第二次スーパーロボッコ大戦
EP60



「一体どこへ…ふぎゃ!」

 いささか情けない声を出しながら、どこかに放り出された香坂 エリカが地面に倒れ込む。

「あいたた………ここはどこですの?」

 足元が舗装路面なのを見て、とにかく荒野の類ではないらしい事を確認しながら顔を上げた所で、とんでもない事に気付く。
 視界に映る市街地の各所に、あまりに見覚えのある鳴動する縞模様の機体がいる事に。

「JAM!!」

 一瞬で地面から跳ね起き、香坂 エリカは瞬時にバトルスーツをまとう。

「こちら香坂 エリカ! JAMと接敵しています! 増援を…」

 緊急コールを入れようとした所で、腕時計型のマルチデバイスが滅多に見る事の無い圏外表示を映してている事に香坂 エリカは気付く。

「やはり、ここは違う世界なのね………来なさい! この香坂 エリカ、そう安々と捉えられると思わないでください!」

 手にエレガントソードを構えた香坂 エリカは、宣言するやJAMへと向かっていった。



『正体不明の敵は市街地各所に攻撃中! 敵はかなり高度なステルス機能を装備しており、自衛隊は対処に苦戦してます!』
「今度は何だ! 最近訳の分からないのばっか攻めてくるぞ!」
「敵というのだけは分かっている」

 現地に向かいながら響いてくる報告に、クリスは思わず声を荒げ、翼は務めて冷静に呟く。

「数がかなりいるわね」
「というか次々湧いてきてるデス!」
「気持ち悪さは前のといい勝負」

 遠目に見える謎の敵の姿に、マリア、切歌、調がそれぞれぼやく。
 五人のシンフォギア装者が急ぐ中、誰もがある焦りを滲み始めていた。

「それで、立花の反応は?」
『反応有りません………ただ死亡判定の類も確認されてませんので………』
「故障とかじゃねえのか!?」
『分かりません………謎の敵の出現直前で本当に唐突に反応が消えました。…待ってください、謎の敵と交戦している反応確認!』
「響!?」
『違います、シンフォギアの反応では有りません! 未知の反応です!』
「今度は何なのデス!」
「交戦って事は、味方?」
「分からん………急ぐぞ!」



「ミラージュビーム!」

 香坂 エリカの両肩プロテクターから発射された腐食性ビームが周囲を取り囲もうとしたJAM陸戦型に命中、その装甲が腐食した部分に向けてエレガントソードを一閃、次々と擱座、戦闘不能にさせていく。

「サイキックピース!」

 戦闘の余波で生じた瓦礫をサイコキネシスで操作、こちらに向かっていたJAM飛行型へと炸裂させるが、距離があるためか撃墜までには至らない。

「さすがにこの数は…」

 一人で奮戦する香坂 エリカだったが、次々と湧いてくるJAMの圧倒的な数に押され気味だった。

「幽閉も人体実験も御免被りますわ!」

 JAMに囚われたらどうなるかを思い出しながら、香坂 エリカは前へと出ようとした時、背後に中型サイズのJAM陸戦型が現れる。

「しまっ…」
『天の逆鱗!』

 背後を取られた事に香坂 エリカが失策を悟った瞬間、天から巨大過ぎる大剣が降り、一撃で中型JAM陸戦型を撃破する。

「これは…」
「そこの伏せろ!」『BILLION MAIDEN!』

 続けて聞こえた声に香坂エリカはその場に伏せ、頭上をガトリングの斉射が通過して居並ぶJAM陸戦型を撃破していく。

「そこのお前、何者だ?」

 斉射が終わり顔を上げた所にかけられた声に、香坂 エリカは先程降ってきた大剣の柄頭にいる青いバトルスーツ姿の女性に気付く。

「人に問う時はまずそちらから名乗る物ではなくて?」
「そうか、一理ある」
「納得すんなよ先輩!」

 予想外の返答に頷いた青いバトルスーツ姿の女性に、ガトリングを掃射していた赤いバトルスーツ姿の少女が思わず突っ込む。

「まあ何者かは大体予想はつきますけれど。恐らくこの世界を守る戦士」
「多分そうね」

 香坂 エリカの予想に賛同する声が間近で聞こえ、エリカが横目で見た所で肩口にいつの間にかいる小さな影に気付く。

「わたくしは武装神姫、ハイマニューバートライク型MMS・イーダ。該当条件に一致、現時点であなたがわたくしのご主人様ですわ」
「武装神姫が派遣されたって事は、やはり間違いないようね」
「何だそれは、ロボット?」
「随分小さいけど………」

 水色のプロテクターにツインテール姿のイーダの姿に、バトルスーツ姿の戦士達は首を傾げる。

「詳しい話はあいつら、JAMを倒した後という事で」
「! あいつらを知ってるのか!」
「多少ですけれど」
「JAM、更に増大!」
「確かに自己紹介している暇は無さそうだ」
「ああもう、何がどうなってんだ!」



「何がどうなってんだ………」
「ガルル、敵襲だよ姉御」

 住民の避難が進む中、すぴなはビルの屋上でガブリーヌと共にJAMの襲撃を見ていた。

「あいつらか、帝都とやらに攻撃してきたってのは」
「そうだよ、詳しい事はまだ………あ」
「どした?」
「武装神姫反応確認、どうやら新たに誰か来たのに合わせて派遣されたっぽい」
「お仲間、って事にな…ん?」

 すぴなが背後から指した影に振り向くと、そこにいるJAM飛行型に気付く。

「ヤバ…!」



『EMPRESS REBELLION!』

 放たれた長大な蛇腹剣が、迫ってきていたJAM陸戦型を薙ぎ払う。

「なかなかやりますわね」
「かなりの戦闘力ですわ」

 香坂エリカとイーダが呟く中、迫ってきたのとは違うやや小ぶりの陸戦型が迫る。

「なんか小っさいが来たのデス! これなら」

 大鎌のアームドギアをかざした切歌が小ぶりの陸戦型に大鎌を振り下ろすが、それは甲高い音と共に弾き返される。

「固っ!?」
「離れなさい! ミラージュビーム!」

 それが重装甲型だと気付いた香坂 エリカが前に出ると、ミラージュビームを重装甲型JAMに浴びせると、エレガントソードの連撃で撃破する。

「あなたも結構強い」
「どう致しまして。あなた方はこれで全員?」

 五人のシンフォギア装者を確認した香坂 エリカの問に、皆の動きが僅かに止まる。

「もう一人いたはずだ。誰か見かけなかったか?」

 翼が代表しての問に、香坂 エリカは首を左右に振る。

「存じません。けれど、予想は付きました」
「本当か!」
「ええ、恐らく私と入れ替えられた」
「どういう意味だ?」
「長くなるので…」

 説明の途中で、向こう側から銃声が響いてくる。

「向こうでも交戦中のようですわね」
「待て、これは…」

 イーダがてっきり現地軍の戦闘かと思ったが、翼が銃声の違いに気付く。
 直後、ショートカットの女性が大きく飛び去ってこちらの前へと出てくる。

「何なんだこいつら!」
「敵だよ姉御」

 その女性が悪態を付きながら、2丁拳銃に構えた大型リボルバーから空薬莢を排出し、肩にいた武装神姫が素早くスピードローダーを用意した所でそこにいる装者達に気付く。

「あ、やべ」
「また誰か来たのデス!」
「どうやら、私と同類のようですね」

 切歌が指差す中、香坂 エリカは武装神姫がついている事から事情を察する。

「同類? どういう事だ?」
「そいつにも小っさいの付いてるぞ!」
「もう何がなんだか………」

 混乱しながら戦う装者達だったが、そのショートカットの女性、すぴなは的確な射撃でJAMを攻撃していく。

「ち、固いな。弱点とか無いのか?」
「生憎と判明しておりませんので」
「あんた、こいつらの事知ってるのか?」
「だから多少ですが」

 思わず出た悪態に香坂 エリカが反応した事にすぴなは思わず問い質す。

「更に来た!」
「次から次へと…!」
「こいつらに押し付けて逃げるってのは…」
「姉御姉御、絶対目つけられてる」
「ちっ、やっぱそうだよな………」

 ガブリーヌに指摘され、すぴなは舌打ちする。

「ちょっと聞くが、あいつら賞金かかってるか?」
「賞金って………」
「お金取る気デスか!?」

 すぴなの質問に、装者達が頬を引きつらせる。

「腕前いかんでは、私がお支払いしましょう」
「その言葉、忘れんなよ! セットフォーム!」

 だが香坂 エリカがいともたやすくそれに返答し、すぴなが笑みを浮かべなら力を込める。
 次の瞬間、その体を重甲が覆っていき、腕に大型ドリル型加速器が装着される。

「その姿!」
「貴方、今噂のドリル使い!」
「バレちまったな」

 すぴなの正体に気づいた装者達が驚くが、香坂 えりかは別の事に驚いていた。

「貴方、パンツァーなんですの!?」
「お前、パンツァー知ってんのか!?」
「後です、ご主人様」
「まだいっぱいいるのだ姉御!」

 誰もが色々な驚愕の中、冷静な武装神姫の指摘に全員が構える。

「詳しい話は戦闘の後で」
「報酬の件もな!」
「まだ言うか………」
「響のバカはどこ行った!」



「これは一体………」

 S.O.N.G.本部を兼ねる潜水艦の中、司令の弦十郎は現場からの映像に映る、装者と共に戦う初めて見る二人に鋭い視線を向けていた。

「二人共、シンフォギアと全く違うエネルギーパターンです。しかもかなり強い」
「紫の人はかなりの生体エネルギーを保有、ドリル使いは生体エネルギーと機械の融合と思われます」

 オペレーターの報告に、エルフナインの解析も混じる。

「ともあれ、噂のドリル使いがどういうのかはこれで分かるか」
「現状では装者と共闘しているので敵対の意思は二人とも無さそうですが………」
「あっちのドリル使い、賞金がどうこう言ってなかったか?」
「あっちの紫の装甲の人が払うとも言ってたけど………」

 オペレーター達の報告に、生臭い報告も混じり始める。

「響君の反応は?」
「相変わらずありません。どうやら彼女が何か知っていそうなのですが………」
「新規の二人も含め、全力でサポートを。どうやら二人とも何かを知っているようだ………」

 弦十郎の呟きは、ある種の願いも込められていた。



「危ない!」

 香坂 エリカの言葉と同時に全員が散り、直後に弾痕が地面に刻まれる。

「どっからだ!」
「あそこか!」

 クリスが叫ぶと、翼がかなりの遠距離にあるJAMの姿を確認する。

「あれは!」
「データ確認、狙撃型です」
「知ってるの?」
「前に散々苦労させられましたわ!」

 香坂 エリカが遠目に見えるシルエットに見覚えが有るのに気付き、イーダの確認にマリアが首を傾げる。

「向こうにもいるのデス!」
「また撃ってくる」
「避けろ!」

 切歌と調が反対側にいるもう一機の狙撃型JAMに気付くが、すぴなの警告と共に再度狙撃される。

「く、挟まれたか!」
「どうする?」
「おい、この中でアレ狙える奴いるか!」
「私が!」『RED HOT BLAZE!』

 翼とマリアが厄介な状況に対処を考えるが、すぴなの確認にクリスが名乗り出るとアームドギアをスナイパーライフルに変化させる。

「そっち頼む! こっちはあたしが! 他のはサポート!」
「なんで仕切ってるんデス!?」
「間違った事は言ってない」

 すぴなは指示しながら自らのツール《カイザーボルト》にブリットを叩き込み、切歌と調が文句言いながらも防御体勢を取る。

「食らいやがれ!」
「カイザーシュート!」

 アームドギアから放たれた弾丸と、ツールから放たれた閃光が同時に双方の狙撃型JAMを貫き、爆散させる。

「よし!」
「そっちもやるな」

 クリスとすぴながガッツポーズを取るが、そこで翼は改めてすぴなのツールを見る。

「今の一撃、そうか前に海上での戦いで助けてくれたのはお前か………」
「あ〜、あん時は思わず手が出ちまった。なんかやべえのと戦ってたのが見えたんでな」
「姉御、だからあの時名乗り出てた方が…」
「後になさい。どうやらもう少しのようなので」

 頬をかくすぴなと呆れるガブリーヌに、香坂 エリカはようやく底が見えてきたらしいJAMに切っ先を向ける。

「掃討するぞ!」

 翼の号令に、装者達は一斉に残ったJAMへと向かっていった。


「エレガントダンス!」

 香坂 エリカの華麗な剣舞が、中型陸戦JAMの装甲を斬り裂いていく。

「こいつで最後だ!」

 そこにすぴなの一撃が撃ち込まれ、中型陸戦JAMは撃破される。

「残敵は!」
『確認出来ません。殲滅完了のようです』
「響の反応は…」
『消失したままです………』

 翼とマリアが本部からの報告を確認し安堵と不安を同時に感じていた。

「で、結局お前らは何もんだ?」
「そうですわね、どうやら先に名乗った方がよろしいですわね。アポイントも無しに来訪失礼しました。私は香坂財団当主が令嬢で香坂 エリカと申します。以後お見知りおきを」

 クリスに問われ、バトルスーツを解いたエリカがスカートを端をつまんで優雅に名乗りながら挨拶する。

「あたしは旋風院 すぴな。ま、バウンティハンターとでも思ってくれ」
「バウンティハンター、マジモンの賞金稼ぎデスか………」
「まて、香坂財団だと? エリカという名前の娘は聞いた事が無いが?」

 続けてのすぴなの自己紹介に切歌が唖然とするが、そこで翼が少し考えておかしい事に気付く。

「どうやら、こちらの世界にも香坂財団は有るようですね。けれど存じ上げないのも仕方ない事。私の生年月日は2283年の2月8日、おそらくまだ両親も生まれていないでしょうから」
「はあ!? 何言ってんだお前!?」
「未来から来たって言うの?」
「正確には違う世界の未来から、と言うの正しいわ」

 クリスと調のある意味当然の疑問に、イーダが答える。

「まだ暦繋がってるならいいだろ、あたしなんて全然聞いた事無い事ばっかりだぞ」
「姉御のはだいぶズレた世界らしいのだ」
「………司令、指示を」
『事情を知ってるらしいのは確かだ。今迎えが着くだろうから、二人共連れてきてくれ』

 どうするべきか迷うマリアが弦十郎に指示を仰ぎ、あっさりと同行を許可される。

「それで、そちらは名乗ってもらえるのでしょうか?」
「そうだな、我々は国連直轄の超常災害対策機動タスクフォースS.O.N.G.、その実働部隊のシンフォギア装者だ。私は風鳴 翼」
「雪音 クリスだ」
「マリア・カデンツァヴナ・イヴよ」
「暁 切歌デス」
「月読 調」
「それともう一人いるわけね」
「ああ、立花 響、ガングニールのシンフォギア装者だ。心当たりが有るんだな」
「恐らくですけれど………」

 双方の自己紹介が終わった所で、迎えのヘリがこちらに来るのが見えてくる。

「さて、ここからが問題ですわね………」

 香坂 エリカの呟きは、肩にいたイーダ以外に聞こえる事は無かった。



しばらく後 S.O.N.G.母艦内

「多次元侵略体JAMとその対抗組織NORNか………」

 香坂 エリカと武装神姫達からの説明が終わり、弦十郎は思わず唸る。

「………そんな頭湧いた話信じるのか?」

 一緒に聞いていた装者達だったが、クリスが口火を切って思わず率直な感想を述べる。

「こら雪音」
「だってよ…」
「すぐに信じられないのは当然でしょう。ただ、皆さんはすでにJAMからの干渉を受けている様子」
「あの正体不明の敵ね」
「固くてビーム放ってきて赤くて丸いのが弱点のと」
「海から来た生き物か兵器か分からないの」
「ネウロイと深海棲艦ね。すでに二度も来てたとは…」
「二度目ん時はあたしもいたぞ」
「姉御が転移してきたのは多分一回目の直後だ」

 装者達の思い出す敵が何を示すかをイーダが指摘し、ついでにすぴなとガブリーヌが追加する。

「彼女が言っている事は恐らく間違いないと思います。今までの正体不明の敵出現時の次元歪曲が異なる世界からの転移なら、説明がつくからです」

 じっと話を聞いていたエルフナインの肯定に、装者達は思わず互いを見た後首を傾げる。

「今一番の問題は、立花 響の所在と安全だ」

 弦十郎の言葉に、装者達はさらに険しい顔になる。

「私がこちらに来る少し前、ネウロイと戦っているウィッチと呼ばれる方が一名、次元トンネルからどこかに飛ばされ、代わりにマイスター乙HiMEと呼ばれる方が出現しました。今の私の状況はその時と酷似しているので、恐らくその響さんは私と入れ替わりにどこかの世界にいるはずです。NORNと接触している可能性も高いかと」
「断言できんのか?」
「それは無理ね。次元間通信が出来ない以上、確認出来ないもの」

 香坂 エリカの説明に思わずクリスが詰め寄るが、イーダがあっさりと断言は否定する。

「待って、じゃあ貴方も…」
「今頃大騒ぎになってるでしょう。NORNには香坂財団、つまり私からの支援が大分入ってますから」

 ふとマリアが思いついた事を口にするが、香坂 エリカはそれに頷く。

「ともあれ、東方帝都学園が無事ってのは分かった。たまたまあそこに野暮用で行ったら、妙な竜巻に巻き込まれて、気づいたらこいつとここにいたからな〜」
「なるほど、学園の関係者にしては、実銃の携帯といい、バウンティハンターである事といい、おかしいと思ってましたが、巻き込まれた方でしたか」
「姉御は次元間転移に無理に逃げようとして変な所に弾かれたっぽい」
「NORNに一人、それで無人島に飛ばされた技術者の方がいましたわ。運良く他に飛ばされた方と合流出来てましたけど」
「完全とは言えないが、大丈夫という事か………」

 弦十郎は複雑な話に唸りながら考え込む。

「ともあれ、そちらの二人は疲れただろうから、艦内に部屋を用意するからそちらで休んでてくれ。詳しい事はその後だ」
「それでは、お言葉に甘えまして」
「ちょっと待った、何か忘れてないかお嬢様?」

 休養を進言する弦十郎に香坂 エリカが僅かに頭を下げて従おうとするが、そこですぴなが待ったをかける。

「そう言えば、報酬をお支払する約束でしたね」
「そ、そういう話」
「少しお待ちを…」

 香坂 エリカはそう言いながらポケットをまさぐり、ピルケースのような物を取り出すと生体認証ロックでそれを開け、中から何かを取り出す。

「現物支給で申し訳ありませんが、こちらで」
「現物支給って、何で…」

 手渡された物を改めて見たすぴなの顔が凍りつき、装者達もすぴなの手の中を見る。
 そこにある、大粒の深緑色の宝石を。

「おい、これ………」
「惑星ピカリ原産のスターエメラルドです。そちらの相場が幾らかは不明ですが、足りますかと」
「あの、ご主人様…」
「これ、本物?」

 武装神姫もまさかの現物支給に驚く。

「あの、失礼」

 そこでエルフナインが凍っているすぴなから宝石を借りると、ルーペで覗き込み、白衣から取り出した器具で引っ掻いてみる。

「………間違いなく本物です」
「うおい! これ一体幾らだ!」
「生憎、こちらの貨幣相場が不明ですから何とも」
「まさか、他にもあるデス?」
「一応」

 香坂 エリカの手に先程のケース、それが宝石ケースだと知って装者達が頬を完全に引きつらせる。

「なぜ宝石なぞ持ち歩いている?」
「それこそこういう時のためですわ。異なる世界だと、貨幣価値がバラバラですが、貴金属は意外とどの世界でも通じるらしいので」
「かと言ってこんなの持ち歩く?」
「今役に立ちましたけど」

 翼とマリアの問に平然と答える香坂 エリカに、装者のみならずその場にいる皆が愕然としていた。

「ほ、本物の大金持ちなのデス………」
「いるんだこんな人………」
「いや、流石に一財産持ち歩くなんて富豪は早々いないからな?」
「誘拐されても身代金即決できんな………」
「通じない奴にキャッチ&リリースされてるぜ?」

 羨望どころか畏怖と呆れの視線が香坂 エリカに集中する中、すぴなは考えながら一応もらったエメラルドを懐にしまい込む。

「確かに賞金はもらっとく。釣りはあんたのボディガード代って事で」
「あら、よろしいんですの?」
「そんなモン持ち歩いてる奴を放置できっか。ここの連中がガラ悪かったら身ぐるみ剥がされてるぜ?」
「確かにな」
「ここなら大丈夫だろうけど、外では見せない方いいわね」

 すぴなの予想外の提案に、香坂 エリカは少し驚くが、翼とマリアが何度も頷きながらその提案を肯定する。

「それでは今から旋風院さんは私の護衛という事で」
「すぴなでいいぜ、お嬢様」
「ではすぴな。しばらくよしなに………」

 香坂 エリカの差し出した手をすぴなは握り返す。
 その手に丹念にケアされて目立たないが、相応のタコがある事にすぴなは気付く。

(世間ずれしてるが、完全に箱入りって訳でもねえか。どりすとえらい違いだ、色々な意味で………)



「取り敢えず、現地の組織とは接触出来ましたね」
「友好的で良かった」

 用意された部屋で一息ついた香坂 エリカは、思わずため息を漏らし、イーダもそれに続く。

「予想外だらけでしたが、あの技術主任の方は状況を理解出来そうね」
「随分と若い主任ですけれど」
「NORNでもよその事は言えないでしょう」
「それもそうか」
「あとはあの司令がどこまでこちらの話に乗ってきてくれるか………随分とたくましい司令でしたが」
「見た目通りの脳筋、って訳でもなさそう」
「シンフォギア装者、でしたか、彼女達からの信頼は高そうですしね。彼女達の実力もなかなかの物ですし、戦力に加えられれば大きな助けになるのですけれど………」

 そこまで言った香坂 エリカは備え付けのベッドに腰掛け、大きなため息を漏らす。

「狭い部屋です事」
「仕方ないよ、ご主人様。潜水艦ですし」
「香坂財団の令嬢ともあろう者が、右も左も分からぬ世界に放り出され、香坂財団の力もエリカ7のバックアップも受けられず、このような扱い………」
「ご主人様?」

 肩を震わせ始めた香坂 エリカに、イーダは思わず心配する。

「こ、ここ………」
「………その、大丈夫です?」
「この程度でこの香坂 エリカがへこたれる物ですか! 見ていなさいJAM! 必ず吠え面かかせてあげますわ!! ほーほっほっほ!!」
「そうですね、手伝いますご主人様!」

 てっきりショックを受けてるのかと思ったが、むしろ哄笑を始めた香坂 エリカを見てイーダは安心した。

 なお、様子を見に来たクリスが室内から響いてくる哄笑に思わずノックしようとした手が止まる。

「笑ってるデス………」
「笑ってるね」
「笑ってんな………」

 一緒に来た切歌と調も、続いている哄笑に心配そうにドアを見る。

「やっぱ、医者見せた方いいんじゃね? 頭の」
「そんな気がしてきたのデス………」
「司令に連絡する」

 装者達から本当に心配されてるとは露知らず、香坂 エリカの哄笑はしばらく続いていた。
 なお、診断結果はストレス数値やや高めながらも正常だった。



「むう………」

 ブリッジで先程のJAMとの戦闘を何度も見直しながら、弦十郎は唸りを上げる。

「出力こそシンフォギア程ではありませんが、かなりの戦闘力を持ってますね」
「特にあのお嬢様、サイキッカーのようです」
「こっちのドリル使いもなかなか…」

 オペレーター達も解析を進める中、弦十郎は香坂 エリカとの会話を思い出す。

「異世界からの攻撃、か」
「ノイズも戦力に取り込まれてるようで、対処に苦労してるそうですし…」
「シンフォギア以外で対処出来るってのも信じられないな」
「だから苦労してるんだろう。シンフォギアは対ノイズに特化した武装だからな」
「これからはそこも考慮しないといけないかもしれません」

 解析を進める中、エルフナインが現れてある点を指摘する。

「シンフォギアが対ノイズに特化して他の敵の対処に問題が出るのは、前回、前々回の戦闘で明らかです」
「ネウロイと深海棲艦か………他にも色んな世界の敵とNORNは交戦しているらしい」
「それって、こちらにも来るんでしょうか?」
「もう来てるだろ、二種類、いや今日のも混ぜると三種類か」

 エルフナインと弦十郎の会話に、オペレーター達もあれこれ話し合う。

「それと気になる事も」

 エルフナインはブリッジから出る直前に渡されたパンツァー用のブリッドを見る。

「これを早急にこちらでも製造出来るならしてほしいと。開発費も必要なら用意すると言われました」
「また現物払いか? あんなのをそう安々と出されても困るのだが」
「無論そっちは断りました。まだ詳細までは分かりませんが、なんとか製造は出来そうです。けど…」
「早急に、という事はそれが近い内に必要になるとエリカ嬢は確信している」
「恐らく。パンツァーの方は武装の出力を上げるのにこれが必須なんだそうです」
「四度目が有るという事か………」
「どうやら、彼女は他にも色々知っているようですね」

 そこへ慎二が現れ、意味深そうに頷く。

「結果は?」
「香坂家に該当の人物はやはりいないようです。当人の希望で提出されたDNAと香坂財団に登録されていた一族のDNAは明らかに血族である事が証明されましたが、差異がかなり見られるので、傍流かもしくは…」
「本当に未来から来た血族か、という事か」
「傍流の血筋でアレほど高額な物を持ち歩く程の資産家なら、情報が無いわけないかと」
「正確には異なる世界のパラレルの血族、という事になるかと。そう言えば、DNA採取の時、自分の先祖のパラレル存在が仲間にいるとも言ってました」
「探せばオレや装者の血縁も出てきそうだな………」

 慎二の報告にエルフナインからの追加を聞いた弦十郎は思わずため息を漏らす。

「こんな話、外には出せんな………」
「確かに」
「色々と信じてもらえないでしょうね………」

 弦十郎のボヤキに、慎二とエルフナインも揃って頷く。

「それと、気になる事が」
「エリカ嬢が焦っている事か」
「司令もそう思いますか」

 慎二が言わんとする事を、弦十郎とエルフナインが先に口にする。

「香坂家の人間らしく、随分とプライドは高いようだが、それにしてはやけに協力的だ。DNA検査の件も向こうから申し出てきたくらいに」
「それにブリッドの製造依頼の件もやけに手際がいいです。かなり低姿勢でしたし」
「用意した部屋で一人笑っていたというのは少し問題の気もしますが………」
「それくらいは容認しておけ。有数の財閥の人間が孤立無援の場所に放り出されたらしいからな」

 三人の話し合いを聞いていたオペレーター達も、互いに顔を見合わせて首を傾げる。

「高圧そうに見えて、丁寧でしたよね」
「なんかちょっと無理してたような………」
「ちょっとかな?」

 そこで少し考えていた弦十郎が小さく吐息を漏らす。

「彼女にはプライドを引き換えにしてでも優先させたい事が有るのだろう」
「S.O.N.G.のNORN参加、ですか?」
「恐らくはな。だが、それにしても不可解な点が残る」
「JAMとはそれ程の強敵なのでしょうか?」

 結局堂々巡りになる中、弦十郎は時刻を確認する。

「本人に聞くのが一番か、もう休んでいるだろうか?」
「ライフモニター確認しますか?」
「頼む」

 オペレーターが艦内セキュリティのライフモニターをチェックし、香坂 エリカが活動状態である事を確認する。

「一応まだ起きているようですが………」
「問い質すのですか?」
「確認したい事があるだけだ」
「私も行きます」

 何か大事な事を隠していると確信した弦十郎に、エルフナインも同行を申し出る。

「女性の部屋に男が一人行くわけにも行かないからな。頼めるか」
「はい」
「正直に答えてくれるでしょうか?」
「分からん」

 数分後、ドアの前に立った弦十郎が丁重に部屋をノックする。

『どちら様?』
「弦十郎だ、少しいいかな?」

 中からの返答の後、ドアが開かれる。
 そこにいる弦十とエルフナインの姿を見た香坂 エリカが首を傾げる。

「何か急用かしら?」
「ああ、どうしても確認したい事が有って」
「疲れている所すいません」

 弦十郎の何か確信めいた目と、頭を小さくさげるエルフナインを交互に見た香坂 エリカは口を開く。

「それで、確認したい事とは?」
「君は何を焦っている?」

 弦十郎の質問に、香坂 エリカは少し驚き、そして笑みを浮かべる。

「どうやら、こちらの予想以上に切れる司令官のようですわね」
「そうだね」

 笑みと共に返された言葉に、肩に登ってきたイーダも頷く。

「イーダ、FAFからのあのデータ、閲覧できて?」
「少し待って………お嬢様をNORN指揮官クラス認定を確認、AAAクラス閲覧を許可可能」
「風鳴司令、二人だけでお話したい事が」
「いいのか?」
「これは、司令官クラスにしか話せない事になるので」

 弦十郎は後ろにいたエルフナインに視線を向けると、エルフナインも納得したのか小さく頷く。
 黙って弦十郎が室内に入ると、ドアが閉められロックまでかけられる。

「それで、司令官クラスにしか話せない事とは?」
「少しお待ちを。イーダ」
「今リンクする………繋がった、艦内ラインから室内の映像機器を一時断線」
「そこまでか」
「ええ、今からお見せするのは、NORN結成のきっかけともなった事なのですから」

 そう香坂 エリカが言うと同時に、室内の備え付けテレビからある映像が映し出される。
 惑星フェアリィ撤退戦の記録映像を。
 無言でそれを見ていた弦十郎の顔が、困惑、驚愕、そして絶句へと変化していく。
 映像が終わった後、さすがの弦十郎もしばし無言だった。

「今のは、一体………」
「恐らくJAMの正体にもっとも近い物、と推察される物です」
「NORNでも指揮官クラスしか知らない事実です」
「これと、戦わなくてはならないのか………」
「ええ、だから私達は戦力を集めているのです。しかも早急に」
「君が協力的だった理由はこれで分かった。これは下手なプライドで後回しにしていい案件ではない………無論こちらもな」
「理解頂けて光栄ですわ。けれど、無理に参加してほしいとは言えません。無論響さんも見つけ次第無条件でこちらに送り届けます」
「流石に今ここで即答する訳にはいかない。返答は後でいいだろうか?」
「構いません、私も今日はもう休ませていただきますので」
「そうだな、それではおやすみ」

 あまりに重大すぎる事に、さすがの弦十郎も熟考を必要と判断して部屋を立ち去る。

「司令!? どうかなさったんですか! 顔色が…」
「すまん、今は言えん。だが、彼女はこちらを信用してくれている、とだけ言っておこう。彼女の要望、なるべく早くに頼む」
「………分かりました」

 短い時間で顔色を変えて出てきた弦十郎にエルフナインは狼狽するが、弦十郎が口を閉ざした事に事態の深刻さを悟って頷くだけに留める。

(あれ程の相手との戦いか………シンフォギア装者でも、果たして立ち向かえるのか?)

 弦十郎は自問自答したが、答えはすぐには出そうになかった………



異なる世界 ブルーアイランド

「以上が現在確認されている敵になるわ。詳細がまだ不明なのも多い。出力だけで対処出来ない敵に遭遇した場合は防戦、もしくは撤退をためらわないように」
「ぐう〜」

 会議室を借り、パレットチームにNORNが遭遇した敵の講義をしていた瑛花だったが、見事ないびきが帰ってくる。

「ちょっとあかねちゃん………」
「す、すいません! 今起こします!」
「う〜ん、ごはんの時間?」

 あおいとわかばが慌てて起こすが、肝心のあかねは完全に寝ぼけていた。

「どこのチームもそういうのはいるからね。最低限は後で叩き込んでおいて。冗談じゃなく命に関わるから」
「あの、質問が」
「何かしら?」

 そこでひまわりが手を上げ、手持ちのタブレットを操作してある映像を映し出す。

「これは少し前にこちらで撃退したアローンだけど、出現した時明らかにダメージを追ってました。そちらで何か情報は…」
「確か、ペテルブルグに出現した奴ね。現地のウィッチ達が対処したはず」
「あの、どうやって?」

 ひまわりの質問に、瑛花は少し考える。

「多分貴方が言いたいのは出力の問題ね。NORNの中でも魔法力を持つウィッチや霊力を持つ華撃団の人達の攻撃は特殊なエネルギーを帯びてるらしいの。物理的以上に攻撃力は有るわ」
「でも、そのアローン何かで掘った痕跡があって………」

 ひまわりのさらなる質問に、瑛花は思わず吹き出しそうになる。

「ああ、うん、そういえばユーティライネン中尉もいたわね………」
「心当たりが?」
「今の内に言っておくわ。ソニックダイバーの変形機能なんてNORNじゃ珍しい範疇に入らない。スコップで相手を掘って爆弾放り込んだり、巨大な敵を日本刀で一刀両断にしたり、船をぶん投げたりする人もいるから」
「………理解出来ない」
「大丈夫、私も全部は理解出来てないから」

 ひまわりが首を傾げ、瑛花も思わず頷く。

「色んな人達がいるんですね」
「それは間違いない。職種も様々だからな。軍属が多いが、民間も多い。無論そちらのような学生もな」
「なるほど」

 あおいとわかばも頷く中、あかねはまだどこか眠そうだった。

「一応その子がリーダーだったわよね? それで大丈夫?」
「あかねちゃん、やる時はやる子なので………」
「ごめんあおいちゃん、今朝ちょっと忙しくて…」
「体調管理には留意しなさい。次がいつ有るか不明なんだから。ナノスキン塗布が出来ないとこちらは出撃出来ないし。もうちょっと次元移動可能な母艦が欲しい所ね」
「なんとかなるかもよ」

 そこにフレスヴェルグを先頭にカルナダインでメンテナンスを受けていたFAG達が戻ってきて、それぞれのマスターの所に着く。

「さすがに動かせないソニックダイバーそのままに出来ないから、一度帰投するらしいわ」
「Gの交代要員が来てからになるそうだけど」

 マテリア姉妹が説明しながら、あおいの両肩に座る。

「嶋少将は残るそうだ、今後の方針がまだ定まっていないらしい」

 迅雷が恐る恐るわかばの手元に登る中、説明を続ける。

「問題はやはりこの世界にいる他の世界からの転移者だ。それを明確にしなければ」

 アーキテクトがひまわりのタブレットを勝手に操作しながら呟く。

「問題はそこね。敵か味方か、ついている武装神姫からも詳細情報が上がってこないなんて初めてよ」
「どんな人かな〜?」
「厄介なのは確からしいよ?」

 瑛花も思わずため息を漏らす中、あかねが何気なく呟いた言葉に、頭上に登ったフレスヴェルグが疑問形だが答える。

「どこもかしこも問題だらけね………どこから手を付ければいいのやら」
「おじいちゃんが考えるんじゃない?」
「一色博士含め、偉いさん達はずっと会議してるけどね〜」
「また何か問題でも起きたのか?」



同時刻 ブルーアイランド小会議室

「また一人失踪とは………」
「そして一人未確認の世界からの人が出現しています」
「また奇妙な話じゃな………」
「ええ」

 嶋、クルエルティア、健次郎、悠里の四人が届いたばかりの情報を前に、深刻な表情をしていた。

「しかも今度失踪したのは香坂嬢か………これはまずいな」
「ええ。私達含め、香坂財団からはかなりのバックアップを受けています」
「実質的スポンサーという事か?」
「間違いなく。物資、技術共にかなりの割合を占めています」
「その方が失踪して今後のバックアップは?」
「その件も含めて各組織のトップで緊急会議中らしい。今後の活動への影響は避けられまい」
「どうやら、状況は予想以上に悪化しとるようじゃの………」

 健次郎が考え込むが、クルエルティアが声をかける。

「推察段階ですが、現状で個人単位で失踪もしくは出現した方々は誰も単独戦闘が可能だそうです。示現エンジンの支援が必要なパレットチームに現状では危険性は少ないかと」
「それはいい事かもしれませんが、代わりにどんな敵が現れるか分からないというのは………」
「それはどこも同じだ。JAMも全く対処できない敵は送ってこないようだが………」
「完全に観察対象という事かの。壊しすぎないように配慮されておると?」
「こちらに合わせてる節があるのは確かです」
「厄介過ぎる話ですね。こちらはアローンだけで手一杯だというのに………」
「そのアローンも違う世界に送られたケースもあるようじゃしな。対処出来る者達がいてよかったが………」
「歴戦のウィッチ、しかもエース級が三人もいたからなんとかなったそうですが」
「問題はそこにもある。幾つもの組織がNORNに参加しているが、技術以上に戦歴の差もかなり有る」
「なるほどの………装備技術の差は経験で補える程の人材もいるという事か。だが、それで完全に補えるわけではない、と」
「ええ、そのためにこうして同盟交渉に来た訳ですが………」
「何故か交渉の前に共闘になりました。もう片方の交渉も同様だとか」
「交渉してる余裕も無いと考えていいのでしょうか?」

 悠里からの質問に、嶋とクルエルティアは顔を見合わせる。

「その通り、と言いたい所ですが、その前に見せておかねばならない物があります」
「FAFからの提供データ、私と嶋少将の権限で閲覧許可。この部屋の映像機器を一時閉鎖してロードします」

 嶋の言葉に、クルエルティアは封印してあったデータを呼び出して再生させる。
 FAFの惑星フェアリィの撤退戦の映像を。
 無言でそれを見ていた健次郎と悠里だったが、見終わる頃には完全に表情が変わっていた。

「い、今のは………」
「FAFの惑星フェアリィ撤退戦、そして恐らくはJAMの正体にもっとも近いと思われる物」
「あ、あんなのと戦おうと言うのですか!?」

 完全に顔色を青くした悠里が思わず叫ぶが、健次郎はぬいぐるみの体のまま、腕組みして考え込む。

「アレほどとは………正直な事を言えば、あんな物と孫達を戦わせたくはない」
「一色博士………」
「じゃが、恐らく向こうは見逃してくれんだろう。他の組織と装備のデータは見せてもらったが、ビビットシステムはかなり独自性が強い、つまりJAMの興味を引く条件は満たしておる」
「確かに………」
「NORNにエネルギー工学と次元工学の専門家がいれば招聘してもらいたい。示現システムのエネルギー転送理論構築のために」
「一色博士!?」
「つまりそれは」
「我々もNORNに参加させてもらおう。数多の世界の危機に立ち向かうために。どうじゃ悠里君?」
「………確かに逃げられないならば立ち向かうしかありません。分かりました、ブルーアイランド総責任者の権限を持って、NORNへの同盟協力を承認します」
「本当によろしいのですか?」
「アローン以外の被害を出す訳にも、アローンの被害を別の所にも出すわけには行きませんから」
「分かりました、では正式にNORNに参加する意向だと伝えます」
「これからよろしくお願いします」

 嶋の宣言に悠里が立ち上がって手を差し出し、嶋も差し出された手を握り返して正式にブルーアイランドのNORN参加を承認する。

「さて、取り敢えず最初の問題は…」



「う〜ん………」
「流石に早々都合よくは見つからないと思うよ?」

 繁華街のベンチに腰掛け、通り過ぎる人達を観察、というかしかめっ面で睨む音羽にヴァローナが呆れるように声をかける。

「大規模な転移が相次いでますからね。むしろ個人レベルの小さい転移はサーチしづらくなってますし」

 私服姿のエグゼリカも自らのセンサーでこの世界にいる謎の転移者を探すが、早々都合よく見つかるはずもない。

「やっぱ無理か………違う世界の人だから角とか尻尾とか生えてるわけじゃないし」

 二人の案内も兼ねて来たみずはが思わずため息をもらしながら苦笑する。

「ウィッチの人達だったら角はともかく尻尾はあるよね?」
「え?」
「正確には魔法力を使う時は使い魔という物の特徴が出るらしいんです。犬とか猫が多いらしいそうで」
「ルッキーニちゃんは猫かと思ったら黒豹って話だっけ」
「隊長副隊長だとオオカミだのドーベルマンだのすごいのばかりらしいね〜」
「………やっぱパラレルワールドって変わってるのね」
「どこか変わった人なら見つけやすいかもしれないんだけどな〜」

 変な所に感心するみずはに、音羽はうなだれて探索を一旦切り上げる事にする。

「もっと人呼んで人海戦術、という訳にもいかないでしょうし………」
「分かるのあなたみたいなアンドロイドか武装神姫だけなんでしょ? そんなに数いるの?」
「いないわけでも無いですが、さすがに目立ちます」
「だよね………モロに機械って人達もいるし」
「そうなんだ………会ってみるの楽しみなような怖いような………」

 とりとめの無い話をしながら三人がその場を立ち去った所で、少し離れた場所に隠れていたれいとミズキが顔を出す。

「あれがそう?」
「ソニックダイバー零神のパイロット、桜野 音羽とトリガーハートのエグゼリカ。もう少し近寄ってたらバレておったな」
「彼女にも武装神姫が?」
「電子戦特化型のヴァローナがな。こちらの方が感知力に長けておったから気づけたが………」

 危うく遭遇しかけた所をミズキが知らせてくれて事なきを得たれいが、三人の姿が完全に見えなくなった所で隠れていた場所から姿を表す。

「連れてけって言った時は、てっきり私を売る気かとも思ったけど」
「どんな形でもマスターはマスターじゃ。そんな事はせぬ」
「分かった、これからはあなたをカナリア代わりに連れてくわ」
「出来ればマスターにもあちらに協力してもらいたいのが本心じゃがな」
「ダメよ、私には私の目的が有る」

 強い覚悟を秘めて断言するれいに、ミズキは頭を抱える。

(仲間から逃げ隠れせねばならんとはな………さてどうするべきか)

 どう見ても自分には説得できそうに無いれいに、ミズキは更に悩む。
 だが、事態が大きく動く事になるのはそう遠い事ではなかった………


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