EP57 「申し訳ありません!」 学園の職員室で深々と頭を下げるニナに、下げられている千冬は渋い顔をしていた。 「謝る必要は無い。こちらでも初めての事故だからな。原因は今現在調査中だ」 「しかし、学園の備品を壊してしまった事は事実ですし………」 「そもそもそれがおかしいのだ。開発中の実験機ならともかく、IS学園で使われてる打鉄は安定性には定評の有る機体で、そのために教習用に使われている。まずはウォンが軽傷だった事を安堵している」 「はあ………」 「ともあれ、原因が判明するまでウォンのIS教習は無理だな」 「構いません。お世話になっている身ですし」 「あまりかしこまるな。どんな形であれ、今はIS学園の生徒なのだから」 それだけ言ってニナを下がらせると、千冬は席を立ち、炎上したISを調査中の整備ブースへと向かう。 そしてそこで意外な光景を目にした。 「これそっちに」 「はい!」 「う~ん、ここもかな~? 外したの順に並べといて」 「はい!」 調査に当たっている整備科の生徒達にあれこれ指示しながら、黒焦げとなった打鉄を分解している束の姿に、千冬は眉を潜める。 「束、何をしている?」 「あ、ちーちゃん。見ての通り、事故の原因調査だよ♪」 「お前が、自分の造ったIS以外をか?」 「いや、私も初めて聞くケースだったからさ。興味有って」 「興味、か」 彼女の本当の興味は機体ではなく、搭乗者であろう事は内心確信しながら、束は分解中の打鉄へと歩み寄る。 「いや、篠ノ之博士が協力してくれると言うので………」 「あの人ほど正確に分かる人いないと思って………」 「だろうな」 手伝っている生徒達があれこれ弁解するが、間違いなく一番正確に事故原因が調査出来る人物は、IS開発者の束しかいない事に千冬は思わずこめかみに手を当てる。 「で、分かったか」 「大体ね、それ見て」 分解された部品を指差す束に、千冬はそれを順繰りに見ていく。 「これは………」 「本来、ISはどれも搭乗者を守る防護機構が標準装備されてる。最悪落雷食らっても搭乗者は守れるようにね」 「この間の模擬戦でデュノアが実際食らってたしな」 「つまりそれは、外部からのエネルギーを内部に流れ込まないように幾層にもシールドしてるって事。けど…」 「この部品は、内部ほど損傷が激しい」 「ってことは、エネルギーは内部、つまりは搭乗者から機体に流れ込んだ。一撃でISの回路焼き付かせるほどの莫大なエネルギーがね」 「これがマイスター乙HiMEとやらの力という事か………」 「もしくは彼女個人の、ね」 束の導き出した結論に、千冬は考え込むが、周囲の生徒達は思わず顔を見合わせる。 「その、そんな漫画みたいな事本当にあるんですか?」 「何でも、この学園がここに飛ばされる前に有った帝都での戦いだと、501の宮藤少尉が華撃団の霊子甲冑の試作機動かしてオーバーヒートさせたらしいよ? 向こうで見せてもらったのとよく似てる」 「501の宮藤少尉か………確かに彼女の潜在能力はずば抜けてると聞いてる。ウォンの潜在能力はそれと同格、もしくはそれ以上か」 千冬のつぶやきに、周囲の生徒達はさらに顔を見合わせてあれこれささやき始める。 「こんなんだと、他のIS乗せても似たような事になるね~。何なら、私が作ろうか? あの子の専用機」 束が何気なく発した言葉に、周囲の生徒達に一気に動揺が走る。 「篠ノ之博士が専用機!?」 「マジで!?」 「あの子にそこまで!?」 「そこまでウォンに興味が有るのか? だがおそらく当人にその気は無いだろうな」 束の提案を、千冬は一言に切って捨てる。 「何だ残念」 「いいか束、彼女はどのような事情があれ、この学園の生徒だ。危害を加えるようなら私は全力で阻止するぞ」 「そんな気は無いよ~。やだな、ちーちゃん」 鋭い視線で睨みつけてくる千冬に、束は軽い口調で返すが、千冬はそれを信用する気にはならなかった。 「事故に有ったと聞いた。大丈夫?」 「ええ、少し火傷したくらい。もう問題無いわ」 アイーシャの居る病室で、見舞いに来たニナが逆に心配される事態に苦笑する。 「多分、私の中のマイスター乙HiMEの力が逆流したんだと思う。昔を思い出して少し本気になりすぎたみたい」 「そう。ニナは、どうしたい?」 「どう、って………」 いきなりの問いに、ニナは言葉を濁す。 「分からない………私の中にまだマイスター乙HiMEの力は有る。けれど………」 「使いたくは、無い?」 「………私は、元の世界で色々ひどい事をした。大勢の人を殺し、親友を裏切ったり、手にかけたりもした。けど、その私に裏切られた親友が私を逃してくれた。もう私には、戦う理由が無い………」 「………私の世界が壊れているのは、お父様が私の病気を治すために造った医療用ナノマシンが自己進化して暴走し、ワームへと変貌したからだった。私が生きているために、私の世界は大きく壊れてしまった」 「それは、あなたのせいじゃ…!」 自分の過去を吐露したニナに、アイーシャは己の過去もかぶせるように話すが、思わずニナはそれを否定しようとする。 「戦う理由が無ければ、無理に戦わなくていもいい。どちらにしても、ニナの力を引き出せる装備が無い」 「………実は、有るの」 無理強いさせる気は無い事を示すアイーシャに、ニナは少し俯きながら通学バッグを漁り、そこからJAM前線基地から回収された資料の中に有った物を取り出し、その中身をアイーシャに見せる。 「それは?」 「これがマイスターJEM。JAMがどこかから持ってきてたらしい。これが有れば、私はマイスター乙HiMEの力を取り戻せる。けれど、そのためにマスターとの契約が必要になる」 「契約、確か…」 「マスターとマイスター乙HiMEは契約する事によって力を発動させられるけど、マイスター乙HiMEのダメージはマスターにフィードバックする。そしてマイスター乙HiMEが死亡すれば、マスターも運命を共にする」 「そうか………話は聞いていた」 「私は、NORNの誰にも、そんな契約を結ばせたくない、結ばせられない………」 「なんなら、私がなってもいい」 「………その体では無理よ」 「…それもそうだな」 アイーシャはようやくリハビリを始めたばかりのやつれた腕を見て自嘲する。 「でもありがとう。気持ちだけは受けとっておくわ。それと、これの事は秘密に…」 「分かってる」 マイスターGEMの事を一応念押ししたニナは、病室を後にする。 ふとそこで、窓の外に見えた訓練中のISの姿に、己の過去を重ねる。 「セルゲイ、私はどうすれば………」 異なる世界 横須賀鎮守府 「由々しき事態、と言う奴だな」 鎮守府の会議室に、冬后提督始め各艦隊の旗艦、NORNからガランドと群像、そしてミーナと美緒が並び、全員が深刻な表情をしていた。 「まずは確認しておきたいが、あれは本当にそちらで使われていた物なのか?」 「きちんと確認しました。外見こそ変わっていましたが、間違いなくマスターの使用していた刀に間違いありません」 冬后提督の確認に、アーンヴァルが答える。 「アーンヴァルとは前回の戦いで共に戦った。間近で見ていた彼女が確認したのなら、間違いはないだろう」 美緒も険しい顔で頷き、全員が唸る。 そして長門が口を開いた。 「そもそも、あんな危険な代物を坂本少佐はどう使っていた?」 「本来はあんな妖刀になるはずでは無かったのだ。魔法力の低減期に入った私は、それを補うために自らの手で魔法力を込めて打ち鍛えた刀、それが烈風丸だ」 「しかし結果出来たのは、使用者の力を際限なく吸い取って攻撃力に変える妖刀、今の坂本少佐はそのために魔法力の殆どを失っているわ」 美緒の説明にミーナも続ける。 「使用者の力を根こそぎ吸い取る妖刀、ね。それが深海棲艦の手に渡っていた」 「渡っていた、というよりはJAMの手によって故意に流された、と考えるのが妥当だろう」 陸奥の呟きに、群像がこれまでの経験からの可能性を口にし、誰もが頷かざるをえなかった。 「JAMがあちこちの世界から色んな戦力を収集したり、戦闘データを集めているのは分かっていたが、異なる世界の技術まで流出ささせていたとはな………」 「JAMの知能指数、ってのがあればだけど、かなり高いってFAFは判断してるわ」 ガランドの推察に、会議に参加していたスティレットが助言する。 「とにかく、そちらのNORN正式参加云々はともかく、こちらの技術が流出したのならその対処の間だけでも共闘体制を取る、というのでいいのだろうか?」 「私の一存でそちらに参加は難しいだろうが、確かにあの烈風丸は驚異過ぎる。それを知る者達との共闘くらいなら、なんとかなるだろう」 「まずは現状の問題解決が優先、だな」 ガランドと冬后提督が席を立ち、互いに歩み寄ると握手する。 それを見た者達が思わず拍手するが、それはすぐに止む。 「では、まずは烈風丸の対策会議から始めよう」 冬后提督の一声で、その場はすぐに対策会議へと移行していった。 横須賀鎮守府 食堂 次々と空けられていく食器に、その場にいた艦娘達が絶句していた。 「よっぽどお腹空いてたんだね、い~っぱい食べてね」 「ありがと」 駆逐艦にありえない量の食料を詰め込んでいく如月に、睦月は甲斐甲斐しくおかわりを運ぶ。 「これは一体、どういう事じゃ?」 利根型重巡1番艦 利根が色々とまとめて疑問を発する。 「それが、如月さんはFAFって所に拾われてたらしいの」「その時すでにひどい状態だったらしい」「それで、助けるために改造手術されたんだって」「そしたら、すごい強くなった代わりに、ああなったらしいのです………」 暁型四姉妹がこちらも色々端折って説明をする。 「大和さんよりは少ないけど、赤城さん並ね………」 「幾ら強くなったと言うても、これでは本末転倒じゃろ」 「す、すいません………」 確かに空母並みの食料を摂取した如月が、お茶を飲みながらも恥ずかしそうにしながら項垂れる。 「いいよいいよ、無事に帰ってきてくれたんだし」 「無事とはちょっと違うかも………」 「燃費の方は問題じゃが、確かに帰ってきたならいいことじゃろ」 「は~い、それじゃあこれは無事帰還したお祝い」 あれこれ騒ぐ中、補給艦 間宮がお盆にあんみつを持ってきて如月と睦月の前に置く。 「ありがとう、間宮さん」 「いいえ、私に出来るのこれ位だから。それとこっちは助けてくれた人達に」 そう言いながら間宮が別のテーブルに集まっていた501のウィッチ達にもあんみつが配られていく。 「ああ、すまないな」 「わ~きれ~」 「いただきま~す!」 早速飛びつくハルトマンとルッキーニだったが、他のウィッチ達はどこか険しい顔で先程手渡された資料を見ていた。 「これが全部坂本少佐の烈風丸による物だとしたら、恐ろしい被害だな」 「ま、坂本少佐が斬ってきたのに比べればだいぶ軽いけどな」 バルクホルンとシャーリーが烈風丸による物と推測される艦娘達の被害レポートを見ながら顔をしかめる。 「それで軽いのか………」 「坂本少佐の全盛期だったら、これは全部死亡記録になっていただろう」 「死亡どころか、この基地ごと真っ二つだろ?」 「だよね~」 「………どんな化け物が来たのじゃ?」 ウィッチ達の話す内容に、艦娘達がそこはかとなく引いていく。 「前は、の話だ。今は引退して指導教官になっている」 「確か学園一日でシメたんだよね?」 「ここもシメるのかな?」 「だからどんなのが来たんだ?」 「ご安心ください、学園の時は視察の結果そうなっただけです」 艦娘達の不安に、シャーリーの肩にいた飛鳥がフォローになってないフォローを入れる。 「なんカ、結局交渉も何モすっ飛ばして共闘しそうなんダナ………」 「まだ戦場にバラバラに放り出されないだけいいと思う」 隣のテーブルでタロットを広げて占いをしているエイラの隣で、どこか眠そうなサーニャが呟く。 「前の時は本当にバラバラに散らされたからな」 「合流まで苦労したね~」 「ホントホント」 「お前はかってにレースに出てたりしてただろうが!」 「こっちはミーナ隊長がいなかったら共闘も出来なかったかも」 「ダナ」 「随分大変だったみたいですね」 「これからここもそうなるのかもしれんがな」 お盆を手にしたままの間宮がそれらの話を聞きながら感心するが、利根は話に終わらない可能性を示唆する。 「ガランド少将の護衛のはずが、しばらくここに逗留する事になるかもしれん」 「部屋なら一応寮にまだ空きがあったわよね?」 「この人数ならなんとか」 「ちょっと確かめてこよう!」 「なのです!」 バルクホルンの一言に、暁型四姉妹がこぞって食堂から出ていった。 「ところで、宮藤の方はそろそろ終わったろうか?」 横須賀鎮守府 医務室 「次の人どうぞ~」 小破の艦娘の治療やそれ以上の応急処置が行われる部屋で、芳佳が並んでいた艦娘達を次々と固有魔法で治癒していく。 「すげえな、高速修復材使ったみてえだ」 「ウィッチってこういう事が出来るのね」 「いえ、固有魔法は個人で種類があります。特に宮藤少尉ほどの治癒魔法の使い手はめったにおりません」 中破の傷がまたたく間に治った事に天龍と竜田が驚く中、手伝いをしていた静夏が説明する。 「取り敢えず、これで全員みたい。芳佳ちゃんお疲れ様」 「入渠ドッグが空になるなんて、どれくらいぶりだ?」 同じく手伝っていたリーネが確認する中、天龍がすっかり治った他の艦娘達を見て唖然とする。 「これが全部坂本教官、じゃなくて副隊長の烈風丸の被害なんですか?」 「全員って訳じゃないけれど、ほとんどに関わってるのは確かね」 「あの刀一本でこの鎮守府はボロボロだ。正直助かったぜ」 「いいえ、私は取り敢えず出来る事をしただけです」 頭を下げて礼を言う天龍に、芳佳は謙遜する。 「けど、何か対策を打たないと、また負傷者が増えますね………」 「でも、芳佳ちゃんのシールドで防ぐのがやっとじゃ、私達のシールドなんて持たないよ?」 「戦艦クラスだってあの一撃はただじゃすまねえ。山城と扶桑が二人そろって一撃で大破した事もあった」 「それ以来、あの刀に遭遇したら撤退しろって言われてたし」 「あ、それで済んだんですか?」 「坂本少佐程の威力は無いのね」 「あの、戦艦クラスの艦娘の人が一撃で大破と今………」 「前におっきいエビみたいなワームを一撃で真っ二つにした事有ったし」 「有った有った。あれはすごかったね~」 「その後坂本さん倒れちゃったけど」 「そんな事が有ったんですか………」 「なんか、すげえのが来たんだな………」 芳佳とリーネが話す事に、静夏と天龍が双方唖然とする。 「けど、その烈風丸の使い過ぎが原因で坂本さんはウィッチの力ほとんど失ったし、私もしばらく使えなくなっちゃったからな~」 「今、どう対処するかで話し合ってるんだろうけど、芳佳ちゃんで防ぐのがやっとじゃ………」 「オレの剣も一撃で折られたしな。さすがに一撃では初めてだ」 「対策が立てられるといいのだけれど………」 烈風丸の事をよく知るウィッチと、その破壊力を知る艦娘、どちらからも打開策は浮かんでこなかった。 「え~と、これでいいのか?」 「図面通りだとね」 401の艦内で、杏平といおりが持ってきていた小型転移装置の起動準備を行っていた。 「このサイズでも結構動力食うのよね………連発したら帰るの大分先になりそ」 「仕方ねえだろ。あのサムライ少佐の刀が敵に渡っちまってんだ。放置して帰る、って訳にいかねえし」 「ほっといたら一人でケリつけに行きそうだよね………そこまで無茶しないと思いたいけど」 『設置終わったようね。ライン確認、次元座標入力、起動するわ』 設置を確認したタカオが転移装置を起動させ、不具合が無いかを確認する。 「このサイズだから、転移しても数人か手荷物がいい所か?」 「よね。増援欲しかったら、一度401で戻るしか…」 無事起動した事を確認した杏平といおりだったが、諸問題で小型が限度だった事を愚痴るが、そこで起動を待っていたのか、転移を示すシグナルが鳴る。 「おっといきなりか」 「誰だろ?」 転移装置を見る二人の前に、小柄な人影が二つ現れる。 「ミーナ隊長の招聘に応じて来ました」 「来たよ~」 転移装置から現れたウルスラと学園に残っていたはずの蒔絵が姿を表す。 「もう呼んでたのか」 「ストライカーユニットの整備も必要ですし、宮藤博士は離れられませんので」 「私達だけじゃないよ」 蒔絵の言葉通り、再度転移装置が起動して別の人影が現れる。 予想通りとそうでない相手に、杏平といおりは思わず驚いた。 「無事に転移出来た」「出来なかったら困るぞ!」 「そうだな」 ハルナにキリシマ、そしてなぜかコンゴウの三人のメンタルモデルの姿がそこに有った。 「コンゴウ!? なんでお前まで………」 「待って、あなた学園の防衛は?」 「サブユニットを置いてきた。問題ない」 その頃 学園 大戦艦コンゴウ甲板上 「………何これ?」 「サブユニットだって」 コンゴウを訪ねてきたはずのあおが、甲板上にいるコンゴウをそのまま幼くしたような少女、正確には少女型のサブユニットに唖然とする。 イノセンティアも話は聞いていたが、まさかそのままの姿とは思わなかったのに驚いていた。 サブコンゴウは用意してあったのか、タブレットをかざすとそこから字幕とややくぐもったコンゴウの声が同時に流れる。 『このサブユニットは必要最低限の機能だけ持たせてある。艦体の維持、戦闘には支障は無いはず。だがそれだけの機能しかないので余計な事はしないように』 「はあ………」 「しゃべる事も出来ないの?」 『だから最低限と言っている。複雑な対応は出来ない』 「こんな小さい子がこの戦艦動かすの………」 「そうならない事祈っておこ。FAGが祈って効果あるかな?」 「さあ~?」 異なる世界 横須賀鎮守府 修練場 「ふっ、はっ!」 修練場の一部を借り、ペリーヌが一心不乱にフェンシングの練習を繰り返していた。 「精が出ますね」 「あら、場所お借りしてますわ」 そこに赤城型空母 1番艦赤城が声をかけてくると、ペリーヌは一度手を止める。 「妹が、加賀がお世話になったそうで」 「いえ、艦娘の方々は私達とは違う基地、というか施設にお世話になってましたので」 「お世話というか、仲良くしてた人達ならさっき来たよ。似て非なる存在という奴かな?」 「あら可愛い」 マスターから離れて練習を見ていたヴェルヴィエッタがメンタルモデル達の到着を告げた事でようやく存在に気付いた赤城が小さく微笑む。 「ともあれ、次に有った時は何が何でも坂本少佐の刀を取り返しますわ」 「会議だと破壊しても構わない、というかむしろ破壊しようって話になってるよ」 「坂本少佐がそう言ったんですの? それならそう致しますが………」 「私達も色々してみましたが、あの刀には近づく事すら出来ませんでした。そちらと協力出来るなら、何か手段が構築できればいいのですが………」 「今はただ、出来る事をするだけですわ」 それだけ言うと、ペリーヌは再度練習を再開する。 この人達は信用できそうだ、と思いながら、赤城は邪魔しないようにそっとその場を後にした。 異なる世界 ブルーアイランド ヘリポート 「もうちょっと右! そうそのまま前進!」 「なんとか入った………」 「けれどやっぱり固定ハンガーあった方いいですね」 「頼むしかないんじゃない?」 カルナダインのカーゴベースになんとかソニックダイバー四機を収納したソニックダイバー隊が一息つく。 「へ~、乗ってなくても動くんだ~」 「簡易オートみたいだけどね」 あかねが興味深そうに見る中、フレスヴェルグが説明する。 「スプレットブースが無いと再出撃も出来ないし、こっちでの交渉終わるまで待ちぼうけかな?」 「嶋少将の判断次第ね。来てすぐ帰る訳にもいかないし、かといってカルナダインだけ戻るわけにもいかないし………」 「ともあれ、まずは更衣室借りましょう」 エリーゼと瑛花が考え込む中、可憐がソニックダイバーのバックパックから遭難時用の着替えを取り出す。 「そういう訳なんで、更衣室借りたいんだけど」 「あ、案内します。シャワーも有りますし」 「あら、そのままでもいいのに」 「可愛いわよ?」 音羽の要望にあおいが案内しようとするが、両肩にいるシロとクロが余計な事を言ってあおいは慌てる。 「また随分とアレなの連れてるようね」 「こっちも他所の事言えないんじゃない?」 どこか毒舌のシロとクロに瑛花が呆れるが、エリーゼは音羽の頭の上でスリープ体勢に入っているヴァローナを見て呟く。 「所で他の方々は?」 「ああ、トリガーハートの人達は念の為警戒体制維持するって言ってた。今までのパターンだとすぐに次が来るって事は無いと思うけど………」 「確かにすぐには来そうにないね~。というかもう誰か来てるみたいだし」 わかばがトリガーハートの姿が見えない事に気付くが、音羽がカルナダインのブリッジにこもっていた事を思い出す。 だがそこで寝ぼけ加減のヴァローナの言葉に全員の動きが止まる。 「どういう事?」 「いるね、この世界に他の武装神姫」 「なんですって!?」 音羽が頭上のヴァローナに問うが、帰ってきた答えに瑛花が思わず声を上げる。 「その武装神姫って子が他にいると何かあるの?」 「ボク達武装神姫は、一部を除いてある条件で派遣される。その条件は、次元転移反応を持っている戦士」 「つまり、違う世界に飛ばされて困ってる人の所に行って、サポートするって事」 「そうなんですか」 「………つまり、この世界にあなた方以外に来てる人がいるって事?」 「そうなるわね」 ソニックダイバー隊の説明に、パレットチームが理解しかけた所で、ある疑問が生じる。 「でも、そんな人見た事無いよね?」 「うん」 「そもそも、FAG以外にそんなの見た事ないし」 「全然違う所にいるとか」 「いや~、反応は近いね。ただ、合流不可能の信号が来てる」 パレットチームがあれこれ悩む中、ヴァローナが更に危険な情報を教えてくる。 「合流不可能? どういう事?」 「分かんない。ただそうとだけ来て、詳細情報が来てないね~。どうやら相当問題有る人マスターにしたんじゃない?」 「待て、武装神姫はそんな相手をマスターに選ぶのか?」 瑛花が問いただすが、ヴァローナは寝ボケ加減で答え、それを聞いた迅雷が更に聞き返す。 「今回は前回と違って、半ば自動的に派遣されてるからね~。会ってみるまでどんな相手か分からないんだと思うよ~」 「つまり、敵をマスターにした可能性も有り得る」 アーキテクトの上げた可能性に、全員の動きが止まる。 「敵? どんな?」 「まさかアローンって事は………」 「それは無いね~」 「だとしたら、他に誰かいる事になる」 「人間もしくは人間に極めて近い存在の敵が」 「心当たりは…」 「いや、まったく………」 その場にいる者達が考え込む中、ひまわりは少し考えてからおもむろに口を開く。 「少しだけ、有る」 「え!?」「本当に?」「どういう事?」 突然の発言に、むしろ仲間達の方が驚く中、ひまわりはずっと調べていた事を口にする。 「アローンはある一定のダメージを与えると、急にパワーアップする。そういうシステムなのかもしれないけど、私はそれが外的要因じゃないかと想定してる」 「それって…」 「そのアローンをパワーアップさせてる奴が居るって事?」 「あくまで可能性、だけど」 仲間も初耳の可能性に、思わず顔を見合わせる。 「つまり、アローンをサポートしている者がいる可能性が有る、という事ね」 「アローンの事はよく分かりませんが、外的サポートの可能性は否定出来ません。ウィッチの人達からのレポートでは、そのようなパワーアップの話は出てきてませんでしたし………」 「エイラさんのお姉さんがボコボコにして追い返したんだっけ」 「そりゃ、あんなどんな敵でもスコップで掘り返す人相手じゃ………」 「スコップ?」「ボコボコ?」 ソニックダイバー隊もその可能性を指摘するが、パレットチームはむしろ後半の話が気になっていた。 「とにかく、まずはシャワー借りて着替えよ」 「そうそう、難しい事は嶋少将にでも任せて」 「そうでしたね、じゃあこちらへ」 話が脱線しまくったが、本来の目的を思い出した音羽とエリーゼに、あおいも思い出してソニックダイバー隊を案内する。 「違う世界から来て、アローンをサポートする人………どんな人だろ?」 「さあ? 武装神姫の人達なら会えば転移反応で分かるらしいよ」 あかねはブルーアイランドから見える陸地を見ながら、フレスヴェルグと共に首を傾げる。 その相手が、ごく身近にいる事なぞ、思いつきすらしなかった……… 「ただいま」 「おかえりなのじゃ」 部屋へと帰ってきたれいに、ピースケと一緒にミズキも帰宅を迎える。 れいはそのまま鳥かごまで近寄ると、ミズキをじっと見つめる。 「あなた、何故そこにいるの?」 「何故って、オーナーがここに居ろと入れたのじゃろうが」 「そんなの、すぐに破れるのに?」 れいの質問に、ミズキは思わず身じろぎする。 「さっき、あなたが言っていたNORNの援軍を見た。それと一緒に、あなたサイズのが一緒に戦ってるのも。小ささに見合わない、すさまじい戦闘力だった」 (………確か来たのはヴァローナとムルメルティアか。ムルメルティアの方は武装神姫でも屈指の破壊力を持っておるから、ごまかすのは無理か………) れいの追求に、ミズキは観念して話し出す。 「確かにこんな鳥かご、出るのは造作もない。じゃが、どんな形であれ今のわらわのオーナーはそなたじゃ。そなたの不利になるような事はせん」 「………」 しばらくじっとミズキを睨みつけるれいだったが、ふいにその視線を外す。 「あなたが仲間にタレ込んでたら、そろそろ踏み込まれてる頃だろうけれど、無いって事はタレ込んではいないって事ね」 「じゃから、オーナーの不利になるような事はせんと言うておる」 一応は信用したのか、れいは無言で自室へと着替えに行く。 それを見送ったミズキは、思わず止り木に身をあずけるように垂れ下がる。 「相変わらず頑なじゃな。さてこれからいかようにすべきか………」 色々悩むミズキに、ピースケが知ってか知らずか、小さく鳴いた。 AD1946 オラーシャ ペテルブルグ近郊 「それじゃあ、みんなもう直帰ってくるんだ」 「大規模作戦も終わって、各世界への交渉段階に移行したためです。転移装置の設置も進んでるのです」 未だ鎮座し続ける超空間通路周辺の哨戒飛行をしながら、ひかりがアルトレーネからの報告に胸を撫で下ろす。 「ま、一段落ってとこか」 「まだ油断は出来ないのだけれど………」 共に飛んでいる義子と孝美が超空間通路の方を見ながら呟くが、頻繁にネウロイが吸いこまれているのが続く中、緊張は解くわけにはいかなかった。 「あ、でもそれだとみんな戻ってきたら、お姉ちゃんは508に復帰しちゃうのかな?」 「そうなるわね、元々502消失に伴う臨時配置だったわけだし」 「あたしはこいつが片付くまでいてやるよ」 「できれば、雁淵大尉にも残ってもらえれば嬉しいのです………私だけではマスター抑えられないのです」 孝美の原隊復帰をひかりがどこか寂しがるが、居座る気満々の義子にアルトレーネの方がむしろ残念がっていた。 「502のみんなが戻ってくれば大丈夫よ。それまでは一緒よ」 「うん!」 「はっはっは、姉妹仲が良くて結構だな!」 豪快に義子が笑う中、ふとアルトレーネが超空間通路の方を見る。 直後にその表情が変わり、センサーを最大にする。 「転移反応確認! 何か来るのです!」 「また!?」 「攻撃態勢!」 「さあ今度はなんだ!」 アルトレーネの警告に、ウィッチ達は一斉に銃の安全装置を外して構える。 そして、超空間通路から全身を鳴動させるJAM飛行型が次々と出現する。 「JAM飛行型! 複数箇所で確認されているタイプです!」 「攻撃開始!」 アルトレーネの報告を聞きながら、孝美の号令と共にウィッチ達が一斉に銃撃を開始する。 「機動性が高いタイプです! 注意を!」 「そんなの、慣れっこだ!」 義子が三人がかりのフォーメーションから飛び出し、縦横に飛びながらJAM飛行型に銃撃を集中、次々と撃墜していく。 「やっぱすごい………」 「ひかりは私の後ろについて! JAMはコアを持たないはずだから、銃撃を集中させて!」 「はい!」 レベルが違う義子の戦闘にひかりが見惚れる中、孝美の指示に即座に従い、姉妹二人がかりで次々とJAM飛行型に集中砲火で撃墜していく。 「なんだなんだ、これじゃあこの前のデカブツの方が手応えあったぞ!」 「油断したらダメなのです! どんな手を隠してるか分からない連中なのです!」 義子が手応えのない相手に文句を言うが、アルトレーネはJAMは何らかの戦術を多様してくる事が多い事に注意を促す。 「転移反応、さらに来るのです!」 「次々来い! 全部落としてやるぞ!」 「弾丸足ります!?」 「増援要請を!」 次々現れるJAM飛行型に、不利になる可能性を悟った孝美が緊急連絡を入れようとした時だった。 突如として、超空間通路を構成する霧の竜巻から、触手のように一部が高速で伸びてくる。 「え…」 「何だありゃ!?」 「回避!」 予想外の事に、ひかりと義子も驚くが、孝美は慌ててそれから逃げようとする。 だがそれは触手のように柔軟かつ高速で動いてウィッチ達を追う。 「こんなのはデータに無いのです!」 「一度戦場から離脱…」 アルトレーネも慌てる中、孝美は緊急離脱を指示しようとするが、JAM飛行型がその退路を塞ぐように回り込んでくる。 「どけこいつ!」 「一点突破!」 「あ…」 義子と孝美は軌道を邪魔する物のみに攻撃を集中するが、そこで霧の触手は急加速、最後尾にいたひかりを捕らえ、飲み込むように覆っていく。 「ひかり!」 「お姉ちゃ…」 慌てて振り返ろうとした孝美の目に、霧の触手に完全に飲み込まれていくひかりの姿が映り、更に霧の触手はひかりを飲み込んだまま、さらなる速度で元の竜巻へと戻っていく。 「ひかり~~~!!」 孝美の絶叫を遮るように、JAM飛行型が残った者達へと襲いかかっていった……… |
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