第二次スーパーロボッコ大戦
EP43


異なる世界 一色邸

「もうそろそろかな〜?」

 家庭菜園の野菜の実り具合を見ていた少女、一色 あかねの妹でしっかり者として評判の一色 ももは、ふと視界の端を何かが横切った気がしてそちらを見る。

「おじいちゃん? それともネズミか何かかな?」

 せっかく実ってきた作物を荒らされたらかなわないと、ももは周辺を探してみるが何も見当たらない。

「ネズミ避けでもおじいちゃんに作ってもらおうかな?」
「もも〜、何かあった〜?」
「何か畑にいるみたい〜、ネズミか何か…」

 向こうで収穫していた姉に応えるももが、背後から聞こえた小さな音に思わず振り返る。

「いた! キュウリの向こう!」
「任せて!」

 あかねが収穫用バケツを手に、ウネから移動しようとしていた何かにダイブしながら被せる。

「捕まえた!」
「やった! けどこの後どうし…」
『おい、いきなり何するんだ! 開けろ!』

 捕獲に喜ぶ姉妹だったが、そこで声が聞こえてくる事に気付く。
 他でもない、被せたバケツの中から。

「………今時のネズミってしゃべるんだ」
「まさか………」

 姉妹は完全に予想外の事に、顔を見合わせる。
 意を決してあかねがそっとバケツを開ける。
 そこにいたのはネズミではなく、全長15cm程の全身を青いプロテクターで覆った少女のような姿をした小型ロボットだった。

「これ、なんだろう?」
「さあ………」
「いきなり捕まえるなんてひどいじゃないか!」
「あなた、だあれ?」
「あ、しまった………」

 文句を言ってきた小型ロボットは、あかねに問われてようやく自分の失敗に気付く。

「おじいちゃんが作ったのかな?」
「でも、こんなの作ったなんて聞いてないし」
「はあ〜、見つかったら仕方ないか。ボクはFAF所属フレームアームズ・ガール、NSG―X1 HRESVELGR。君達の観察とサポートのために派遣されたんだ」
「フ、フレ?」
「フレスヴェルグだよ、お姉ちゃん。それで派遣って、どこから?」
「ここじゃない世界から」
「「え?」」」


「それってどういう事?」
『分かんない。フレスヴェルグって子が言うには、ビビットチーム全員が観察対象だって』

 自室にて、あかねからかかってきた電話にあおいは首を傾げる。

「観察って言われても、それらしいのは………」

 改めて自室を見回すあおいだったが、裕福な家柄らしい広い自室に一見異常は見当たらない。
 だが何か違和感を感じたあおいは、視線を昔に買ってもらった海外物のドールハウスに止める。

「やっぱり、住むならお金持ってる子の家ねマテリア」
「そうねマテリア。前のよりいいの持ってるし」
「………いた。お人形さんみたいなロボット」

 ドールハウスで堂々とくつろぐ、ピンクの髪に白地のスーツ、うす青い髪に黒地のスーツをまとった、顔は瓜二つの双子のフレームアームズ・ガールに、あおいはスマホ片手に硬直する。

「あら見つかっちゃったみたい」
「今気付くなんて、意外と鈍い子ね」
「あの、フレームアームズ・ガールさん………ですか?」
「ええそうよ、私はFAF所属フレームアームズ・ガール、FAG―O MATERIA・WHITE」
「同じくFAF所属フレームアームズ・ガールFAG―O MATERIA・BLACK」
「えと、マテリア・ホワイトさんにマテリア・ブラックさん?」
「シロとクロでイイわよ。前のマスターはそう呼んでたから」
「前のマスターに負けず劣らずのおとぼけさんのようだけれど」
「はあ………」

 あまりに悠然と、というか明らかに小馬鹿にしてくるマテリア姉妹に、あおいはどう対応するべきか迷っていた。


「ふん、はあっ!」

 自宅の道場で、わかばは一心に竹刀を奮っていた。
 最近、アローンとは違う謎の敵の出現に、気を引き締めるべく、鍛錬に普段以上に熱が入っている。
 そんな彼女の耳に、何か小さな物音が響く。
 竹刀を降る手が止まり、わかばは耳を済ます。

(今のは?)

 気のせいかとも思ったわかばだったが、再度極めて小さいが音が響く。

「曲者!」

 音だけをたよりに若葉は竹刀を投じるが、そこで竹刀に突然小さなクナイが複数突き刺さる。

「何者!?」

 思わずわかばは道場にあった予備の竹刀を抜きながらクナイが投じられたと思う場所に振り下ろす。
 それを、ソードで受け止める小さな影が有った。

「く、これはなかなか………」
「え?」

 その小さな影、黒地のプロテクターをまとい、右目をアイパッチで覆いソードを構えている相手に、わかばは手が止まる。

「は、しまった! 我とした事が!」
「な、何これ!? かわいい!」

 次の瞬間、わかばは先程以上の素早さでそのアイパッチの小さな相手を掴み上げる。

「く、何という業前! この迅雷一生の不覚!」
「へえ、あなた迅雷って言うの」
「あ………ええい、いっそ一思いに!」
「いいの!?」

 明らかに剣道少女から、ただの物好きな少女に変わっているわかばに、迅雷は少し沈黙して考える。

「ま、待て。事情を説明するから離してもらえないだろうか?」
「逃げない?」
「さすがに観念した。我はFAF所属フレームアームズ・ガール、三二式二型 迅雷。ある任務にてあなたを観察していた」
「任務?」
「それは………」


「う〜ん………」

 締め切った自室内、並ぶ複数のPCの状態維持のため、始終エアコンで薄寒い中でひまわりはここ最近の戦闘状況を精査していた。

「おかしいおかしい、一体これは何?」

 ディスプレイに映されるアローンとは異なる敵に、ありとあらゆる解析をするひまわりだったが、そこでPCの処理が変に遅い事に気付く。

「何だろ? 何かリソースを食ってる………ハッキングでもないし………」

 原因を調べるひまわりだったが、ソフトウェア上は問題が見つからず、ハードウェアの問題かと思って、重い腰を持ち上げてPCのカバーを外す。
 そしてそれを開けた所で、そこにいる小さな人影に気付いた。
 白い髪に灰色のプロテクターをまとった小さな人影は、PCの基盤に直接回線を指し、目を閉じて何か処理を行っているらしかった。

「………何これ?」

 ひまわりが思わず言葉を漏らした所で、目を閉じていた小さな影は目を開いて、ひまわりの方を見る。

「どうぞお構いなく」

 それだけ言うと、小さな影はPCのカバーを内側から閉じる。

「………」

 ひまわりはしばし無言で考え、目をこすり、ほっぺを軽くつねって現実である事を確認す ると、今度は勢いよくPCのカバーを開く。

「あんた誰?」

 やっぱり中にいた相手に、ひまわりは問い質す。
 その相手は少し黙っていたが、やがておもむろに回線を引き抜く。

「私はFAF所属フレームアームズ・ガール、FA―0 ARCHITECT。貴方達を観察するために派遣された」

 悪びれもせず応えるアーキテクトに、ひまわりは生ぬるい視線を送りつける。

「それで、なんで私のPCに巣食ってるの?」
「状況解析のリソースが足りない。だから観察もかねて拝借していた」
「………サイバー犯罪対策課の番号は」
「待ってくれ。見つかった以上、そちらに協力する」
「何を?」
「こいつらの情報を持っている」

 ひまわりの解析途中の画面を指差し応えるアーキテクトに、ひまわりの手が止まる。

「それで、FAFってどこの団体? 聞いた事ないんだけど」
「それはそうだ。この世界の組織ではない」
「この世界?」


翌日 ブルーアイランド 示現エンジンコントロールセンター

「なるほどの………」

 相も変わらずぬいぐるみ姿のまま、ホバーポートに乗った一色 健次郎博士は、集合したビビットチームと彼女達が連れているフレームアームズ・ガールを見る。

「これが貴方達の指揮官?」
「まあ可愛い」「私達といい勝負ね」

 フレスヴェルグが健二郎博士を指差し、シロとクロが意味ありげに微笑む。

「FAF所属フレームアームズ・ガール、異世界からの侵略者を監視するための組織のエージェントという訳か」
「少し前まではそうであった。だが、最近事情が変わってしまった」
「あら、変わったのは事情だけではないようだけれど」

 なぜかわかばの首筋に隠れている迅雷に、シロが小さく笑う。

「いやその、これは………」
「ほらほら、せっかく見繕ってあげたんだから」

 わかばが引っ張り出そうとするが、なぜか迅雷は強固に抵抗する。

「えい♪」
「うわっ!」

 そこでいつの間にか回り込んでいたクロが迅雷を押し出す。
 わかばの首筋から転がり出した迅雷は、そのまま落下しそうになってわかばの両手に受け止められる。

「ぷっ、何それ?」
「ホントのお人形さんみたい」

 フレスヴェルグが思わず吹き出し、あかねはしげしげとわかばの手の上の迅雷を見る。
 プロテクター、ではなくなぜかワンピース姿にアイパッチがコサージュ風になっている迅雷に、皆の視線が集中する。

「み、見るな! 見るでない!」
「何言ってるの。せっかく可愛くなったのだから」
「ちゃんと映像記録で保存しておかないと」
「ではこのひまわりから借りた高精度カメラで」
「あははは!」

 迅雷を楽しげに見ている他のフレームアームズ・ガールを見ていた健二郎博士は、その様子を見て首を傾げる。

「君達は諜報用と言うには、あまりにもプロテクトというか警戒心が薄いようじゃな」
「ボク達は元々民間競技用のを転用してるからね。それに接触相手を必要以上刺激しないよう、プロテクトもゆるく作ってる」
「つまり、最初から接触するの前提?」

 フレスヴェルグの説明にひまわりが追加で聞くと、フレームアームズ・ガール達は一斉に頷く。

「私達は長期潜伏前提で送られてきたから」
「見つかる事も想定内よ。まさか全員いっぺんに見つかるとは思ってなかったけれど」
「あの、シロさんとクロさんは全然隠れてなかったんだけど………」
「あら、あんな立派なお部屋に隠れ住むなんてもったいないじゃない」
「気付いてもいなかったし」
「………え?」

 シロとクロからのツッコミに、あおいが硬直する。

「ともあれ、彼女達からの情報が本当なら、いまこの世界、いやこの世界を含めた複数の世界がJAMと呼ばれる者達により、攻撃を受けている事になる」
「アローンとは全く特性の違う敵は、違う世界の敵って事?」
「そういう事だ。こちらでも把握してない敵も多い」

 健二郎博士が話をまとめ、ひまわりの疑問点をアーキテクトが肯定する。

「もっとも、この世界に攻めてきてるアローンだっけ? あれのせいでこの世界の次元境界はめちゃくちゃでね。FAFはこの世界を一級危険地帯に指定して、ボク達を常駐させてる訳」
「そうなのかな〜?」

 フレスヴェルグの話に、あかねは腕組みしながら唸る。

「それともう一つ。データを解析してて出た可能性だが、私達以外にもこの世界に来ている者がいる」
「それって、アローン以外に?」

 アーキテクトの出した可能性に、ひまわりが関心を持つ。

「現状のデータと私の解析力だと、他に何か来ているらしいという事までしか分からない」
「私のPC勝手に使ってたよね?」

 アーキテクトの説明にひまわりが突っ込むが、スルーされる。

「それって、貴方達みたいなの?」
「さあどうかしら?」
「可能性はあるかもしれないけど」

 あおいが左右の肩に登ってきたシロとクロに確かめるが、姉妹は意味ありげに肩をすくめる。

「だとしたら、考えられるのは武装神姫。私達のモデルとなった存在だ」
「そんなのいるんだ」

 腕組みして考え込む迅雷に、わかばは興味津々の顔をする。

「ボクらも見た事は無いけどね。だとしたら、別の問題も生じる」
「どんな?」

 なんでか、あかねの頭の上に座り込んだフレスヴェルグに、あかねは気にもしないで聞く。

「武装神姫は、違う世界から転移してきた者をマスターにするらしい。つまり、もし武装神姫がこの世界に来ているなら、マスターとなる転移者がいる事になる」
『あ………』

 フレスヴェルグの説明に、ビビットチーム四人は思わず声を上げる。

「詳細は私達では調査不可能。だが、次元変動データが感知出来てるという事は、転移者は恐らく近隣にいる。ひょっとしたら、すぐ近くに」

 アーキテクトの導き出した結論に、ビビットチームは思わず唾を飲み込むしかなかった………



AD2301 香坂財団所有無人惑星

『こちら第二実況、帝国華撃団・風組の榊原 由里です! 現在、紐育華撃団と学園鎮守府(仮)との激戦が繰り広げられています!』

 由里の興奮した実況が響く中、海上では双方の攻撃がすれ違う。

「散開!」

 吹雪の号令の元、艦娘達はギリギリまで爆雷や誘導弾を引きつけ、機敏な動きでかわし、迎撃する。

「命中弾無し、すごいですね………」
「上空で旋回して再攻撃を…」
「その前に出迎えだよ!」

 ダイアナが攻撃結果を確認、進次郎が体勢を立て直そうとするが、そこにサジータが叫ぶ。
 スターの軌道を予め予測していたのか、待ち構えていた艦載機群が一斉に攻撃を開始する。

「散開!」

 今度は紐育華撃団が空中で散開、各個に艦載機との空中戦に入る。

「海上機ではあるが、対空戦闘はお手の物か」
「下からも撃ってきた〜!」

 昴が冷静に艦載機に誘導ペイント弾を命中させていく中、隣ではジェミニが艦載機と対空砲撃に追われて逃げ惑う。

「リカ機、昴機、ダイアナ機は上空小型機に対処! ジェミニ機、サジータ機はボクと一緒に海上目標へ!」
『了解!』

 上下からの攻撃を不利と判断した進次郎が即座に隊を二分、艦載機相手と艦娘相手とに分ける。

「なかなか判断が早いですね」
「弾幕を集中! こちらに向かってきてる機を優先させてください!」

 加賀が次の矢をつがえながら関心する中、吹雪は慌てて指示を出してこちらに向かってくるスター三機に攻撃を集中させる。

「当たって!」

 横手から向かってくるハイウェイスターに第六駆逐隊が一斉砲撃するが、サジータは機体をロールさせて砲撃をかわす。

「引きつけ方が甘いね、お嬢ちゃん達」

 不敵な笑みを浮かべながら、サジータは機体を立て直しつつ、霊子誘導ペイント弾を発射、第六駆逐隊は即座に左右に別れて回避するが、そのまま向かってきたハイウェイスターから伸びたチェーンが、すれ違いざまに暁と雷を絡め取って上昇していく。

「ウソ!?」
「ちょっと!」

 予想外の攻撃に連れさらわれた二人がもがくが、先程回避したはずの霊子誘導ペイント弾が直撃してその体を染め上げる。

「あうっ!」
「そんな………」
「まずは二人」

 サジータはハイウェイスターの速度を落とし、他の艦娘からの砲撃も届かない距離でペイントまみれの二人を解放する。

「暁と雷が!」
「紐育華撃団の機体は可変機、予想外の兵装もついてるらしい」

 残された電が慌てる中、響は冷静に状況を確認する。

「また来る」
「速い!」

 ハイウェイスターが大きく弧を描きながらこちらに再度向かってくるのに、響と電は慌てて12.7cm連装砲を構える。

「北上さん!」
「はいよ大井っち」

 そこで大井と北上が、向かってくるハイウェイスターへと向けて魚雷を発射する。

「? 空飛んでる相手になぜ魚雷を…」

 サジータが向かってくる魚雷に疑問を感じるが、わずかに角度をつけて発射された魚雷はサジータの直前で双方が激突、爆発と共に盛大な水柱を巻き上げる。

「こっちが狙いかい!」

 回避が間に合わず、まともに水柱に突っ込んでしまったハイウェイスターが体勢が崩れた直後、ペイント砲弾が一発命中する。

「くっ!」
「当たった!」
「もっと当てないと」

 電がはしゃぐが、当たった箇所が機体の端の方で撃墜判定されないと判断した響が続けて発砲するが、ハイウェイスターは急上昇してそれを回避する。

「海上戦専用機かと思ったけど、予想以上にやってくれるね………」

 相手が相当修羅場慣れしていると踏んだサジータは、上空で他の華撃団隊員達が艦載機相手に奮闘しているのを見る。

「あっちもか」
『サジータ、こちらはなんとかする。そちらを…』
『すいません、当てられてしまいました! リタイアです………』
『ダイアナ、小さいのに乗ってるの可愛いとか言って見てる間に撃たれたぞ』
「何やってんだい………」

 一進一退(多分)の戦況を確認しながら、サジータは下方を見る。
 そちらでは、進次郎とジェミニがリーダーである吹雪を狙って、ヒット&アウェイを繰り返していた。

「なるほど、そう来ましたか」
「ちょっと一航戦、迎撃機残してる?」
「こちらは残り少ないです………」

 加賀、瑞鶴、翔鶴が吹雪を守るように三方を囲み、その背後で吹雪が金剛を背に陣取っている。
 その周囲をフジヤマスターとロデオスターが旋回し、虎視眈々と隙を狙っていた。

「ジェミニ、速度を合わせて! 軌道を同一に!」
「分かったよ進次郎!」

 背後を取られないよう、互いに対極上の円運動で艦娘達を包囲する二機のスターに、艦娘達は攻めあぐねる。

「この人達、相当鍛えてる………」
「実戦経験もネ。どうするブッキー?」

 連装砲を手に焦りを覚える吹雪に、金剛は砲弾を装填した状態で機を待つ。

「護衛機も下手したらすぐ落とされる。相手が攻撃してきた隙を狙うしかない」
「その隙っていつよ!」
「多分、突撃してきた時…」

 空母艦娘達が残った艦載機の矢を番えたまま、普段通り口論を始める中、翔鶴がふと何かに気付く。

「何か、音楽のような物が聞こえる?」
「え?」
「そう言えば………」

 言われて改めて耳をすました瑞鶴と加賀も、二機のスターから何かの曲が聞こえる事に気付いた。

「何? 音楽でも聞きながらやってるの?」
「舐められてる?」
「戦意高揚用でしょうか?」
「NO、これは多分…」

 スターのジェット噴射音にまぎれて僅かに聞こえる曲に、空母艦娘達は憤慨し、吹雪も首を傾げるが、金剛だけはそれが何か意味を持っている事を悟る。
 艦娘達が知りようも無かったが、それは他でもない、進次郎がリトルリップ・シアターのステージに上がった時の、ステージ曲だという事に。
 曲がステージのクライマックスになると同時に、二機のスターが同時に動く。
 旋回運動から急カーブを描き、二機のスターがウイングから霊子の刃を出しながら艦娘達に前後から同時に突撃する。

「来た! 同時に!?」
「迎撃機を…」
「間に合わない!」
「伏せて!」

 迎撃機を発進させようとする瑞鶴の頭を抑え、加賀が強引に海面ギリギリに伏せさせ、翔鶴と吹雪もそれに習う。

「金剛さ…」
「ノープロブレムね。一番ファイアー!」

 艤装の巨大さ故に、伏せる事が出来ない金剛が残されるが、金剛は端の一番砲塔だけを発射、その反動で旋回し、見事なスピンで迫ってきていた霊子の刃をかいくぐる。

「外した!?」
「見事…」

 進次郎とジェミニの息の合ったコンビ攻撃を回避した事にジェミニは驚き、進次郎は称賛するが、そこで進次郎は金剛の残った砲塔がロデオスターの方を向いている事に気付く。

「ジェミニ!」
「え?」
「三番四番、ファイアー!」

 進次郎の警告は間に合わず、ロデオスターを狙って放たれたペイント砲弾が直撃、見事に機体を染め上げる。

「わあ!」
「くっ………ジェミニ、失格だよ」
「ゴメン………」

 機体のど真ん中に命中し、否定しようのない撃墜判定にジェミニが着弾の衝撃でふらつく機体を立て直しながら、離脱していく。

「よし、これで二機目!」
「このまま、攻勢に…」

 伏せていた瑞鶴と翔鶴が立ち上がってガッツポーズをした時、フジヤマスターの影に隠れて発射されていた霊子誘導ペイント弾が直撃する。

「………馬鹿。油断し過ぎ」
「うう………」
「申し訳ありません………」

 加賀が呆れる中、側頭部に直撃してどう見ても撃沈判定の瑞鶴と、かろうじてカタパルトで受けて中破判定の翔鶴がうなだれる。

『紐育華撃団 対 学園鎮守府(仮)、凄まじい激戦です! 一進一退、果たして最後まで残っているのはどちらでしょうか!?』
「紐育華撃団全機集結! 編隊を再編成!」
「全艦集結! 陣形を組み直します!」

 由里の実況が響く中、双方が残存勢力を再編成し、次の攻撃態勢へと移っていった。



「攻撃開始!」
「ファイアー!」

 合流した帝都・巴里華撃団と、第31統合戦闘航空団・ストームウィッチーズが砂漠エリアで相撃つ。

「エリカ君は後方援護を! オレとさくら君、グリシーヌは先陣を切る!」
「分かりましたぁ! じゃあ皆さん撃ちまくってください!」
「こちらに当てるなよ!」

 自ら突撃する大神の後ろでシスター・エリカが援護というにはアレな乱射体勢に入るのをグリシーヌが釘を指す。

「弾幕形成! 相手を接近させないで!」
「隊長機接近! 速い!」

 マイルズの指揮の元、陸戦ウィッチ達が一斉砲撃するが、先頭の大神機はブースターを小刻みに噴出させて細かく軌道を変え、狙いを定まらさせない。

「あの動き、海軍式ね。そういや大神司令は海軍上がりだったか………」
「しかも相当だ、腕も頭もな」

 上空でその様子を見ていた圭子が、大神機の動きが軍艦の回避機動に似ている事に気付いたが、隣にいたマルセイユは機動の見事さと、こちらが攻撃体勢に入ると即座に後方の長距離攻撃可能な部隊が援護射撃に入るのに素直にその実力を認めていた。

「リーダーが突撃して活路を開く間、対空防御を徹底。本当に私達より過去の人かしら?」
「向こうも修羅場をかなりくぐってきてるのだろうな」
「あの、特に私が狙われてるんですが………」

 攻撃の隙がつかめない事に圭子とマルセイユが関心してたが、真美が少しでも降下すると即座に弾丸や矢が飛んでくる状況に首を傾げる。

「多分、それが原因かと………」
「目立つからね〜、欲張りすぎたかしら?」

 ライーサが真美が担いでいるボヨールド40mm砲を指差し、圭子が火力重視しすぎたかと反省する。

「このままでは埒が明かん。私が突撃するか?」
「ここまで対空防御が厳しいと………」
「だがこのままでは突破されるぞ」
「もう遅いみたいです」
「あ!」

 大神機が陸戦ウィッチ達の目前まで迫り、陸戦ウイッチ達が慌てて散開した所をサクラ機とグリシーヌ機が襲いかかる。
 更にそれを合図にしたのか、他の華撃団達も一斉にこちらへと向けて突撃してきた。

「ええい、マルセイユとライーサは向かってきた後方部隊に攻撃開始! 真美は私と回り込むわ!」
「任せろ!」「了解!」
「援護します!」

 マルセイユとライーサが急降下する中、真美が砲撃しながら圭子と共に回り込もうとする。
 だがそこで狙いすました20mm弾と矢の狙撃が二人を狙い、20mm弾はかろうじて回避したが、矢は真美が担いでいるボヨールド40mm砲に命中、鏃のペイントが派手に砲を染め上げる。

「あっ!?」
「破壊判定よ、投棄して」
「す、すいません………」

 謝りつつ真美は下に誰もいない事を確認して砲を下へと落とすと、腰から予備のMP40短機関銃を抜く。

「マルセイユ! マイルズ! 向こうにとんでもない腕の狙撃手がいるわ! しかも二人も! こっちも欲しいわね………」

 圭子が警告ついでに愚痴をこぼしつつ、 20mm狙撃ライフル「リュミドラ」を構える黒のマリア機と、蒸気弓「鶫(つぐみ)」を構える同じく黒の花火機を見る。

「なかなかいい反応してるわね」
「けど、大砲は使えなくしました」

 こちらも戦果を確認したマリアと花火だったが、撃墜判定を出せなかった事にマリアは機内で僅かに顔をしかめる。

「もう上空のウィッチは警戒して、こちらに近寄っては来ないわ。他の援護に徹して…」
「マリアさん!」

 存在がバレた以上、同じ手は使えないと判断したマリアだったが、そこで花火が叫びながら上空に向けて構える。

「なっ…」

 そこには、こちらへと向けて突っ込んでくるマルセイユの姿が有り、予想外の事態にマリアも驚きながら銃口を向ける。
 二人の狙撃手から放たれた攻撃を、マルセイユは機敏な動きとシールドを併用して平然とかわし、更に距離を詰めてくる。

「速いです!」
「まずいわ!」

 花火は即座に二の矢を番えるが、マリアは向こうの攻撃範囲に入ったと判断、とっさにその場から回避する。
 花火機から放たれた矢を、マルセイユは髪をかすめるほどの至近距離で回避し、お返しとばかりにMG34のトリガーを引く。
 花火も回避しようするが間に合わず、黒の機体にペイント弾の花が咲いた。

「あ………」
「出来る………」

 マルセイユの想像以上の腕に二人の狙撃手が絶句する中、マルセイユは大きく弧を描きながら上昇する。

「こちらマリア、花火機撃墜判定です」
「そう言えば、502の方々がアフリカ戦線をほぼ一人で支えているアフリカの星と呼ばれるエースウィッチがいるって言ってました」
「彼女がそうね。華撃団総員、上空にいる長髪のウィッチに要注意。すさまじい腕してるわ」

 通信で報告を入れながら、マリアの目はマルセイユから目を離そうとしない。

「すいません、後はお願いします」
『マリアは本隊に合流、上空警戒を引き続き続行してくれ』
「それでは、後を頼みます」

 光武F2から降りた花火が合流しようとするマリア機に一礼すると、機体のリボンを外してその場を離脱する。

「向こうも百戦錬磨。やはり簡単には行かないわね………」

 本隊に合流しようと急ぐマリアだったが、そこで横手に僅かに影を見ると、即座にそちらに銃口を向けて狙撃する。
 放たれたペイント弾が遠くにいた影目掛けて正確に飛来するが、直前でフィールドに阻まれて飛散する。

「こちらマリア! 四時方向から新手確認!」
『! 巴里華撃団は後方に下がって新手に対処! 帝国華撃団も一度前線を後退させる! マリア、新手はどこのだ!?』
「あれは恐らく………」


「ふむ、まさかこの距離でこの正確さとはな」

 フィールドで狙撃を防いだコンゴウが、相手との距離を確認して素直にその腕を認める。

「機体というよりは、射手の技術ね。あれは帝国華撃団の副隊長よ」

 隣でヒュウガが射手の情報を確認する。

「悪くない相手だ。向こうにウィッチもいる」

 幻夢が不敵な笑みを浮かべて臨戦態勢を取る。

「それでは、こちらの目標は巴里・帝国華撃団と第31統合戦闘航空団。上空に警戒しつつ前進」
「特に先程の長髪のウィッチですわね」

 リーダーを示すリボンを額に巻いたイオナの隣で狂花が注意点を指摘する。

「華撃団の実力は実際に確認している。ウィッチもな」
「他の部隊だけどね」

 ハルナが帝都での戦闘データを確認する中、亜弥乎も前の戦いでのデータを確認する。

「いいかお前ら! 模擬戦、模擬戦だからな!?」

 審判を示すチェッカーフラッグを背中に付けたキリシマが、蒼き鋼・妖機三姉妹合同チームに再三に渡って注意する。

「無論分かっている」「有機体は脆いから加減はする」
「お前達が一番危険だ!」

 即答したコンゴウと幻夢にキリシマは怒鳴り返す。

「向こう来てる」
「臨戦態勢、フォーメーションは打ち合わせ通りに」
「イオナ姉さまに手出しはさせませんわよ!」
「ユナ達には負けないぞ〜!」

『こちら第三実況、ソニックダイバー隊通信士の速水 たくみです! 砂漠エリアではなんとストームウィッチーズ、帝都・巴里華撃団。そして蒼き鋼メンタルモデルと光の戦士からチーム分けした妖機三姉妹の合同チームとの三つ巴になってきました! 果たして最後まで残るのはどのチームでしょうか!』



香坂財団所有無人惑星 衛星軌道 永遠のプリンセス号

 全長12kmにも及ぶ超巨大宇宙船の一室、各組織の指揮官クラスの者達が、設置された大型ディスプレイに映される各部隊の奮戦を見ながら、それぞれの感想を持っていた。

「どこの連中も頑張ってんな」
「大分明暗は別れてきてますがね」

 一応委員長の米田が褒めるが、エルナーは率直な意見を述べる。

「やはり実戦経験の差が大きいようだ」
「科学技術的に劣っているウィッチや華撃団だが、戦闘経験や戦術で十分補えている」

 門脇の私見に、ガランドも頷く。

「やはり技術もあるが、経験の差は大きいか………」
「精神的な面もね」

 千冬がうなだれる中、どりあが思わず苦笑する。

「さて、じっくり見ときてえ所だろうが、こちらの仕事もしねえとな」

 米田の一言に、全員の顔が引き締まる。

「つい先程、サーリャ・V・リトヴャク、ティタ・ニューム、エイラ・イルマルタル・ユーティライネンの三名により、JAM前線基地が存在すると思われる座標が特定されました。座標はココ、西経67°北緯36°の海上です」
「やれやれ、ニューヨークの目と鼻の先じゃないか………」

 エルナーが託宣で指定されたポイントを示し、サニーサイドが芝居がかった口調で呟く。

「このポイントをこちらの探査衛星でサーチした結果がこれです」

 大型ディスプレイに移し出されたのは、小さな島で、植物もまばらにしか生えておらず、何か古びた廃墟のような建物が一つ有るだけだった。

「これが、JAMの前線基地?」
「とてもそうは見えないさね」

 群像が思わず呟いた言葉を、グランマも同じ意見を述べる。
 それは誰もが同じだった。

「戦闘妖精達の情報通りならば、JAMによる偽装の可能性も有ります」
「つってもな………」

 米田も顔をしかめる中、サニーサイドの座ってる席に小さな通信枠が開き、それを見ていたサニーサイドの目つきが鋭くなる。

「どうやら、偽装って線は当たってそうだよ」
「根拠は何だい」
「そんな所に島なんて無いからさ」

 サニーサイドの言葉に米田が思わず疑問をぶつけるが、その返答に指揮官達は誰もが反応する。

「こちらの方でも調べてみた。アメリカ合衆国の最新軍用地図のどこを探しても、そんな所に島なんてない。ちなみに数年をかけて周辺海域から何から全部調査済み。発行は去年。つまり去年までそんな島は無かった」
「待て、となると………」
「JAMは我々の学園を敷地ごと転移させた技術を持っている。こんな小さな島くらい訳ないだろう」

 ガランドが思わず席を立つが、千冬は冷静に可能性を述べる。

「………島まるごと一つどこかから持ってきて秘密前線基地か。とんでもねえと言うべきか、うらやましいと言うべきか………」
「この際、それは置いておきましょう。問題は、ここを特定出来たのは、行方不明になっているアイーシャ・クリシュナムの反応を感知出来たからです」

 米田が頭を抱えるが、エルナーは別の問題点を提起する。

「つまり、間違いなくアイーシャ・クリシュナムはそこにいる」
「ええ、ひょっとしたら、他にも別の世界の捕虜がいる可能性も」

 門脇の確認をエルナーが肯定し、その場がざわつき始める。

「よって、我々がしなければならない事は二つ。一つはこの場に囚われている捕虜の救出、もう一つはこの前線基地の壊滅です」
「救出が前条件か?」
「そうです」

 エルナーの前提に、ガランドが素早く問いただし、エルナーも即答する。

「人命優先という点もありますが、それ異常にJAMの特性を知るためには、捕虜となっていた者達の情報は極めて有用です。場合によっては、未だ接触していない他の世界の組織との接触になりえる可能性も」
「皮算用とも言えなくはないが、確かに情報が欲しい。FAFもJAMの詳細は掴めていないという話だった」

 エルナーの説明に、群像が賛同し、誰もが頷く。

「それに、人員の選抜は今やってるしな」

 米田が今なお激戦が広げられている模擬戦の様子を横目で見て呟く。

「確かに」
「こちらの生徒達はどれくらい残る事やら」
「まあちょうどイイかもしれませんわね」

 ガランドが笑う中、千冬は顔をしかめ、どりあは笑みを浮かべる。

「それではこれより、このJAM前線基地急襲作戦についての詳細を討議します」

 地表で行われている模擬戦に匹敵する内容の会議が、エルナーの宣言によって始められた。



 高空を、二つの軌跡が貫く。

「待ちなさい!」
「シェイムモード、エンゲージ」

 超高速機動で空中戦に入ろうとする対極的な白と黒の二者、エグゼリカとメイヴが互いを射程範囲に捉え、ターゲッティングする。

「アールスティア、オートファイア!」

 エグゼリカの随伴艦からレーザーが速射されるが、メイヴはそれを驚異的なマニューバーで回避していく。

「AAM、ファイア」
「行ってディアフェンド!」

 メイヴが大きく弧を描きながらエグゼリカの横手に回ると空対空ミサイルを発射、迫るミサイルをエグゼリカはアンカーで弾き飛ばす。

「速度なら負けません!」

 エグゼリカは更に加速しながら上空にロール機動、再びメイヴの背後を取る。

「アールスティア…」

 再度砲撃しようとしたエグゼリカだったが、そこで完全に予想外の事態が起きる。
 メイヴが各所のバーニアを噴出させたかと思うと、突然進行方向を変えないまま反転、その手に機銃を装備したメイヴはエグゼリカへと向けて連射してくる。

「ベクトル操作も無しに!?」

 ジェット推進で空中反転という離れ業にエグゼリカは驚愕しつつ、慌てて回避。
 だが放たれたペイント弾がアールスティアに命中、しかしただではやられず、回避直前に放ったレーザーがメイヴの機銃に命中して双方に破壊判定が出る。

「アールスティア、システム一時停止。行くよガルクァード!」
「アプローチドッグファイトモード、エンゲージ」

 アンカー艦を向けるエグゼリカと、大型ナイフを抜いたメイヴが再び激突を開始した。


「ふむ、これは凄まじいな………」
「ええ、確かに」

 超高速のドッグファイトをその下からラルとジオールが関心しながら見ていた。

「速度もすごいが、それ以上に機動力がすさまじい」
「エグゼリカさんは性能なら上ですが、メイヴさんの空戦技能はそれを十分に補ってます」
「とても我々では相手に出来ませんね」
「生身では不可能な機動だ」

 二人の隊長のそばで、ポクルイーシキンとエスメラルダも頷く。

「いやはや、文字通り別次元の戦いだね〜」
「確かに」
「エリュー今の見た!? 飛びながら後ろ向いたよ!?」
「真似したらダメよ、高等技能だから」

 隊長に習うように、第502統合戦闘航空団・ブレイブウィッチーズ、G・グラディウス学園ユニットは互いに戦う事も忘れ、上空の超高速ドッグファイトに見入っていた。

「あの〜、試合データなら後で公開しますから、見学はその程度にしてほしいのですが」
「ふむ、そうか」
「それではそろそろこちらも始めましょうか」

 動きが無い両者の確認に来た審判フラッグをつけたアーンヴァルに促され、ラルとジオールが頷きながら双方ようやく戦闘態勢に入る。

「それでは502統合戦闘航空団、戦闘開始!」
「G・グラディウス学園ユニット、バトルスタート!」

 双方が素早くフォーメーションを展開、502が集結するのに対し、グラディウス学園ユニットは散開する。

「ウィッチのシールドは一方向にしか張れない! 複数から同時に攻撃を!」
「固有魔法に気をつけて!」

 エリューと亜乃亜がアドバイスしながら、左右に分かれて挟み込もうとする。

「まあそう来るだろうな」
「紡錘陣形! 互いをカバーして!」

 ラルが苦笑する中、ポクルイーシキンが素早く指示を出し、502のウィッチ達は弾丸を思わせる陣形を組んで互いをカバーしあう。

「そうなるよね、けど後ろがら空き!」

 マドカが自分のRVを急旋回させながら陣形の背後を狙うが、そこで陣形の中央でこちらにフリーガーハマーを向けているロスマンと目が合う。

「え?」
「焦り過ぎね、減点対象よ」

 笑みと共に発射されたロケット弾がマドカを狙い、マドカは大慌てでそれを回避する。

「あ、危な………」
「あんな見え見えの罠に飛び込まない!」
「え、あれ罠だったの?」

 離れるマドカにエリューが警告するが、亜乃亜からの脳天気な声に思わず肩を落とす。

「よくこんなのと組んでるな、エリュー」
「エスメラルダ………」
「こっちも行こうエスメ!」

 冷めた表情のエスメラルダにエリューが口ごもるが、ポイニーが我先にウィッチ達へと向かっていく。

「来たね、結構可愛い子」
「そっちからも来ます!」

 クルピンスキーと定子が向かってくる二人に向かってシールドを張りながらトリガーを引くが、放たれた銃弾を二人とも巧みにかわし、攻撃しながら間近を通過、即座に反転して再攻撃と見事なヒット&アウェイを繰り広げる。

「なかなかいい動きをするな」
「全員もっと密集! シールドに隙間が出来ないように!」
「そっちから来た!」
「こっちも!」

 ラルが二人の息の合った連続攻撃に関心し、ポクルイーシキンが密度を上げるよう指示を出すが、ニパとジョゼが巧みにポイントを変えてくる連続攻撃に思わず声を上げる。

「これは、探られているな」
「ウィッチのシールドに個人差が有るって調べてたんだろうね〜、勤勉な子だな〜」

 ラルが二人の攻撃の意図を看破し、クルピンスキーが茶化すようにしながらもシールドを維持し続ける。

「こちらも参るぞ!」
「攻撃開始します!」

 更にそこへ華風魔とココロも参加し、RVの連続攻撃が502のウィッチ達を襲う。

「相変わらず、容赦の無い攻撃ね」
「え〜と、これは何してるの?」
「シールドの弱いウィッチを探してるのよ」

 エリューがエスメラルダの狙いを亜乃亜に説明していた時、とうとう限界に来た一角が崩れる。

「あっ!」
「ジョゼ!」

 連続攻撃にシールドが耐えきれなかったジョゼが体勢を崩し、慌てて定子が連れ戻そうとするが、その隙を狙ってRVが一斉に機首を向ける。

「まずは二人…」

 ジョゼと定子に狙いを定めるエスメラルダだったが、そこでもう二人陣形から飛び出してくる。

「早く戻れ」
「抜け駆けは禁止だよ」

 陣形から飛び出したラルとクルピンスキーが、それぞれ向かってくるRVを迎撃しようとする。

「リーダー機! ポイニー!」
「OKエスメ!」

 リーダーを示す額のリボンに、エスメラルダは狙いをそちらへと変更する。

「二人がかりか、構わん」

 ラルが不敵な笑みを浮かべ、向かってくる二機のRVに銃口を向ける。
 放たれたパルスレーザーとグラビティバレットを、ラルはロールしながらの驚異的な機動でかいくぐり、銃撃を放ってくる。

「ちっ…」

 腰の古傷に少し響くのに舌打ちしながら、ラルは銃撃を浴びせ続けるが、エスメラルダとポイニーはシールドでかろうじて防ぐ。

「さすが隊長クラス」
「うわ〜、今のかわされたよ!?」

 二人の同時攻撃をかいくぐって反撃してきたラルに二人は驚きながら、反転しようとするが、速度の機敏性から向こうの方が早く反転、そこでラルが突然明後日の方向に銃撃する。

「今のは…」
「キャア!」

 そこで悲鳴が上がり、合流したウィッチ達へと向かっていたはずのマドカがペイント弾をまともに食らって悲鳴を上げる。

「まずは一人」
「今の、まぐれ?」
「分からない………」

 まるで見当違いの場所に撃ったはずのペイント弾に、マドカが自ら突っ込んでいったかのような状況にポイニーは首を傾げ、エスメラルダは一気に警戒を高める。

「気をつけて! エイラさんみたいな予知能力か何かかも!」
「残念だが違うな」

 亜乃亜が先程の銃撃の正体を予測するが、ラルが不敵に笑う。

「正体を見極めるには、攻撃するしかない!」
「わかった!」

 二人は用心して距離を取りながら、今度はスプレッドボムとローリングミサイルでラルを狙うが、ラルはかろうじてそれを回避している。

(違う、こちらの攻撃は読めていない。予知なんてふざけた能力じゃない。もっとふざけた何か…)

 そこで再度ラルが明後日の方向に銃撃、背後から狙っていたジオールが急制動をかけてなんとか直撃を回避する。

「あまり使わせないでほしいな。これは結構魔法力を食うし、何より腰の古傷がうずく」
「みんな、ラル隊長の視界から外れないで」

 不敵な笑みのままのラルに、ジオールが奇妙な指示を出す。

「ミーナ隊長から聞いた事が有るわ。狙っていない所に当てられる固有魔法が有るって。あなたのそれがその固有魔法ね」
「ミーナの奴、余計な事を………だが当たりだ。偏差射撃と言う」

 ラルの奇妙な攻撃の正体を思い出したジオールに、ラルが苦笑する。

「へ〜、便利だねエスメ」
「なら、正面戦闘に徹するのみ…」
「それはよした方がいいだろうな」

 ラルの固有魔法の正体に、エスメラルダがむしろ正面から攻撃しようとするが、そこに背後から迫る影に気付く。

「ポイニー!」
「分かった!」

 背後から迫ってきていた、502ウィッチの集団突撃に二人は慌てて回避、そこへラルの銃撃がかすめる。

「攻撃特化単騎攻撃と防御特化集団攻撃の二重フォーメーション、そういう戦法ね………」
「あっちも苦戦してるよ!」

 ポイニーが指差す先、華風魔とココロ二人がかりに、クルピンスキーがなんとか対処していた。

「なかなかやるね〜」
「そなたもな」
「前回の試合も見事でしたが、負けません!」
「お手柔らかに。終わったらお茶でも一緒しない?」

 シールドと回避機動でかなりギリギリの接戦をしているはずのクルピンスキーが、口調だけは余裕で華風魔とココロに話しかけている。

「そういう事は仲間内か終わってからにしてください」
「おやおや、真面目だね〜。でもまあもうみんな仲間みたいな物…」

 大真面目に断るココロに、銃口を向けながらも口説くクルピンスキーだったが、横手から飛んできたロケット弾が顔面をかすめていく。

「………今、そちらの仲間が狙ってなかったかの?」
「あはは、ロスマン先生はちょっとジェラシー気質で…」

 華風魔が唖然とする中、適当に取り繕うとしたクルピンスキーにロスマンが残ったロケット弾全弾を発射してくる。

「え…」
「なんと!」
「ちょっと先生!?」

 ココロと華風魔が絶句し、クルピンスキーを混ぜて三人で慌ててロケット弾を回避。
 ココロのスタウロスとクルピンスキーそれぞれのシールドにロケット弾が着弾、撒き散らかされたペイントがそれぞれに付着しダメージ判定となる。

「しまった…」
「フレンドリー・ファイアって点数どうなったっけ?」
「ちっ」

 歯噛みするココロと苦笑いするクルピンスキーだったが、そこでロスマンの舌打ちが聞こえた気がして思わずそちらを凝視するが、そこではウィッチ、天使双方が気まずい顔で攻撃が中断していた。

「え〜と、501の人達じゃこういう事は無かったよね………」
「見なかった事にしなさい」
「修羅場かしら………」

 亜乃亜とエリューが困惑する中、ジオールは小首をかしげる。

「あの、普段はここまでは…」
「クルピンスキー中尉が可愛い子がいっぱいいるって始まる前からはしゃいでいたのが悪いというか………」
「あれ、いつもと変わらない?」

 ニパとジョゼがフォローしようとするが、定子の一言で台無しになる。

「皆さん、今度クルピンスキー中尉が502
の品位を落とすような事しそうなら、ためらいなく撃ちなさい」
「許可します」

 そこでロスマンが予備のワルサー・P38を抜きながらとんでもない事を言い出し、戦闘隊長であるポクルイーシキンも許可する。

「ちょっと!?」
「同士討ちって点数どうなるのかしら?」
「減って増えてだから変わらないかも………」
「それ以前に問題になって失格の可能性が」

 さすがのクルピンスキーも慌てる中、更に怖い事を言い始める二人にココロが思わず突っ込む。

「今マスターに確認取りました! チーム内での故意の攻撃は警告になります! あんまりひどいと失格です!」
「そう、死なば諸共ね」

 そこへ慌ててアーンヴァルが警告を発するが、ロスマンは目が座ったまま危険な事を呟く。
 何かものすごく触れてはいけない予感がしたココロは、慌てて話を変える。

「それと先程から気になってるんですが、データだともう一人そちらにいるはず。反応も無いのは…」
「ああ、ナオちゃんなら…」



「いや〜、遅れちまった」
「次はもう少し加減しなさい」
「で、なんで着いてくんだい?」
「あなたを一人で放置なんて危険な真似出来ますか。帝国華撃団の問題になっても困るので」

 仲間達に追いつこうとするカンナ機の隣で、すみれもなぜか並走していた。

「変わってねえな〜、その嫌味な性格」
「あなたこそ、その大雑把な所はそのままですわ」
「おい、そこのお前!」

 昔通りのやり取りをしていた二人の前に、上空でホバリング状態で仁王立ちしている小柄なウィッチが立ちふさがった。

「あたいの事か?」
「ああ。実況で聞いたがパンチ一発でISとかいうの落としたってやつはお前か?」
「おうよ、親父仕込みの琉球空手だ」
「そうか………」

 その小柄なウィッチ、502所属の菅野 直枝は背負っていた九九式二号二型改機関銃を突然投げ捨て、腰の扶桑刀を片手で抜くと、もう片手を握りしめ、頭上にかざすとそこにシールドが発生、そしてそれが拳へと収束されていく。

「それじゃあ、オレの拳とどっちが上か、勝負しろ!」

 固有魔法の圧縮シールドを突きつけてくる直枝に、カンナは機内で思わず笑みを浮かべる。

「その勝負、受けたぁ!」
「それじゃあ、行くぞ!」

 宣言と共に、刃と拳のみで向かってくる直枝に、カンナ機も構える。
 それを見ていたすみれは思わず機体を後方に下げると、おもむろに通信を入れる。

「あ、大神大尉。カンナさんですけど、そちらに合流は不可能になりました。………いえ、問題とかじゃなく、信じらないのですけれど、カンナさん並のお馬k…じゃなくてゲンコツ主義の方が勝負を挑んできまして………はい、こちらで見張ってますので、お気になさらず」
「どおりゃああ!」
「ちぇすと〜!」
「たりゃ〜!」
「はああぁ!」

 響いてくる似たような気勢と繰り広げられる肉弾戦に、すみれは思わずため息を漏らす。

「異なる世界というのも、困った物ですわね。まさかカンナさんと同じ思考回路の人がいるなんて………」

 そこで、試合時間が残り半分を知らせる電子音が各所で鳴り響いていた………





感想、その他あればお願いします。


NEXT
小説トップへ
INDEX


Copyright(c) 2004 all rights reserved.