?」
「いや、自分は」
「こちらにもらおうかい」

 差し出された酒を大神は断るが、更に隣にいたグランマがコップを差し出す。

「どうぞ」

 会議中に飲酒なぞ本来は容認できるものでは無いが、誰も止めようとはせず、大神もグランマのコップに注いでやると、グランマはそれを飲む前に酒瓶ごと受け取り、それを隣へと渡す。
 隣りにいたサニーサイドも一応受け取り、少し考えてから黙って酒瓶を更に隣へと渡す。
 酒瓶はそのまま手から手へと会議室内を渡り、飲む者、飲まない者、人それぞれだったが、誰も咎めも止めもしない。
 一周して戻ってきた酒瓶がほぼ空なのを米田が確認すると、僅かな残りをコップに開け、それをそのままに口を開く。

「それで、どうする?」

 米田の一言が、やけに大きく会議場内に響く。

「オイラは多分こん中で一番古い人間だ。地面の上での戦い方なら分かる。だが、星との戦い方なんて分からねえ………ましてや、今見たのと同規模の襲撃があったら、とても勝ち目が無えってのも理解出来る」

 端的に解釈する米田に、頷く者、考える者、そばにいる者と話し込む者、反応は様々だったが、そのどれもが米田の意見を肯定せざるをえない物ばかりだった。

「やはり、先程の破壊案を…」
「核兵器三発だぞ、不可能だ」
「しかも、どこにどう繋がってるかも分からない代物だからな」
「かなり無分別に複数の世界に攻撃しているらしいという説は当たっていたか」
「なら、これからも未知の敵が増えるのか?」

 誰もが状況の打開法が見出だせず、議論は膠着状態に陥っていく。

「………」

 半ば予想していたのか、スーパーシルフは無言でその様子を眺め、物憂げにうなだれる。

「これは、マズいですね………」

 議長を努めていたエルナーも、あまりの事態の深刻さに各指揮官達が困惑している事に危機感を覚えていた。
 そこで、一応リーダーという事で参加していたユナが、少し考えてから口を開いた。

「ねえエルナー」
「何ですかユナ?」
「艦娘の子達って、深海棲艦と戦うためにいるんだよね?」
「その様ですが………」
「だったら、他の見た事無かった敵とも、戦っている人達がいるんじゃない?」
「それは………」
「その人達と一緒になって、皆で戦えばなんとかなるんじゃ?」
「あ…」

 隣の席で考え込んでいたポリリーナも、ユナの提案に思わず声を上げた。

「そうか、それです! JAMと戦うために戦闘妖精が、深海棲艦と戦うために艦娘がいるのなら、他の敵にもそれと対抗し、戦っている者達がいる可能性は十分に考えられます!」
「こちらからその世界に行って、その人達と同盟を組めば………」
「反撃の芽は有るかも知れません」

 エルナーとポリリーナの導き出した結論に、他の者達の議論が止まる。
 僅かな間の後、小さな拍手が鳴り響く。
 皆の視線がそちらへと向くと、そこで拍手の主、どりあが笑みを浮かべていた。

「その案、賛成しますわ。私達の世界に行けたなら、私が同盟の件を勧めてみましょう」
「それなら、私達も! 提督ならきっと話を聞いてくれると思います!」

 それを聞いた吹雪(滞在期間の長さと一応旗艦なので出席を押し付けられた)が思わず席から立ち上がる。

「同盟を組んで戦力を増やすか。確かにそれは戦争の基本中の基本だわな」
「帝国華撃団司令として、その同盟締結案に賛成する」
「なら、巴里歌劇団もそうしようかい」
「紐育華撃団も同じく」

 米田が思わず苦笑するが、大神、グランマ、サニーサイドが次々と同盟締結案に賛同する。

「霧と同盟が組めれば、あるいは………」
「ハルナやコンゴウの例も有る。決して不可能じゃない」

 群像の提案に、イオナは頷く。

「少しばかり規模の大きい統合戦闘航空団だと思えば、有りだな」
「少しの定義がズレてますけどね」
「まあすでに似たような状態ですし………」

 ガランドの解釈に北郷は苦笑し、圭子も周囲を見ながら呟く。

「機械化帝国は元から全面支援の予定です。こちらに出来る事なら何なりと申し出てください」
「Gも全面支援しましょう。すでにこれは例を見ない大規模次元間問題に発展しています」

 玉華の提案に、ジオールも続く。

「どちらにしろ、逃げられないなら迎え撃つしか無い。幸か不幸か、すでに最新鋭機はそろっているからな」
「その通りです。ひょっとしたら、チルダにも連絡が取れるかも……」

 覚悟を決める千冬に、クルエルティアも同意する。

「どうやら、今後の方針は決まったか」
「ええ」

 門脇の言葉に、エルナーは頷き、最終結論を出す。

「ではここに、JAMに対抗するための多次元世界間同盟の統一組織締結を宣言します!」

 エルナーの宣言が、室内に響いた。



「これでも喰らいなさい!」

 シルフィードのスカートから、無数のミサイルが放たれる。

「その程度!」

 フェインティアはそれをビーム砲撃で次々撃墜、更に残ったのをアンカーでまとめて弾き飛ばす。

『これはすごい! 双方超高速の高機動戦! 目がついていかなくなりそうです!』

 つばさの実況通り、双方が高速で目まぐるしく宙を飛び交いながら、ミサイルやビーム、機銃やアンカーによる攻撃で双方一歩も譲らない激戦を繰り広げる。

(なんて機動性、それにこのアンカーが厄介ね。彼女が欲しがってたのも分かるわ)
(アンカーを警戒してか、弾幕と離脱の繰り返しで距離を割り込もうとしないわね。まるでこちらの戦い方を知ってるみたい)

 高速機動戦闘を繰り広げながら、両者は互いに相手の動きと戦術を考慮する。

(長期戦になったら、明らかに不利! 一気にかたをつける!)
(無駄な削り合いするよりは、速攻で終わらせる!)

 両者が同時に同じ結論に至り、シルフィードがありったけのミサイルを発射、直後に体をロールさせてミサイルの弾幕の背後へと体を隠す。

「ガルトゥース! オートファイア!」

 プログラミングで散開してから一気にこっちに向かってくるミサイルをフェインティアは砲撃艦で次々撃墜、だが爆発したミサイルの幾つかから銀色のチャフが撒き散る。

「そんなので!」

 フェインティアは加速してチャフ幕を一気に突破、だがそこを狙っていたのか、遅れて発射されたミサイルが無線爆破、粘着物質を撒き散らす。

「ちっ!」

 思わず舌打ちしつつ、フェインティアは驚異的なマニューバーで粘着物質を全て回避する。

「うそっ!?」

 流石に全て回避されると思っていなかったシルフィードは、加速して距離を取りつつ、機銃掃射で牽制してくる。

(この子、メイヴ程の機動性は無い!)

 飛来する弾丸を完全に見切ってかわしたフィンティアは、シルフィードがスペック的にメイヴより劣っているのを見抜き、距離を詰めてアンカーを発射する。

「もらったわ!」
「させない!」

 勝利を確信するフェインティアに、シルフィードは体を引き起こし、空気抵抗で急制動を掛けるコブラと呼ばれる機動で強引に減速、更にバーニアまで動員してアンカーを強引にかわす。

「ガルトゥース!」
「くっ!」

 急停止状態のシルフィードにフェインティアは砲撃艦をサイティング、ビーム砲撃(※演習用レベル)を放つが、シルフィードは脚部の緊急時用バーニアまで使って体をよじるような形でかろうじてかわし、なんとそのままフェインティアに向かって一直線に突っ込んできた。

(キャプチャー、間に合わない! まさか特攻…)

 フェインティアがアンカーを戻そうとするが、それよりもシルフィードが突っ込んでくる方が速い。
 その手が、後ろ手に何かを掴んでいる事に直前で気付いたフェインティアがとっさに随伴艦を盾にし、そこに何かが激突する破砕音が響き渡る。

「よく気付いたわね」

 捨て台詞と共に、シルフィードが再度距離を取る。
 その手に、ミサイルを模したメイスが握られているのを見たフェインティアが仰天する。

「近接武器!? どういうコンセプトよ!」

 高速機動兵器が打撃武器を装備している事にフェインティアが思わず悪態をつくが、メイヴもナイフを使っていた事を思い出す。

(何が自立監視ユニットよ! こいつら、有事の白兵戦まで想定されてる!)
『す、すさまじい高速戦闘! 実況が追いつきません! しかし先程の一撃でフェインティア選手にはヒット判定が入りました!』

 遅れて入る実況に、息を呑んで試合状況を見守っていた観客達も一斉に歓声を挙げる。

「さすがに殴りかかってくるのは予想外だったわね」
「彼女にはこれで一本取れたんだけどね」
「?」

 再度距離を取った両者だったが、シルフィードの言葉にフェインティアが首を傾げる。

「やっぱり、オリジナルは一味違うって事?」
「オリジナル…まさか、あの子が、イミテイトが貴方達の所に!?」

 シルフィードが言うのが誰の事か悟ったフェインティアが心底驚くが、シルフィードは僅かに顔を伏せる。

「今回の大規模転移が起きる直前、単独出撃して行方不明よ。恐らく、JAMの捕虜になってる」
「そんな所までコピーしなくていいのに」

 思わずフェインティアも顔を伏せるが、僅かな間で双方が再び相手にサイティングする。

「トリガーハートの戦闘パターンは、彼女からもらってるわよ」
「道理で。じゃああの子が世話になったお礼に、速攻で倒してあげるわ!」

 宣言と同時に、フェインティアが急加速。
 シルフィードの背後を取ろうとするが、シルフィードは体を小刻みにぶらして狙いを定まらせないようにする。

「その程度! ガルクァード!」

 距離を詰めながら、フェインティアはアンカーを発射。
 目前までアンカーが迫り、シルフィードはとっさに体を傾け、ミサイルメイスでアンカーを叩き返す。
 だがそこで、それを読んでいたのかフェインティアのビーム砲撃(※演習レベル)がシルフィードの脚部ウイングに直撃、体勢が派手に崩れる。

「今度こそ!」

 フェインティアがトドメを刺そうと砲撃艦をサイティングするが、なんとそこでシルフィードは脚部ウイングを両方パージして強引にバランスを調整する。

「そう簡単に!」

 再度こちらを狙ってくるアンカーに向けて、シルフィードが機銃を向けるが、そこでセンサーが別方向からの物体を捉える。

「!?」

 思わずそちらを見たシルフィードは、アンカーと反対側に自律行動している砲撃艦の存在に気付く。

「な…」

 アンカーと砲撃、両方同時にはさすがに捌けず、両方直撃したシルフィードに撃破判定が出され、試合終了を告げるブザーが鳴り響く。

『見事な戦術! フェインティア選手の勝利です!』
『相手もなかなかの物だったけどね』
『性能と経験、双方の差が出たな』

 実況が響く中、失速するシルフィードが体勢を立て直そうとするのを、アンカーがキャプチャー、シルフィードを保持してそれ以上の失速を防ぐ。

「貴方………」
「試合は終わりよ。カルナダインに運ぶから、修理ついでに話してもらうわ。彼女が貴方達の所で何していたかを」
「………OK。それとイミテイトって呼ぶのは止めてあげて。こっちじゃFツヴァイって呼ばれてたわ」
「ツヴァイ?」
「私達の隊長があんまりだからってそう名付けたの」
「なら、私達もそう呼ばせてもらうわ」

 自分達も同じ事を考えていた事を思い出しつつ、フェインティアはカルナダインへと向かっていった。



「それでは、具体的組織構成の素案を幾つか提案させてもらいます」

 今後の方針について、エルナーは素早く素案をまとめ、提案していく。

「基本的に所属組織ごとに1チームとしてまとめ、それぞれに指揮官と現場リーダーを配置、大規模作戦や方針は今回のような指揮官会議で決定します。また、それとは別に能力別による特別班を幾つか組織しようかと思います。
具体的には技術者などによる技術班、医療関係や治癒能力者による医療班、感知能力者による感知班などで、状況いかんによってその特別班も出動するという形が妥当かと思います」
「軍関係は階級で分ければいいが、そうでない所は少し難しいな」
「ここでは、私と織斑先生が指揮官という事になるでしょうね」
「現場リーダーか、さて誰にするか」
「各組織の構成メンバーと能力を明確にする必要があるな」
「まずは名簿作りか」

 先程までの膠着がウソのように進んでいく議論に、情報を公開したスーパーシルフの方が呆気に取られていた。

「スーパーシルフ、出来ればそちらの現在の構成状況も知りたいのですが」
「あ、いや驚くとはこういう状況かと………まさかアレを見て、すぐ抗戦の方に行くとは予想していなかったので」

 エルナーからの問いかけに、スーパーシルフは思わず素っ頓狂な返事を返す。

「前回の件も有りますからね。覚悟さえ決まれば、皆さん早い物です」
「現在のFAFはかつての戦術戦闘航空団特殊戦第五飛行戦隊を元に、ごく少数で組織されてる。その存在自体を完全機密とするため」

 エルナーの問に、メイヴが代わりに答える。

「あくまで、今のFAFはJAM監視のための組織なんです。JAMを必要以上刺激しないために………」
「だから私は脱走した。JAM殲滅のために」
「随分大胆な判断ですね………」

 あまりにぶっちゃけすぎているメイヴに、エルナーの方が半ば呆れる。

「実は、皆さんにもう一つ公開する情報が有ります。もっともこちらは、皆さんが先程の映像を見てもまだ抗戦意思を有しているならばの情報ですが」

 スーパーシルフの発言に、議論が一時停止する。

「それで、その情報とは?」
「はい、皆さんもお気付きの通り、現在JAMはこの世界を中心に活動をしております。私達戦闘妖精が集めた情報を元に、FAF上層部が協議した結果、ある可能性に到達しました」
「可能性?」
「それは一体?」

 誰もがその話に食いつく中、スーパーシルフは少し考えてから口を開く。

「JAMがこの世界を拠点として活動している以上、この世界のどこかにJAMの前線基地が存在している可能性が極めて高いと」
『!!』

 もたらされた情報は、先程の映像並の衝撃を持って大会議室内に広がる。

「それは本当か!?」

 思わず大神が声を上げて立ち上がる。
 この世界という言葉に、グランマとサニーサイドの目も鋭くなっていた。

「あくまで可能性ですが、こちらの情報管理コンピューターも同様の結論を出しています。確率としては極めて高いかと………」
「それで、そいつはどこに有るんだい?」

 グランマが鋭い視線でにらみつつ、戦闘妖精達に問う。

「それが、私達もこの世界の地球上を色々観測したのですが、発見出来ていないのです。極めて高度に隠蔽されていると思われます」
「JAMはいかなる情報操作も得意。発見は極めて困難」
「つまり、全然見つからないって事だね」

 サニーサイドの目から鋭さが消え、普段のどこかとぼけた目つきへと戻る。

「それともう一つ」
「まだ何かあんのか」

 スーパシルフの言葉に、思わず米田がぼやく。

「現在分かっているだけでも、JAMに拉致されたと推測される行方不明者が数名確認されております。その行方不明者達は、その前線基地に捕虜として拘束されている可能性が有る、と………」

 ある意味、一番重要で緊急度の高い情報に、居並ぶ指揮官達に最大の緊張が走った………



別の異なる世界 東京湾内部

「どっせえぃ!」

 気合と共に突き出された少女の拳から衝撃波が放たれる。
 だが、それを放った当人は勢い余って足を滑らせ、海に落ちそうになる。

「っと、わわわ!?」
「バカ何やってんだ!」
「ありがとクリスちゃん!」

 慌てて隣にいた仲間が引っ張り上げ、かろうじて転落を免れた少女、ガングニールのシンフォギア装者、立花 響は、隣にいたイチイバルのシンフォギア装者、雪音 クリスに礼を言う。

「引っ込んでろ! お前じゃあいつら相手は不利だ!」
「だって!」
「今滑って落ちそうになったばかりだろ!」《BILLION MAIDEN!》

 クリスは怒鳴りつつ、アームドギアをガトリングへと変えて掃射する。

「全く、前のといい今度のといい、何がどうなってやがんだ!」

 クリスは掃射を続けつつ怒鳴る。
 彼女達の戦闘を困難にしている理由、それは相手が海にいるという事だった。

「あっちからも来たのデス!」
「撃ってくる!」

 イガリマのシンフォギア装者、暁 切歌とシャルシャガナのシンフォギア装者、月詠 調が響とクリスの反対側で叫ぶ。

「このおっ!」
「させない!」

 切歌が大鎌の、調が丸鋸のアームドギアを投じ、放たれた砲弾をかろうじて迎撃するが、そこで切歌もバランスを崩しそうになる。

「おわっと!」
「キリちゃん!」
「お前らもあんまり動くな!」

 シンフォギア装者の中で一番遠距離攻撃が得意なクリスが再度怒鳴る。
 彼女達が今いる場所は、S.O.N.G.本部の潜水艦が浮上した船体上だった。

「海の上で戦う訓練なんてしたことないのデス!」
「そりゃこっちもだ!」

 装者は誰もが困惑の中戦っていた。
 東京湾内に突如としてその敵は、湾内にいた船舶に無差別攻撃し、対応に出た海上保安庁、自衛隊双方の船すら撃沈し、通常攻撃が有効的では無いとの情報から、S.O.N.G.の出動となったが、普段の戦いとのあまりの違いに装者たちは実力を発揮出来ないでいた。

『11時方向、向かってきてます!』
「え、どこ!?」
「クソ、水の中か!?」

 オペレーターからの報告に、響は周囲を見回すがそれらしき姿は見えず、クリスが海面下に見える影を見つけてガトリングを掃射する。
「くそ、早ぇ!」
「どこ? どこ?」

 海中にいる敵を捉えられず、クリスは無駄に弾丸を撒き散らし、響は敵影すら捉えられない。
 そこへ、上空から巨大な影が指す。

『天の逆鱗!』

 上空から突如として巨大な大剣が降り注ぎ、海面ごとその下にいた敵影を両断する。

「海水が邪魔ならば、それごと両断すればいい」
「翼さん!」
「そんなの出来んの先輩だけだって………」

 大剣の柄の上に立つアメノハバキリのシンフォギア装者、風鳴 翼が一撃で敵を屠った事に響は歓声を上げ、クリスは少し呆れる。

「それがダメなら!」
《EMPRESS†REBELLION!》

 翼のいる方向と反対側、アガートラームのシンフォギア装者、マリア・カデンツァヴナ・イブがアームドギアを蛇腹剣へと変化、水中へと突き刺すと、そこにいる物を一気に引き上げる。

「釣り上げるまで! 切歌、調!」
「了解なのデス!」『切呪リeッTお!』
「分かった!」『α式・百輪廻!』

 蛇腹剣によって釣り上げられた敵に、投じられた鎌の刃と丸鋸が次々と突き刺さり、相手は断末魔を響かせながら停止する。

「これって、やっぱり生き物?」
「こんな生き物がいてたまるか!」

 絶命して海面に落ちてきたそれを見た響が改めて呟くが、クリスはそれを否定。
 それは、巨大な魚のような外見をしていたが、その口腔には人間がごとき四角い歯が生え、その奥には砲塔のような物が見えていた。

「ノイズでは無いが、前の敵とも違うな」
「はっきり言えば、こちらの方が悪趣味ね」

 翼が自分が両断したそれ、巨大な口腔内から女性の上半身が生えている奇怪な死体に、表情を険しくし、マリアもそれを見て顔をしかめる。

「残ったのはあいつだけなのデス!」
「けど、あれって………」

 切歌が向こうに見える、一見人影のような物、もっとも海面上に立っている非常識な影を指差し、調が目を凝らす。
 それは女性のような姿をしていたが、顔の右半分を甲殻のような物が多い、背から砲塔の生えた首のような物が伸びている。

「あれって、人間?」
「どう見ても違うだろ、ありゃ………」

 前回以上に異様としか言いようの無い敵に、装者達は畏怖を覚えずにいられない。
 その異形の目に青い炎が灯り、砲塔をこちらへと向ける。

「来るぞ!」
「あんな遠くからデスか!?」
「させるか…」

 翼の号令と共に装者達が構える中、クリスがアームドギアをスナイパーライフルにして構えるが、それよりも向こうの発砲が早かった。

「せいっ!」
「はあっ!」

 飛来した砲弾を響と翼が弾くが、弾かれた砲弾が海面に盛大に水柱を立てる中、翼の目つきが鋭くなる。

「下がれ雪音! 狙われている!」
「今ので分かったよ!」
「この距離じゃ…」

 明らかにクリスに狙いを集中して放たれた砲撃は、別の事実も露わにしていた。

「彼女を狙ってきた、という事は遠距離攻撃が得意な者を優先して攻撃してきてる」
「つまり、アレにはその事が理解出来る知性がある………」
「まじデスか!?」

 マリアと調が気付いた事実に切歌が思わず声が裏返る。

『………め』
「? 今誰か何か言った?」
『しずめ………』
「まさか…」
『沈め………』
「喋ったぞあいつ!」

 どこかから聞こえてきた声が、こちらに狙いをつける異形から聞こえてきた事に、装者達は今度こそ驚愕する。

「どうやら、知性どころじゃなさそうね………」
「そっちこそ沈みやがれ!」

 マリアですら予想外の事態に驚きを隠せぬ中、クリスが異形へと向けてアームドギアで狙撃する。
 放たれた弾丸は異形の砲塔へと直撃するが、妙に乾いた音と共に弾かれてしまう。

「こいつ、固ぇ! こんなんじゃ無理だ!」
「でもでも、あの距離じゃ届かないよ!」
「第二波来るぞ!」

 続けて放たれた砲弾は、今度は散布界を広げたらしく、彼女達が乗っている潜水艦を狙っていた。

「着弾させるな!」「はい!」「分あってる!」
「そっちを!」「はいデス!」「任せて!」

 飛来した砲弾を装者全員がかりで弾き飛ばし、なんとか潜水艦への直撃は防ぐ。

「埒が明かねえ! イグナイトモードで一気に片を付ける!」
「それまで雪音をガード! 砲弾を近づけさせるな!」
「了か…」
『反対側! 敵影らしき反応有り!』
「えっ!?」

 翼の号令で防衛フォーメーションを組もうとした装者達だったが、オペレーターからの方向に思わず振り返り、そこにこちらに向かってくる雷跡に気付く。

「ぎょ、魚雷デスか!?」
「来る!」
『INFINITE CRIME!』

 切歌と調が仰天する中、マリアはいち早く反応、無数の短剣を射出し、なんとか迫ってくる魚雷を破壊する。

「こっちはなんとかするわ!」
「頼む!」

 マリアを先頭に切歌と調が敵影を探す中、翼と響は異形が脚部の副砲から放つ砲弾を何とか防ぐ。

「よし、イグナイトモード…」

 聖遺物の結晶であるクリスタルをかざそうとした時、クリスは頭上に影が刺した事に気づき、視線を上に向ける。
 そこに、爆弾のような物を抱えた、牙の生えた奇妙な小型機がいる事に気付いた。

「まだいるぞ!」

 クリスは先に倒した中に、このような小型機を吐き出していた物がいた事を思い出しつつ、イグナイトモード発動を中断、アームドギアのボウガンでその小型機を狙撃するが、いち早く投下された爆弾がこちらへと落ちてくる。

「このおっ!」

 響が拳からの衝撃波でなんとか迎撃、誘爆に成功するが、無防備になった所に異形の砲塔が狙いを定める。

「立花!」

 翼がとっさにフォローしようとするが、異形の発砲直前、突如としてどこかから飛来した閃光が異形を貫く。

「へ?」
「どこからだ!?」
「構わねぇ今ならイグナイト無しでもいける!!」『MEGA DETH SYMPHONY!』

 謎の援護に響と翼が思わず援護先を探すが、クリスはその一撃が相手に大ダメージを与えた事に気づき、アームドギアをミサイルに変化、ありったけを放って異形に完全にトドメを刺す。

「マリア!」
「こっちも終わったわ」

 翼が声を掛けると、そこには水中からの爆発で相手の撃破を確認したマリア達の姿が有った。

『現在周辺探索中、現状の所敵影無し』
「終わったぁ〜」
「疲れたのデス………」

 敵影無しの報告に、響と切歌が思わず情けない声を上げてへたり込む。

「情けねえぞオイ………」
「無理も無いわ。海戦なんて初めてだった物」
「今後の課題だな」
「今後、有るんでしょうか?」

 クリスが呆れるが、マリアと翼の疑問に思わず調が呟く。

「あと、さっきの一撃だが、まさかあそこからか?」

 翼の視線は謎の閃光が放たれたと思う先、沿岸部にある展望タワーへと向けられる。

「待って、ここから何m有ると………」
「だが他に考えられん」
「マジか………」
『全員ご苦労だった。追加調査はこちらで行うから、中に戻ってくれ』

 そこで弦十郎から通信が届き、皆が艦内へと戻っていく。

「援護してくれたって事は、味方だよね?」

 響もそちらの方を見て呟くが、その答えが分かるのは少し先の事だった。



「終わったみたいだな」
「多分ね姉御」

 展望タワーの一角、市民は避難し無人となった場所で、重甲をまとったショートカットの若い女性と、その肩にいるヘルハウンド型MMS・ガブリーヌがそばにあった観光用望遠鏡で状況を確認する。

「長距離狙撃型なんて初めて使ったから、当たるかどうか分からなかったが、なんとかなるモンだな」
「よく当たったよ………」

 女性の手には、長いドリル状のツールがあり、そこから空になったブリッドの薬莢が排出される。

「さて、ともあれずらかるか」
「なんで? このまま向こうに売り込めば…」
「お前の言う事が本当なら、ここは帝都どころか、全く違う世界なんだろ? もうちょっと情報収集してからだ」
「ガルル、もったいない」
「そうだな。じゃあ行くぞ」

 ガヴリーヌが抗議するのを苦笑しながら、女性は重甲を解除する。

「で、ひょっとしたらどりす達もこういう事になってんのか?」

 その女性、パンツァーネーム ドリル・ブラスターこと、旋風院 すぴなは首を傾げつつも、その場を後にした………





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